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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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 その様子を上空から見ている者がいた。
 光学迷彩で姿を消しているのでわからないが、空飛ぶ箒に乗った宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)だ。
 彼はケータイ片手にため息をこぼす。
「また殺し合いかよ。帰りてぇ……」
 しかし、下では藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)が仲良くなった首狩族や馬賊と共に蕪之進からの連絡を待っているのだ。
 彼はもう一度ため息をつくと優梨子へと繋げた。

 生徒会と乙軍、どちらの陣営につこうか、それとも占いで決めてしまおうかと、これから起こる楽しい戦いに胸を躍らせている優梨子のもとに、待っていた連絡が入った。
「全体的に見て、乙軍が優勢ですか。ありがとうございます」
 蕪之進の知らせに礼を言ってケータイを切ると、優梨子は首狩族と馬賊に向けてニッコリして言った。
「では、劣勢な生徒会に味方しましょう。きっと楽しいですよ」
 追い詰められているほうにこそ心湧く戦いがあると思っている優梨子の提案に、彼らも乗ってきた。
「獲物は『首から上と下』で分配しましょうね」
 求める部分が違うのだから、彼らに異存はなかった。
 続いて入ってきた蕪之進の報告から、優梨子は目標を支倉 遥(はせくら・はるか)達の軍に定めた。
 スパイクバイクで先頭を走りながら高周波ブレードを抜き放ち、優梨子はこれから見るだろう血の世界にうっとりと頬を緩ませた。

 劉備とミツエの隊にアルツールの隊がぶつかり、その後ろから遥の隊が襲い掛かり、そこに優梨子の隊が突っ込むという混戦状態を眼下に、大野木 市井(おおのぎ・いちい)は行動に出た。
 マリオン・クーラーズ(まりおん・くーらーず)と二人乗りしている小型飛空艇で生徒会軍の配下を率い、やたらと団結力のある弐識 太郎(にしき・たろう)の隊へ攻撃を仕掛けた。
 市井の剣をかわした太郎は、小型飛空艇から彼を引きずりおろそうと手を伸ばす。それをギリギリでかわすと、今度は水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)へちょっかいをかけた。
 配下も市井を追って太郎と邪堂の配下を掻き乱すように駆け抜ける。
「あとであいつに怒られるかな……」
「確実に恨まれますねー」
「嘘でもいいから、そんなことないとか言えよ」
 マリオンと軽く言い合っていると、飛空艇の後尾にガツンと石が当てられた。
 グラリと揺れる機体。
 市井は息を吸い込むと、わざとらしいくらい情けない声を上げた。
「わーい、とてもかなわないぞー。こんごうへにげろー」
 後ろでマリオンの「大根……」と呟く声がしたが無視した。
 いきなり隊の頭が逃走したことで、配下達は勢いを失いうろたえた。
 市井がチラッと振り向くと、太郎と邪堂と目が合った。
 もしかしたら市井の狙いを感じ取ったのかもしれないし、弱そうだから手っ取り早く捕まえて自軍の士気を上げようと思ったのかもしれない。
 どちらなのかはわからないが、市井を追いかけてきたのは確かだ。
 市井はネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)が攻めているのは別の出入り口へ向かった。
「うまく侵入できたら、次は中を壊すぜ」
「それにしても皆さん、ノリノリで戦ってますね?」
「決まってんだろ!? 今のみんなは……必死だからだよ!」
 乙軍も生徒会軍も。

 その時、絶えず続けられていたヴォルフガングの大演奏会の効果か、金剛に繋がれている二頭の巨獣が興奮しだした。
「今だ! 総員、矢に火をつけ構え! 狙うは巨獣のみ!」
 周瑜 公瑾(しゅうゆ・こうきん)が剣を巨獣に向けて高らかに叫ぶ。
 周瑜の隊の前には、守るようにフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)と配下が展開していた。
「我『無銘祭祀書』の前に立ちはだかる者は、殺すぞ? 久しぶりゆえ、手加減はできぬ!」
 約二百年ぶりに目を覚ました『無銘祭祀書』──黒子とあだ名されている──は、対峙する生徒会軍の兵に好戦的な笑みを見せた。
「撃て!」
 周瑜の号令で一斉に火矢が放たれた。
 銃弾が通じなかったという噂を聞いていた周瑜だから、火矢で巨獣が燃えるとは思っていないが、生き物である以上体毛を燃やされればどんなに鈍くても何かしら反応はあるだろうと考えたのだ。
 その考えは当たっていて、巨獣は『俺の尻を舐めろ』の演奏とは違う身の捩り方を見せた。
 断続的に火矢を放つ周瑜の隊を潰そうと迫る生徒会軍へ、黒子は火術、雷術、氷術と使える魔法を駆使し、配下達は武器であるいは素手で対抗した。
「うぬぅ。周瑜よ、あまり長いことは持たんぞ!」
「わかりました。適当なところで引きましょう」
 せめてもう少し暴れてくれれば、と周瑜は攻撃の合図を送りながらも撤退のことも頭の片隅に置いておいた。
 黒子が相手をしている生徒会軍の向こうに、待機している一団があった。
 それを率いるのはヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)である。
 彼女は色っぽい笑みで配下達に言った。
「さあ、いよいよ始めるわよ。準備はいいかしら♪」
 盛り上がる配下達。
 彼らはヴェルチェが国頭 武尊(くにがみ・たける)に手伝ってもらって作った、ちょっとエッチなビデオを餌に集まった者達だ。ネットに流したサンプル動画は修正済み──それでもだいぶアヤシイ──だが、この戦いでヴェルチェに味方したら無修正版を報酬に渡すと約束したのだ。
 その際、乙軍につくのか生徒会軍につくのかは明記しなかったが、にもかかわらずけっこうな人数がやって来た。
 そして集まったところで、生徒会陣営にいながら乙軍につくと言われたのだ。
 無修正動画目当てに集まった者はどっちの陣営であるかは問題ではなかったが、生徒会軍として戦うつもりでいた者達は反発した。
 そんな彼らにヴェルチェは鬼眼で射すくめて脅したり、かと思えば色気を振りまいて『お願い』したりと、あの手この手で落としていった。
 それでも言うこと聞かない一部に鉄拳制裁を加えようとしたが、それはクリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)に止められた。
「ただこの場を去るだけの者なら、行かせてあげましょう。無理に引き止めても余計な火種になるだけですわ」
 そう言われてしまってはヴェルチェも黙るしかなかった。
 そうして、機を待って留まることしばし。
 攻められた巨獣が身じろぎしたのを見て、行くことを決めた。
「思い切り暴れるわよ♪」
 ヴェルチェが黒子に攻撃をしている一団を指し示し、突撃の合図を出すと共に、
「あの動画はいただくぜ! ヒャッハー!」
 と、一斉に配下達が武器を手に駆け出した。
 もう少しで黒子の隊を押し潰し周瑜にまで届くと思われた時、生徒会軍はヴェルチェの隊に背後を急襲された。
 味方と思っていた者に襲われ、たちまちのうちに混乱状態に陥る。
 何がどうしたのか周瑜も黒子もわからなかったが、とにかく助かったのだと隊を立て直した。
 一方、市井が生徒会軍を掻き乱しながら逃走を装って乙軍を誘導し、黄巾賊に守られながらネノノが金剛へ突貫する中へ、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)達が説得に応じた村の若者らを連れて加勢に現れた。
 いつのまにかヴォルフガングの大演奏会は終わってしまっていた。怒れる生徒会軍に襲われたのだろう。
 しかし戦闘はより激化し、その時、巨獣が大きく身を捩った。
 金剛の巨体がグラリと揺れた。