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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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金剛の戦い1


 乙カレーと共に作戦がまとまった乙軍。
「わしの弟弟子に手を出すとはいい度胸じゃ……。たっぷり礼をせねばのぅ」
「猛虎さん、暴走だけはしないでくださいね」
 姫宮和希を生徒会に奪われ、怒りを抑えきれずにいる水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)桐生 ひな(きりゅう・ひな)がそっと注意を促す。
 邪堂はフンと鼻を鳴らした。
「わかっておる。そこまで愚かではない」
「水洛さん、援護は任せてください」
 九条 華子(くじょう・はなこ)の声に、彼女の配下一千人の女傑が一斉に銃や小弓を掲げて応じた。
「よし、やるぜ」
 背中に大きく『太郎』と刺繍された波羅蜜多ツナギを着た弐識 太郎(にしき・たろう)が拳を打ち合わせると、彼の配下二千人の強持てのガクランが雄叫びを上げた。
 それに触発されたように邪堂の配下も拳を上げる。
「あたし達も援護するわ。さあ、行くわよ!」
 ミツエの合図で乙軍の金剛への進撃が始まった。

 先頭に立つ邪堂は配下へ指示する。
「良いか、一人で一人を倒すつもりではなく、二人で一人を確実に落とすように努めるのじゃ」
 後ろからの「応」の返事に邪堂は頷くと、配下だけではなく乙軍全体の士気を高めるための行動に出た。
 待ち構える生徒会軍へ叫ぶ。
「かぁくごは良いか生徒会共ォ! 雑兵は路を開けぃ! さもなくばこの猛虎、その喉笛食いちぎってくれるぞぉおお!」
 とても六十代半ばとは思えないほどの声量だった。
 そして上半身を肌蹴させると生徒会軍へ地を抉るように駆け出す。
 単身突っ込んでくる邪堂を格好の獲物と見た生徒会軍の銃撃隊が小銃を構えた直後、邪堂は高く飛び上がり彼らのど真ん中にドラゴンアーツを乗せた拳を振り下ろした。
 爆音と共に地面に大穴があき、亀裂が走る。
「撃てー!」
 華子の号令で小弓部隊が一斉に矢を放った。
 邪堂の先制攻撃で動揺したように見えた生徒会軍も、間もなくバズラ・キマクが統制し直し、銃弾や魔法が飛んできた。
 それらをかいくぐり突っ込んでいく太郎と配下のガクラン部隊。『波羅蜜多実業高等学校柔道部』の後輩達だが、今日は喧嘩をしに来たので手には弓や木刀を持っている。ちなみに華子が率いている女傑達は、この女子部である。
 等活地獄で派手に生徒会軍を吹き飛ばし、邪堂のもとに駆けつける太郎。
 それはギリギリだった。少しでも躊躇っていたら今頃邪堂は五果将により周りを囲まれ、串刺しにされていただろう。捕獲がメインだった前回とは違い、果物ゆる族の手には巨大なバトルフォークが握られていた。
「そこか!」
 殺気看破で姿を消しているゆる族を感知し、拳を振るえば確かな手応え。
 だが、このゆる族は一人がやられても次々と新たしいのが加わってくる厄介な奴だ。
「一箇所に留まってはいけない! 移動するぞ」
 太郎と邪堂は場所を移りつつ戦闘を繰り返した。

「張角さん!」
 ひなの号令で黄巾賊が雪崩れ込んだ。
 それに紛れてネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)が自分とレロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)の分の配下を引き連れて、生徒会軍が出てきた空母下部にある出入り口の一つへ一直線に突っ込む。
 先頭のネノノと最後尾のレロシャンまで配下はアルファベットの『I』のように一列になって突き進んでいた。これは、たとえ前の兵が倒されても後続が次々にそれを引き継いで突貫するという作戦だ。
 レロシャンが考案した『フォーメーション・愛』である。
 それを象徴するようにレロシャンの兜には『愛』の文字が輝いていた……が、よく見れば『変』だったりする。うっかり字を間違えたのだ。作り直す時間はなかった。
 それはともかく、このフォーメーション・愛は巨大な空母を相手にするために一点突破を狙った陣形だった。ひたすら前に進むための。
 そのため弱点である両側面に黄巾賊がついたのだ。
「ワタシはフォワード……ゴール目指して走るのみです!」
 出撃前、和希を助けると息巻いて同じ目的の人達と血盟軍を組んでいたレロシャンが、自分は百合園サッカー部のキーパーだからと最後尾に陣取り、フォワードのネノノを笑顔で先頭に立たせた。
 何だかいまいち納得がいかないネノノだったが、動き出した以上はフォワードとしての役目を果たすしかない。
 太郎と邪堂と後方支援の華子が作った混戦状態を貫き、ネノノは最初の敵をツインスラッシュで斬り伏せた。


 ひたすら前進してくるネノノの部隊を警戒したバズラは、合流した羽高 魅世瑠(はだか・みせる)達に止めるように命じた。
 面倒くさそうな相手だが、剛次に話したことに嘘はないのであてがわれた配下と共に立ち向かう。
 一方、太郎や邪堂の配下の中には、ごくわずかだが功を求めてバズラに狙いを定める者もいた。
 そいう者はヒロイックアサルトで身体能力を上げたミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)の剣の餌食になっている。
「弱いなぁ! そんなんじゃミネルバちゃんつまんないよー」
 唇を尖らせたミネルバの背後で銃声がした。
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がクスクス笑っている。
「まだまだ甘いねぇ〜」
 実際に撃ったのは光学迷彩でバズラの護衛についていた桐生 円(きりゅう・まどか)だ。
 挑発的な笑みが気に障ったのか、頬をふくらませるミネルバ。
 高周波ブレードを握り直すと、
「余計なことはしなくていいのっ」
 と、駄々っ子のように地面を踏み鳴らした。
 賑やかな面々にバズラがやや呆れ気味に言う。
「仲間割れだけはやめてくれよ。面倒だから。それにしても、あいつらうまくやってくれればいいんだけど」
 入り乱れる敵味方の向こうを見ようとするように背伸びをする。
 別働隊としてこっそり動かした数名がいた。例のBL本の送り主を捕らえるためだ。
 本当は自分で行きたいのだが、そうもいかなかった。

 バズラは金剛の中にいると思っていたカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)だったが、外で指揮を取っているとわかると目的地をそこへ変更した。
 バズラに一言いってやりたいことがある。
 そのためにカリンはわざわざ着ぐるみを用意して着込み、配下には適当に暴れて捕まる前に逃げろと言い渡し、自分は生徒会側のゆる族のふりをしてバズラに接近するつもりだった。
 カリンはわざと転んだりしてある程度着ぐるみを汚すと、配下を目晦ましにバズラに接近する。
 乙軍との戦いに夢中になっていたミネルバが切りかかってきたのは、そんな時だった。
 危うく刃がかすめるところだったが、それをかわすとバズラの前に転がり出た。
「バ、バズラ様、大変です……!」
 戦いに負けた哀れなゆる族を装って呼びかけると、味方だと思ったバズラが「どうした」と聞いてくる。
 着ぐるみの中でニヤリとしたカリンは、勢い良く立ち上がると溜めていた怒りをぶちまけた。
「小物だからって、次からは無視するなよな!」
 驚き、目を丸くするバズラをそのままに、カリンはサッと身を翻すとあっという間に混戦の中に紛れていった。
 瞬き数回の後に、バズラが騒ぎ出す。
「あれはいったい何だい? あのゆる族に会うのは初めてなんだけど!?」
「まあ、落ち着きなよ。数人割いて調べさせたら?」
 円がなだめると、バズラは「それもそうだ」と頷いて、近くにいた配下二名に追って調べるように命じたのだった。
 その後、ゆる族の正体がカリンだという報告がバズラに送られ、
「お望み通り、次に会ったら処刑してやるっ」
 と、息巻くのだった。