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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

リアクション

「賑やかな人達でしたね」
 万が一のために、と生徒会長である西倉南のいる紗幕の近くに控えていた朱 黎明(しゅ・れいめい)が、薄暗いそこからゆっくりと姿を現した。
「私も少しお話ししたいことがあるのですが……生徒会長に」
 剛次は壁にかかっている時計に目をやると、
「今はお昼寝中かもしれんな」
 と、奥の紗幕の向こうの気配を探るように見つめた。
 しかし、南は起きていたようでゆったりとした声がかけられた。
「わたくしとお話しとは、どのようなことですの?」
 紗幕が揺れ、南が向こうから出てくる。
 すぐに剛次が傍に寄り、それまでの傲慢さはどこへやら、まるで紳士のように南をソファまでエスコートした。
 彼女が腰掛けてから黎明は愛想の良い笑顔で「他愛のないことですよ」と言う。
「不思議に思ったのです。何故あなたのような可憐な方が、無頼者の集まりとも言えるパラ実の生徒会長になったのか」
 剛次が新しく淹れた紅茶を南の前に置く。
 南は丁寧に礼を言ってから、カップに口をつけた。その仕草の一つ一つから育ちの良さが窺えた。
「……気がついたら、生徒会長の立場にいました」
「気がついたら?」
「ええ、恥ずかしいことですが、あまりよく覚えておりませんの」
 パラ実のことだ、よほど激しい何かがあったのかもしれない。
「では、生徒会長である今、何を望んでおられますか?」
「パラ実の皆さんが、仲良く幸せになれればよいと思っておりますわ」
 本気でそう思っているのだろう。
 南の微笑みは眩しいほどだった。
 剛次はうっとりした顔で南の話を聞いていた。
 黎明は、やや声を落として三つ目の質問をした。
「ドージェ・カイラスのことを知っていますか?」
「ドージェ……」
 ふと、南は微笑みを消して何かを思っているように、手の中のカップで揺れる紅茶を見つめた。
 それきり、何も言わなくなってしまったので黎明は話題を変えることにした。
 彼は一瞬瞳をきらめかせる。
「お好きな食べ物を教えていただけますか?」
「バター茶かしら」
 軽い話題になったことに安心したのか、南の表情に明るさが戻った。
 が、次の質問にはきょとんとした。
「バストカップはいくつですか?」
 剛次も呆気に取られた顔で黎明を見ていた。
 南は少し考えた後に、何故このようなことを聞くのかわからないといった顔で答えた。
「用意してもらったものをつけているだけなので、よくわかりませんの……」
 いったい誰が用意しているのか、測った人は誰なのかとさらに興味は尽きないが、これ以上の会話は剛次が止めた。
「会長、お疲れではありませんか? いつもはお昼寝している時間でしょう?」
「そうですね……あたたかいものを飲んだからかしら、少し眠いですね。お話しの途中ですみませんが、少し休ませていただきますね。また、お話ししましょう」
 そう言って黎明に軽くお辞儀をすると、南は紗幕のくぐって奥へ戻った。

卍卍卍


 金剛の一番深くて暗いところにある収容所。
 捕虜達はそこに数人ずつまとめて牢に入れられている。
 その牢の一つ一つをメニエス・レイン(めにえす・れいん)が丹念に覗いていた。その目は、まるで獲物を探しているような目だ。
 そして、一人の人物にその目は定められた。
「ギルガメシュさん、あなたにするわ」
 いきなり指名されたギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)はメニエスを睨みつけ、隣の牢に居たエル・ウィンド(える・うぃんど)は顔色を変えた。
 ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が鍵を開けて、ギルガメシュを引きずり出すと首に匕首を当てた。
「武装解除だけでは心配だから、人質を取らせてもらうわ。脱獄なんかしたら彼女の首をはねるから、そのつもりで……」
 メニエスの酷薄な笑みは、捕虜全員を見渡した後、最後にエルに固定された。
 二人は契約者同士だ。ギルガメシュが死ねばエルも道連れとなる。そうなれば、乙軍にいるホワイト・カラー(ほわいと・からー)にも害が及ぶだろう。
 屈辱をこらえておとなしくなったギルガメシュに、ミストラルは満足気にニヤリとした。
「ロザ、ティア、ここは任せたわ。ミストラル、行くわよ」
「行ってらっしゃい、おねーちゃん」
 元気に手を振るロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)と、少し離れたところから怯えた表情でそれを見ているティア・アーミルトリングス(てぃあ・あーみるとりんぐす)
 メニエスはミストラルを従えて次の目的地へ向かった。

 品の良い薄い紫色を基調に整えられた部屋。物語の王侯貴族が使っていそうな天蓋付きのベッド、いくらしたのか考えたくもないような調度品。
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、深く沈みこむソファに腰掛けてため息をついた。
「曹操に連絡の一つも入れたかったが……」
 武器だけでなくケータイまで取られていた。
 室内をさまよっていたラルクの視線が、頑丈そうな鉄格子のついた窓で止まる。
 体は拘束されていなが、完全に部屋に閉じ込められていた。
 唯一の出入り口のドアはピッキングの技も通じず、ドラゴンアーツで強化した力で壁を殴ってもヒビも入らない。
 だからといっておとなしく助けを待つのはラルクの性に合わない。
 故に、苛立ちが募った。
「くそっ」
 悔しさに膝を叩いた時、部屋の鍵が開く音がした。
 弾かれたように立ち上がりドアを凝視すると、入ってきたのはティーセットを持ったメニエスだった。
「こんにちは。ご機嫌は……よろしくないようね」
「当たり前だ。何しに来た」
 イライラと吐き捨てるラルクに、メニエスは小さく笑うと後ろを振り向く。そこにはギルガメシュを拘束したミストラルがいた。
 瞬時にその意味を理解したラルクは、悔しさに小さく呻くと諦めたように再びソファに身を沈める。
 テーブルに紅茶を用意していたメニエスは、
「理解力のある人は好ましいわ」
 と、勝者の笑みを浮かべた。
 そして、向かい側のソファに腰を下ろしたメニエスへ、ラルクは再度問いかけた。
「それで、俺に何か用か?」
「ええ。砕音の恋人がどんな人なのか、一度会ってみたかったのよ。さあ、冷めないうちにどうぞ」
 にこやかに勧められたが、とてもそんな気にはなれないラルクだった。
 少しでも隙が見えれば、すぐにでもギルガメシュと共に脱出するのだが、今のところできそうもない。
 優雅にカップを口元に運ぶメニエスを睨むことしかできなかった。