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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

リアクション

 着々と準備が進む中、思ってもみない人物がミツエに協力を申し出てきた。
 クレオパトラ・フィロパトル(くれおぱとら・ふぃろぱとる)エルゼニア・ルーレッタ(えるぜにあ・るーれった)である。二人はヴェルチェの舎弟を護衛につけてやって来た。
 彼女達はヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)の契約者達で、ヴェルチェと言えばミツエを困らせるのが趣味という、何とも困った人だった。事実、ミツエは彼女に何度も困らされている。
 ミツエの前に立つクレオパトラはヴェルチェの気持ちを伝えた。
「そなたが行方不明になったと聞いたヴェルチェは、それはそれは寂しそうにしておったよ。まぁ、これまでの経緯から信じるのは難しかろうが、わらわは傍で見ておったからのぅ」
「それと今回あたしに味方してくれるのと、どう関係があるの?」
「もう失いたくないそうじゃ」
 まさかの言葉に、ミツエは反応が遅れた。
 クレオパトラは不意に真剣な目でミツエを見て言った。
「万が一、ヴェルチェめがそなたに害を及ぼそうものなら、即刻わらわの首を差し出そう」
「──わかったわ。今回だけの味方だとしても、心強いわ」
 ミツエの受け入れの返事にクレオパトラはいつもの笑みを取り戻した。追い返される可能性も考えていたからだ。
 その様子を一歩下がって見ていたエルゼニアは、心の中で盛大に文句を言っていた。
(でっかい戦争で暴れられるって聞いてたのに、あたいは配下の奴らを姐御に預けてガキのお守りときたもんダ。あたいが来ることで戦力大幅アップはどうなっタ? おまけにクレオのせいでいきなりタマ賭けさせられっシ。どういうことだヨ)
 エルゼニアのそんな不満など欠片も気づいていないクレオパトラは、いつもの調子でミツエに言った。
「ところで一つだけ……落ち着いたらでよい、わらわと風呂に入らぬかえ?」
「風呂?」
 変わりすぎな話題に目を丸くするミツエに、クレオパトラはニッコリして頷く。
「そうじゃ。安心しろ、ヴェルチェは入れさせぬ。ちょっと別の友人が来るかもしれぬが、わらわと同年代の者じゃ」
「その話、混ぜてもらおうかの。いやむしろミツエの『胸育係』として黙って見過ごせぬ!」
「胸を揉むな!」
 いきなり後ろから現れ、胸に手を伸ばしたナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)に肘を入れるミツエ。だんだん遠慮がなくなっている。
 とたんに騒がしくなったその様子を、遠くから分校長のマゼンタ・ヴィーが微笑ましげに眺めていた。
「ちょっといいかい?」
 話しかけられ、振り向くとガガ・ギギ(がが・ぎぎ)がちょこんと立ってマゼンタを見上げていた。身長が二メートルもあるマゼンタと八十センチ程のガガとでは、立って話すのはお互い首が痛くなりそうだ、とマゼンタは適当な廃材に腰掛けて話すことにした。
「砕音について聞きたいんだ」
 戸惑いを含んだガガの声にマゼンタは落ち着いた表情で頷いた。
「砕音がラングレイだってこと、気づいてたかい?」
「全然気づかなかったし、知らなかったよ。驚いたねぇ」
 肩をすくめるマゼンタ。嘘をついているようには見えないし、そもそも彼女は嘘は苦手そうだ。
 ガガの不安定だった雰囲気がやわらぐ。
「そうか……もし知っていたりしたら、校長が鏖殺博士だと言われても驚かない自信があったんだけどね」
「あたしが博士? そんな勉強のできる奴じゃないよ」
 おもしろい冗談を聞いたかのように、マゼンタは明るく笑った。
「じゃあ今は? 今は砕音をどう思う?」
「もともと、どっかの国の諜報員って話だったからねぇ。けど、実力はあっても性格が向いてないって思ってたから、学校の先生になったって聞いてホッとしてたんだけどさ……」
 ふと、マゼンタは昔を思い出すように遠くに目をやった。
「自分を襲ってきた子供兵を殺しちまってピーピー泣いてるような奴だからね。……よくわかんないけど、鏖殺寺院のお偉いさんなんてやってるのも、あいつのことだから何かわけがあるんじゃないかねぇ」
「わけ……か」
 ガガは知る限りの砕音を思い返す。
「現に、黄巾の連中を送ってくれたりさ。あいつは今も、昔と変わんない甘ちゃんだと思うよ。ま、そこがイイんだけどさ」
 ガガに視線を移したマゼンタは、やさしげな笑顔だった。
 と、そこに何が気に入らないのか頬をふくらませた親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)が、ガガの横にドカッと腰を下ろした。
 廃材と一緒にガガもわずかに跳ねる。
「どうしたんだい?」
 聞いたのはマゼンタだった。
 卑弥呼はマゼンタの前にいじっていたケータイを突き出した。
「敦にメールしたいのに、全然繋がらないんだよ」
 ナラカへ落ちた董卓を迎えにいった火口敦に、現状を伝えようと奮闘していたのだが、ちっとも繋がらないことに卑弥呼は苛立っていた。
「ナラカねぇ……届くかわかんないけど、井戸とかに手紙を流したほうが可能性はあると思うよ」
「井戸に手紙? 瓶か何かに詰めて?」
 頷くマゼンタに、卑弥呼の顔がパッと輝いた。
 そして、菊に相談してくる、とあっという間に駆けて行ってしまったのだった。
 瓦礫の中から少しでも使えるものを確保しておこう、と地道に分類していた弁天屋 菊(べんてんや・きく)は、興奮気味の卑弥呼の頼みを聞いてボトルと筆記用具を渡してやった。
 嬉々として手紙を書いている卑弥呼を少しの間眺めて、また作業を再開する。
 少しすると、ガガと一緒にマゼンタがやって来て菊の手伝いを始めた。
「なあ、発掘したものなんだけど、どっかにまとめて保管できるとこないかな?」
「村の人に納屋を貸してもらえるか聞いてこよう。ちょっと待ってな」
 そう言って村人の居住区へ行ったマゼンタは、しばらくすると納屋を貸してくれるという村人を連れて戻ってきた。
 これで使える資材が雨などで傷んでしまうことはないだろう。