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嘆きの邂逅~闇組織編~(第5回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第5回/全6回)

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「ごめん、なさい……」
 船室に入ったアレナは、少しだけ泣いた後、すぐに振り返って微笑みを浮かべた。
「大丈夫ですから」
「先輩のパートナーの優子副団長の代わりにはなれないけど、私で良ければ頼ってください。少しでも支えになれると思うの」
 葵はそうアレナに言う。
「ありがとう、ございます」
 と、アレナは答えた。
「だから、ちゃんと護ってやるって! 無理とか言うなよ。護るっていったら護るんだ」
 康之は強い口調でそう言う。
「……島では」
 アレナはゆっくりと話す。
「凄い人数の鏖殺寺院の人達が、銃を構えて待っているかもしれません。私をおびき出して、殺すのが目的かもしれません、から」
「それでも護る」
 すぐに康之は言う。
「島に、下りたら、地雷が仕掛けてあって、それで終わってしまうかもしれません」
「それでも護る」
 またすぐに、康之が言う。
「もう、どうやってですか……っ」
 アレナは僅かに笑みを見せる。
「どうやってでも、どんなことをしてでもだ」
「私は、そうなったら皆に逃げてほしいです……」
「それは無理な話だ。迷惑かけてるなんて思うなよ? 俺らはな、護りたいから護るんだからよ」
 アレナは押し黙り、康之はこう言葉を続ける。
「……俺としては『約束』もしたしな」
「それなら、優子さんを助けて下さい。離宮にどうにかして向って、小型結界を届けて……っ」
「アレナがパートナーを大切に思っていることは知ってる。けど某は兎も角として、俺が護ると約束したのは『アレナ・ミセファヌス』、キミなんだよ」
 だからここにいるんだと康之は言い、アレナは軽く目を見開いた後、俯いた。
「私にとって先輩は、十二星華とか関係ない、いつも皆に優しい先輩が好きだから。力になりたいんです」
 それに、と葵は言葉を続ける。
「先輩に何かあったら優子副団長も危険になっちゃうし……そんなの嫌だから……」
 アレナのことも、優子のことも苦手なところもあるけれど、好きなんだと葵は気持ちを伝えていく。
「ありが……とう、ございます……」
 アレナは2人に礼を言う。
 だけれど、その顔には不安がいっぱい広がっていた。
「あとね。早川さんから伝言を預かってるんだ」
 言って、葵はメモをアレナに手渡した。
 アレナはそのメモに、見入っていく。
「早川……呼雪、さん……」
 長い間、そのメモをじっと見つめていた。
 そして小さく「はい」と言葉を出す。
 それから、康之と葵を見て。
 目を細めて頷き。
 微笑を浮かべて、口を開いた。
「ありがとうございます」
 アレナは康之、葵、そして呼雪の三人に改めて礼を、言った。

 島に着く直前、康之は某に電話で状況を報告した。
 某は幾つか指示を出した後、康之にこう問いかける。
「何故そこまでアレナの為に頑張るんだ?」
 かなり危険な状況だと某にも解っていた。
 康之に何かがあれば、自分もただでは済まされないことも。
 某のその問いに、康之は。
「……わかんねえ。けど、アレナの腹の底から笑った顔が見てえ。それだけは確かだ」
 そう、答えた。
 某はそれ以上何も問わずに「遠慮せずやってこい」とだけ言い、電話を切った。

「私の宝物なんです。持っててください」
 葵は島に下りるアレナに、光精の指輪を手渡した。
 明かりにも使えるし、護身用にも使えるから。
 そして、万が一攫われてしまったとしても、これを頼りに探したい、と思って。

 小夜子は船首に立ち、殺気看破で警戒を払う。
 今は特に何も感じられない。
 月明かりに照らされている島は、岩ばかりで、非常に歩きにくそうであった。
 空飛艇をとめられる場所もなさそうに見える。
 ここからでは、島の中央付近は見えない。相手はもう到着しているのだろうか……。
 小夜子が合図を出し、亜璃珠、アレナ、ロザリンドが慎重に島へと下りていく。
 見守りながら荷物に手を伸ばして、小夜子は武器をそっと手に寄せていく。

 殺気看破でロザリンドは警戒を払う。
 近づいてくる人の気配は今のところ無い。
 アレナを挟む形で、島の中央へとゆっくり歩いていく。
 人の暮らせる島ではなく、足場はかなり悪い。
 場所によっては、険しい山を登るように、手をついて越えなければならないところもあった。

 一方。
 メニエス達は空飛ぶ箒で島へと訪れ、特に潜みはせずに、アレナ達の到着を待っていた。
「ティアのことお願いね〜」
 ロザリアスは連れてきたティア・アーミルトリングス(てぃあ・あーみるとりんぐす)を、船で先に訪れていた護送班に預ける。
「なに……」
 説明を全く受けていないティアは、普段どおりただ怯えているだけだった。
 護送班の悠司は、ティアのぼろぼろな姿に軽く眉を顰めるも、何も言わずにパートナーのレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)に預ける。
「大丈夫?」
 レティシアはティアに声をかけるが、ティアは首を左右に振って怯えているだけだった。
「そういえば、アレナさんって、ボク達みたいな普通の剣の花嫁と違うのかな? 何だか、絶対に連れてこいって命令されてるみたいだし」
 そう呟くが、悠司は何も答えない。何か知っているようなのだけれど。
 悠司からはアレナを殺害するつもりはないとは聞いている。だけど、組織からの命令は殺すこと。引渡した途端、殺されてしまうこともあるということも、レティシアは知っていた。
「無抵抗でいるなら、簡単に殺されることはない」
 悠司のもう1人のパートナーイル・ブランフォード(いる・ぶらんふぉーど)は、彼女の仲間達が助けに来るだろうと考え、そう信じていたが……組織がそう甘い組織ではないことも、気付きつつあった。
 その他、悠司はひなとマスクを部下として連れていた。
 護送は悠司だけに任された仕事ではないため、その他にも沢山の舎弟が乗り込んでいる。
 悠司はその中でも下っ端だが、影武者の案は認められた。すり替えて、アレナを救出することも考えたが、自分ひとりだけが任された仕事ではないので、それは無理というものだった。
 コリスからの指示を受けて、指示通りに動くことになる。
 航行中、空飛艇でメンバーの何人かが別れ他の船に移り、残りはヴァイシャリーへ入り、そこでバイクに乗り換えて、途中でバイクごと馬車で回収など、追跡を避けるための細かなルートや乗換えが決められているらしい。悠司は疑問を投げかけたことでコリスから詳しい説明を受けていることと、腕輪をしていることからアレナ本人の護送を任されては、いる。

「メニエスさん、何をするの……?」
 連れてこられた静香は、ティアと同じように怯えていた。
 メニエスが答えるより早く、ミストラルがメニエスの前に立ち言う。
「百合園が少しでもこちらの指示と違うことをすれば、それを即切捨てます」
 それとは、静香のことだ。
「で、でも」
 と、メニエスは明らかに動揺を見せる。
「立場を考えてください」
 ミストラルの威圧的な言葉に、メニエスは何も答えることが出来なかった。
 ミストラルの言うことが正しいという考えもあって。
 だけれど、静香個人に対して、メニエスは他の地球人に対してとは違う気持ちを持ってしまっているから。
 今はもうただ、穏便に、何も騒動を起こさずに、静香を連れ帰ってほしいと思うだけだった。
 人の気配が近づいてくる。
 明るい月の光の中、足場が悪くても離れることなく、3人の女性がこちらへと歩いてくる。
 彼女達はゆっくりとメニエス達に近づいて、数メートル距離を置いて立ち止まった。