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嘆きの邂逅~闇組織編~(第5回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第5回/全6回)

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「武装をしていません。校長を帰してください」
 ロザリンドが拳を握り締めながらも、何も感情を表さずに言った。
 離れないように、アレナの右腕をロザリンドが、左腕を亜璃珠が握っていた。
 静香はメニエスに拘束をされ、ロザリアスに短刀を当てられていた。
「み、んな……」
 怯えた、かすれた声を静香は出す。
「暴れる? 暴れるの? 変なことしたら斬っていいって言われてるんだっ」
 ロザリアスの刃が静香にもっと近づいた。
 静香は極限状態でただ、荒い呼吸を繰り返す。
「先にアレナをこちらに」
 ミストラルがそう言う。
 ロザリンドと亜璃珠は首を左右に振る。
 身柄を交換するまで、一切の抵抗はしないと3人で決めてあった。
 追加の条件は飲まないつもりだった。……校長に危害が加わる等でない限り。
「抵抗はしないわ、交換は同……」
「黙れ、それ以上喋るなら校長の腕を落とす」
 亜璃珠の言葉を即、ミストラルが遮る。
「やっていいねー!」
 ロザリアスが静香の肩に当てていた短刀を振り上げた。
「やめて下さい……っ」
 ロザリンドが声を上げる。
 亜璃珠は唇を噛む。相手は何一つこちらの言葉を聞くつもりはないようだった。
 アレナがロザリンドの手を振りほどき。
 それから、亜璃珠の手を振りほどいて前へと出た。
「待っ……て」
 亜璃珠はそう声を出すも、引き止めることは出来ない。
 ロザリンドは何故自分ではないのかと自分の無力さを呪い。
 亜璃珠はどうしてこうなってしまうのかと、爪がめり込むほど強く拳を握り締める。
 数ヶ月前。百合園の正門前でも、こうして自分の手を振りほどいて、百合園の為に敵の刃の下に向った人物がいた。
 死が約束されたような場所へと。
 アレナに行かせても、向うが静香を放すとは限らない。
 寧ろ、そのまま両方連れて行って再び何か要求をしてくるのではないかと、そんな考えが巡る。
 なんとしても、阻止しようと。
 2人共連れて帰るのだと、ロザリンドと亜璃珠は俊敏に動けるよう重心を移していく。
 近づいたアレナの肩を掴んで引き寄せ、後ろから首筋にカタールを当てながらミストラルはメニエスに目を向ける。
 メニエスは頷いて、拘束していた静香の縄を解き「ごめんなさい」と囁いて、静香を放した。
 そして、静香は転げるようにロザリンドの方へと行った。
 その瞬間――。
 ミストラルの手が動いた。
 刃がアレナの首へ吸い込まれる。
 白い月の光の中に、鮮血が舞った。

〇     〇     〇


 ファビオの封印の石を取りに向っていた一行は、夜遅くに百合園女学院に帰還を果たした。負傷者はほとんどいなかった。
 まだ封印解除すべきかどうか判断が出来ないため、玉はとりあえず鈴子が管理することになり、迎えが来た者から家へと帰っていった。
「っと、ミルミちゃんゴメンね」
 ミルミと一緒に正門に向っていたアルコリアが0時の鐘の音を聞き、立ち止まった。
「どしたの?」
「ん……青い髪の班長さんが、大切な人の為に頑張ろうとしてるから。上手くいきますようにって」
 アルコリアが満月を見上げ、ミルミも月を見上げた。
「あの捨て身すら厭わない決意は、屋上から長い出張に出た方に関係あるんでしょうし、ね」
 あの場に、アルコリアもミルミもいたから。
 ミルミ個人は、アルコリアが常にくっついていたから。全くの無傷で、敵との接触もなかったけれど……。
「ミルミもお祈りするね。みんな、みんな、無事に帰ってきますように……」
 ミルミは――そして、アルコリアも人質交換が行われていることを知らない。
 だけれど、校長の身に何かがあったのかもしれないことくらいは感じていた。
 手を繋いで、目を閉じて。
 共に祈った。

 エリスは、リーアと共に、ヴァイシャリーに戻って来ていた。
 リーアはすぐに病院へと運ばれて、数日入院することになり、エリス達は自分の部屋へと戻っていた。
 夜遅くまで、キッチンでエリスは料理をしていた。
 静香がいつ戻ってきてもいいように。
 迎えて、何時も通りのお茶が出来るようにと。
「本当においしいんですえ、今度こそ……」
 食べてもらい損ねた『旬のアンズをジャムにして、挟み込んだお菓子』を作りなおし、冷やしておく。
「ホント、美味しそうですわねぇ」
 そんなエリスにティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)が後ろからぎゅっと抱きついて、耳を噛んだり、胸を触ったり、悪戯をする。
「やめておくれやす」
 じたばた抵抗するエリスに、ティアは笑みを浮かべる。
 ティアなりに、元気のないエリスを、元気付けようとしているのかもしれない。
「私には皆さんの様に戦うたりするなん力あらへんよって、この位の事しかでけへんけど……揃って無事戻って来はりますように」
 ティアを振り払いながら、エリスは慕い、心から案じている校長や百合園の仲間達の姿を思い浮かべていく――。

 呼雪は研究所内をユニコルノや白百合団員達と駆けていた。
 団員達に、妖精のチアリング等で、回復、援護し、必要に応じて前へ出て、キメラを討つ。
 無抵抗の相手には攻撃を加えず、縄で縛っていく。
 ――プレートのかかった部屋に入った時だった。
 その部屋はすでに誰かが調べた後のようであり、散らかっているだけで何もないのだけれど……。
 窓から、眩しいくらいに月の光が射し込んでいた。
 満月、時間は0時を過ぎた頃、だ。
「アレナ様……」
 ユニコルノが小さく声を発した。
「呼雪は、なんと伝言を頼んだのですか?」
 月を見ながら、ユニコルノが尋ねる。
「特に変わったことは書いていない」
 そうそっけなく言い、呼雪は武器を手に廊下へと戻っていく。
 ユニコルノは窓の外を見て、アレナの姿を思い浮かべる。
「信じています。この戦いが終わって再び会える事も、アレナ様が今まで仰った言葉も」
 そして、呼雪の後を追った。
 廊下に出た呼雪は一瞬だけ、振り返って月の光に目を細めた――。


 言っただろう、お前は自由だと。

 それに……今は独りではない筈だ。
 神楽崎副団長以外にも大切な者達がいるだろう?

 お前が傷付いたり命を落としたりすれば、悲しむ者がいる事を忘れないで欲しい。

 大切なものを守る為に力が必要なら“躊躇うな”
 自らの願うものを、お前自身の手で掴み取れ。


 ……次に会う時は、笑顔を見られると信じている。