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リアクション
「チャララチャラチャラ、黄昏の、公園でぇ、キミとぉ〜♪」
「あなたのぉ〜、腕にぃ、抱かれてぇ〜♪」
小さなステージで、パラ実生2人が肩を組みながら、男同士デュエットしている。
周囲の生徒達は、手拍子をしながら、野次や掛け声を飛ばしている。
「このわたくしが、よりにもよってラズィーヤ様の出席する祝宴をキャンセルしてこちらに出席することにしたのですから、相応の礼遇をしてもらわなければ困りますわね」
そんな中、ジュリエットは分校役員達と交渉をしていた。
「うんそうだな……」
話を聞いている生徒会長の魅世瑠はちょっと上の空だった。
「よし、次は俺の番だな! マイク貸せェ!」
番長に復帰予定の竜司は、ステージの方へと向ってしまう。
「さあ、お待ちかね! 吉永分校長代理の歌が始まるよー! 皆、耳(栓)の準備はいいかー!」
ヨルもマイクを1本持ち、司会を行っていた。
分校生達はそれぞれ竜司の歌を聴く体勢に入る。……耳栓をしたり、離れたり、根性入れたり。
「聞いてますの?」
歌が始まっても、魅世瑠はぼーっとしていた。
「うん、聞いてる聞いてる。でも総長が百合園生は当分役員はダメだって言ってたぜ?」
「生徒会の役員ではなく、風紀委員をやらせていただきたいんですの」
「なるほど」
魅世瑠はうんうんと頷く。
「他校の風紀委員は細かいことを言うのが仕事ですけれど、わたくしは細かいことを言う人を取り締まるのを仕事にしたいと思いますわ」
「あー、それは助かる、うん助かるぜぇ」
魅世瑠はにっこり笑みを浮かべた。
なんかちょっと様子が変だと思いながらも、ジュリエットは「よろしくお願いしますわね」と言うので精一杯だった。
「ぐぼぼぼぼええええええーーーー。ぐおおおおおおおおげぇええええええーーーーー」
竜司の歌が、サビに突入していたから。
周りからは笑い声や野次が飛んでいるが、熱唱中の本人には歓声にしか聞こえていない。
「ぶ、ブラボー……」
ジュリエットは竜司の歌が終わった途端、その言葉を口にして力尽きて突っ伏す。
竜司の美声!が頭の中にわんわん鳴り響き続けている。
ジュリエットは苦しみながらも、喝采を送れたことに満足していた。
(……これくらいのことにお追従を言えなくては、今後、ヴァイシャリー家を取り巻く魑魅魍魎と渡り合って行けませんものね)
「今日はいつもより、声援が多かったなァ、よし、もう一曲いくぜェ!」
気を良くした竜司が次の曲を歌い始める。
「どぼおおおおおおぐぇえええええええーーー。ぼおへええええええええーーーー」
「うう……っ、ちょっとメールが気になるから受信出来る場所に行って来ますね。決して分校長代理の歌声が聞きたくないわけじゃないんですけどっ」
未憂がふらふらと歩き出す。
「あたしも行く、お返事来てるといいね」
「無くてもいいんです……届いていれば」
そう呟いて、未憂はリンと共に、席を外すのだった。
そんな大騒音が響く中でも魅世瑠はどこかしら上の空で、ちびちびジュースを飲んだり、必要以上に噛んで肉を食べたりしていた。
「魅世瑠、おまえ……」
フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)はガラにもなく物思いに耽っている魅世瑠を気にしながらも、良い言葉は見付からず、とりあえず魅世瑠の好物を運んだり、飲み物を持ってきてあげたりと世話をしてあげていた。
「みせるー、どうした?」
食事に夢中だったラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)も、竜司の歌声で我に返り、いつもなら騒ぐ魅世瑠が無反応なことをおかしく思い、心配そうに声をかけていく。
「わるいものでもタベたか? 目がおよいでるよ?」
「ん? 水浴びにでもいくか〜? 目だけ泳がせるわけにいかねぇもんなー」
ラズは眉を寄せて、首を傾げる。
なんだか意味がよくわからない返答だったから。
「気にしても仕方ありませんわ。本人がそのうち言うでしょう」
アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)は、気にせず飲食を楽しんでいく。
(……上に立つなんてガラじゃねぇから、ちょうどいいタイミングだし、生徒会長はここらで辞任しようかと思ったんだが……分校体制も大きく変わるし、ここでトップが入れ替わったんじゃ分校生が混乱するな。おいおい折を見て次期役員に職責を背負ってってもらうか)
当の魅世瑠は竜司や分校生達を穏やかな目で見回したり、苦笑したりしながら、一人、そんなことをぐるぐると考えていた。
「あら……?」
ゼスタや分校生達への挨拶を終えて、役員の席に戻ってきたフィルは、優子と亜璃珠の姿がないことに気付いた。
魅世瑠はぼーっとしていて、2人が席を立ったことに気付いていないようだった。
「ちょっとお散歩に出かけましたー。仕事はざくざく片付けてるから平気よー」
崩城 理紗(くずしろ・りさ)は、分校名の名前のアンケートなどのアンケート結果をまとめていた。
「フィル様もお疲れ様でした。そちらの方までは手が回りませんでしたが、お嬢様はいつも離宮のことも気にかけておられました」
亜璃珠の家の執事の鈴木 グラハム(すずき・ぐらはむ)がフィルに頭を下げる。
亜璃珠に代わって、分校生達の対応や、引継ぎの為の書類の管理とチェックを行っていた。
「いえ、こちらもとても大変だったと聞きました。指揮をとってらした亜璃珠さんは特にお疲れのことでしょう」
「ありがとうございます」
グラハムは礼を言い、崩城 ちび亜璃珠(くずしろ・ちびありす)は小さくため息をついて、窓の外に目を向ける。
(ったくばか亜璃珠め)
亜璃珠は優子のことを案じていた……だけど。
(ひとのしんぱいをするまえにじぶんのしんぱいをしやがれ、むりしてるのはどっちだか)
ちび亜璃珠は優子以上に、ふとした時に疲れを見せていた亜璃珠の気にするが。
その疲れを、優子が癒してくれるのではないかとも、少しだけ期待して2人の帰りを待っていた。