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リアクション
「魅世瑠もありがとう」
優子が魅世瑠にそう言うと、魅世瑠は首を左右に振った。
「あたしは、何もしてねぇし」
「私が今この立場にいるのも、この分校が存在するのも、彼らが助けてくれたことも……キミの助力のお蔭じゃないか」
その優子の言葉に、魅世瑠は複雑そうな表情を見せる。
「ま、とにかく楽しもうぜ!」
何故だか少し気まずそうな顔で「えへへっ」と笑うと、魅世瑠は皆の中に混じっていった。
「おう、優子」
堂々とした男性の声が響く。
「よく分校に来てくれたな」
そう言い、近づいてきたのは分校長代理を務めていた吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)だ。
「吉永竜司、だったな。話は聞いている。分校生を率い、ヴァイシャリー家……百合園に協力してくれたことを、深く感謝している」
優子が右手を差し出してきた。
オレと手を繋ぎたいだとォ!
しかし、舎弟達の前でらぶらぶっぷりを見せ付けるわけにはいかない。
だが『オレの女』に恥じをかかせる訳にもいかない。
竜司は葛藤の末、ぎくしゃく右手を差し出して握手を交わし、パッと手を離した
「とにかく食べろや。これとか美味そうだぜェ」
豪快に焼かれたチキンとか、骨付き肉とか、あれやこれやと竜司は優子に勧めていく。
竜司としても、帰還を喜ぶ気持ちや、感謝などの気持ちはあるのだが、恥ずかしくて言葉には出来なかった。
そして、彼なりに優子のことを案じてもいた。
以前優子が訪れた時、そっと彼女に付き従っていた少女がいた。優子のパートナーの少女だ。
その少女とは、獣人達の村で共に戦ったことがある。
しかし優しい眼をした彼女は――今はいない。
これからも、いないのだ。
優子は自分の女ではあるが(思い込み)、実際彼女のことは何も分かっていない。
踏み込んではいけないことだと、本能的に理解していた。
「そっちにステージ用意してある。一緒に歌うかァ!」
竜司はマイクを用意すると優子をステージへと誘う。
「ちちちちちちょっと竜司さん! ま、ままだ用意できてないから!」
「電池が電池が切れてますゼ!」
「これ美味いぜ、食え食え〜!」
途端、分校生達がわらわらと竜司と優子の間に割り込んでいった。
「お疲れ様、座って座って」
竜司は準備の為にステージの方に向っていき、優子は鳥丘 ヨル(とりおか・よる)に勧められて椅子に腰掛けた。
「色々大変だったんだってね? アレナもいなくなって……寂しいと思うけど」
ヨルは悲しげな目で、だけれど微笑んで優子に語りかける。
「元気だして。だって、これで終わりじゃないでしょ?」
「大丈夫、私は元気だよ。落ち込んではいない」
優子はかすかに笑みを浮かべ、頷いてみせる。
「うん、アレナと、ちゃんともう一度会うんだから。その方法を探すって言うなら一緒にやるよ」
「ありがとう。私は動けない……かもしれないけれど、そういう気持ちを持っていてくれる人がいるのなら、進展はあるだろうと思う」
「動けない?」
ヨルの問いに、優子は首を縦に振った。
「やることが沢山あるんだ。上手く話せなくてすまない。キミはどうしてアレナを助けたいと思ってくれているんだ? 仲が良かったわけでもないだろ」
「うん、だから。あんまり話す機会のなかったアレナと、今度はいろいろおしゃべりしたいからね」
そう微笑むヨルに、優子も微笑みを見せて、一緒に料理を食べながら談笑をしていく。
「ところで……あの人が新しい先生?」
訪れた優子は1人男性を連れていた。
ナンパな印象を受ける男だ。背には大きな剣を背負っている。
指輪にネックレス、ピアスといったアクセサリーを多くつけており、凄く陽気で優子とは対照的にパラ実生の輪の中に飛び込んでいき、騒いでいた。
「パラ実本校でも教えていたようだから、知り合いも結構いるみたいだな」
「でも、あの制服……薔薇学の人だよね?」
着崩しているが、彼は薔薇学の制服を纏っている。
「地球の大学も出ているようだが、今は薔薇学に在籍しているらしい」
「ふーん……。何にしろ、分校に先生が来てくれるのはいいよね。明るい人みたいだし。体育の先生だっけ? 野球やりたいって言ってみよっかな」
「そうだな……ただ、パラ実の野球って、皆ルールを守るんだろうか」
優子はテーブルなど関係なく、マナーも全く無視、肉を取り合いながら食べていく分校生達の姿に苦笑する。
「なんにせよ、怪我はしないようにな。道徳的なことは多分彼からは学べない」
「うん、わかった。そんな感じするね。気をつけることにするよ。……あっ、カラオケの準備出来たみたい、それじゃボクも皆と騒ぐぞー! えっと、総長もちゃんと楽しんでいってね」
「うん、楽しませてもらうよ」
「それじゃね!」
ヨルは竜司を手伝うために、ステージの方に向っていった。
「たんと作ったさかい慌てへんでー」
エリスが料理を運び込みながら、取り合っているパラ実生に声をかける。
やはり肉料理が大人気だった。
一応、串に肉と野菜を通して、自然とバランスよく食べるよう配慮してある。
「戴きます!」
「あたしは、フランクフルトから〜。ケチャップケチャップ♪」
関谷 未憂(せきや・みゆう)とリン・リーファ(りん・りーふぁ)は、並べられていく料理から、それぞれ食べたいものを皿にとって、幸せそうな微笑みを浮かべながら食べていく。
「生野菜もお食べくださいね。あたしが作りましたのよぉ」
エリスに圧倒されてティアが作ったサラダとドレッシングは、数少ない女性に人気だった。
「うん、美味しい。程よい酸味よね」
そう微笑んだのは魔女のリーア・エルレンだ。
「こっちも美味しいですわよ。あ、こちらも最高ですわ」
壹與比売こと壱与は、祝賀会が始まってからはリーアにべったりくっついている。
「ホント、私達にはちょっとボリュームありすぎるけどね」
壱与がとってくれた炙り肉やフライを食べながら、リーアは笑顔を見せる。
「壱与も食べて食べてー」
リーアはフォークで肉を刺すと、壱与の口に向ける。
壱与は驚きながら口を開いて、肉を食べる。味よりもリーアがしてくれること、側にいることが嬉しくて、何故か安心感を覚える。
「わたくし達、ずっとお友達でございますよね?」
壱与はぎゅっとリーアの手を両手で包み込んだ。
「うんうん。友達でいてくれると嬉しいわ」
リーアの返事を聞いてまた安心をする。同性の近しい存在がずっと居なかった反動か、壱与にはリーアがとても大切な存在になっていた。
「おっ、リーア楽しんでるか?」
声をかけてきたのは久多 隆光(くた・たかみつ)だ。
「楽しんでいますとても! 殿方などいなくても!」
壱与がすぐに答えて、リーアを背に庇うかのように移動した。
しかし、声の主が隆光だと知ると、ほっと息をついて少しだけ警戒心を緩める。
リーアが笑みを浮かべる。
「あなたも来てたんだ。よかった、こことも普通に馴染めてるみたいだし」
「リーアも、もう襲ってくるヤツいないだろうしな」
といいながらも、少し気になって隆光は周囲を見回す。騒いでいる不良達ばかりで、怪しい人物の姿は見当たらない。
「リーアさん、こんにちは」
またもやの男性の声に、壱与がリーアの前に立ちふさがる。
「壱与さんもこんにちは」
「あ、ごきげんようでございます」
声の主は、樹だった。彼も味方と認識している男性だ。
「大丈夫よ、変な男くらい自分で追い払えるから」
くすくす笑いながら、リーアは壱与の手を引いて、自分の隣へと下がらせる。
「嘆きのファビオの話、聞いたよ。救出作戦に加わってなかった俺が言うのも変かもしれないけどさ」
樹は柔らかな微笑みを浮かべながら、リーアに心から礼を言う。
「力を貸してくれてありがとう、リーアさん」
まだファビオとも、ファビオの友人にも会ったことはないけれど……。
「誰かが助かって皆が笑顔でいられるの、俺も嬉しい気持ちになるから……」
「ファビオ助かって凄く嬉しいわ。助言を下さって、本当にありがとう。機会があったら、ファビオにも会ってあげてね」
リーアの言葉に「リーアさんのお陰だよ」答えながら、樹は首を縦に振って約束した。
「生きていた結果でもあるから……ありがとう。」
続いてリーアは隆光、壱与を見回して、礼を言うのだった。
「リーアさんはこれからここの講師もするんだって?」
樹の問いに、リーアが頷く。
「補助系の魔法を少し教えていくことになると思う。東シャンバラの首都を統治する、ヴァイシャリー家の方に頼まれて、ね」
「わたくしも、手伝いに参ります」
「うん、ありがと壱与」
「リーアさん……っ」
名前を呼ばれた壱与は嬉しそうに微笑んで思わずリーアにぎゅっと抱きついた。
「うーん、壱与なんか可愛いっ」
リーアは手を伸ばして、壱与の頭を撫でていく。
「リーア、俺ともこれからは友達として仲良くしてくれるか?」
「……勿論」
隆光の言葉に、リーアは笑顔で頷いた。
「でも……友達じゃなくてもいいのよ。私のことお母さんだと思って壱与のように、抱きついてきてくれても!」
その答えに、隆光も笑顔を浮かべる。
「母というより、妹、だな。俺から見ると」
「ま、私から見ても、息子というより……」
その先は、ふふっと笑い声を漏らしただけで、リーアは言葉にしなかった。
「リーア」
屈託のない笑顔を、隆光はリーアに向けた。
「ん?」
壱与から手を離した彼女に――自分よりずっと若く見える彼女に、気持ちを伝えていく。
「本当にありがとう」
それが、今の素直な気持ちだった。
命を助けたのは自分だったかもしれないが……彼女を助けたことで、少しは何かが出来るような男になれたと、思えたから。
僅かであっても、自信を持つことが出来るようになったから。
自分の力はあまりにも小さいけれど、それでも誰か一人助けられたことに感謝をした。
そして、彼女の側に集まっていく人々。
彼女に感謝をする樹や、大切に思う壱与を見て。
隆光は安堵感を覚え、そして、また感謝の気持ちが膨れていく。
「うん……どういたしまして」
リーアは彼の感謝の言葉を、受け取った。
彼女も隆光に感謝の気持ちでいっぱいだったけれど。
今回はそう答えた方がいいような気がして。
「皆が死ぬまで友達でいるつもりだから、覚悟してね」
それから、隆光、壱与、樹に明るく笑いかけた。
「さ、食べよう、飲もう! 皆グラス持ってきて〜」
リーアは炭酸飲料の瓶を手に取る。
「グラスどうぞです〜」
給仕をしているファイリアからそれぞれグラスを受け取って、リーアに飲料を注いでもらい、微笑み合いながら祝賀会を楽しんでいくのだった。