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薄闇の温泉合宿(第1回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第1回/全3回)

リアクション

「傷は大丈夫かい?」
 リオンは捕らえて縛った賊を河原へと下ろした後、応急手当を施した。
「甘いこと言ってんじゃないわよ!」
 パートナーのは、白の剣をブンッと振り下ろす。
 そして賊の1人に近付くと、顎に手を当てて自分の方を向かせる。
「いいこと? さっさと知ってること吐かないなら、バラバラにして魚の餌にするわよ」
「な、何が聞きたい」
 迫力に押されて、若い賊が言う。
「お宝のありか」
 くすりと紫は微笑み、剣を賊の顔に向けた。
「僕のパートナーは少し気性が荒いみたいでね。でも大丈夫……素直に従ってもらえれば、僕が君たちに手出しはさせないよ」
 リオンが賊達にそっと囁きかける。
「船室だ。あとは、アジトの中にもあるが……鍵はリーダーが持ってるから、俺ら連れていっても入れないぜ」
「なるほどなるほど。とりあえずアジトの場所、教えてもらいましょか?」
 うふふふふと怪しく微笑み、紫は賊からアジトの大まかな場所を聞き出すのだった。

「このままですとあなた達のお宝も全部奪われた上に刑務所に送られてしまいますわ?」
 賊が集められ、拘束されている場所に近づいて、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が、女性の賊に囁きかけた。
「抗う気持ちがあるのなら、あなた達のリーダーの所に案内して欲しいんですけれど……」
 そう言いながら、彼女を縛っている縄にそっと手をかける。
 自分は貴女方と敵対するつもりはない。
 盗品の運び出しと手引きを手伝いたいのだと、話していく。
 ナイフで彼女を拘束している縄を切って、連れ出そうと試みる、が。
「女性であっても、独自の判断で酌量はすべきではない。パラミタでは女性の方が弱いといわけでもないしな」
 見張り、尋問についていた呼雪が縄が解かれたことに気付き、ロザリィヌを咎める。
「そう、ですわね」
 ロザリィヌは真意は語らずに、その場から離れた。
 呼雪は訝しげに軽く眉を顰めるが、それ以上ロザリィヌを追及することはしなかった。
「きっと、仙姫やブリジット達と同じ作戦ですね」
 橘 舞(たちばな・まい)は賊達の手当てをしながら、微笑みを浮かべる。
 パートナーのブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)金 仙姫(きむ・そに)カルラ・パウエル(かるら・ぱうえる)は、逃げた賊を追っているはずだ。
 自分は戦いは得意ではないことから、こうして負傷者の治療を行っている。
「逃げねぇよ、劣勢だってのは見てわかるしな」
 縄を解かれた賊の女はそう言い、呼雪は無言で再びその女を拘束する。
「蒼学へ行く筈だったコが賊にねぇ……。なーんか引っ掛かるんだよねー」
 ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は引っかかりを覚えながらも、呼雪と共に、賊の見張りと尋問に携わっていた。
「さて、そろそろ観念したよね? 色々聞かせてもらえるかな〜」
 ヘルのその言葉を聞き、警備に当たっていたユニコルノが近づいてくる。
「この辺りにアジトあるんだよね? どこにあるのかなー」
 ヘルの問いに答える者はいない。
「首領は、船の中にいたのか? アジトにどの程度メンバーは残っている?」
 呼雪が賊達に近付きながら問いかける。
 その前にユニコルノが出て、武器を取り出す。
 ユニコルノは無表情、無言で高周波ブレードの刀身を賊達に向けた。
「かるーく痛めつけてヒールしてを延々と繰り返したら、話す気になったりするかもね?」
 ヘルはにこにこ微笑んでいる。
「た、滝の裏だ……っ。大したものは、ありゃしない」
 壮年の男がそう言った。
「アジトに残っているメンバーは?」
「……警備に2,3人。それだけだ。あの船のリーダーは船室にいた。あの様子じゃ、捕まっちまうだろうなッ」
 呼雪に男は吐き捨ているように、そう言った。
「伝えてきます」
 ユニコルノはそう言葉を残し、探索に出ている者達に情報を伝えるため、その場を後にした。

 賊船の甲板にも水が流れ込み、沈みかかっている。
 とはいえ、川はさほど深くはないため、契約者であれば沈んだ後でも問題なく脱出できるだろう。
「おっと、逃がさないぜ!」
 船室から飛び出てきた者達の前に、ウィルネストが立ちふさがり、銃を向ける。
「ユリアナ・シャバノフだな。聞きたいことがある……大人しく捕まれ」
 刀真が鋭く目を光らせながら、黒い剣を銀髪の女性に向けて近付く。
「抵抗するつもりはないわ」
 銀髪の女性が両手を上げた。途端、彼女は隣にいた壮年の男の足を払う。
 転倒した男の背を右足で踏みつけて言う。
「この男がこの船の船長よ」
 呻く男の方を見もせず、剣を向けている刀真に鋭い視線を返しながら、彼女はそう言った。
「それじゃ、拘束させてもらいましょうかね」
 ウィルネストが縄を船長にかけていく。
 刀真は銀髪の女性――ユリアナのねじり上げるように掴み、乱暴に船から下ろすのだった。

 下りた途端。
 河原で、梅琳と西シャンバラのロイヤルガード達に、ユリアナは取り囲まれる。
 硬い表情の彼女に、正悟が歩み寄る。
「あなたは御神楽会長に招かれ、蒼空学園に通うはずだったユリアナ・シャバノフさんですよね」
 硬い表情のまま、ユリアナは首を縦に振った。そして、口を開く。
「あなた達はどういった立場の人? 東シャンバラのロイヤルガードの一員?」
「いいえ、西シャンバラのロイヤルガードと西シャンバラの関係者です」
 正悟はそう答える。
「見たところ、あなたは賊に捕らえられていたわけではないようです」
 ユリアナは拘束されていなかった。
「しかし、抵抗もしてきませんでしたね」
 正悟の言葉を、ユリアナは黙って聞いている。
「ある意味あなたはエリートコースだったはず。ドロップアウトしてまで欲しかった物でもあったんですか?」
 ユリアナの眉がぴくりと動いた。
 そして彼女は先に拘束された、黒髪のローブを纏った男の方に目を向けた。
 彼は猿轡を噛まされ、幾重にも縛られている。
 しばらく間を置いて、彼女はこう答える。
「そう……欲し……いえ、取り返さなきゃいけないものが、あって。ここではきちんと話せない。後で」
 小さく低い声で、彼女はそう言った。
「決着がつくまでは、ここにいるわよ。加勢が必要かもしれないし。終わってからゆっくり聞かせてもらうわね」
 梅琳がユリアナにそう言い、ユリアナは無表情で首を縦に振った。

 沈みゆく船に契約者達が下り立ち、船に残る賊達を拘束し、川へと下ろし岸に運んでいく。
 悠希は、戦闘が落ち着いた後、魔鎧のカレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)と共に、船室へと入っていく。
「悠希、船沈むわよ? ここにはもう賊はいないんじゃない?」
 アフェクシャナトはそう言うが、悠希は承知で奥へと進み、置かれている箱や袋を集めて抱えていく。
「盗品を持ち主に返してあげたいんです。ここの品は盗ったばかりのものだと思うので、持ち主が見付かると思いますから……っ」
 悠希の小さな身体では全て持ち上げることが出来ない。
 だけれど、船が沈む前に、全てをどうしても持ち出したくて、悠希は必死に抱えようとする。
「ボクにも宝物があります……。本当に大事なものです」
 悠希は大切な人の手作りの着ぐるみを思い浮かべていた。
「盗品も元の持ち主の方にとって、同じ位大切な物かも知れないと思う、と……っ」
「……ふーん。盗品を返してあげたい、かぁ……」
 アフェクシャナトは悠希がロイヤルガードを目指しているわけではないという話も、現場に来る前に聞いていた。
 悠希は代王のことは心配だけれど、今の自分にその資格はない。せめて、これから誰かの役に立つことが、自分に出来る唯一のことだと思う……と、話していた。
「まぁいいわ、力貸してあげる」
 そう言って、アフェクシャナトは悠希に協力して、盗品を持ち上げていく。
「はい、ありがとうございます」
 悠希が笑みを浮かべる。
「結局いつも貸してる気するけど……勘違いしないでよねっ」
 照れ隠しか、ぷいっとアフェクシャナトは顔を背けた。
 そして、2人で大切に、盗品を船から運び出していくのだった。

「ミス・シャバノフは、船の中にいたようですね。拘束されたにょろ」
 ゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)は、遠方から双眼鏡で状況を見ていた。
「抵抗は?」
 ゾリアの傍に佇むパートナーのロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)が尋ねる。
「してないにょろ」
「アジトに潜入する必要はなさそうですわね。接触いたしましょう」
 少し離れた位置にいたゾリアのもう1人のパートナーザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)が、近付いてくる。
「そうですね」
 ゾリアは双眼鏡を下ろすと、パートナー達と河原へと下りてロイヤルガードとユリアナに接触することにする。

〇     〇     〇


「待ちなさい! 逃がさないわっ!」
 ルプスは下流の方へ走る3人の賊を追っていた。
「ルプス、戻って先輩に連絡を入れた方がいいです。足場も悪いですし……」
 ハーフフェアリーのルアが心配そうに声をかける。
 先輩――ケイは、遠距離攻撃で船に残る皆の援護をしており、こちらに気付いていない。
「平気よっ……あっ!」
 足を滑らせて、ルプスは転んでしまう。
 石や岩が彼女の身体を傷つけ、ルプスは膝や腕を擦りむいてしまった。
 だけれど、歯を食いしばってすぐに立ち上がり、必死に賊を追う。
「しつこい女だ!」
 賊の1人が銃を、2人が剣を抜いてルプス達の方へ向かってくる。
「ま、負けない……。白百合団員として、成果を……!」
 ルプスはリターニングダガーを賊に投げる。
 ダガーは銃を持つ男の腕を深く切り裂き、男の腕から銃が落ちる。
「ルプス、危ない――!」
 ルアは野球のバットをふりあげて、ルプスに迫る男一人の頭をえいえいっと殴る。
「あてっ、てめぇ!」
 男は剣でバットを弾くと、ルアの身体を片手で抱える。
「う……っ」
 ダガーが戻るより早く、残りの1人の賊に、ルプスは身体を斬られてしまう。
「連れていこう。人質だ」
「暴れたら、殺すぞ」
「痛……っ」
 賊はルアの身体を両手で握り締めて拘束し、倒れているルプスのことを腕を引っ張り乱暴に立たせる。
「その子達を放せー!」
 そこに、2人がいないことに気付いたケイが駆けてくる。
「近付くな!」
 賊はルプスの首筋に鋭い刃を押し当てる。
「わたし、は……助けてもらわなくたって……っ!」
 痛みに耐えながら、ルプスは男の腹に肘を打ち込んだ。
「最低のクズですね!」
 ルアは自分を掴んでいる男の指に思い切り噛み付いた。
 男達の手が緩んだところに、ケイは神の目で光を発する。
「2人ともこっちに来い!」
 目が眩んだ男達の腕から抜け出した2人は、ケイの元に走る。ケイは天のいかづちで男達を打ち倒していく。
 ケイの傍で両足を地面につき、斬られた腕をもう一方の手で押さえながら……ルプスは悔しげな表情をしていた。
「ルプス、大丈夫ですか?」
 ルアは心配そうに妖精のチアリングで彼女の傷と心を癒そうとする。
「ルプス……なんか変だぞ? どうした」
 ケイは優しく声をかけるが、ルプスは顔を背けて「一人で倒せたのに」と不満そうに言うだけだった。