リアクション
* * * パラミタ内海。 ジャタの森の北方、イルミンスールの森の東方に広がるそこに、巨大な海上要塞はあった。 無人島の一つを利用した大規模施設。 まさに難攻不落といった様相を呈している。 それを守るように、黒い機械の巨人が取り囲んでいた。 「行くぜ相棒。あいつらを倒さなきゃ、地上部隊が突入出来ないからな」 「やっつけるぞ〜、やっつけるぞ〜♪」 アルファ1、【クラッシャー】に搭乗するのは小隊長を務める雨月 晴人(うづき・はると)とアンジェラ・クラウディ(あんじぇら・くらうでぃ)だ。 アンジェラは状況開始前からテンションが高い。 『アルファ1より、アルファ小隊各機へ。俺達は指揮官狙いの隊を援護する』 晴人が通信を送る。 シュバルツ・フリーゲのパイロットは相当な手練であることは、前の戦いで実感している。 指揮官を狙う部隊にとっては、その実力もそうであるが、一般機の存在も一種の壁となる。それを相手に消耗していては、指揮官を墜とすことは難しい。 『こちらアルファ3、敵は圧倒的に操縦慣れしているエース以外は機動力に爆弾を抱えている。一機ずつ落ち着いて墜としていこう』 アルファ3、【ホークアイ】の天司 御空(あまつかさ・みそら)が応じる。 「行こう、奏音」 白滝 奏音(しらたき・かのん)を見遣る。彼女の目には、この上ない気迫がこもっているように感じられた。 「……私は試作品なんかじゃない。出来損ないなんかじゃない……私の方があれより優れている、それを証明してみせる」 御空にも聞こえないほど小さな声で呟いた。 今回の作戦には、強化人間部隊が投入される。それは風間が直接関与していることを意味する。 この戦いで戦果を得られれば、『一号』――設楽 カノンよりも優秀であることを風間も認めるだろう。 天御柱学院製強化人間の「プロトタイプ」の一人である彼女は、それが「完成体」第一号への恨みを晴らすことにもなると考えている。 【ホークアイ】と【クラッシャー】は後衛に位置し、状況を把握しようと努める。 「今回も厳しい戦いかもしれないのですが、誰も欠けることなく皆で一緒に帰るのです!」 アルファ2、【カムパネルラ】のオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)とミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)も戦闘準備に入る。 「やはり、ベトナムの件はこたえてるみたいですね」 彼女の決意の裏には、やはりいなくなった者達を思う心があるのだろう。 「……我はそれよりも、前回といい今回といい、情報が漏れ過ぎな気がするんですがね。 まあ、上層部もそれには気付いているでしょうから、わざわざ我が言うこともないんでしょうが……ふふ、別に犯人がどなたかなんてのはどうでもいいです。このようにオルフェリア様を……我が神を悩ますのはいけないことですね」 黒い笑みを浮かべるミリオン。 「やっぱり、ミリオンもベトナムの方々が心配なのですね」 「……なぜ、そこで我が帰還しなかった生徒を心配していることになるのですか?」 不満そうにムッとし、オルフェリアと視線を合わす。 微かな笑みを浮かべた後、オルフェリアが静かに呟いた。 「オルフェは【カムパネルラ】。『銀河鉄道の夜』のカムパネルラは、ジョバンニを置いて行ってしまいました。でも、オルフェは誰も置いていかない【カムパネルラ】を目指すのです……どなたの機体も、落とさせはしません!」 物語におけるカムパネルラは、ザネリを助けるために自分の命を犠牲にした。 彼女の決意には、「自分も死ぬつもりはない」という思いも込められているのだろう。 皆が自らの意志を抱き、戦いを挑む。 前の戦いとの違いは、敵が自分からはあまり攻めては来ないことである。 あくまで、目的は拠点防衛ということだろう。 別小隊のコームラントが接敵前に、ビームキャノンとミサイルポッドを放った。その隙に、アルファ小隊はシュメッターリングに狙いを定めていく。 「まずは、牽制だ」 【クラッシャー】がビーム式の機関銃で敵機を牽制する。出力を落とし、エネルギーの消費を抑える。 (ハルト、砲撃。要塞から) 敵のイコンは長距離攻撃を行えない。 その代わりに、要塞に長距離砲――それも、コームラントのビームキャノンよりも射程が長いものが存在する。 (……コイツはチャンスだ) 上手くやれば、それで敵を墜とせるかもしれない。 コームラントが敵の射線上に入る場所に移動する。もちろん、間にはシュメッターリングがいる。 このまま拮抗していれば、こちらには砲撃は来ないだろう。だが、狙いはそこではない。 (よし、動いた) 敵機が要塞からの射線から離れようとする。 (御空、優先順二位と一位が入れ替わります。対応して下さい) 【ホークアイ】の射程圏内には、五機のイコンがいた。 【クラッシャー】の誘導により、最優先で狙うべき機体を変更する。敵機からの射程圏外であり、しかも自分とアルファ小隊機の射線は通っており、撃墜は十分可能だ。 (今だ!) シャープシューターとスナイプによって照準を確実に合わせ、御空がトリガーを引いた。 ビームキャノンから高出力の光が放出される。 (敵は前よりも回避性能が落ちてる。これなら……) 【ホークアイ】の放ったビームは、敵機に直撃した。 それが、他のシュメッターリングが要塞から離れるきっかけとなる。 イコンによる空中戦が展開されていると、要塞からの援護は行うのが難しい。味方を巻き込む恐れがあるからだ。 ならば、必然的にビームキャノンの長距離を封じる手に出ることになる。 「狙い通りだな」 積極策に出たシュメッターリングは二機。 うち一機が、【クラッシャー】との距離を詰めようと、ブースターを噴かしてくる。 そこへ、ビームシールドを構えた【カムパネルラ】が割り込む。 敵機から放たれる銃弾をシールドで防ぎ、援護に入る。 「向かってくるのならば、どうぞお覚悟のほどをお願いします」 敵機が間合いを取ろうとする。が、機動力ではイーグリットの方が上。【カムパネルラ】に対し、防戦一方となる。 『オルフェ、高度を落とせ!』 晴人の声を受け、機体の高度を下げる。 直後、【クラッシャー】のビーム式機関銃が火を噴いた。 今度は牽制ではない。威力を上げ、確実に敵機にダメージを与える。 被弾したシュメッターリングに向かって、降下した【カムパネルラ】が急上昇し、ビームサーベルを引き抜き――敵機を斬り上げた。 これで二機。 他の小隊もそれぞれ交戦状態に入り、今のところは学院が優位であるように見えた。 「近付かせないわ!」 【ネレイド】がもう一機に詰め寄る。 ビームサーベルを構え、斬りかかった。 (御空、今です) その瞬間を見計らい、【ホークアイ】からの援護射撃が来る。 (一手早く射線を引けば、一手多く敵機の行動を制限出来る。数で劣り、練度で劣る以上は行動で差をつけるしかない) その言葉通り、常に全体の配置に合わせた連携と、敵機の行動予測を行う。 【ネレイド】が一歩引き、敵機に被弾。今度は直撃とはいかなかったものの、怯んだ敵機に向かって【ネレイド】が斬撃を浴びせる。 計三機がアルファ小隊に撃墜された。 他の小隊も敵機を破り始めている。 だが、レーダーを見る限り、他とはまるで異なる機体が九機いる。 指揮官機である八機のシュバルツ・フリーゲと、一機のシュメッターリングだ。 「性能は前より下がってるみたいだけど、指揮官機はやっぱり強い……!」 【ネレイド】の中で、沙霧が狼狽しそうになる。 指揮官機の強さは、どの小隊も体感しているし、その中には圧倒的な強さを誇った者もいた。 震える沙霧に鈴蘭が声を掛ける。 「あなたが臆病なんかじゃないって事、私は知ってるよ。命の大切さを知ってるから、失う事を恐れるんだわ」 だけど、と続ける。 「それって大事な事だと思う。一緒にいきましょう。そして、みんなで帰るの」 パートナーを励まし、敵を見据える。 イコンは絆の象徴。そう思うからこそ、二人の気持ちを一つにして臨もうとしている。 「うん……いこう」 不安や恐怖に惑わされず、仲間のためにも自分達に出来る精一杯のことをする。 それが、全員で生きて帰るために必要なことだ。 四機が連携を行う。 後衛にコームラント二機、前衛にイーグリット二機で、敵機を追い詰めようとする。 【ネレイド】と【カムパネルラ】がビームシールドを構えた状態で、弾幕を防ぐ。至近距離にならなければ、そう簡単にシールドは破壊されない。 『アルファ3へ。他の部隊のためにも、敵機をまとめて撃破したい。後方からの援護を頼む』 『アルファ3、了解』 【クラッシャー】が中距離でイーグリットを援護するために、機関銃を放つ。敵の回避性能では完全に避けられないため、敵機は損傷を負っている。 (優先順位一位、二位が重なりました。対応して下さい) 射線上の敵機に向かって、ビームキャノンのトリガーを引く。 「ここは蒼天の戦場だ。鷹の眼からは――逃げられない」 三機が固まったところに、一本の光条が突き抜ける。 (アンジェラ、やるぞ!) 【ホークアイ】のビームを回避しようと動いた三機のシュメッターリングに対し、【クラッシャー】が仕掛ける。 「ゴマァアアア!!」 アンジェラが叫び、その瞬間に両肩のミサイルポッドからの一斉掃射が行われる。 着弾。 それによって、二機のシュメッターリングが大破し、残骸が内海へと降り注ぐ。 そして、その煙幕に乗じて前衛のイーグリットが残り一機の退路を防ぎ、一閃。 「素敵な朝……!」 煙が晴れ、アンジェラはすっきりした顔をしていた。 が、すぐに気持ちを切り替える。 「さすがに、そろそろ敵も警戒を強めてきたな。だが、思い通りにはさせない!」 敵指揮官機が援護に回れないよう足止めをしている小隊を援護しつつ、一般機を連携して攻撃していった。 |
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