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リアクション
(・VS一般機)
『ブラボー小隊全機へ。敵を切り崩すためにも、最初はシュメッターリングを狙っていきましょう』
ブラボー小隊の小隊長、月舘 冴璃(つきだて・さえり)が指示を出す。
敵の指揮官クラスは手強い。
いくら指揮官を他の小隊が狙っているとはいえ、数の多いシュメッターリングを減らさないことには、近付くことさえ容易ではないだろう。
東森 颯希(ひがしもり・さつき)がブラボー1、【アーラ】を敵機がビームキャノンの射程に入る位置まで移動させる。
無論、敵からの攻撃圏内には入らないように、である。
『牽制を行います。ビームキャノンの発射後、イーグリット三機の機動力で撹乱して下さい――隙を作ります』
初撃の出力は低めに調整する。
牽制である以上、高出力にする必要はない。
ビームキャノンが放たれると、それに乗じて指示通りにイーグリット三機で敵機に接近する。
他の小隊も、敵に対して行動を開始している。
アルファ小隊はこちらと同じく、一般機を墜としていくつもりのようだ。
(数を減らすためには、誘い出す必要がありそうですね)
あまり要塞付近で固まって戦うと、味方である別小隊を誤射しかねない。
確実に敵を引き離す必要があると冴璃は判断する。
(冴璃、少し揺さぶればおびき寄せられそうな機体があるよ)
レーダーで確認している颯希が精神感応で冴璃に知らせる。
『ブラボー小隊各機へ。今からミサイルでの援護を行います』
距離は十分だ。
ミサイルポッドから、敵のシュメッターリングの群に射出する。
どうやら、まだフレアを放出していなかったらしい。敵は機体に向かってくるミサイルを機関銃で撃ち落そうとしている。
それが、最初の隙だった。
「ルアーク、今だよっ!」
ブラボー3、【ミッシング】の水鏡 和葉(みかがみ・かずは)が機体を駆り、ルアーク・ライアー(るあーく・らいあー)がアサルトライフルを撃つ。
機体の弱点部分をシャープシューターで狙う。ミサイルに気をとられている機体は、それを回避出来ない。
「一機か。あとは、分断しないとね」
続けて、威嚇射撃を行い、敵機を誘導する。
「切り離すなら、今のうちだな」
ブラボー2、【ファング】の綺雲 菜織(あやくも・なおり)と有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)は引き離した敵機に向かって攻め込んでいく。
機体制御は美幸が行っている。
敵機の『動作の流れ』と『攻撃のリズム』を読み、それを乱すように自機を小刻みにふらす。
撹乱以上に、自分を狙いにくくするためだ。
菜織はトリガーを引き、ビームライフルで牽制を行う。
(菜織様、加速します)
射線を外したところで、一気に加速する。敵が対応出来るのは中距離のみ。間合いをとるために、移動せざるを得ない。
それによって敵機を分断し、ブラボー小隊で撃破するために動く。
分断されたのは三機。数の上では、こちらに分がある。
『ブラボー2から、ブラボー小隊各機へ。分断した敵機の陽動、撹乱を引き続き行う』
その役を引き受けることで、敵の注意を【ファング】に向けさせる。
しかし、敵は何もイコンだけではない。
(さすがに、地上からの砲撃は厄介だな)
イーグリットの機動力をもってすれば、長距離射程の攻撃をかわすのはそれほど難しいことではない。
が、要塞にも注意を向けなければいけないのはどうしても障害となる。
(ここからだと、まだビームキャノンが届かないですね)
砲撃を止めるにも、【アーラ】の射程圏外だ。
ただ、方法はある。敵機が射線に入っていれば、砲撃は行えない。そのため、ブラボー2への指示で、射線を通るようにあえて陽動してもらう。
「地上からの砲撃は厄介だが、距離がある分回避出来ないものではない」
祠堂 朱音(しどう・あかね)が装着しているジェラール・バリエ(じぇらーる・ばりえ)が言う。
陽動はあえて射線に入るように行われているが、おそらく敵は自分が射線に入る手前で止まるはずだ。
仕掛けるなら、その瞬間。
「朱音、行きますよ!」
シルフィーナ・ルクサーヌ(しぃるふぃーな・るくさーぬ)が機体を駆る。
ブラボー4、【フォーチュン】は敵機に向かって加速する。【ファング】に注意が向いている隙に。
「これで、どうだ!」
一気に間合いを詰め、ビームサーベルで斬りかかる。
まずは一機。
だが、地上からの砲撃がそのタイミングで放たれた。回避出来ないわけではないが、それに気をとられたことで、今度は自分に隙が出来る。
「――ッ!」
敵からの銃撃を、ビームシールドで何とか防ぐ。それを構えたまま、敵の射程から一旦離れる。
距離が近かったせいか、多少シールドにダメージがあるようだ。
「さすがに至近距離だと数発が限度みたいですね」
当然、コームラントのビームキャノンのような威力の高い攻撃を完全に防ぐのは難しいだろう。
再び体勢を立て直し、残りの二機の撃破にあたる。
【ファング】がそのうちの一機の気をそらし、その瞬間を見計らって、【ミッシング】がジェネレーター、関節部にアサルトライフルの実弾を撃ち込んでいく。
残りは一機。
だが、そう簡単にはいかなかった。
(菜織様、指揮官機が来ます!)
シュバルツ・フリーゲが一機、学院の他の小隊からの攻撃をかわしながら、ブラボー小隊の方へ向かってくる。
(リズムが、読めない!?)
敵の攻撃は不規則だった。
しかも、流れを逆に読まれてしまっている。
(思考を回せ、選択し続けろ)
美幸が頭の中で反復するも、やはり読めない。
すがるような瞳を菜織に向けた。
「こんなところでは死ねん! あの空をもう一度、美幸と翔ぶまでは」
迫り来る弾丸を、ビームサーベルで弾こうとする。
機体をひねり、半ば無理な体勢でなんとか弾き、さらに避けることに成功した。
「使い捨てなどにさせね! この子の未来は必ず輝かせる」
だから、負けられない。
彼女達にもその思いがある。
「墜とさせはしませんよ」
【アーラ】がシュバルツ・フリーゲに向かって、ミサイルを放つ。
その全てが一機に向かっているが、回避行動と機関銃だけで全部防いだ。
全体的に敵機は前の戦いよりも性能が落ちているらしいが、それを感じさせない実力を兼ね備えているようだ。
「強い、だけど……!」
【フォーチュン】が【アーラ】の援護を受け、接近する。
「ボク達は、負けられないんだ!」
ビームサーベルを引き抜く。
ミサイルの煙に紛れ、一気に斬撃を繰り出す。
それは、敵機の左腕を落とした。
だが、同時に至近距離から照準が向けられる。咄嗟に、シールドを構えるが、耐久力の限界を超えたようだ。
「シールドが……」
ビーム部分を支える基盤が砕けた。
が、敵も一旦退き、要塞付近の防衛ラインに戻る。
もう一機のシュメッターリングも、この間に移動したようだ。
『また戦う際は、連携を強化しましょう。今は、一般機を減らすことが先です』
冴璃が通信を行う。
少しでもこちらの数を維持したまま敵を減らさなければ、例え相手が疲弊していても勝つのは厳しいと思い知らされた。