リアクション
* * * 敵の五機編成に対し、学院が四機編成で挑むのは、かなり無謀であるように思われた。当初の予定通り奇襲を仕掛けられていたのならば、その限りではないが。 しかし、少なくとも途中までは敵が本来の実力を発揮出来ていないこともあり、実力ではまだ及ばない敵部隊と互角以上に戦いを繰り広げていた。 (理緒、一般機が分断された。今が好機だ) エコー4、神村 理緒(かみむら・りお)と不破 修夜(ふわ・しゅうや)の駆るイーグリットは前線に出た。 他小隊のイーグリットにも、前線で撹乱に出ている機体がいる。 機動力を生かしての行動ではあるが、ビームライフルの代わりに実弾式汎用機関銃を装備しているために、デフォルト装備のイーグリットよりはやや劣る。 (いくら相手の動きが鈍いとはいえ、編隊を維持していると厄介ね) さらに一般機同士も出来る限り孤立させる。 まとまっている敵機に向かって、機関銃を放つ。威嚇射撃だ。 それによって、相手の注意を引く。 (これで実質一体一にまで持ち込める。あとは……) 寺院戦イコンは接近戦に弱い。対し、理緒と修夜が得意としているのは近接戦だ。機体には、整備科所属である修夜がそのための調整を施している。 シュメッターリングが混戦の中で一機、孤立した。 (行くわよ!) 機関銃を掃射しながらの状態から旋回、敵の機関銃による銃撃をイーグリットの機動力でなんとかかわしつつ、ビームサーベルを構える。 間合いに入り込みさえすれば、こちらのものだ。 (負けられない!) 頭部バルカンによる足掻きを敵がするも、一度下降。 そこから一気に上昇し、そのままビームサーベルで敵機を斬り上げる。 敵の回避は、完全には間に合わなかった。 シュメッターリングの左脚がビームサーベルによって切断される。 「隙あり、よ!」 回避行動をとった直後、敵機に向かったのは、相沢 理恵(あいざわ・りえ)とフォックス・エイト(ふぉっくす・えいと)が搭乗するエコー3、【ユルグ】だ。 すぐに敵機は機関銃で応戦するも、【ユルグ】は不規則に飛んでいる。 「頼むよ、狐くん」 機体操作を理恵が行い、近距離に入るまでの射撃をフォックスが行う。ビームライフルによる銃撃の狙いは、武器だ。 機関銃と頭部バルカンしか武装のない敵イコンは、機関銃が失われれば実質的に丸腰となる。 「さすがに飛行中に正確に狙うのは難しいでござるな……」 まして、スピードの出ている機体からでは、正確に狙いをつけるのは容易なことではない。 それでも、敵機の間合いに入り、ビームサーベルを構える。 仮にこれを避けられたとしても、エコー4がすぐに攻撃を仕掛ける距離にいる。 【ユルグ】の斬撃が繰り出され、敵機の右腕――機関銃ごと切断した。 「よし、これで武器は使えない」 敵機からの頭部バルカンが繰り出されるが、その前に距離をとる。 ほとんど戦闘力を失ったに等しいが、あえて囮になってくる可能性も否めない。 「当たれ!」 直後、その機体に向かって光が押し寄せる。大型ビームキャノンによるものだ。 「命中じゃ。これで一機撃墜したぞ」 エコー1、【与一】の穂波 妙子(ほなみ・たえこ)と朱点童子 鬼姫(しゅてんどうじ・おにひめ)だ。 長距離射程で敵機、要塞を捉えられるギリギリのところから、狙撃体勢に入っている。 「前線は、イーグリットの連携で今のところ対処出来そうやね」 イコン同士の戦いは、問題ない。 だが、ここで厄介なのは要塞そのものだ。 「たた、あれをどうにかせんといかんようじゃな」 海上要塞の上部にある、主砲。 各所から出ている砲口でさえビームキャノンくらいの威力はあるだろう。それをどうにかしない限り、例え敵イコンを抑えていたとしても、地上部隊の侵入は絶望的だ。 「一発で壊すのは難しそうやな」 主砲は一度発射されると十秒間照射する。しかも、建造物である真下以外全方位が攻撃対象という、それ一台で十分防衛出来るのではないかというほどの性能だ。 威力も馬鹿にならず、当たったら装甲の厚いコームラントとはいえ、ひとたまりもない。 無論、それに耐えるだけの砲身であるため、並大抵の攻撃ではびくともしないだろう。しかし、一発で破壊する方法はある。 (せや!) 妙子がそれに気付いた。 「ふむ。じゃが、敵に気付かれぬようにせねばな」 彼女達の狙いは、あくまでも要塞の砲台。 だが、ビームキャノンの照準をそこに合わせれば、敵機が阻止しに【与一】へと向かって来るのは必至だ。 常に敵機の動きに気を配り、そのときを待つ。 「来るぞ!」 光が収束していく。 主砲の発射準備が整った。 「出力最大。射ぇ!!」 ビームキャノンの出力を最大にまで引き上げ、トリガーを引いた。 狙うのは主砲の砲口。 それだけ膨大なエネルギーが暴発したら、どうなるか。 ――ドン! と轟音が響き、激しい爆発が起こる。 その衝撃は大きく、内海に波を立たせるほどの衝撃となって伝わっていった。 敵部隊に動揺が走る。 「まだ終わりやないで!」 すぐにエネルギーの充填を行う。 その間、敵機から距離を取り、要塞の別の砲台を探す。 主砲を無力化したとて、まだ安心は出来ない。 『主砲』を落とした機体、としてここからはマークされることになる。 沈黙の後、戦場の空気は一変した。 それまでとは編成を変え、敵部隊が動いてくる。 (かおるん、敵さんくるよ!) (おう!) エコー2、大羽 薫(おおば・かおる)とリディア・カンター(りでぃあ・かんたー)が搭乗する【ブレイク】が、その機体を迎え撃つ。 向かってくるのは一機のシュメッターリングだ。 (単機で突っ込んでくる? ならば……) 機体を前傾にし、加速する。 ビームライフルで牽制を行いつつ、距離が縮まったところでビームサーベルに切り換える。 一閃するが、それは空を斬った。 (かおるん、あっち!) 機関銃の銃撃をリディアが察知し、即座に機体の向きを変える。 その勢いに合わせてビームサーベルを振り、二撃目を繰り出した。 「ち、速いな」 シュメッターリングにしてはやけに動きがいい。 「やっぱ、こっちは性に合わねーな」 敵機が機関銃を【ブレイク】に向かって投げつけてきた。 「――――!!」 咄嗟にそれをビームサーベルで破壊するが、 「ウラァ!!!」 急接近してきたシュメッターリングが実体剣で斬りかかってくる。機関銃に気をとられた瞬間に、一気に間合いを詰めてきたのだ。 頭部バルカンで牽制しつつ、後退する。 「剣? こいつは……行くぞリディア! 俺達の実力を見せてやろうぜ!」 前の戦いで、剣を装備している敵機は一機しかいなかった。 そして、今回も目の前の機体以外は機関銃で戦っている。 一般機でありながら、並の指揮官機以上の強さを誇るその機体のパイロットを、報告で聞いている――エヴァン・ロッテンマイヤーだ。 「面白え! このオレに剣で挑むか」 互いに刃をかざし、向かい合う。 機動力は【ブレイク】の方が上。先手必勝とばかりに、敵機へ飛び込む。 そのままシュメッターリングに対し向かって振り下ろそうとする。 「軌道が丸分かりだぜ」 シュメッターリングが、下ろされる瞬間に後退する。 が、実際にビームサーベルを【ブレイク】は振らなかった。フェイントだ。 「何ッ!」 「気合入れろ、俺たちの全部をあいつにぶつけるんだ!」 後退した直後、急加速する。 「がんばって、かおるん……! かおるんなら、できるよ!」 全身全霊の一撃を浴びせようとする。 「……なーんてな」 攻撃は敵機に当たらなかった。 軌道、間合いともに完璧だった。 「く……!」 イーグリットの手首が、ビームサーベルを握ったまま宙を舞っている。 『墜ちろ』 敵の剣が、機体の動力部を貫いた。 「クソ、脱出するぞ!」 二人は機体が爆ぜる前に脱出した。 そして、シュメッターリングはエコー小隊の他の機体――二機のイーグリットに狙いを定める。 「相沢殿!」 【ユルグ】とエヴァン機が向かい合う。 「ならば、こっちも!」 【ユルグ】は後退することなく、攻め行く。 最高速度を出し、さらに不規則に動くことで自分に狙いを定められないようにする。 敵の背後に回りこみ、ビームサーベルで斬りかかる。 「――――ッ!」 敵機は機体を反らしただけでそれを避ける。 レーダーで分かっていても、背後からの攻撃をかわすのは困難のはずだが、あっさりと避けられたことで虚をつかれる。 今度は敵機が腰を軸に回転し、【ユルグ】を袈裟切りにした。 「まだ、終わったわけじゃ……」 「相沢殿、ダメージが大きい。一旦離れるでござる」 だが、間に合わずに二撃目が来る。 それが致命傷となり、機体が大破した。 二人は間一髪のところで機体から出ることが出来た。 「ち、やっぱり思ったようにはいかねーか」 エヴァン機はすぐに、別の機体に狙いを定める。 「あの機体、指揮官機でもないのに、なんて動きなの……」 「イコンであそこまで自在に剣を振るうとはな」 理緒達は目を見開いた。 生身では、二人とも刀剣類の扱いに関しては心得がある。敵イコンの戦いぶりを見て、相手がどれほどの力量かを悟る。 もし、一般機、しかも単機だからと正面からぶつかっていったら、返り討ちに遭っていただろう。 「だけど……来る!」 敵機が真正面から向かってきた。 機関銃で弾幕を張るも、敵は一気に高度を上げ、射程圏外に出る。その体勢から、一気に急降下してきた。 イーグリットならば、そこからでも距離をとることは出来ただろう。だが、あえて待ち構える。 そして、間合いに入ったところで、一気に斬り上げた。 居合い斬りのような形だ。 実体剣ではビームで出来た刃を受け止めきることが出来ない……ように思われたが。 「柄の部分は、実体だろ?」 剣を突きだし、柄の部分から腕を突き刺してきた。 片腕を失い、頭部バルカンで牽制しつつ敵機から離脱する。 状況は、覆されつつあった。 |
||