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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

リアクション


(・VSダールトン中隊1)


「……悪くない戦い方だ」
 グエナ・ダールトンは戦況を冷静に分析していた。
 こちらは事前に今日のことを予測していたとはいえ、機体は万全ではない。
 特に、前衛のシュメッターリングは深刻だ。今の状態では、一対一でも天御柱学院の機体に敵わないかもしれない。
 相手もそれを見抜いているのだろう。前衛を切り崩しに動いている小隊が見受けられる。
「グっさん、そろそろ前衛を突破されます」
「分かっている、イレール」
 グエナは通信を行う。
 一つは、ダールトン中隊全体に。そしてもう一つは、
『エヴァン、ここからはお前の好きに動け。型にはまらない戦い方というものを教えてやろう』
『いいのか?』
『相手は「シュメッターリングなら倒せる」と思い込んでいる。動揺させるには十分だ』
『動揺させる? 全滅させちまってもかまわねーよな?』

* * *


 そのときまで、たしかに流れは天御柱学院に向いていた。
『デルタ1からデルタ小隊各機へ。まずは、指揮官機の周りの機体を引き剥がします』
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)六連 すばる(むづら・すばる)の駆るデルタ1、【メテオライト】から通信がデルタ小隊に伝わる。
 作戦通りに、指揮官を直接狙うのは前衛のイーグリットに任せ、【メテオライト】はシュメッターリングを引き寄せて、撃墜する。引き剥がしさえすれば、アルファ小隊、ブラボー小隊との連携で一般機の一掃を可能かもしれない。
 機関銃を構え、弾幕を張る。さらに、広範囲に散らすようにミサイルを発射する。
 牽制。
(さあおいで、チョウチョさん)
 前衛の機体は、後方からの援護射撃と牽制を危惧したのだろう。編隊を組んで【メテオライト】に向かう。
 射程を維持したまま後退し、敵機を誘い込む。
 その間に、デルタ2から4のイーグリットは後衛の指揮官機へ向かって加速していく。
(行くよ、兄さん!)
 先陣を切るのは、デルタ2、和泉 直哉(いずみ・なおや)和泉 結奈(いずみ・ゆいな)が搭乗する【スプリング】だ。
 ビームライフルを構え、敵機を牽制していく。
 速度を維持したまま、敵の攻撃をかわしつつ撹乱する。
(シュバルツ・フリーゲが出てきた。結奈、下降だ)
(うん!)
 指揮官機であるシュバルツ・フリーゲの一機が動いた。
 前の戦いでは小隊での連携をもって、何とか倒すことが出来たが、パイロットの技量の高さは身をもって味わっている。
 だが、果たしてそれだけだろうか。グエナの言葉を思い出すと、それだけではないような気がしてならない。
 シュバルツ・フリーゲに向かってビームライフルを放つ。しかし、相手はそれを軽快にかわしていく。
「必死で腕を磨いてきたんだ。行くよ!」
 デルタ3、葉月 エリィ(はづき・えりぃ)エレナ・フェンリル(えれな・ふぇんりる)が乗る【クリムゾン】は、二挺のビームライフルを構え、射撃を行う。
 片方は敵指揮官機を直接狙う。
 前の戦いより敵の回避性能が落ちているとはいえ、そこはさすがというべきか、頭部バルカンと機関銃でビームを弾き落としていく。
(これ以上の接近は危険ですわね)
 エレナが適度な距離を維持する。操縦する際に、彼女は黒檀の砂時計を二つ持ち込むことによって、周囲の時間の流れを遅く感じさせる。それによって、機体の操縦の際、敵への対応が早くなった。
 まだ、接近戦に持ち込むタイミングではなかった。
 むしろ、エリィにとっては二挺拳銃を生かせる距離の方が自分に合っている。そのまま戦い続けるのがベストだった。
(これが避けられるか……!?)
 シュバルツ・フリーゲを直接狙った後、もう片方を時間差で回避する方向へと発射する。しかし、それでもまだ敵機には当たらない。
(今です、行きますよ〜!)
 二機がビームライフルによって攻撃をしているとき、玉風 やませ(たまかぜ・やませ)東風谷 白虎(こちや・びゃっこ)の駆るデルタ4、【バンシー】はシュバルツ・フリーゲに突撃していく。
 ビームシールドを前方へ出して構え、ビームライフルを撃つ。
 イーグリットの機動力と相まって、敵は簡単に狙いを定められないようだ。数機のシュメッタールリングを突破し、そのまま目標の指揮官機を捉える。
(やませ、ビームサーベルに換えるぞ!)
 攻撃操作を担う白虎が、ビームサーベルを引き抜く。
 【バンシー】はシールドによって、敵の銃撃を防いでいる。耐久力の関係で依存し続けるわけにはいかないが、敵機にとって相性の悪い接近戦に持ち込めれば、さして問題にはならない。
 やませは超感覚によって五感を研ぎ澄ませ、各種センサーからの反応を敏感に察知する。特に、音に関しては重要だ。
 カメラで戦況が見えても、コックピットで感じる距離感と実際の距離感は違う。そのために、射撃音や機体のブースターの音でそれらを判別することも必要とされるのだ。
 敵機が動いた。
 機体を急上昇させ、間合いをとるつもりだ。頭部バルカンで【バンシー】を牽制した後、機関銃を放とうとする。狙いはシールドだ。
「させないよ!」
 その瞬間に、【クリムゾン】が指揮官機にビームを撃ち込む。
 即座に回避を行うが、急上昇したことによって、格好の的となってしまっていた。
 二挺のライフルによって、退路を断った。
(これで、終わりです!)
 最高速度で【バンシー】は上昇する。
 もし、相手が万全だったらここからでも機転を利かせられただろう。だが、行き場を失った敵は、正面から【バンシー】を相手にせねばならなかった。
 最後の足掻きと、至近距離から機関銃を放とうとして銃口を【バンシー】に向けるが遅かった。
 一閃。
 敵は機関銃を盾にするが、それでビームサーベルの斬撃を止めることは出来なかった。
 右腕を落とし、続けざまに刃――光条を返し、敵機の胴体を裂く。
(これで、まずは一機だぜ)
 すぐに【バンシー】は敵機から離れる。直後、相手の機体は爆発した。
「ハエが一匹墜ちましたか」
 後衛の【メテオライト】がそれを確認する。
(マスター、敵が動揺しました)
(では、一掃しましょう)
 その爆発に、一部のシュメッターリングが動きを止めた。ほんの一瞬に過ぎなかったが、アルテッツァはそれを見逃さなかった。
 直後、高出力で放たれたビームキャノンによる砲撃が、敵機を飲み込んだ。
(二機ですか)
 直撃は二機、あとは数機をかすめた。
 すぐに距離をとり、次弾のためにエネルギーをチャージする。

『うろたえるな!』

 その通信の声は、学院の生徒には聞こえない。だが、空気が変化したのを学院の生徒達は感じとった。
『状況は把握した。ダールトン中隊所属の各小隊長は、シュメッターのフォローに入れ。無理に墜とす必要はない。要塞から遠ざけることを目標にせよ』
 
 それまで後衛に控えていたシュバルツ・フリーゲが散った。
 要塞付近に留まり続けているのは二機だ。他は、学院の各小隊との交戦に入る。
(この感じ、あのときに似ている……)
 直哉は、タンカー護衛戦を思い出した。
 あのときも、指揮官が動いた瞬間に、状況が一変したのではなかったか。
(エリィちゃん、あの二機からはただならぬ気配を感じますわ)
 殺気看破によって、一瞬刺すようなものをその二機の方から感じた。
『デルタ3から各機へ。あれがおそらく今回の「真の」指揮官ですわよ』
 警戒を強くし、その機体との交戦に入る。
 イーグリットが連携して、その機体に向かっていく。その過程で、直哉はこの敵に通信を入れた。
『お前達は何のために戦っているんだ?』
 表向き、敵は「シャンバラを脅かす地球文明の排除」を謳っている。
『それは、組織としての目的か? それとも、俺達個々が抱える理由か?』
 思わぬ返答がきた。
 敵の機関銃が火を噴く。
『……両方だ』
 【スプリング】がビームライフルの引鉄を引く。
『組織としての目的は、「シャンバラの解放」だ。先進国の植民地――今は傀儡国家と化したシャンバラを救う』
 敵機が旋回し、【クリムゾン】の二挺拳銃射撃を軽快に避ける。
『だが、俺はそんなことに興味はない。それでもお前達と対峙するのは――守るためだ』
 機体がイーグリット三機の死角に入った。
『守る? 何をだ!?』
『俺達は所詮、上から見たら使い捨ての道具に過ぎない。だが、それでも確固たる意志を持って戦っている。なぜだか分かるか?』
 【バンシー】がシールドを構え、急接近を試みる。
『俺達自身、自分を駒だとは思っていないからだ。組織のためではない。俺達自信が目指すもののために、ここを居場所に選んだに過ぎない』
 グエナの機体は【バンシー】がビームサーベルに切り換えた瞬間に、急下降した。
『学院という箱庭にいるお前達は、世界をどれほど知っている? 豊かさの中で生きてきたお前達は、今もなお地上でどれほどの人間が貧しさにあえぎ、虐げられ、苦しんでいるか知っているか? そういった者達に手を差し伸べることなく、新天地を真っ先に独占、支配した。それが、今シャンバラに学園を設立した国々だ』
 グエナの声は淡々と事実だけを語っているようだった。こちらを責めるわけではない。
『質問を返そう。お前達は何のために戦っている?』
 急下降から急旋回し、機関銃の弾をばら撒く。
 否、その銃弾は的確に三機のイーグリットの武器に撃ち込まれていた。
『「豊かさの中で育った」? 勝手に決め付けんなよ』
 ライフルにダメージを負い、【バンシー】と挟み込む形で【スプリング】がビームサーベルを構えて突撃する。
『俺だって、今の居場所を、仲間をやっと見つけたんだ。俺はそれを――絶対に守る!』
 守るべきもののために、立場の異なる者同士がぶつかり合う。
(兄さん、今です!)
 結奈が機体をわずかに傾け、加速を生かしてさらに勢いをつける。
 それに合わせて、直哉がビームサーベルでグエナに斬りかかる。
 仲間のため、そして兄と一緒にいるため。
『……いい答えだ。だが――』
 斬撃を上体を反らすだけでかわす。それによって【スプリング】が大きく体勢を崩す。
 その瞬間【バンシー】が斬りかかるものの、
『まだ詰めが甘い』
 至近距離から機関銃を放ち、その反動を生かして【バンシー】の一撃を避ける。
 機体を大きく動かすほどの反動ではないはずだが、グエナは機体の動力を一時的に極限まで落とすことによって反動を有効にしたのだろう。
 バランスを崩した【スプリング】の関節や駆動部に的確に銃弾を撃ち込み、続いて【バンシー】を即座に狙う。
(コントロールが……)
 【スプリング】は制御を失い、海面に向かって墜ちていく。
 激突する前に、二人は脱出した。
(まだ、ですよ〜……!)
 ビームシールドを前に出すが、至近距離からの集中砲火で左腕部ごと吹き飛ばされる。続けざまにビームライフルを柄の部分を撃ち抜かれることで、失ってしまう。
 しかも、それによってマニピュレーターがいかれたらしく、ビームライフルを持てなくなってしまった。
(エレナ、こうなったら最終手段だ)
 【クリムゾン】がグエナ機に突っ込んでいく。
 二つの黒壇の砂時計を見ると、砂は落ちきっていた。それを反転させることで、外の世界が遅く見えるようになる。
 相手が攻撃動作に移る瞬間も鮮明になる……はずだった。
(このくらいなら)
 被弾するものの、致命傷はなんとか避けた。そして、すれ違いざまにビームサーベルで斬りかかる。
「――ッ!!」
 上昇することで、敵はそれをかわす。
「もらった!」
 それを投げつけ、即座に二挺のライフルを構える。
『遅い!』
 その行動自体が読まれており、ビームサーベルを弾いた後、続けざまに銃口へと機関銃の弾丸を撃ち込んできた。
 武器を失い、離脱せざるをえなくなる。
『!?』
 だが、そのときグエナ機が被弾した。
『ほう……面白い』
 見ると、【バンシー】がライフルを構えていた。
 コックピットを半開きにし、白虎とやませがサイコキネシスを用いてライフルを握らせ、トリガーを強引に引かせたのだ。
 絶対に仕留めるという執念の賜物だ。
『だが、そこまでだ』
 超能力を機体に干渉させるためには、機体の外に身体を出せる状況が必要だ。
 だが、この小隊戦でずっとその状態を維持は出来ない。
 指揮官機の機関銃の銃撃で、【バンシー】は制御を失うほどのダメージを受ける。
 機体は撃墜され、パイロットの二人は脱出した。
『悪いが、こちらも負けられない』