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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

リアクション


間奏曲 〜夜鳴き鶯〜


(・アクセス権)


 朝野 未沙(あさの・みさ)は根回しを行い、蒼空学園校長、山葉 涼司(やまは・りょうじ)とPASDの司城 征の二名と面会を果たした。
 空京大学の学長、アクリトも呼ぼうとしたがそこまでは叶わなかった。
「イコン製造プラントについてだったよな?」
 涼司が未沙に尋ねる。
「そう。あたしから提案したいのは二つ。プラントのアクセス権についてと、ツァンダへのイコン製造プラント、コピー計画についてよ」
 未沙が説明を始めた。
「プラントの内部調査をするのに、アクセス権があった方が何かと動き易いと思うから、あたし達にもアクセス権を分配して貰えないかな? レベル3で譲渡が行えるか分からないけど、試してみる価値はあるよね?」
 現在、アクセス権を正式に所持している者は三名。うち二名は西シャンバラのロイヤルガードだ。
「もちろん、希望者全員にアクセス権を渡すわけにはいかないと思うから、西側の校長さん達が話し合って認めた人にアクセス権の許可を出す形でいいと思う」
 そしてもう一つ。
「ツァンダへのイコン製造プラント建設については、西シャンバラで一校だけ離れた位置にある蒼空学園の郊外に、プラントの調査結果を活用して、イコン製造ラインのコピーを造りたいと思うの。
 もちろん、蒼空学園が共同で使える施設として、だよ。ツァンダ郊外にはアサノファクトリーもあるし、建設されることになったらあたし達が全面的に協力することを約束するよ」
 未沙の提案に、涼司と司城が目を合わせた。
「だけど蒼空学園の管理にしてしまうと、東シャンバラを刺激することになると思うから、PASDが管理する中立組織って体裁にすれば大丈夫だと思うの」
 現シャンバラにおける公的な中立組織なら、変に東側を煽る心配もない。そう未沙は考えているようだ。
「面白い提案だね。だけど……キミは状況をほとんど理解していない」
 司城が静かに声を発した。
「PASDには西シャンバラ政府から、プラントの調査協力依頼が来ている。確保はしたけど調査は行き届いてないからね。それに、プラントを管理するとはいうけど、あの施設には『管理者』がいる。彼女が承認しない限り、アクセス権を得ることはおそらく不可能だよ」
 マザーシステム、ナイチンゲール。それがプラントの管理者だ。
「あのプラントを元に、シャンバラの各地に製造プラントが建設されていくことにはなると思う。その際に管理体制については校長達が協議するはずだよ」
「イコンについては、ほとんど天御柱学院任せっていう問題もあるけどな。とにかく、この提案についての答えをこの場で出すことは出来ない」
 彼女の提案は、事実上却下された。
「とにかく、プラントの調査は何回かに分けて行うと思うから、参加するといい。あと、あのプラントは『彼女』がシステムにプロテクトをかけていただけだから、今は完全に稼動しているはずだよ」
 内部図面も、細かいところ以外はPASDのデータベースにある、ということも教えてもらった。
 二人とも多忙な身で時間はあまりない。話はそこで終わりだった。

「姉さん、どうでしたぁ?」
 朝野 未那(あさの・みな)が、面会を終えた未沙に聞く。
「アクセス権は無理みたい」
 わずかに落ち込む未沙。
「だけど、プラントの調査には行っても構わないって」
 そして彼女は改めてプラントに関する基礎情報を閲覧する。
 電力は復旧しており、ナイチンゲールが全てのシステムを管理していることを改めて知る。
「機器類は壊れていたわけじゃなかったの?」
 朝野 未羅(あさの・みら)が首をかしげた。
 機器類が故障しているから、プラントの工場部が動いていないのだと思っていたのだろう。
 二人はプラントに入ったときに備えて準備を進めていた。
 工具類や補習、圧着道具や測定機器をだ。
 だが、おそらくそれらをわざわざ使う必要はなくて済みそうだ。
「イコンの武装については提案してくれた?」
 ティナ・ホフマン(てぃな・ほふまん)が未沙に問う。
 彼女の考えは、各武装に互換性を持たせ、規格化を図った方がいいというものだ。さらに、基本武装を取り外し可能にするということも。
 だが、こんなことは実際問題として提案するまでもないことだった。
「とても聞いていられる状況じゃなかったよ」
 司城がホワイトスノー博士と知り合いであることは、PASDを通じて知っている。だが、司城に提案したところで、それは博士に聞けと言われただけだろう。
 それに、意味もなく武装を分けているわけでないこともティナには理解出来ていないようだ。
 デフォルト状態の装備はそれぞれの機体の長所を生かすためのものであり、現在は互換性のある武装と機体専用のものが存在する。
 天学のパイロットは訓練を積み、それぞれ武装の取捨選択は行っている。基本的にイコンについては他校生はまったく知る術はないため、彼女がそう考えるのも無理はない。
 未沙を始め、イコンや機械について興味を抱いているがゆえの行動だが、それらは全て裏目に出てしまう。
 彼女達には情報が足りなすぎたのだ。