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リアクション
(・BMI)
(この前の映像は、と)
ナギサは博士の残したデータを参照する前に、自分なりに青いイコンとの交戦記録を見直そうとしていた。
博士のデータの中にも、まだ青いイコンの情報は少ないだろう。とはいえ、それをヒントに自分達で仮説立てることは可能かもしれない。
あの理不尽な力の秘密を、彼もまた知りたいのだ。
(イコンの真の力は神に等しいものとして、それを行使するパイロットには何が欠けているのだろうか)
天御柱学院のイコンの性能は、この数ヶ月で飛躍した。それでもなお、単なる兵器の範疇に収まったままだ。
(僕だって結局は人間なのだから、神様にはなれない。その上で神に等しく……イコンと一つになる?)
イコンとの一体化。それが真の力を引き出すために必要なのかもしれない。
一体化というのが比喩なのか、それとも文字通り機体と身体が融合するのかまでは想像がつかない。
ならばイメージだ。
ソートグラフィーを用いて、自身のイメージを投影する。
「機体と一体になる……たしかに、それなら自分の持つ力――超能力を反映させることが出来るわね」
ナギサ作成している考察ファイルを眺めながら、静留が呟く。
「あとは、なぜ二人でなければならないのか、ね。地球人とパラミタ人の二つの性質が揃わなければ機体の性能が格段に落ちる。人工的に造られた強化人間でもイコンの『機械的な性能』は引き出せているわ。だけど、真の力を引き出すのは、人工的に造られた存在では出来ないのかもしれない」
真の力を引き出せないのは、それもあるのかもしれない。
現行イコンのパイロット――地球人のパートナーの多くは強化人間だ。敵も多くが強化人間と契約することでパイロットになっていることが確認されている。
しかし、そうなると青いイコンはどう説明すればいいのか。
ソートグラフィーによって投影されたものを見ても、まだ分からない。機体と一体になる――イコンシミュレーターは意識を仮想空間に転移させるということを考えると、機械と繋がっていると考えている。
自身の感覚が完全にイコンとシンクロしている。そのイメージは「実際にそうならなければ」やはり掴みきれないようだ。
「これでよし、と。ファイルを開くわよ」
茉莉がパスワードを入力し、ホワイトスノー博士専用のデータベースにアクセスした。それにより、室内のコンピューター全てで、一時的に情報を閲覧出来るようになる。
「あの青い機体の情報はあるのだろうか?」
レオナルドがそれらの情報を確かめようと、モニターを覗き込む。
本来ならば、博士に直接聞くつもりだったが、出来ない以上は彼女のデータに頼らざるをえない。
データは存在した。
ただ、彼女の考察があるくらいで、完全な解析は完了していないようだった。
「ブレイン・マシン・インターフェイス?」
見慣れない単語がそこには存在していた。
「博士のデータを見た限りでは、これでもまだイコンの真の力ではないみたいですね」
アクセスキーが持ち込まれる前からこの場で調べていた真琴達も、そのデータを参照にして考察する。
「仮説にある『ブレイン・マシン・インターフェイス』が、この攻撃方法に関わってるみたいだね」
それらを調べようとしているとき、一人の男が室内に入ってきた。
「調子はどうかな?」
ドクトルだ。
「あの、ここにあるブレイン・マシン・インターフェイスというのは何のことですか?」
博士のデータなだけあって、注釈はない。自分で調べることも出来るが、まずは「脳科学」の専門家であるらしいドクトルに尋ねてみる。
「脳波を解析して機械との間で、電気信号の形で情報をやり取りするための機械装置、あるいはシステムのことだよ。思考だけで機械を自在に動かし、機械が得た情報を即座に自分のものとする」
つまり、
「生物が機械と一体化する技術、それがBMI――ブレイン・マシン・インターフェイスだよ」
ということである。
「思考によって機械を自在に動かせること、これをサロゲート・エイコーンに適用出来た場合、文字通りイコンが自分の身体同然になる。『人型』だからね。かれこれ三十年近く前から研究されている技術で、ロシア軍では無人戦闘機を人間の思考で遠隔操作出来るところまで開発が進んでいるとも言われている」
「では、この青いイコンはその技術によるものかもしれない、ということですか?」
「大佐はそう考えているらしい。実際、大佐と私、そして風間君の三人でこの学院のイコンを一機使って、そのシステムを導入した試作機を造った。
脳と超能力の関係もあって、念動力を外部へ出力する――サイコキネシスを機体に搭乗した状態で使えるようにするくらいは、そう難しいことではなかったよ」
だが、そうすると疑問が起こる。
「なぜ、その技術を天御柱学院は使わないのですか?」
「情報のやり取りによる負荷が大き過ぎて、脳に多大なダメージを与えてしまうんだよ。超能力開発を受け、脳が常人よりも発達した契約者や強化人間でも、このシステム下では数十秒しかもたない。適性がある者でも、一分が限界だった。風間君はそれでも強行しようとしたが、そのときのパイロットは脳が破壊され……亡くなったよ」
隠蔽されたため、学院内では上層部以外は知らないらしい。
「そうでなくとも、このシステムのテストに参加した者は皆精神が崩壊しかけたり、記憶喪失に陥ったりという結果になっている。仮に敵がこの技術を使っていたとしても、同じような状況になっているはずだよ」
そこまで話し、ドクトルは「じゃあそろそろ戻るから」と、部屋を出ていった。
「今のドクトルの話が本当だとすると、敵がなぜ偵察部隊の生き残りを追わなかったのか、分かるよ」
クリスチーナが言った。
「それでも……青い機体のパイロットが尋常ではない精神力を持っているのは確実でしょう。ですが、これであの敵が万能ではないことは分かりました」
あの規格外の力も、必要以上に使うことは出来ない。
それだけでも、敵への対抗策を練る上では大きな収穫だ。
* * *
「残念だったね、天ちゃん。あの年増女について行けなくて」
天泣をあざ笑うかのような笑みを、ラヴィーナが浮かべていた。
必死の思いも空しく突っぱねられたことを悔しく感じたが、博士のアクセスキーを同じように同行を申し出ていた者が預かったこともあり、彼もこの海京分所に来ている。
(あの二人は、本当に何者なのか……まだ多くの秘密がありそうな気がする)
ホワイトスノーがミステリアスな雰囲気を醸し出しているのは肌で感じていたが、彼女の補佐をしているモロゾフにしても、気弱な青年に見えるがその実体は分からない。
謎と興味は深まる一方だ。
「このファイルは……」
天学、寺院関連のイコン資料とは別のファイルを彼は見つけた。
『2012 機械仕掛けの神』
神、という単語に反応し、天泣はそのファイルを開く。
しかし、文字化けしていて文章は読めない。
(これは――イコン?)
そうとしか形容出来ないものの解析図面がその中にあった。
さらに、超能力を使っている最中と思しき子供の姿も。
(最終更新は2012年。あの人は、何かを隠している?)
強化人間、イコンの導入はここ三年以内の出来事だ。
それよりもさらに五年遡った時点で、既にイコンや超能力を知る者がいた。
もっとイコンを知りたい、だがこれ以上は踏み込んではいけないという思いも混在する。
彼はさらに悩んだ。
しかし、一番大きい問題は――ホワイトスノー博士が敵側につかないかだ。
今は天学に協力しているし、彼女がイコンを短期間で発展させたのは紛れもない事実である。
しかし、科学者が自分の研究欲に動かされるものだということを、彼は知っている。
青いイコンを完全に解明するために、敵側につこうというのなら、頑なに同行を拒否したのも頷けるのだ。
今はただ、博士が無事に帰って来ることを祈るしかない。
イコンの謎を確かめるためにも――
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