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それを弱さと名付けた(第2回/全3回)

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それを弱さと名付けた(第2回/全3回)

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chapter.12 失踪事件調査(3)・奔流 


「ビデオカメラを持ってきておいて正解でしたわ」
 無言で向かってくるアンデッドたちに、ローザがカメラを向けながら言う。後々情報を交換する際に役立つだろうと準備してきたアイテムであった。
 短時間だが録画を終えたローザは、素早く戦闘態勢へと切り替える。その近くではユリウスが、持っている槍をいつでも投擲できるようスタンバイしている。
 その間にも、彼らとアンデッドの距離は縮まるばかりだ。一輝はコレットを守るように中間に立ち、海豹仮面は自分の体が傷つくのを覚悟で前線に立っている。
 アンデッドのうち一匹の手がにゅるりと海豹仮面の懐に伸びる。それをかいくぐった彼は、牽制を兼ねて手持ちの武器で威嚇をするが、目の焦点すらろくに定まっていない目の前の敵に威嚇は通じなかった。
 いつの間にか彼らを囲むようにアンデッドたちは周囲を塞ぎ、数的にはそこまで差はないものの陣形上で圧倒的不利な立場に立たされてしまう。それもそのはず、彼らは防戦一方で、彼らの攻撃に対し反撃を見せていなかったのだ。その理由はもちろん、一同が抱いた懸念にあった。
 なぜアンデッドが、蒼空学園の制服を着ていたのか。その引っかかりが拭えずにいたのだ。
 が、思わぬ一言が、この状況を打破した。それは、間近でアンデッドを突然視界に入れ気を失いかけていた光が発した言葉だった。
「……あれ? でも、失踪者って女生徒だけだったんだよね……っていうことは……」
 改めてアンデッドの制服を見る。それらは揃って、男子生徒のものだった。その一言で彼らは、思わず声を揃えて反応する。
「なんて勘違いしてたんだろうな、まったく」
「もうこれで、遠慮なく反撃できますなあ」
 一輝と海豹仮面が体制を変え、攻めへと転じる。それを後押しするかのように、アンデッドの囲いの外側から援軍が駆けつけた。
「今度こそ、てめえらかああぁっ!?」
 大音量で砂埃を巻き上げながら、周がレミを引き連れて現れる。そこから放たれるオーラは、既に臨戦態勢である。
「噂通り人外だったか。おいてめえら、まさか女の子を泣かせたりしてねぇだろうな?」
 視線だけは周の方へと向けられたものの、当然彼の言葉に対する返事はなかった。それでも周は構わず、距離を詰めながら威勢良く声を上げる。
「女の子はなぁ、笑ってんのが一番可愛いんだ! それを奪うような真似は許さねぇ!! レミ、止めんなよ!」
「珍しく……はこの場合余計かな。大丈夫、そういう周くんは止めないよ」
 その会話が合図であるかのように、周とレミは互いの武器を活かしアンデッドに攻撃をしかける。
 周が大剣を振り回せば、かき乱れたアンデッドの陣形にレミが凍てつく炎を放つ。丁度周が剣を振り下ろす直後のタイミングで放たれたそれは、陣形を崩しつつ周を攻撃直後の隙から守る役割も果たしていた。
「そっちはどうだっ?」
 周が一輝や海豹仮面、光たちの方を見て言う。元々アンデッドの数がそこまで多くなかったことも手伝ってか、劣勢はあっさりと覆っていた。
「こっちも問題ない」
 時間にして10分、いや、もっと短い間だろうか。学内での警備組とアンデッドとの戦いはアンデッドたちが軒並み地に伏し、足をロープで縛られたことで幕を閉じた。
「これで……あとは行方不明者の居所を掴めば失踪事件は解決、か?」
 誰からともなくそんな声が上がった。確証はないが、実際に犯人を捕まえたという事実が彼らに安心感を与える。
「しかし、現行犯でしっかりと捕まえることが出来て良かったですなあ」
 海豹仮面が言うと、一輝がそれに答えた。
「生前の姿を勘違いして一瞬危うかったがな」
 その言葉を聞き、その場にいた者たちは思う。
 確かに、今回に限って言えば捕えたアンデッドたちは何ら学園と関係のないものだろう。
 しかし、もし仮に、蒼空学園の生徒だった者がアンデッドとして目の前に現れたら?
 彼らは内から沸き上がるその疑問に、答えることが出来なかった。そして、束の間の安堵を攫っていくように、事態は目まぐるしく変わっていくのだ。

「ん? 誰かこっちに……」
 一同がふと校門のところを見ると、人影がひとつ、彼らの方へと向かってくるのが見えた。その歩き方から、だいぶ疲弊した様子であることが窺える。影は段々と近づくと、その輪郭を露にした。
 それは、地下に幽閉されていたつかさの指示で抜け出してきた、魔鎧のバイアセートであった。
「はぁ……はぁ……やっと、ここまで来れたか」
 息を切らしながら、バイアセートが言う。次にその口から出たセリフは、後悔だった。
「ちっ……最悪は免れたが、見つからないよう抜け出してくるので精一杯だったか……」
「おい、何があった!?」
 その只ならぬ雰囲気を察し、生徒たちが駆け寄る。するとバイアセートは、最後の力を振り絞るようにして言った。
「よく聞いとけ、俺は捕まった契約者に寄生してた魔鎧だ。契約者が誘拐されて、地下室に閉じ込められてしまったからかろうじて俺だけそこから抜け出してきた」
 それは、本当なら契約者共々解放して帰還したかったが、という含みを感じられた。
「他にも何人か捕まってるヤツらがいるが、石化されてて動けない」
「じゃあ、そこに行けば失踪者が見つかるんだな!? 場所は?」
「場所は、ここから南下していったところにある、『ベル』って洋服屋の地下だ。ただ、気をつけろ」
 次第に、バイアセートの言葉が途切れ途切れになっていく。おそらく抜け出す際に過度に神経を消耗したこと、そして急ぐあまりに短い時間で地下から学園までの距離を移動したことでその気力が限界に来たのだろう。
「ベル? ベルって確か、タガザがよく目撃されるって噂の店じゃ……」
 既にタウン内でまとめられた情報を手にしていた彼らは、その名前を出す。それを初めて聞いたバイアセートは、驚くでもなく、ただなるほどと言った顔だけを浮かべていた。そして倒れる寸前、こう告げた。
「もしかしたら、あの店はタガザがよく目撃される御用達の店なんかじゃなく、むしろ……」
 そこから先の言葉を紡ぎ出すことなく、バイアセートは目を閉じ気を失った。
 息を合わせたように、その場にいた生徒たちが互いの顔を見合わせる。それは、この失踪事件にはまだ解けていない謎があるのだと確認し合っているように見えた。