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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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 ミロクシャ西、廃都群で膠着状態の続く中、クレセントベースから移動してきた香取 翔子(かとり・しょうこ)率いる【ノイエ・シュテルン】が、ミロクシャ東岸に到着。上陸を開始した。その数は、千二百。
 香取はこの上陸に先駆け、白 玉兎(はく・ぎょくと)に先行偵察を命じた。白玉兎は、各十名前後の偵察班二個を率い、コンロンの月に紛れて密かに上陸。海岸一帯の地形や防備を探ったところ、艦を付けられる場所があり、また、敵の本拠地から離れたところだと全く防備のない箇所も幾つか見られた。「最初の出だしから躓いたんじゃあ、ショーコも困るだろうなー。しゃーない、ちゃんと偵察してから帰るとするかー」。念の為、白玉兎は近郊近くにまで隊を進めてみたが、警備の数自体もさほど多くはないようであった。
「ご苦労だわ。よし、作戦通り、後方での指揮は私が執る。水原ゆかりは実働部隊を率い、ツェーリンク、ブッセ、相沢の三人に各50の歩兵、ケラーに装甲偵察小隊……」名を呼ばれたノイエ・シュテルンの隊員らが敬礼姿勢を取る。「そしてクロッシュナーには、イコン」
「フ……」
 イコンに搭乗することになるマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)は、いつもと変わらぬ冷静さだ。イコンは鋼竜『トーテンコップ』。歩兵隊の内、相沢 洋(あいざわ・ひろし)指揮下の隊と編隊を組む。上陸後、作戦のため、近郊までの廃墟の一角に隠してある。
 また、この段階で、ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)は西の廃都群に布陣する教導団部隊と共同で作戦を取るべく、自ら移動を開始した。「畜生……戦いてぇなァ……こんなことなら精神感応なんて覚えるんじゃなかったか?」
 到着後は精神感応でこちらの味方と連絡を取るため、パートナーの神矢 美悠(かみや・みゆう)を、また、アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)天津 麻衣(あまつ・まい)らも本隊の警護に、残す。
「じゃあな行ってくるぜ」
 ザルーガは本当はついていきたかったのだが、あまりにも危険な任務である上に、却って足手まといになってしまうかもしれぬと泣く泣く断念した。
「アンゲロよ。とくにしっかりと香取のことを守れよ」
「あら、ケーニッヒ。私を心配してくれるのね?」
「いや、別に……? 指揮官だし当然だろ。暗殺でもされちゃ困る。まあ、心配ないだろうが」
「あっ、そう」
「ウォォォォ、兄貴。オレは兄貴が心配だヨォ、兄貴についていきたいウォォン」
「(ついていけばいいのに……)」
 香取は冷たい目で見送ったが、ケーニッヒはザルーガと涙の誓いをして暗闇へと去っていった。
「では、私たちはこれから本拠を落とすわよ。ツェーリンクは、ミカヅキジマとの線が断たれないよう、後方を頼むわ」
「はっ。内海の西半分では、龍騎士の脅威は減少したとは言え、なくなった訳ではありません。幽霊船などにも警戒が必要でしょう。万一の事態に備えての見張りと戦闘準備を欠かす訳には参りませんよ」
 隊の中では地味な任務であるが、彼、オットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)は一つの不平を感じることもなく粛々と任に就いた。ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)がその補佐に着任、荒れ果てた港の埠頭へ真っ先に向かわされはしけや桟橋の復旧に取りかかった。しかしそこへ……
「むむ? 何か来るようです……香取殿にお知らせせねば!」
 だが、ヘンリッタが香取のもとへ向かう前に、本隊はすぐにその事態を知ることとなる。
「な、何……龍騎士団!?」
 本拠へ進軍する香取らのちょうど頭上を、飛龍の群れが飛んでいく。紛れもない帝国の龍騎士団だ。数はざっと二百といったところか。だが、厄介な相手だ。そして勿論相手も、千はいるこちらの部隊に気付く。
「こんなところに教導団の大部隊だと?」
「くっ。水原ゆかり隊はこのまま、本拠を奇襲へ!」香取は、直ちに指揮を執る。「クロッシュナーと相沢は龍騎士団を迎撃にあたってくれる?」
「任せて」
 水原は、電光石火の勢いで市街地になだれ込む。
「たとえ、相討ちになろうとも、あの龍騎士は、ここで必ず仕留めてみせる!」
 マーゼンはそう意を決した。
「クロッシュナー、行って。ここは、私たちが……」アム・ブランド(あむ・ぶらんど)が言う。マーゼンは、イコンのもとへと走った。共に搭乗する早見 涼子(はやみ・りょうこ)がマーゼンに続く。アムはそれを見送った。「クロッシュナー……。私が本当は傍にいたいのに……」
「案ずるな。兵力、武器の差が勝敗を決するのは戦略シュミレーションゲームの中だけだ」相沢は兵に指示を下しつつ言う。「いや、ゲームの中ですら戦い方で決まる。教導団の誇りを持って戦うのみだ。みと、今回は自由にやってよし! 撃ちまくれ!」
 相沢の歩兵隊は、早速、龍騎士相手に対空戦闘を挑んだ。部隊には配備できる中でも可能な限り強力かつ弾幕の張れる銃器を個々に持たせてある。
「イコン戦闘随伴歩兵ですか? はあ、その内、強化型パワードスーツとしてアマードトルーパーとか採用でしょうか? 技術的には既にパワードスーツ配備から時間経っていますし、イコン関連技術で蓄積されたものがフィードバックしてもおかしくないと思いますが」乃木坂 みと(のぎさか・みと)は、装備しているパワードスーツの旧型化に不満をこぼしながら、相沢と共に出撃する。「命令了解です。まあ、行くしかないですけどね」命中率の高いサンダーブラストで、龍騎士と戦う。
「ええい。近づきすぎず、高度を保って応戦せよ。機が訪れれば一気に殲滅するぞ!」
 龍騎士は機を窺うが、相沢の指揮の手腕は鮮やかで士気は高かった。しかし、じりじりと後退してはいるのだが……
「退け! 対空弾幕を絶やさず、相互に後退だ!」
 相沢は、十分に相手勢を引き付けた。
 すでに、マーゼンの射程範囲内だ。
「クロッシュナー……!」
 イコンのところでは、本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)がイコンが見つからぬようカモフラージュして待っていた。ニンジャとして培った技術と経験の全てを投じて。「この機を逃したら、次に好機がやってくるのはいつになるかわからないわ。何としてでも、作戦を成功させなければ! ……ああ、クロッシュナー!」
 マーゼンが来た。涼子がイコンの操縦を行う。機内におけるマーゼンの役目は、火器官制システムの操作。
「あとは相沢が上手く敵を引き付けてこれば……むう」
 イコンに搭乗したマーゼンの視界に、空に舞う龍騎士の姿が見えてくる。
「フフ……」マーゼンは冷徹に笑った。
 相沢が囮役として引き寄せてくれた龍騎士団に、マーゼンの鋼竜は姿を現すや集中砲火を浴びせかけた。
「あっ」「あれは……!」「た、隊長……」
 突然のイコンの出現に驚く間もなく多くの龍騎兵が消し飛んだ。
「フフ、ハハハハァ。相沢、よく敵の高度を下げておいてくれた。フン……空中飛行型のイコンでなくとも、戦術次第なのだよ」
 マーゼンは自信を秘めた笑みを浮かべ、涼子に操作の指示を任せた。イコンが動き出す。
「反転攻勢に出る! 陣形再編! 対空弾幕を絶やさず、撃ち続けろ! 友軍機を支援する!」
 相沢の歩兵部隊も陣形を整え、攻勢に移る。今度は、敵の高度を一定以上に上げさせない。
「では反撃ですね。誤射はしないようにしないと」
 みとは雷術、氷術、火術を駆使し、龍騎士を翻弄する。
「うぬうう、おのれ。奴を止めねば全滅する……こんなところで!!」
 龍騎士団の隊長は高度を一気に取って隊から離脱し、イコンに突撃してきた。
「大丈夫だ、この程度の攻撃では『トーテンコップ』の装甲を破ることは出来ん。それより、今を逃せば、あの龍騎士を倒すのは非常に困難となる。決して攻撃の手を緩めるなッ!」「イナンナ様、どうか私に力をお貸しください! この人を守るための力を、どうかッ!」
 マーゼンは一歩も退くな、と涼子に命じ、十分に防御を固めた上で、飛龍の吐く炎にもたじろくことなく、アサルトライフルを斉射。
「う、うわああ」
 イコンにダメージを与えられない龍騎士は踵を返そうとしたところトーテンコップの射撃に撃ち抜かれ戦死した。
「龍騎士は高機動だが高度さえ取れなければ教導団の誇り、鋼竜と装甲と火力の物をいう!」相沢は、マーゼンが見事敵指揮官を討ち取ったことを確認した。「指揮官さえ仕留めてしまえば後は何とかなる。クロッシュナー機に迫る対地攻撃に対し全方位弾幕射撃! 止めはクロッシュナー機に任せろ! 歩兵には歩兵の仕事がある!」
 マーゼンの砲火が残った帝国兵らに炸裂する。マーゼンの操る『トーテンコップ』と相沢の歩兵隊の連携に、龍騎士団は次第に数を減らしていった。
 
 一方、この間に夜盗の本拠、市外へ奇襲をかけた水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)
「どんな完璧な作戦でも、実施段階で齟齬を来せば絵に描いた餅でしかない。私の役目はそれを防ぐ事」
 夜盗勢の多くは、教導団部隊を攻めに廃都群に駒を進めていたわけであった。市街に残るは、せいぜい二百程。士気高いノイエ・シュテルンの一千の部隊は、すぐに夜盗側を劣勢に追い込み、水原は撤退した指揮振りで忽ちと敵を退けた。但し、完全に敵を袋の鼠としては相手は死兵となって戦い、こちらの損害も馬鹿にならなくなる。一箇所手薄な場所を作り、夜盗をミロクシャの外へ追いやり、市街地に戦火が及ばぬ配慮を行った。
 ミロクシャ旧都における戦いは、早い段階で決着がついた。マーゼンの【トーテンコップ】や相沢の歩兵隊も市街に到達し、夜盗の殲滅を開始している。
 カーリーことゆかりを補佐するマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)は軍規の維持を担当し、ノイエ・シュテルンの兵に一般市民への略奪や暴行は厳禁し、禁を犯した者は軍法に照らして厳しく処断すると徹底させた。「間違っても、夜盗団も教導団も大して変わりはない、などと思われることのないようにしないと香取大尉やカーリーの苦労も水の泡だわ」
 水原はこうして、市民の目に、これまでの支配者である夜盗とは異なる、法と秩序を重んじる集団と映るよう心がけたのである。
「水原少尉! 夜盗の本拠地を発見致しました!」
「本当。よし、直ちに包囲……」
 指揮官として戦場で成すべきことの第一は各部隊の状況を見極め、戦況に応じた冷静な判断を下す事。軽々しく前線に出たりはしない……水原は、頭目が隠れていると見られる館を包囲し慎重に兵を突入させた。
「静かね。何か罠でもあっては危険だわ。迂闊には近づけない。
 こんなときには、ジェイコブでもいれば便利なのだけど……」
 


 
「チィ! まさか、あんな化けもん(イコン)が現れるたぁ……仕方ねえ。ここは一旦下がり、またコンロンの地下に身を潜め再起を図るか! 同じような悪の輩がいるだろう。そいつらと共謀して……。何ここを教導が支配したならしたでまた付け込む余地が現れるさ。夜盗なんて幾らでもわいてくるものだからな。へっ」
 夜盗の頭目ガルバガは、地下の抜け穴に通じる扉に手をかけていた。
「ここから逃げれば絶対に捕まらねえよ」
 しかし、
「待ちなさい」
 道明寺 玲(どうみょうじ・れい)だ。
「おお? バトラー見習い。おまえも俺についてくるか?」
「……部下を見捨て、自分だけ逃げる者についてゆく者などおりませんな。また争いの火種を蒔こうという者を、地下に放すわけにはまいりません」
 上質な執事服を身に纏った道明寺。教導団の調査員として潜入を試みていた。この手の潜入に長けたジェイコブのようなベテラン兵ではない、参謀科の道明寺だが、状況次第ではやらねば……意は決めていた。堂々と、頭目に相対す。
「ほう。おまえなどに、何がわかる。若造」
 頭目は剣の柄に手を置く。
「降伏をお勧め致します。無駄な殺生は好むものではありません」
「何を。馬鹿なことを」つかつかと、剣を抜きつつ道明寺に向かってくる頭目。
「仕方ありませんね……」道明寺は執事服の下からカタールを取り出した。
「もういい。死ねや」
 頭目が振りかぶる。
「たぁ!」
 イルマがエンシャントワンドを手に、道明寺の後ろから飛びかかる。
「うお?! なかなか、やるな。おまえ、饅頭の恩を忘れたのか!」
「そ、それは……ま、饅頭(ほわほわ〜)」
「くっ」
 頭目はイルマを振り切って扉の外へ勢いよく飛び出した。
「イルマ!」
「はっ。悪しき魂は成敗! どすなぁ〜」
 ファイアストームが頭目を襲う。「ギャァァァ」道明寺は、頭目から火を振り払い、捕えた。
「茶でも……教導団の部隊が来るまでの間」
 
 こうして、【ノイエ・シュテルン】は敵拠点の制圧と龍騎士団の撃退に成功。逃亡しようとしていた頭目の身も、調査員として潜入していた道明寺によって捕縛されその身柄を預けられたのであった。