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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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 こうして、地下空洞内部の補修が進む一方で、基地の外では、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)とパートナーのゆる族マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)黒乃 音子(くろの・ねこ)とパートナーの剣の花嫁フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)比島 真紀(ひしま・まき)とパートナーのドラゴニュートサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が、警備や訓練、そして塹壕掘りをしていた。相変わらずいつ帝国が攻めてくるか判らない状況なので、塹壕を掘りつつ、出来上がった部分は警備や訓練も行われている、という状況だ。
『上から見てみて、どうでありますか?』
 塹壕の整備をしている比島から、見張り塔で訓練の様子を見ているフランソワに無線が入る。
「うーん、上空から見て判らないように展開するのは、なかなか難しいでござるな」
 兵士の姿が外から見えないように擬装をほどこした見張り塔の上から展開訓練を見て、フランソワは難しい顔になった。洞窟の前面には比島が提案して塹壕を網の目のように張り巡らせてあるのだが、やはり上から見れば塹壕があるのは判ってしまう。しかし、蓋をするようにカモフラージュしてしまうと今度は視界が確保できなかったり上空へ攻撃しにくかったりで、隠れやすさと戦闘時の立ち回りやすさの両立は難しいようだ。
「全員光学迷彩でも使えればいいのだろうが……」
『さすがにそれはちょっと、無いものねだりでありますな』
 フランソワの愚痴に、比島は苦笑する。
 と、見張り塔の外を、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)のパートナーの剣の花嫁天津 亜衣(あまつ・あい)が乗った小型飛空艇が飛び去って行った。
「もうそんな時間でござるか……」
 フランソワは息をついた。そろそろ、空が暗さを増して来ている。亜衣は夜間哨戒の担当なので、彼女が飛び始めると言うことは、訓練の終了時間が近付いて来たということなのだ。もう少し暗くなって来ると、要所要所に設置された探照灯に灯が入る。
『夜間の攻撃、あると思いますか』
 比島は塹壕の中から空を見上げて尋ねた。
「はたして、龍とか龍騎士は夜目が利くのでござろうか? 夜目が利くのであれば、夜間に攻撃して来る可能性もあるでござろうが……」
 フランソワの疑問に答えられるわけもなく、比島はわずかずつ暗くなって行く空を見上げたまま、頭の中に夜間に戦闘になった場合の状況を思い浮かべた。
(暗ければ、こちらの具体的な配置は見えにくいでしょうが、こちらも移動がしにくくなって、攻撃と移動を繰り返すような戦法は取りにくい。果たして、どちらに利があるか……)
 
 
 フランソワと比島がそんな会話をしていたのと同刻。
「もうすぐミカヅキジマだけど、幽霊船だけじゃなく、空の見張りも怠らないでねーっ!」
 相変わらず湖賊を率いて輸送船の護衛に精を出している夏野 夢見(なつの・ゆめみ)は、出港前から何度かしている注意をまた繰り返した。空から龍騎士の攻撃があるかも知れないと思うと、どうしても神経質になってしまうのだ。
 (特に今は輸送船が物資を載せてて動きが鈍いから……龍のスピードには絶対かなわないもの。火矢とかブレスへの対策は一応してあるけど、船に穴を開けられちゃったら終わり、だもんね)
 出港前に、甲板や甲板上の荷物に濡れた布をかけたり、荷物だと判らないように偽装はしてきたが、その程度で龍の攻撃をどの程度しのげるか。敵が来たらいつでも宮殿用飛行翼で飛び出せるように身構えながら、夢見は油断なく空を見上げていた。
「前方、上空に敵!?」
 帆柱の上から見張りが叫ぶ。夢見は一瞬唇を引き結んでから、湖賊たちに言った。
「打ち合わせ通りに、みんななるべくばらばらになってから、港を目指して! あたしは敵の注意を引くから!」
 夢見は空へと舞い上がった。
 
 
「来た来たっ!」
 長猫兵たちと海岸線で防空警戒に当たっていた黒乃 音子(くろの・ねこ)は、島に向かって飛んで来る龍の群れを見つけて叫んだ。
「伝令、行って来るよ!」
 曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)が、さすがに普段ののんびりとした口調ではなく、きびきびと応えて光る箒に飛び乗る。
 (ふーん、さすがのりゅーきも、ちょっとぴしっとしてますね。たららんとしていたら、お尻を蹴るくらいしなくちゃいけないと思いましたが)
 やや意外に思いながらも、パートナーのマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)がそれに続く。その間に音子は、携帯電話でクレセントベース入り口に居るはずのパートナー、フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)に連絡をする。さらに、
「長猫兵は後方へ下がって、弾薬や医療品運びに回って! 一般兵士は対空砲撃用意! あ、あとサーチライトつけてっ!」
 音子が矢継ぎ早に指令を出すと、周囲にいた長猫兵たちがぞろぞろと退避して行く。
「ここで一兵でも多く、数を減らすよっ!」
 長猫兵たちと入れ替わりに配置についた生徒たちを見回して、音子は喝を入れた。
 
 
 それと同じ頃。
「……来たっ!」
 輸送船団が目指している港の近くの小高い丘に掘られた横穴の中で双眼鏡を覗いていたフラン・ロレーヌ(ふらん・ろれーぬ)も、龍騎士団を見つけていた。
 傍らには、先日ミカヅキジマへ運ばれてきた戦車がある。正直ミカヅキジマでは移動可能な砲台(しかも仰角が満足に取れない)程度の使い道しかないが、仰角が取れないことを戦車を置く場所を高くすることで補って、要塞砲として使おうと言うのだ。
「アンリ、サーチライトを!」
 携帯電話に向かって叫ぶ。斜面の少し下に設置した探照灯のところで待機していたパートナーの英霊アンリ・ド・ロレーヌ(あんり・どろれーぬ)がスイッチを入れる。空はまだ薄暗いという時間帯だが、正面からまともに顔に当たれば目潰しになるだろう。
「ここで手柄を立てれば、戦車部隊が海軍のものとして認めてもらえるかもっ……」
 胸を高鳴らせながら、フランは戦車に乗り込んだ。
 
 
 一方、自分が敵を引きつけると護衛艦から討って出た夢見は、龍のスピードに押されていた。数も前回攻めて来た龍騎士団に比べて少ないとは言え、200騎程度は居る。湖賊たちから弓矢を使った援護があるとは言え、囲まれてはどうにか逃げるの繰り返しになってしまう。
「一人で龍騎士と飛龍騎士200に歯向かおうとは……気でも狂ったか、女?」
 龍騎士が馬鹿にしたように笑う。あちこちに傷を負った夢見は、唇を噛み締めて敵を睨み返した。
「冥土の土産に教えてやろう。我が名はエリュシオン帝国龍騎士クゥサァ。せめてもの情けに、苦しみのないよう逝かせてやるから有難く思え!」
 龍騎士が名乗って突進して来たその時、夢見の視界の端に探照灯の光が映った。夢見はその光目掛けて全速力で飛び出した。
 腹に響く音と共に、砲弾がクゥサァに向かって飛ぶ。クゥサァは槍を一閃し、砲弾を切り払った。その間に、夢見は全力で味方の元へ飛んだ。
「……ち、鬱陶しい……」
 クゥサァは舌打ちをすると、槍で陸を示した。
「先にあ奴らを血祭りに上げるぞ!」
 
 
「嘘ぉ……戦車砲の玉を斬るとか反則じゃん!」
 クゥサァの戦いぶりを双眼鏡で見たフランは、思わず悲鳴を上げた。しかし、ここで退くわけには行かない……と言うか、戦車は横穴の中なので退くに退けない。
「と、とにかく、飛龍騎士の数だけでも減らそう! 撃て、撃てーっ!」
 二両の戦車と、設置してあった対空砲をがんがん撃ちまくる。その背後では、音子に命令された長猫兵たちが弾丸を運ぶ。弾幕を張れば、クゥサァはともかく周囲の飛龍騎士たちには、さすがに避け切れずに墜落する者も出て来た。しかし、龍のブレスなどの攻撃で、地上側にも被害は出ている。
「うう、やっぱり龍騎士は落とせないか……」
 フランが歯噛みしたその時。丘の向こうから、二機のイコンが姿を現した。