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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

リアクション

 
 
咆哮/ミカヅキジマ
 
 香取 翔子(かとり・しょうこ)司令官はじめ、戦力の半分が大陸に渡った後のクレセントベースでは、前回の戦闘で出た被害の復旧が急ピッチで行われていた。
 「まず壊れた場所を直すのが最優先として、新規に希望が出ているのは対空施設の展開と整備、戦車掩帯壕の設置、海軍港の充実と修理工場の整備、常備兵2千人の収容施設の拡充、酒保の設置……。参謀長から150人、使っていいって許可が出ましたけど……はっきり言って人も時間も足りるわきゃねーだろーが!!
 書きかけの工程表を握りつぶしてキレてしまった天璋院 篤子(てんしょういん・あつこ)を、パートナーの吸血鬼小松 帯刀(こまつ・たてわき)がまぁまぁと宥める。
黒乃 音子(くろの・ねこ)から、非戦闘時は【黒豹大隊】からも人員を融通するからと申し出もあったことだし、【ノイエ】の連中も、自分たちが壊した部分は責任持って片付けると言っているし……」
「はっ、そ、そうですね、わたくしとしたことが……」
 天璋院はずれてしまった眼鏡を直し、工程表の皺を伸ばした。
「……こほん。とにかく、物資の問題もありますし、作業に優先順位をつけなくてはいけません。【黒豹大隊】にはまるまる、まだ終わっていない復旧工事に当たってもらうとして、参謀長から預かった150人は、5班に分けて作業をしてもらうことにしましょう」
 天璋院は、150人を30人ずつの5班に分けることにした。このうち2つの班を港湾整備に回す。海軍の大陸への出撃も本決まりとなったし、何をするにもまず補給の受け入れが円滑でなくてはならないからだ。他の班は戦車掩帯壕、対空施設、収容施設の拡充をそれぞれ担当する。軍事的な施設というより福利厚生に類する酒保はこの際後回しだ。
「小松くん、あなたは収容施設の拡充を担当する班の指揮を取ってください。長猫族たちを任せますから」
「了解であります」
 工程表に分担を書き込みながら言う天璋院に、小松は敬礼を返した。
 
 
 前回の迎撃戦で崩落した、大空洞奥の洞窟では、ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)のパートナーの魔女クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)が、洞窟の補修に従事していた。
「イコンが使えない状況下であのような作戦を取ることはやむを得なかったと思うのですが、岩盤の強度をあらかじめ調べておかなかったのは軽率でしたわ……」
 だいぶ反省しているようで、せっせと瓦礫を取り除き、ひびの補修をし、ついでに補強工事も行っている。
 一方、その隣の横穴では。
「にゃっ、にゃー、にゃっ、にゃー……」
「息をあわせないと、作業が進まないどころか危険ですから、気をつけてください」
 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)が、長猫たちにバケツリレーならぬ瓦礫リレーをさせていた。
「これで、訓練になるの?」
 パートナーのヴァルキリー松本 可奈(まつもと・かな)が首を傾げる。
「統率が取れた動きをすることは軍隊行動の基本でしょう? 教導団で新入生が最初にやるのも、整列や行進の練習じゃないですか。瓦礫を運ぶことで体力向上も見込めますし」
「なるほどねー。でも、適当に休憩入れた方がいいんじゃない?」
 可奈は洞窟の入り口の方を指さした。瓦礫の受け渡しのリズムが崩れて、瓦礫を持った長猫たちがおろおろしている。
「そうですね……ここで一時休憩にしましょうか」
「じゃ、長猫さんたち、疲れてるだろうからマッサージしてあげるわよー」
 真一郎がうなずくと、可奈は意味ありげな笑みを浮かべて長猫たちを手招きした。長猫たちがわらわらと可奈の周囲に集まる。
「ほーら、もふもふー。気持ちいいでしょ?」
 あっという間に長猫まみれになった可奈を、真一郎はじーっと見下ろす。
「……なに?」
 一人の長猫の手(前足?)を揉んでやりながら、可奈は首を傾げた。
「……いえ、何でも」
 真一郎はかぶりを振って、壁際に置いてあった水筒を取りに行く。
「別に、マッサージなんだから真一郎だってもふもふしたっていいのにねぇ?」
 可奈はこっそり、マッサージをしてやっている長猫に尋ねた。
「にゃー……」
 長猫からは肯定っぽい態度が返って来たが、半分桃源郷へ逝ってしまっているので、真意は定かではない。と、マッサージが気持ち良さそうなのを見て、他の長猫たちがわれもわれもと割り込んだり、可奈の背中に乗って来たりし始めた。
「え? わっ、ちょっ……」
「どうしました?」
 水分補給を終えて水筒を置いた真一郎が振り向くと、そこには可奈を芯にした巨大な長猫団子が出来上がっていた。
「こら、順番っ! 一回離れてーっ!」
 可奈が怒鳴ると、長猫たちはもぞもぞと動いてほぐれて行く。
 (自分もマッサージをしてやると言わなくて良かったような……でも一度くらい、長猫団子の芯になってみたくもあるような……)
 団子の芯から解放されて大きく息をついた可奈を、真一郎は複雑な気持ちで見やるのだった。