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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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帝国駐屯軍撃破/ヒクーロ
 
 ヒクーロ飛空艇団が帝国駐屯地に到着するや、龍騎士団との交戦となった。
 ヒクーロ側は迎撃に出る龍騎士団へ飛空艇からの砲撃を行うが、相手は素早くこれを交わしつつ迫り来る。
「ええい。すばしっこいやつらめ……
 おい、帝国の蝿ども! 帰れ。帰るのじゃ! ヒクーロはお前らと結ぶつもりはないわ!」
 駐屯地の龍騎士団はざっと400はいる。率いる龍騎士は二体。こちらは千以上の兵を有すと言え大型艦一隻に中型艦四隻という編成で細かい動きはできなかった。
「やむを得ん。駐屯地に砲撃するか」
 だが、龍騎士団の動きに阻まれ容易に近づけない。
「ヲガナ様! 先鋒の艇が、乗っ取られた模様、あっ煙が」
「むう!」
 甲板を駆けるヲガナの目の前に、飛空艇の下の方からひゅんっと舞い上がってきた大きな姿……
「ヒクーロ軍閥長ヲガナ。ご機嫌如何か? 死んで頂こう」
 一際巨体な飛龍に跨った、龍騎士だ。ヲガナは剣を抜く。
「ヲガナ様。ここは」天音はさっとヲガナの前に動き、彼を引き止めた。側近らが剣を抜き放ち向かっていく。龍騎士は笑い、すぐに高度を下げ艦の下方に消えた。飛空艇がぐらっと揺れる。二度、三度。敵勢があちこちから攻撃を加え始めたのだ。それからすぐに、旗艦を制圧せんと乗り込んでくる帝国兵ら。
「軍閥長の首を取れ!」
「むう。許せん!」ヲガナは五六倍の顔を真っ赤にして怒る。
「ヲガナ様。下がりましょう」天音がヲガナの手を引く。
「そう言っとれんわ!」
 向かっていく側近たちが、押され気味だ。獅子仮面たちは、甲板で待機している。
「龍騎士を狩れと、そう指示を下せば良い。代価さえ貰えるなら、我々は卿の剣となり矛となろう」獅子仮面は腕組みして言う。
「いや、頼まぬ! 帝国も教導団も他の者も要らんわい! ここはわしが守るのだ!」
 ヲガナは前面に出て帝国兵を二人三人と斬って捨てる。
「何て頑固な……ねえ。レオン……て言うか今はルドルフなんでしたっけ」獅子仮面の隣、姫の従者の一人が言う。
「長殿はああ言っていますが、この上はこちらから加勢してしまえば……」従者のもう一人も言う。姫も、堂々立っているが内心の複雑さを示す表情だ。戦況は良くない。
「っくっく。頼まれねば動かぬ」獅子仮面も頑なだ。
 龍騎士が、甲板に降り立つ。威圧感のある風貌だ。
「ヒクーロ軍閥長ヲガナ……ぐふふ。龍騎士のサンダァだ俺は。ぐふふ。勝負。死んで貰う……ぐふふぅ」
「ほう……いいじゃろう。だが死ぬのはお前だ」
「ヲガナ様。あれは少し、危険ですよ?」天音は相手を見てここは本気で止めねばと思う。側近や兵もヲガナを守ろうと周囲に付くが、龍騎士は槍を得物にヒクーロの兵を蹴散らす。
「むう、おお! 何という力じゃ……龍騎士め!」ヲガナはいっそう激怒した。
「我々に任せればよかろう!」
 獅子仮面は叫ぶが、ヲガナは龍騎士に向かい合う。見かねた側近が獅子仮面に、「おぬし、ヲガナ様を頼む。まずその武を示して認めて貰えばどうか?!」言うも、獅子仮面はヲガナが決断せねば本当に一切手出しなしの姿勢を貫こうとする。
「むう!」打ち合うヲガナ。「むおっ」顔を鋭い槍の穂先がかすめる。
「ヲガナ様……怪我はさせないよ」天音もさざれ石の短刀を抜いた。
「あれは!」
 縁にいた兵が叫ぶ。周囲を旋回している龍騎兵らの様子も変わる。
「陸の方に、部隊が……」
「教導団の部隊です! サンダァ殿」兵が龍騎士にそう叫ぶ。
「まさかぁぁ! 兵数はぁ!? ええいすぐシイザァに知らせ、駐屯地の守備を強化させよ。俺はこのまま飛空艇を制圧するぅぅ」
「させんわ!」
「おっと」ヲガナが踏み込むが、龍騎士団の隊長サンダァはこなれた動きでそれを交わし、槍の一撃をヲガナに食らわせた。
「ぐっ……! 教導団か。……余計なことをしおって」ヲガナの肩に血がにじむ。
 天音が短刀とナイフとを両手に、ヲガナの傍らに立ち、ナイフの方を投げた。
「そのようなもので、ぐふふ……なっ何?」
 ナイフは槍に絡みつき、天音が手を引くとそれを引き弾いた。リターニングダガーだ。
「おのれ。こざかしいやつ」サンダァはすぐ腰の長剣を抜く。「ヲガナとまとめてあの世へ送ってやるわい」
「それも、悪くはないかもしれないけどね?」天音は引き戻したナイフを手に取る。「ヲガナ様となら」
「天音。何を言うておる。わしはヒクーロをまだまだ守らねばらぬ。お前も自らのなすべきことがあろうが?」
 
 
 地上では……
 駐屯地に到着し攻撃を開始した教導団部隊。
「ああ、ヒクーロの飛空艇が龍騎士団に囲まれ……もう間に合わないか!」
「何を言っている!」オールバックのレーゼマンが兵らを鼓舞する。「ここを落とせば私たちに勝機がある。全力でかかれぃ!」
 
 
「あれは、レーゼの部隊か。……」飛空艇から地上を見下ろす、獅子仮面ことルドルフ・レーヴェンハルト。こと、……
「レオン……」姫も従者二人も獅子仮面を見つめる。
 獅子仮面は……抜刀した。
「代価は戦果を見て算出して頂こう。ティル・ナ・ノーグ傭兵団、出る」
「レオン! やるんですね。ならばっ。
 さて、僕のフラワシ「ハートレス」は少々気性が荒いですよー」チェシャ猫似の方の従者は機晶姫爆弾をぽいぽい投げつつ、ペットのガーゴイルを召喚しあっちこっちと暴れ始める。「ガー君! やっちゃいなさーい!」
「自分は獅子の騎士、イヴェイン・ウリエンス。此処より先はヒクーロの領地。誰一人として通しません」もう一人はローブを取ると騎士の出で立ちで、剣を抜き放つや敵兵をなぎ払う。
「鼓舞の歌声を……皆に力を!」姫は怒りの歌で味方の戦意を盛り返す。倒れている者たちに、命のうねりを吹きかけた。「貴方たちの帰りを待っている人たちがいます。戦う力は持たないけれど、待っている人たちがいます。だからどうか生きて。生きることを諦めないで。足掻いて、足掻いて、きっと皆で帰りましょう」そして戦線を維持するため、ただ一心不乱に歌い続ける。「私は歌います、勝利を歌で。皆で生きて、帰る為に!」
 ティル・ナ・ノーグ傭兵団を名乗る彼らは、一気に周囲の帝国兵らを蹴散らしにかかった。士気も盛り返す。
「エリュシオン龍騎士団とはこの程度か。我こそはと言う者はこの俺を止めて見せよ!」
 獅子仮面は敵指揮官を前に叫ぶ。
「ぐぅっ、ぐふふ。おのれ〜」龍騎士はヲガナを突き飛ばし、獅子仮面に向かい合う。「このサンダァにそう易々勝てると思うなァ!」
「獅子頭のルドルフだ。見知り置け」ルドルフは二刀流で構えた。
 打ち合う。
 騎士イヴェインは、もう一体の敵将を探すが、地上の指揮を執っているらしい。ならば、レオンの加勢に回りますか。正々堂々の勝負を望む私としては、手出しはなるべく避けたいですが相手はこれまでとは違う龍騎士……
 イヴェインが横に並ぶが、
「手出しは無用だ」
「強がりやがって!」サンダァの猛攻撃がルドルフを襲う。ルドルフは受け太刀よりの疾風突きへの連携を攻撃の軸としたが、さきからの左側の防御の甘さにサンダァは付け込んだ。「ニタリ」
「!」ルドルフの一方の剣が弾かれる。
「ぐふふ……どうだ?」
 が、次の瞬間、ルドルフのその手には光条兵器が握られていた。驚くサンダァの喉元を素早い太刀がかすめる。「殺しに力など不要。太い血管を一本切るだけの隙が有れば良い」
「ギャッ!」サンダァは流れる血を押さえながら一歩あとずさった。ぐふぅぅ、なかなかやりおる。ぐふぅ、しかし槍と、飛龍があればこの程度のやつには……ぐふ〜〜おのれ。おのれ。
 龍騎士は口笛で飛龍を呼ぶと、甲板を空の方へと駆け出した。
「相手に背を見せるとは……」
 そこへ獅子仮面の強烈な一撃が入った。
「ぐふぁぁ!」
「くっくっく。龍騎士サンダァ、討ち取ったり」
 ひと足遅れで飛んできた飛龍には、イヴェインの鋭い太刀が入る。
「ガー君! やっちゃいなさーい!」チェシャのペットのガーゴイルが翼を石化させ、飛龍は地上へと落下していった。
「地上の方はどうだ……?」
 獅子仮面ら、地上を覗く。空は、ヒクーロ側の一隻が戦線を離れた以外は、善戦して龍騎兵らを防いでいた。今、将を失った残りは駐屯地へと退いていく。飛空艇はここぞを砲撃の追い討ちをかけた。
「まあ、待て待て。こんなところじゃろう!」ヲガナも立ち上がり、指揮を続投している。「地上には教導団もいるのじゃ。教導団……余計なことを、しおって……むう。わしらも地上へ兵を回すぞ。協力して帝国を殲滅する!」
 ヲガナは獅子仮面を向き直り、フッと笑った。獅子仮面もくっく……、と笑みを返した。
 天音は、注意深く辺りを見ている。
 東の空の端に見えるあの粒々は何だ……?
 
 
 地上戦。
 紅月は、こないだの一戦同様、特殊弾によるやはり飛龍の鼻と口を狙う作戦で攻めた。一定の効果を発揮するが、その戦いに参戦していた敵もいる。「同じ手は食わぬぞ!」
 紅月の方も、二戦目。「今回は慣れたからね。もう負けないよ!」歴戦の防御術を使用し陣形を乱さない。散開させぬよう隊を維持する。
 今回は獅子の手練れた指揮官、レーゼマンの指揮下。全体の士気も高かった。「私はこの闘いの最中、死後の世界を見た。貴様らをそこへと送ってやろう……!」
「おらおら、地獄帰りの銃弾はいてぇぞぉ!」
 クルツ、紅月の二部隊が敵陣に切り込んで行く。空中戦から撤退してくる敵もあって敵方は乱れている。
 レーゼマン自身も、積極的な攻めの姿勢を見せた。
「私が鋼鉄の獅子のレーゼマン・グリーンフィールだ。敵将は何処か?!」
「貴様がか!」
 突如、上空を舞う飛龍の群れから、二回り三回りも大きな龍が牙を剥き飛び出してくる。
「サンダァが討たれた! 我は龍騎士シィザァ。サンダァの仇だ、死ね!!」
 レーゼマンは銃を打ち込むが、銃弾を弾き返しながら飛龍が来る。
「ぐわっ」
 龍騎士は部隊に突っ込み掻き回して再び舞い上がった。
「く、やはり龍騎士の戦闘能力は高い……!」
「もう一度行くぞ。今度は将の首を獲る!」
 また、来る。
 クルツが出た。
「その眉間をぶちぬいてやるさ!」
「雑魚は引っ込め!!」
 ――後方。
 ノイエ・シュテルンのクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)隊長が陣取る。
「むう。前衛の指揮が乱れている……!」
 クレーメックは立ち上がった。この戦いで求められるのは、作戦や戦術以前に、どんな激しい攻撃にさらされても耐え続ける忍耐力と決して諦めずに戦い続ける、そう……「ガッツだ!!」
 クレーメックは拳を握り叫んでいた。
「ク」「ク、」「クレーメック様!」兵らが一同にクレーメックを見る。
 クレーメックは号令をかけた。ノイエの兵が一斉に動く。それだけではなかった。クレーメックはテレパシーを用い、戦場にいる全ての将兵に激励の声をかけ、共に粘り強く戦うことをと呼びかけた。
 戦地に、クレーメックの声が響き渡る。
「こ、この声は……」「な、なんだ?」
 レーゼマンもこれに負けじと奮起する。「ええい。鋼鉄の獅子よ立ち上がれ!」
 その声は飛空艇の獅子仮面にも響いた。「……クレーメック」
 コンロンの空一面に、軍式敬礼するクレーメックの姿が映し出された。
「う、うわあ。な、何だこれは!」
 龍騎士団が四散する。
「馬鹿な。まやかしだ!」龍騎士シィザァは槍を掲げ、クレーメック自身に襲いかかった。
「ならば、これでどうだ?」
 クレーメックは真空波を手のひらに浮かべ、シィザァめがけて撃ち込んだ。背後から、レーゼマンの散弾が貫く。
「ギャッ!」
 落下する龍騎士に紅月が飛び移り、地面に押さえ付け捕縛した。「やったっ! 敵将を捕えたぞっ」紅月は靴のヒール(高めの履いてるよっ!)でグリグリしながら、たっぷり可愛がってあげるよ♪ と微笑んだ。
「手こずらせてくれたお礼代わりだよ。たっぷり喰らいなっ!」紅月は鞭を取り出して、プレイを開始した。「ヒィィィィ!」
 空中戦を行っていたヒクーロ飛空艇団も、地上へと下りてきている。
 戦場からやや離れたところでは、コンロンの十字を旗に掲げ、雲雀が医療班ら救護所のテントを張っていた。飛空艇がその十字を見つけこちらへ下りてくると、雲雀はヒクーロの負傷兵をテントへと案内し治療を行った。
 龍騎士団と激戦の末、各艦の損傷も大きかった。
「艦の修理は専門外だし、すぐにはできないけど、負傷兵は所属問わずにどんどん、受け入れるから、早くテントの中へ運んで!」率先して指示にあたる、雲雀。
 大型艦のみはまだ、空に留まっていたのだが……
「どうしたんだろ。早く降りて……えっ。何?」
 東の空から、何か来る。もう何度も見ている光景。龍騎士団だ。医療チームの皆も、兵たちも、唖然とその光景を見つめた。
「まだ、来る……」
「この戦いは、終わるの……?」
 大型艦が、迫り来る増援部隊に向かっていく。損耗はさすがにいちばん少ない。しかし、新手に対峙できるだけの戦力は残されているのか。打ち払えるのか。地上部隊も再び陣形を固める。だが敵は、大型艦を落とそうと攻め寄せていく。地上からは、見守るしかなかった。
 


 
 さて、尋人を乗せてヒクーロ方面へ飛んでいたナガンの小型艇。
「ヒャハ。どーやらちょうどドンパチやってるみたいだナァ」
「黒崎……いるのか。えっ? この感じは……?」
「わかるんか? 違う。後ろから何かが……」
 何か来る。背後の空から……
「龍騎士? いや、違う。そんなデカサじゃない。イコン……!!」
 その形状は、竜(ワイバーン)である。
 『ヤクト』――機晶姫の修理屋・アサノファクトリー店主でありイコン整備士でもある朝野 未沙(あさの・みさ)自ら搭乗する機竜である。その他データ等どういう経緯で未沙の元に流れてきたかは不明。随所に朝野未沙の手が加わっている、とのことである。ヤクト(jagt)……『狩りをする』という意味のドイツ語より。朝野はワイバーンとは、第三師団の戦いの頃から関わってきている。そのため、扱いには期待が持てる。
「な、なんじゃぁ、あれは!!」
 ヲガナは驚き、砲台を向けようとしたが、
「ヲガナ様。あれはおそらく、味方です」
「何と。あれがイコン……う、おおっ?!」
 飛空艇が大きく揺れる。到着した龍騎士団増援との戦いが始まっており、周囲は飛龍の群れに埋め尽くされていたのだ。イコンの到来に気付いた龍騎士はそちらに兵を差し向けたが、飛空艇はすでに大きな損傷を受け、傾きかけていた。
 ともあれ、敵勢の注意は一気に、イコンに注がれる。
 更に、クィクモから援軍として訪れた維暮 征志郎(いぐれ・せいしろう)ら二百程の部隊が加わり、地上も士気を盛り返した。
 維暮は、なるべく後方にひっそり、構える。
「新入りだし足手まといになってはダメですからねえ……って、う、うわあ」
 相手は、龍騎兵団。後方までも、飛来してくる。
 しかし、すぐ味方の射撃に撃ち落とされた。多くは前衛に展開した兵らが防ぎ、後方の辺りにまで突出してくる敵は多くはない。前衛の方はまさに熾烈な攻防になっているだろう。悲鳴や剣の打ち合う音が間近に響いてくるようだ。
「く、だが、これが戦場ですか……!」
 龍騎兵の爪にやられた兵ら数名が、肩から血を流し倒れ込む。
「だ、大丈夫ですか! くっ」
「征志郎。ここは任せ、後方より支援へ……」
 パートナーの壱影 封義(いちかげ・ふぎ)は戦場では、感情の無い生き物のごとく、ただ目の前の相手を打ち倒している。
「は、はい」
 維暮は、傷ついた兵に肩を貸し、退く。
 後方では、土御門雲雀ら医療班が、コンロンの十字のもと、続々前線から運ばれてくる負傷者の治療にあたっていた。
「あの……」
「ほらっ、もたもたしていないで、こっちのテントへ運ぶでありますっ!」
「は、はい!」
 もう少し、疲れて帰還した兵士を労いお茶を出すとか、あとせめて機器系統の修理とかなら、きびきびとできたと思う……維暮は、まだ慣れない手付きで、あちらこちらに指示を出す雲雀のもとともかくも医療班の手伝いを始める。激戦の最中だ。気が立った軍人に怒鳴られることないよう……
「次、あっちへお願い……あれ、あなたは?」
「はっ。士官候補生、維暮征志郎であります!」
「あっ、危ない……!」
 コンロンの十字を引きちぎり、治療中のテントにまで龍騎兵が襲い来る。
「くっ。帝国……負傷兵にまで、何てひどい……」
 雲雀は怒りの眼差しを向け、灼骨のカーマインを手に取る。
「……」
 維暮は、従軍してより思い馳せてきた。この戦いの必要性に……しかし、帝国のやり方は思っていたより、狡猾というか、汚い……確かにシャンバラとコンロンが結び付くと厄介なのだろうが、対等に平等につきあってこそ、パラミタの未来が得られるのではないか。と。
 だけど、帝国がシャンバラに対し対等な立場で臨むなどあり得るだろうか。
 今は、テントを踏み躙り襲い来るこの敵を、ただ打つよりなかった。
  
 空中には――イコン(機竜)に搭乗した、朝野未沙。
「ようし。ここはあたしに任せて頂こうかしら」
 朝野は、襲来する龍騎士団に、高速機動で接近、撹乱を試みる。躊躇いもなく、突っ込んできた相手に龍騎士団は驚き、四方に散る。射程内に入った朝野はすぐに攻撃を開始した。龍騎兵らの攻撃は、イコンの装甲には通用しない。
「クッ。何をしている! 龍騎士ゴワヴァが相手だ!!」
 龍騎士が来る。
「きゃっ!?」
 頭上の方から衝撃を食らうが、ダメージという程のことはない。朝野は再攻撃に出る龍騎士にワイバーンクローを仕掛け飛龍もろとも引き裂いた。
「ヤクトをそこらの飛竜(ワイバーン)と一緒だと思ったら痛い目みるよ!」
「な、何という……!」
 もう一体の龍騎士は、兵をまとめ立て直しを図り近づかせないようにした。
「ぬう。おのれ、どこかに必ず、弱点がある筈。人間が操舵しておるのだ……!」
 攻撃を試みつつ、龍騎士はそれを探ろうとイコンの周囲を旋回する。朝野は回避上昇と鉄の守りを使い分け何とかダメージの軽減を図る。だがさすがに龍騎士の攻撃を何度も受ければ機体はもたないだろう。朝野は、反撃に出た。
「ようし。一度試してみたかったんだよね」
 朝野はヤクトを手繰りつつ、箒(ラスターダスター)を取り出す。
「ええい。女、貴様……この龍騎士ロクドゥラが打ち落としてくれるわ!」龍騎士はランスを構え猛スピードで突き進んでくる。朝野はヤクトを操り飛龍の下側に潜り込んだ。箒を振りかぶり、振り下ろす。
「一閃、断艦箒!」
「は、速い! しかし逃げてばかりでどうな……るばー?!」
 箒の先端部が光条兵器の刃となり、遠心力で伸びる。龍騎士は振り向く前に一刀両断された。
「我が箒に断てぬモノ無し!(これが幻のメイド奥義……今回はヤクトのおかげね。)」
「ば、馬鹿な……まるで性能が違う……! この飛竜(ワイバーン)は一体……?!」
 龍騎士が斬られると、兵らは色を失い撤退していった。
「追撃は……いいかな? それよりさっきの」
 龍騎士団の攻撃を受けた飛空艇は、高度を下げ地上すれすれに飛んでいた。
「ああ。ダメか……間に合わない!」
 飛空艇では、
「おお。最強を誇った我が飛空艇……最も古参のこの艦が、落ちるのか。俺はこの船と運命を共にしてもよい。しかし、部下たち……すまぬ」
 ヲガナは、覚悟を決めていた。
「天音も、すまぬ」
「ヲガナ様……」
「黒崎ー!」
「うん? あれは……」
 飛空艇の横に、小型艇が付けている。顔を出しているのは、鬼院尋人だ。天音に再会できた喜びと、状況への悲愴さの入り混じった顔で、叫んでいる。
「こんなところで、妙なタイミングで、だね。何て言っているのか……風で聴こえないよ」天音は、いつもの笑みで応えた。
「天音。友か。あれに乗って飛び立て」ヲガナが、天音を前に言う。「まだ、間に合うぞ。俺は、部下を置いては行けんぞ。部下の一人でも救ってもらいたいところじゃが、小型艇では数人しか乗れまい。おぬしはヒクーロの人間ではないのだ」
 ヲガナと天音の話す横には、獅子仮面ルドルフらティル・ナ・ノーグ傭兵団も控えている。そわそわする姫と従者。「え、えっとボクらも」「皆の待つ、ティル・ナ・ノーグに帰らねば?」
「天音。わしの命を守ってくれたことを嬉しく思うぞ。行くのじゃ」
 ヲガナ様……。天音は無言でヲガナを見つめた。
「それに、獅子仮面。おまえもな。ヒクーロの為に戦ってくれたのだな……最後に巻き込むことになったのはすまぬ」
 フッ。ルドルフは不敵に笑った。「エ? エ? 巻き込むって……僕らは残るんですかっレオン!」「このままではし、死……」
 ゴゴォォォォ 飛空艇が国境の丘陵に突っ込む。飛空艇の船底が剥がれていく。地上の陣地からは、煙で見えなくなる。
「黒崎!!」
 天音は……ヲガナ様。僕は、残るよ。一緒に……
「な、なんじゃと?!」
「黒崎!?」
 言った筈だよ。貴方は今後のコンロンにとって必要なお方……死なせるわけにはいかない。
「ああ。おしまいじゃ! 天音。部下たち。わしの飛空艇……」
 天音は、そっとヲガナを抱きしめた。
「なっ なにをするんじゃぁぁぁ。わ、わしはそういう……あ、ああーー」
 飛空艇は丘陵に乗り上げ、大破してゆく。
「黒崎……!!」