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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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戦地へ赴く/ヒクーロ
 
 ……生き、てるのか、私は。……
 ヒクーロ国境付近。
 龍騎士団の攻撃を凌いだ教導団部隊は、ヒクーロとの諍いが起こらぬよう国境から距離を取って陣を張り、艦や負傷兵らの手当て等を行い、立て直しを図った。
「よっ、どうやらお互い無事だったみたいだな」
 そうクルツ・マイヤー(くるつ・まいやー)が声をかけてくれた。死にぞこなっちまったみたいだな、と
 どうやら生き残ったらしい。しかし多くの兵士を犠牲にしてしまった。――レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)少尉は、まだ傷の癒えぬ身体で、残った兵の前に立ち、述べる。
「ライル、水瀬、沢渡、ケリィ……皆、最後まで私のようなものについてきてくれた」
 だが、私はここで立ち止まっているわけにはいかない。
 国境の東に彼らを襲った帝国軍の駐屯地があり、もともとはヒクーロに対する圧力的な効果を目論んで立てられた陣地である。ヒクーロはこれに対し再三の警告を行ったが尚、高圧的な態度を示してくる帝国に対し、撃退を試みるべく兵を出した。教導団にとっても叩くべき相手である。が、しかしヒクーロ側は教導団と協力体制を望んでもおらず、現状、帝国同様、教導団もヒクーロにとっては邪魔な相手としか見てはいない。
 レーゼマンは、きっ、と空を睨む。
 あの闘いで壊れてしまった眼鏡……かつての恋人の形見をクルツに預け、戦場へと赴くことにしよう。
「クルツ。この闘いが終わるまでこれを預ける。だから……絶対に返せ、いいな?」
「この眼鏡……へっ、わーったよ」
「お互い死にぞこなった身、簡単には逝かせんから覚悟するんだな」
「元より楽に死ねるとは思ってねぇよ、この身体になってからな」
 眼鏡を預け、レーゼマンは髪をオールバックにまとめた。出陣だ。
 陣前には、城 紅月(じょう・こうげつ)の率いてきた獅子の200が揃っている。勿論、紅月もレーゼマンの指揮下に入り戦地へ向かう。
 また、【ノイエ・シュテルン】はクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)隊長自身が200を率いる。ノイエの部隊の大多数は首都ミロクシャを奪回する作戦に移るが、クレーメックはこの直属200を率い、コンロンにおけるおそらく最後の戦場をヒクーロで迎えることになろう。陣の奥で横になる第四師団のロンデハイネ中佐に、彼は出陣前の言葉をかけてきた。
「中佐」
「私は足を負傷してしまった。戦地に赴くことはできんが……」
「ええ。どうか、お任せください。獅子の部隊と連携し帝国を撃退してまいります」
「うむ」
「……」
 陣地の警備には金住少尉が残り、クレーメックはパートナーらに後方からの支援を行わせ前線との間をつなぐ。島本 優子(しまもと・ゆうこ)には、丘の中腹に横穴を掘り退避壕を作らせる。更に石弓(バリスタ)を作り、もし後方にまで敵が来れば応戦する。島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)は、兵の割り振りにあたった。「前線にもう少し兵を回せ? これ以上は、無理ですわ! 後方支援部門に人がいなくなれば、早晩、前線部隊も機能不全に陥りますの。最低限必要な人数だけは動かすべきではありません」
 幕舎の外では、出陣の前まで土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)が忙しく医療班に指示を出している。エルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)は再びそれを掲げ次の戦地に赴くことになるコンロンの十字を手に、呟く。「コンロンの十字、か……」そしてエルザルドが雲雀に言った提案とは。
「エル? 医療班の人たちに何て?
 ……エリュシオン以外は全員治療する!? えっ」
「何だ。この音は……? まさか」
 国境の山間から、ぶたぶたと喧しい飛空艇の音が。
「雲賊が、また?! 戻ってきた? どういうこと……」
 
 
 一方、ヲガナ率いるヒクーロ飛空艇団は既に帝国駐屯地へと艦を飛ばしていた。
「ヲガナ様」
「フム」
 中央の艦に居座る軍閥長ヲガナの傍らには、黒崎 天音(くろさき・あまね)の姿がある。
 多少の怪我は頓着しないよ、この人はきっと大事な人になるから。天音の瞳はそう、語っている。
 それからヲガナの側近たちが列しているその末席……
「ところで……お前たちは、なんでいる?」
「フッ」余裕の笑いがこぼれる。獅子の仮面。――お前たち? 失礼な。言った筈。我々は、ティル・ナ・ノーグ傭兵団。そして……末席からまばゆい光が届いてくる。二人の従者を従え立つティル・ナ・ノーグの聖女ルイン姫。その姫を守る獅子仮面の男。ずかずかと堂々と、中央に歩み出でる。
「お前は確か、ルドルフ・レーヴェン……」
「長よ。見た所この軍には龍騎士に相対せる個の武は居ない様だが、現状ままでは兵を失うばかりでないかね?」
 ゴゴゴゴ。居並ぶヒクーロ歴戦の武官らから睨む視線が注がれる。
「我々は傭兵だと言ったろう。戦力が足りなければ雇えばよい。それとも頑なに己が力のみを頼み、仲間の血で艇を濡らすがお好みか?」
 ゴゴゴゴ……ヲガナは。
「……フン!」
 獅子仮面は。フッ。余裕の笑み。決断せなば、本当に一切手出しはせぬぞ。と。
「ヲガナ様。間もなく敵駐屯地が見えてまいります」天音は、とくにそれに構う様子なく、ヲガナに告げる。
「フム。……」
 
 
 ここから再び、視点はクィクモへ移るが……クィクモを出て、教導団の派遣部隊とは別にヒクーロの方角へと移動している者の姿が見える。 
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)は、自らの意思でコンロンにおける悪を討つべく、クィクモを後にしていた。
「正直、コンロンにとって何が正義で何が悪なのかは、オレにはわからない。ただ、シャンバラの人たちが来てくれてよかった、そう思ってもらえるように……動きたい」
 路地裏での一件を目にした呀 雷號(が・らいごう)。件を伝えた後は、西条 霧神(さいじょう・きりがみ)にバトンタッチ。西条は巧みな話術にスキルを交え、情報を引き出した。尋人は件を聞くや、それを追ってヒクーロ方面へ動くことを決意した。
「クィクモには教導団の本営があるから大丈夫だろう。ヒクーロへ向かおう」
 尋人は途中、同じ方角に向かっている部隊や、国境に迫った折には山間を飛んでくる雲賊とそれを追う飛龍の一団を上空に、見た。
「こんなところにも、教導団……」「ヒクーロ。一体、何が起こっているのか……」