リアクション
* * * 「ヒクーロに入った南臣は、足に使っていた船乗りどもを残して街を離れました」 そう報告するのはヒークロの酒場で光一郎に地図を譲った酔っ払いの教導団団員だ。 報告を受けているのはエミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)。教導団【ノイエ・シュテルン】の一員だ。 「――わかりました。あなたは引き続き、その船乗りたちの監視をお願いします」 「ハッ。失礼します」 退出する団員を見送ってから、後ろに控えるコンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)を振り返った。 「コンラート」 「君のいいたいことはわかっているつもりですよ。効果のほどはしれませんが、薔薇の学舎には書簡を送ってあります。君の行動は報われますよ。私も手伝います」 「あぁ。ありがとう」 エミリアはずっと。そう、彼が彼女から見て問題と判断できる行動を起こしはじめてから。 長い間、その動向を監視し、追い続けていた。 思い出すように目を閉じる。 「タシガンで大人しくしていればいいものを。わざわざ自分から捕まりに来るとは、一体どういう神経をしているの? 南部王国で自分が何をやったのか? たった一年で忘れてしまったとでもいうのかしら?」 「――エミリア」 「でも、奴は――タシガンを離れ、コンロンに足を踏み入れたわ。性懲りもなく、我等教導団に敵対行為を繰り返すならば――少し痛い目を見てもらいましょう」 そこには強い意志――もはや執念とも呼べる炎が揺らめいていた。 * * * 夜の闇に沈む谷間。 そこにはかつて空を翔けた艇が眠っていた。 周囲を伺いながら、二つの気配がそれに近付いていく。 「お? あれじゃないか?」 「ふははは。なんだ見張りいねーじゃん。よし、行くぞ」 ――カッ、カッ、カッ 谷間に強い光が注がれる。 「な、なんだぁ?!」 「――か、囲まれた?!」 照らし出されるのは光一郎とオットー。 光源は落ちた艇の上に立つエミリアとコンラート。そして、周囲に控えた団員たち。 「こんな夜更けに、我が教導団の船に何の用かしら? 南臣光一郎」 「だ、誰だ?!」 「教導団【ノイエ・シュテルン】エミリア・ヴィーナ――ちょっとそこまでご同行願えるかしら?」 こうして――南臣の目論見は破れ、エミリアの執念は成就した。エミリアはこのことを、同じノイエ・シュテルン三田 麗子(みた・れいこ)へテレパシーで連絡。クレーメックは南臣の逮捕を聞いて笑みを浮かべたのであった。 * * * 「殺すな、と? そう言われるのでありますな?」 「ええ。そうよ」 クィクモにある本営の一角。廊下の、何の変哲もない壁の前で一組の男女が言葉を交していた。 「――心得ました。それで、エミリア殿。貴殿はこれから?」 「報告へあがるわ。あとはよろくしお願いします。ブラウディーさん」 それは存在しないはずの場所。 薄暗い闇の満ちたアンダーグランド。 「――ヒッ」 「――や、やめてくれおうおう」 戒めれた金髪の男と墨を落とされた黒錦鯉に屈強な男の手が伸びる。 「ひ、ひゃははははははははは。あ、足の、うらは――ぎゃー!!」 「ゆ、黒の油性ペンは止めてー!! それがしの立派な模様がー!? ちょ、白もやめてー!!」 薄暗い部屋の中に絶叫が響き渡った。 「あの陰謀マニアがそう簡単に引き下がるとは思えませんが、まぁ、しばらくは大人しくせざるを得ないでしょう。今回はそれでよしとすべきでしょうね」 コンラートのもとへ戻ったエミリアに、彼はそう呟いた。 |
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