イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

リアクション公開中!

【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

リアクション

 『クイーン・バタフライ』に搭乗するリュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)が、制御する二挺のマジックカノンを時間差で同一軌道に撃ち込む。一撃目は大抵、敵の放つ魔弾によって相殺されるのだが、二発目は相殺されることなく魔族に有効打を与え、遠距離戦は優位に展開していた。
(ブレイバーが接近戦に専念できる様……遠距離戦を制させてもらいます)
 そう思いつつも、この優位が永遠に続くとは思っていない。マギウスもブレイバーも、イコンの中では防御力・持久力には劣る。どこかでいずれ、勝負を決する一大勝負を仕掛けなければ、ジリ貧になった時には敗色濃厚になってしまう。
『各機、これよりアルマイン隊は敵制空権の奪還に目処をつけ、クリフォト攻撃にシフトします。
 皆様、よろしくお願い致します!』
 そこに、『ソーサルナイト』よりの通信が飛び込んでくる。当初は絶望的な数の差であった所を、各機の奮闘により一時的にアルマイン隊が離れても戦線を維持できる程にまで押し返した、という判断のもとであった。

「クリフォトを一斉攻撃……と。ホント、白けちゃうよねぇ。お約束の展開ってやつ?」
 同じく通信を受けた誠一が、はぁ、とため息をつく。誰かの筋書きに乗せられてるだけのような居心地の悪さに辟易しつつ、所属するメンバーに連絡を受けた旨を伝えていく。
「さてと……こっちは変わらず、敵の気でも引きつけてますか。何かの気まぐれで気付くことだってあるだろうしね」
 連絡を入れ終えた誠一は、装備したありったけの武器を利用して、敵空中部隊の気を引きつける策を再開する。

 ……そう、この時誠一の率いるメンバーは、既にクリフォトの内部にまで侵入し、そこで戦闘を行うことで地上部隊の出現を遅らせると共に、クリフォト破壊の準備が整うまでの時間稼ぎを行っていたのだった――。

「まったく、怪我人は労るべきではないかの?」
「そう思うなら、前線に出ようとしないでくださいよ」

 ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)とそんなやり取りを交わしながら、シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が『触龍』でクリフォト分身を目指す。前回の折、自らの身を呈して行った『大ジャンプ攻撃』により自身は満身創痍であったが、痛覚を鈍らせることで半ば無理矢理動いているようなものであった。
(何がこんなに、手記を頑なにさせるんでしょうね?)
 首を傾げながら、ラムズがせめて魔族がこちらに向かって来ないことを祈る。
「ガジェット……戦いの途中で倒れた僕を担いで、そして……くっ。
 仇は必ず討つからな。このブースター、借りさせてもらうぞ。最後まで皆と、共に戦おう」
「この森に散っていったガジェットさんの為にも……ここに住まう皆の為にも、もう森を荒らさせはしない!」
「ははは……リア、セラ、盛り上がってる所申し訳ありませんが、ガジェットさんは――」
 何やらしんみりとしているリア・リム(りあ・りむ)シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)に突っ込もうとしたルイ・フリード(るい・ふりーど)だが、二人のただならぬ雰囲気に気圧されてしまう。
「……そう、ですね。ガジェットさんの分まで、頑張りましょう!」

(あのーセラ殿? 我輩まだ死んでないのであるよ?
 リア殿? 仇を討つってどういう意味であるか?
 ルイまで!? 我輩動けないだけで逝ってないのである! 逝ってないのであるうううぅぅぅ!!)

 話の種に挙がっていたノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)は、前回の戦いで大破し、今は飛空艇発着場の片隅でお留守番をしていた。

(うぅ……怖くない怖くない、怖くないんだってば……!)
 一行に同行していた伊礼 悠(いらい・ゆう)が、恐怖で身体をガタガタと震わせながら、懸命に自分に言い聞かせることで何とか自我を保つ。
「大丈夫だよー、何があってもオッサンが守ってくれるって♪ あたしだって、おねーちゃんの力になれるし!」(オッサン程じゃないけどさ……あたしだって、おねーちゃんの力になりたいんだもん……!)
 そんな悠を、マリア・伊礼(まりあ・いらい)があえて明るく振る舞い、励まそうとする。
「悠さん……貴方は、貴方の決意のもと動いて下さい。後悔の無い様に。
 でも……無理だけはしないで下さいね? 皆で共に帰りましょう。そう決めたんですから」
 次に著者不明 『或る争いの記録』(ちょしゃふめい・あるあらそいのきろく)が、本当は無茶して欲しくない思いを抱きつつも、悠の思う通りに行動して欲しいと声をかける。
(怖いけど……それでも、何とかしたい……)
 思い悩む悠に、ディートハルト・ゾルガー(でぃーとはると・ぞるがー)が進み出、真っ直ぐに目を見て言う。
「悠……私は、貴女を守る。不安や恐怖を消し去る事は出来ないかもしれないが……それでも、貴女が前に進むために、出来る事をしたいんだ」
「ディートさん……」
 言われて悠は、スッ、と、自分の抱いているこの恐怖の正体に辿り着く。
「……私、ずっと怖いと思ってました……。
 でもそれは、自分が傷付くことが怖いんじゃなくって、誰か他の人が……マリアちゃんやルアラさん、それに……ディートさんが、傷付くのが怖いんです」
 気付いたことを悠が口にすれば、マリアがふん、と鼻を鳴らし、ルアラが柔らかな笑みを浮かべ、そしてディートが表情を引き締める。
「おねーちゃんが心配することないって! みんな、自分のことは自分でどうにかするし!」
「そう……ですね。自分の身は、自分で守ろうと思います」
「悠、たとえ結果としてこの身が傷付いたとしても、それは全て納得した上でのことだ。
 受け入れてくれとは言わない……だが、分かってくれたら嬉しい」
「マリアちゃん、ルアラさん……それに、ディートさん……」
 順に顔を見つめ、意思を確認し合った悠が、最後にうん、と笑みを浮かべる。
「私、戦います。大切な人達を、失わないために」
 決意の言葉を悠が口にした所で、『手記』の声が響く。
「そろそろクリフォトが見えてきたぞ。皆、準備はよいか?」
 その言葉に、悠とルイ、ラムズ、パートナーたちが頷く。
「ここまでさしたる抵抗がなかったのは、我を見くびっておるのか、その暇すらなかったのか。
 ……まぁよい。潰してダメなら、燃やしてくれよう」
 『触龍』の口が開き、そこから灼熱の炎が吐き出される。クリフォトの異変を察知して、空中の魔族が行動を起こそうとするが、時既に遅し。
「さあ、往くぞ」
 その頃には、龍化を解除した『手記』も一緒になって、一行は燃やされ穴が開いた箇所から内部へと潜入していたのであった。

「ぬうううぅぅぅん!!」
「てぇぇりゃああぁぁ!!」


 ルイの振るった拳が、内部を上下に走る管のような枝を打ち、弾き飛ばす。その隣で同じく前衛を務めるセラのブリザードが、周囲の枝を凍らせ砕いていく。
 クリフォト分身内部は、多くの上下に伸びる枝と、それらを覆い隠す表皮によって構成されていた。枝は遥か上空で分かれ、外から見える枝に繋がっているようであった。
(これだけ暴れれば、相手も黙っていないでしょう――)
 そう推測したルイの言う通り、複数の枝が膨れ上がったかと思うと、中心から縦方向に亀裂が入るように、そして開けた中から異形の生物が姿を現す。入り口を絶たれては元も子もない魔族は、何としても契約者をクリフォト内部から追い出す、その為に顕現を果たした。
(戦いに善悪も無し。そこにあるのは、ただお互いの信念のみ。相手の命を絶てばその家族が、私を恨むでしょう、呪うでしょう。
 ……それでも私は、護りたい人が、場所があるからこそ戦える。
 命を奪うならば、奪われるのもまた当然でしょう。もちろん、覚悟はしています。……最後まで足掻きますけどね!)
(これ以上攻め込まれたら不味いし、今住んでる場所気に入ってるから!
 魔導書セラエノ断章、行きます!)
 二人が覚悟を胸に、魔法で、自らの肉体で、魔族と相対する。冷気の嵐、そして肉体が弾け合い、顕現した魔族を圧倒していく。
「悠、上はどうなっている?」
「上の人が頑張ってくれてるみたいです、こちらへは――! ディートさん!」
 強烈な一撃で魔族を退けたディートが悠に振り返って尋ねている、そこへ背後から別の魔族が出現し、ディートハルトを狙う。
「遅れは、取らん!」
 悠の警告を受け、即座に反転したディートハルトは魔族の攻撃をシールドで受け止め、腕力で押し返す。
「ふんっ!」
 ソードを両手に持ち、踏み込みからの体重を乗せた一撃で、魔族は深手を負い後退していく。
(悠は私が護ってみせる! 精神的にも、もちろん物理的にもだ!)
 背後に悠を抱える、制約を抱えた状況ながら、ディートハルトの動きは鬼神の如く、近付く魔族を切り伏せていく。魔族の攻撃が頭を掠め、血が吹き出たとしてもその動きに衰えはない。
「ディートさん、今治療します!」
 悠の癒しの力で、ディートハルトの出血が止まる。並み居る魔族を切り払い、拭った甲についた自分の血を一瞥して、再び剣を握り直して魔族の前に立ちはだかる。
 二人から少し離れた場所では、マリアとルアラがタッグを組んで戦っていた。ルアラが周囲に落ちている小枝を超能力で宙に浮かせ、火をつけて弾けさせ、炎による攻撃の他、目眩ましの効果も及ばさせる。
「ほらほら、気取られてると、いったーいのやっちゃうよ!」
 怯んだ所へ、忍び寄ったマリアが急所に一撃を見舞い、魔族に痛打を与える。
 一人ずつでは弱くとも、二人でなら戦える。四人が心ひとつに戦えば、負けることなんてあり得ない。
 悠一行は、立派に戦線を支えていた。