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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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「ルーレンさん、こちら、お預けしておきます。取り扱いには注意してください」
 やや弛緩した空気が漂う中、ザンスカール家のお歴々へ話を通し、エリザベート校長への支持と新教頭への不支持を取りまとめていたフィッツ・ビンゲン(ふぃっつ・びんげん)が、いわゆる『血判状』に相当する書類をルーレンに預ける。署名の類であり、法的効力はないに等しいが、『ホーリーアスティン騎士団にとって、これら結束を打ち破るのは困難である』ことを知らしめるには、一定の効力を発揮すると期待されていた。ちなみにフィッツが念を押したのは、うっかりこの書類がメニエス(もしくはホーリーアスティン騎士団の息がかかった者)に渡ろうものなら、名前を知られ、その者に呪いをかけられてしまう可能性が否定出来ないからである。
「ありがとうございます。お二人もお疲れではありませんか? 少し休憩なされてはいかがでしょう。
 美味しいお茶が入りましたわ」
 書類を受け取ったルーレンが柔らかく微笑み、二人に同席を勧める。ちなみにお茶自体は有限実行というか、輪廻が淹れていた。
「……では、御言葉に甘えて。ルーレン様にお話しておきたいこともございますし」
 誘いを受け、フィッツとルーザス・シュヴァンツ(るーざす・しゅばんつ)が席につく。二人の前に用意されたお茶とお菓子を肴に、しばしゆったりとした時間が流れる。
「……ルーレン様、一つ、提案がございます」
「なんでしょう?」
 周囲にメニエスの姿がないのを確認して、ルーザスが今の状況を打開出来るかも知れない提案を口にする。
「要は、世界樹イルミンスールとイルミンスール魔法学校が一つになっているのが、事態を難しくしているのではないかと考えるのです。
 魔法学校が世界樹イルミンスールの外に新設され、世界樹にはエリザベート校長の私室だけが残るようになれば、ホーリーアスティン騎士団やメニエスが世界中に手出しすることが出来なくなるのではないでしょうか」
 それは、過激な案でもあった。イルミンスール魔法学校は、世界樹イルミンスールがあることで学校としての地位を得ている現状がある。それを切り離せば、イルミンスール魔法学校には何の価値もなくなってしまう可能性がある。……まぁ、元々政治には深く関わっていないのだから、それでいいといえば良いような気もしないではない。変に政争の類に巻き込まれるよりは、自由奔放に振る舞っていた方がよっぽど“らしい”と思いはするだろう。
「教頭には、移転先の用地買収の任でも与えるのがいいのではないでしょうか。
 候補地としては、クリフォト内部やタシガン空峡の島諸部などでしょうか」
 結論としては島流しである。……もし万が一意見が通ってしまうような事態になれば、ひどい事になるだろうが。ルーザスの意見は、世界樹とザンスカール家を護るのが第一、という考えに基づいているため、イルミンスールから見れば受け入れがたい内容になっている。
「……ザンスカールのことを考えていただいたことは、嬉しく思いますわ。
 ですが、ザンスカール家はイルミンスールと――わたくしはエリザベートさんと共に在ります。エリザベートさんがザナドゥと戦うと宣言なされた以上、わたくしの役目はエリザベートさんの留守をお預かりすること。……エリザベートさんがじっとしているなんて、合わないですしね」
 冗談っぽく笑みを浮かべながら、ルーレンは強い決意でもって言葉を口にする――。

 休憩が宣言されたことで、神代 明日香(かみしろ・あすか)は労せずしてエリザベートを校長室から連れ出すことが出来た。メニエスも今は校長室を離れていることが確認出来たので、後でこのことを追求されてもさして問題にはならないだろう。
「ここから、私達に何が出来るでしょう、明日香さん?」
 一緒に付いて来たノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)の言葉に、明日香が自らの案を口にする。
「これからどう行動するにしても、メニエスさんを動揺させるのは私達に有利に働くと思います。
 エリザベートちゃんを、エリザベートちゃんに変装した誰かであるように見せかけて、エリザベートちゃんが校長室から何処かに行ったように思わせるのはどうでしょう。メニエスさんがエリザベートちゃんを追って出て行ってくれれば、そこからまた何か出来るかもです」
「……あ、だから明日香さん、私にエリザベートさんのローブを渡したんですね。話が見えてきました」
 明日香の話から、自分に与えられた役割を見出したノルンが、やってみますという表情を浮かべる。
「…………」
 そして、エリザベートは沈黙を貫いていた。明日香の傍に居ながら、表情はまさに無表情とでも言わんばかりであった。
「……どうしましたか?」
 そのことに既に気付いていた明日香が、頃合いを見計らってエリザベートに発言を促す声をかける。こういう時、人は他人には予想もつかないレベルで思考を巡らせているのであり、それを聞いてあげることがその人にとって何より嬉しいことなのである。
「……アスカ。私はザナドゥと戦う、と言いましたよねぇ?」
 エリザベートの視線が、真っ直ぐに明日香を射抜く。
「はい、そうですね」
「……私にだって、戦うことがいいことばっかりじゃなくて、悪いこともあるってことくらい分かりますぅ。
 多分、私が戦うと決めたことで、誰かは私を嫌うでしょうし、戦ったら戦っただけ、いっぱい嫌われると思うです」
「…………」
 エリザベートの言葉を、明日香は黙って受け止める。
「何をしても、誰かには嫌われる。嫌な思いをさせる。
 ……でも、何もしないでいたら、誰も私を褒めてくれない。認めてくれない。
 何より、私が気に入りません! 私の知らない所で勝手に話が進んでいくのを、私は我慢出来ません!」
 これをたとえば、三十間近の大した能力も取り柄もない人間が口にすれば、組織や社会からは総スカンを食らうだろう。だがエリザベートはまだ9歳。アーデルハイトとルシファーの血を受け継ぎ、無尽蔵の魔力を持つ彼女が、少々の無茶を口にするくらいは許されて欲しい。それが許されない社会こそが、本当に嫌である。
「……今すぐ飛び出していっちゃダメですよ?」
「……そ、それくらい分かってますよぅ。どれくらい待てばいいですかぁ?」
「そうですね……今建設中の砦が完成するまで、でしょうか」
「ちょ、ちょっと明日香さん。もしかして……」
 何やら二人でトントン拍子に進んでいくのを、危機感を抱いたノルンが口を挟む。それでも、二人の話は止まらない。
「それと、これはお願いです。私を、公的な立場でエリザベートちゃんの傍で護れるようにしてほしいです。
 制約が付いても構いません。体裁も気にしません。全てを護れないとしても、それでも、です」
「分かったですぅ。……じゃあこうしましょう、ごにょごにょ……」
 何かを思いついたのか、エリザベートが明日香の耳元に口を寄せて言葉を伝える。
「えっと……一体何がどうなってしまうんでしょう?」
 ぽかんとするノルンはこの後、自身の身に起こる事態を予想できるはずもなかった――。

「校長の姿が見当たらないようだけど。……まさか、逃げたりしないわよねぇ?」
「そのようなことは、断じてございませんわ。エリザベートさんは幼少故、心労が溜まっておいでなのです」
 既に他の生徒が校長室へ戻って来た中、一向に戻って来ないエリザベートを皮肉るメニエスへ、ルーレンが涼しい顔で答える。
 直後、校長室の扉が開き、全員の視線がそちらへ向く……が、入って来たのはノルンであり、そのノルンは一目散にエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)の所へ向かう。
「ノルン様、どうしましたの?」
「えっと、とにかく私に付き合ってくださいっ」
 頭に疑問符を浮かべながら、ノルンに手を引かれたエイムが、花弁の詰まった籠を渡される。
「そこに立って、明日香さんが入って来たら、籠の中の物をこうやって撒いてください」
「? ……分かりましたの」
 状況がさっぱり分からないながら、ノルンの言うことは聞いておこうという感じで、エイムが佇む。ノルンも同じ物を持ち、扉を挟んで反対側に立つ。
「……何なの?」
 訝しげな表情のメニエスに対し、ルーレンは無表情を貫く。当の本人も正直な所、これから何が起きるのか分からないでいた。

 やがて、校長室から入って来た“二人”を見て、果たしてどれほどの者が呆然とし、また唖然としただろうか。

 メイド服姿の明日香が、ヴェールを身に付けたエリザベートをお姫様抱っこしながら歩いてくる。二人の門出を祝福するように、ノルンとエイムが花弁を撒く。
 とても幸せそうな二人はそのまま歩を進め、エリザベートの魔法でポン、と拡張された椅子に二人並んで座る。
「……何のつもりかしら? 遊んでる暇はないと思うのだけれど」
「遊びじゃないですよぅ。今のは私とアスカの結婚式ですからぁ」
 サラリ、とトンデモ発言を口にするエリザベート。もうここまで来ると、殆どの者はただ見ているだけしか出来ないだろう。
「歳とか性別とかは関係ないですぅ。……あ、『私と結婚した人は、ずっと、毎日、傍に居なくてはいけない』という規則を今作りましたぁ。私が止めるというまで有効ですぅ」
 そんな規則が出来た所で、関係するのは一人しかいない。内容がトンデモだが、対象となる一人にとってはこの上ないかもしれないのでいいだろう。
「……そこまでして校長辞めたいわけ? 無責任な行動は控えてもらいたいものね」
「無責任じゃないですよぅ。私がザナドゥと戦いに行くのに、私を護ってくれる人は必要ですから」
 そこでようやく、その場に居合わせた生徒たちが、エリザベートの言葉に違和感を覚えて注目する。『私がザナドゥと戦いに行く』、果たして聞き間違いだろうか、そんな事を思った生徒がいるかもしれない。

「皆さんにお伝えします。
 私は、今イルミンスールに建設中の砦が完成次第、クリフォトをぶん殴りに行きますよぅ。

 皆さん、色々とやってるみたいですけどぉ、私はザナドゥと戦う、と宣言しましたぁ。
 だからそれをやるだけですぅ。これを皆さんがどう思うか、これから何をするかは、皆さんの自由ですぅ。
 私が周りの人にどう思われるかも、私はお任せしますぅ。結果として私が校長に相応しくないとなっても、構いませぇん!」

 スッパリと言い切ったエリザベートの表情は、この上なく晴れやかであった――。

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮烈です。
『イルミンスールの岐路 第2回』リアクションをお届けします。

・ジャタの森は、クリフォトがあった所周囲は被害があったものの、魔族を退けることに成功しました。
 新たなクリフォトの出現も確認されませんでした。

 ザナドゥ側で散々契約者と戦ったアルコリアですが、『戦記最初の1ページ』で魔神ナベリウスを一組で足止めしたという事実も明らかになったため、イルミンスールとしては彼女を裁けません。
 よって、超法規的措置で相殺とし、処置は今後次第とする、としました。また、ナベリウスから魂は返されています。

・クリフォトに“招待”された契約者はアーデルハイトに出会い、話を聞いた上で帰還を果たしました。
 その役割を果たしたアーデルハイトの花妖精は犠牲となりましたが、浄化作用を持つ花妖精の育て方が分かりました(育て方自体はトンデモですが)。

・イルミンスールの森に建設していた砦は、完成しました。
 小さな砦ですが、侵食を食い止める機能『フォレストブレイズ』、ウィール支城および飛空艇発着場からアルマイン用の魔力を無線補給可能、籠城可能な物資を備えています。

・校長室での顛末については、あるPCの行動が他のPCの行動をブロックし合う展開が多く見られました。
 故に決定打が出ず(EMUの方は、これまでの成果によって導き出されたものです)、メニエスの教頭の地位はそのままです。教頭という役職そのものも、即座に撤回、は難しい情勢です。
 但し、新人事案は提出される可能性があります。

・エリザベートの決断は、『自分はザナドゥと戦うと決めた。それを他人がどう判断しようと、構わない』というものです。
 砦と大型飛空艇が完成した今、エリザベートは単身でも戦いに行く覚悟です。


今後の予定につきましては、後日、マスターページ等で告知を行いたいと思います。
その時にはどうぞよろしくお願いいたします。