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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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「ニーズヘッグさんの時といい第五龍騎士団の時といい、イルミンスールは後手に回ってばかりでしたからな。
 ……私は敵への反発心のあまり、先読みに躍起になり過ぎていたのかも知れません」
 砦建設の作業を手伝いながら、鎌田 吹笛(かまた・ふぶえ)が呟く。色々と考えられる事態は吹笛の中では思いついていたが、今は素直に人手の求められる(そして、おそらくは今後、利用される機会のある)砦建設へと従事していた。
「予感通りに何かが起こったとしても、慌てない、感情をむき出しにしない事がせめてもの敵に対する反発でしょうな。
 たとえアーデルハイト先生が力も外見も大魔王そのものに変身するウルトラババ様だったとしても、華麗にスルーしてみせますとも。恐らく3分しか持たないでしょうからな」
「えっと……それ、何かのネタですか?」
 吹笛のちょっとしたボケに、やはり作業を手伝っていた白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)が反応する。確かに空気が違うという点では通ずるものがあるだろう。しかし3分もあれば、ザンスカールくらい吹っ飛ばせてしまうのではないかと思わせる所が、アーデルハイトの脅威なのかもしれない。
「……さて、と。こんな所ですかな」
 それまで動かしていた手を止め、完成した物を壁に括りつけて、吹笛が満足気な笑みを浮かべる。飾られたのは提灯、『霙門』と書かれたそれは、ちょっとした自己アピールのつもりであった。もちろんただ遊んでいたわけではなく、五精霊が張った装置への魔力供給線確保や、アルマイン運用の際ウィール支城や飛空艇発着場から魔力を融通出来るようなシステムの構築(有線に加え、無線でも魔力を伝達できないか検討中)などを手伝っていた。これくらいの余興は、塞ぎがちな戦時中においては許容されて然るべきだろう。
「そちらの方も、どうですかな?」
「え……そんな、私はいいですっ」
 ぶんぶん、と首を振る歩夢、けれども背中にはちゃっかり、アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)と自分の相合傘を描いた提灯を用意していたりした。

 直後、クリフォトの方面から強烈な光が、吹笛と歩夢の所まで届いた。

「な、何があったのかな!?」
「ふむ……報告しておくに越したことはありませんな。襲撃の予兆だとすれば、相応の対策を施す必要があるでしょうし」
 とりあえずの方針を決めた二人は、この砦の監督者である伊織の下へ向かう――。

「何をやってるんだ、あの馬鹿ふたり……! 帰って来たらお説教だな」
 怒りの表情を滲ませながら、ミカ・ヴォルテール(みか・う゛ぉるてーる)がサティナ率いる赤備え(精霊有志で結成された、サティナ私設の部隊ということになっている)に加わり、異変の起きている可能性があるクリフォトへと向かう。なんだかんだ言いつつ行動する辺り、ミカものぞみ(とロビン)のことが心配なのである。
「サティナ様、あちらを!」
「む、何がある? ……あれは……皆の者、我に続け!」
 精霊の一人から報告を受けたサティナが、ある一点を目標に、降下を指示する。そこはちょうど、事前に伊織と検討して定めた境界線の辺りであった。
「……! のぞみ!」
 前の戦いで木々が倒され、辺り一帯が草原と化していたその場所には、クリフォトに向かったまま消息が知れずにいた4組の契約者、それにミカが心配していたのぞみとロビン、また、クリフォトの根元に向かった者たちが一様に、意識を無くした状態で(いずれの者も、命に別状はなかった)伏せていた。
「うぅ……か、かあちゃん……」
「わ、私は全ての植物の母……」
 ……意識が無いはずなのに二人の声が聞こえた気がしたが、それはきっと“愛”の為せる技であろう。

 その後、砦の居住区に運ばれ、目覚めた者たちは直前までの記憶を頼りに、起きた出来事を話していく。
 アーデルハイトの花妖精を回復させた所、クリフォトに光の亀裂のような物が走り、そこに一機のイコンが剣を突き刺した所、強烈な光が発生したこと。
 ザナドゥの本拠地、ベルゼビュート城の地下でアーデルハイトに会ったこと。そこで話したこと、そして自分たちを狙う敵の存在。
 それらはひとまず取りまとめられ、イルミンスールの情勢を鑑み、砦とイナテミス方面の間で共有されることになった――。

●飛空艇発着場

 かつては小型の飛空艇が何機か同時に離発着出来る程度でしかなかった『飛空艇発着場』も、ザナドゥとの戦争の最中、イコン用の機能を追加され、軍事的要素を色濃くしていった。
 今、拡張された滑走路を一機のイコン、『北辰妙見』がホバー動作のように進み、管制塔のある地点へと向かっていく。管制塔もイコンの離発着を管制するため、それまでのものより高く、そして咄嗟の衝撃にも耐えられるよう、頑丈に作られていた。
 『北辰妙見』が管制塔の直前で右に折れ、格納庫の並ぶ場所へと向かっていく。そのまま整備を受ける……のではなく、腕に持っていた四角形のパネルのようなものを、周囲の安全を確認した上で一旦地面に置く。
 それは、無線用の魔力伝達装置であった。有線の方が一度に大量の魔力を伝達できるのだが、森の侵食状況などを鑑みると、迂闊に魔力線を張ることが出来ない。それよりは、効率の低下を妥協し、無線による魔力の伝達を行えるようにした方がいい、との判断であった。

(ここも、今は魔族の標的となっていないみたいだが、いずれ感づかれる。ザナドゥに与する契約者の存在もあることだし)
 『北辰妙見』を操縦する高月 芳樹(たかつき・よしき)は今回、ジャタの森攻防戦に参加する契約者を支援するため、飛空艇発着場の警備を買って出た。彼の存在が功を奏したか、あるいはそこまで戦力を振り分ける余裕がなかったか、まだ敵が発着場の存在に気付いていないか、色々な理由が考えられたが、ひとまず魔族の存在は確認できなかった。
「芳樹、作業を開始します。よろしいですか?」
「ああ、頼む、アメリア」
 同じく搭乗するアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)の言葉に、芳樹が頷く。警備業務の傍ら、今も続く整備拡充の手伝いも請け負っていた。『人間の数倍〜数十倍の力が出せる乗り物』は、何も戦闘をするだけが存在理由ではない。歴史の中では、建設用機械だったものを戦闘用に改造したものもある。こうした使われ方の方が、本来なのかもしれない。
「二番滑走路にイコンが着陸してくるぞえ」
 一行の中で“目”を担当している伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)(もう一つの目はマリル・システルース(まりる・しすてるーす)、ちなみにアメリアがたとえるなら神経であり、芳樹は頭脳)が、周囲の状況を確認、必要な情報を芳樹に伝える。基本的には平和な発着場だが、時折ジャタの森方面から帰還してくる機体があり、その時は否が応でも今が戦争の最中であることを思い知らされた。
(……いつか私たちもあのように、戦場に立つ時が来るのでしょう。
 戦いを奨励はしません、ですが、戦わねばならない時もある。その時に互いが互いを思い合い、助け合えることが出来るでしょうか)
 補給、整備を受け、再び戦場へと発つその機体を見送り、マリルが心に思う。

 一方ドッグでは、イルミンスール・イナテミス方面をカバーするための大型飛空艇、及びそれらの旗艦となりうる戦艦等の建設が、各方面の助力の下、行われていた。
「えーと……大型飛空艇の仕様はこれで通ったから……旗艦はこれに、装甲、機動面でのスペックアップ、避難用は武装を絞り、機動を殺す代わりに装甲を増加……」
 その一室で、日比谷 皐月(ひびや・さつき)は申請が通り、10機の量産が進められている大型飛空艇の仕様書を元に、旗艦と避難用艦船の仕様書を作成していた。旗艦は1隻、避難用艦船は2隻の着工許可が下りているとはいえ、無茶苦茶なスペックを要求しては完成が遅れ、戦線への投入が意味のないものになってしまう。手早く書類をまとめ、かつ実戦投入が遅れないよう、配慮する必要があった。
「……もしもし? あーはい、作業完了? お疲れ様です。……ええはい、その件についてはお願いします」
 一方で、皐月はこの区域で行われている作業について、連絡を取りまとめる役も担っていた。今のは芳樹からで、無線伝達用パネルの設置を完了し、西側で建設が進んでいる砦との動作確認を行う旨を受け、それを許可するものであった。
「何もやることねぇ、と思ってたけど……存外暇じゃねぇなぁ」
 書類の作業を一時中断し、皐月がふぅ、と息を吐く。今までは己の身体一つで戦ってきたが、それを諸般の事情で止められたことで、今度は別の戦いをしているような、そんな気分になってくる。
 前で戦う者、後ろで戦う者。そのどちらも役割が異なるだけで、欠けてはならないもの。
「……早く完成させちまわねぇとな。待ってる奴らがいるかもしれねぇんだ」
 だらけそうになる身体に鞭を入れ、皐月が書類作業を再開する。

「すみません、ここの過程についてなんですが……」
「ん……ああ、済まない。どれどれ……」
 外装、電子機器、武装の製作、それぞれがセクション分けされ、それぞれの部署を統括するリーダーからの報告を、マルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)が包括して取りまとめ、必要な指示を下していく。これに加え、完成した艦船を操縦する搭乗員の指導も行う必要があり、マルクスは瞬間的に意識が飛んでしまうほどの多忙の時間を過ごしていた。
(これで書類業務まで行っていたら、間違いなく倒れていたな。……皐月には感謝せねばなるまい。中々どうして、成長したものだ……)
 それでもマルクスがなんとか業務を続けられているのは、皐月が書類業務を担当しているからであった。その他、現地の住民(それはイナテミスの住民であり、また精霊であり)が自分たちに出来ることを一生懸命やっているのも、影響していた。
(だというのに、呆けてはいられないな)
 たるんだ意識を引き締め、マルクスが監督作業を続ける。

 その後発着場では、自由に運用が出来る大型飛空艇が10隻と、数百人単位を一度に載せることが出来る避難用の飛空艇、そして、戦闘の際に飛空艇やイコンの旗艦となりうる艦船の建設、それらに搭載する武器や弾薬、さらに爆薬などの装備の製作が完了することになる――。