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リアクション
第五章 東野をゆく
「どうですか、北都。何か、見つかりましたか?」
自分の背丈よりも高い所の書物を【サイコキネシス】で取り出しながら、リオン・ヴォルカン(りおん・う゛ぉるかん)は清泉 北都(いずみ・ほくと)に声をかけた。
「うーうーん、何にも〜。リオンはどう〜?」
「見つかっていたら、こんなふうに聞いたりしていません」
「あ、それもそうだねぇ」
二人は東野藩の誇る知の宝庫『知泉書院(ちせんしょいん)』で、書物の山と格闘していた。
彼らは、知泉書院や東野藩の穀物庫の持つ「保存の力」について調べていた。
知泉書院も穀物庫も古王国時代の遺跡を利用して作られている。
知泉書院は、その中に収蔵された資料が何時まで経っても劣化することがなく、穀物庫も、備蓄されている穀物が古くなることも味が悪くなることもなく、虫が湧いたりすることもない。
北都達は「この保存の力が、生物にも効果があるのではないか」と考えたのである。
そう考えて、遺跡に関する書物を知泉書院で探し始めたものの、あまりの蔵書の多さに、作業は遅々として進んでいない。
さらに知泉書院に収められている資料は、ごく最近の物を除けば、ほぼ整理がされていない。
そのため司書も蔵書のかなりの部分を把握できておらず、「そうした本に心当たりはない」という返事が帰ってきた。
こうなっては自力が探しだす他ないのだが、困ったことに北都もリオンも、こうした資料の検索に慣れているとは言い難い。
これらの悪条件が重なり、既に半日探し続けているにもかかわらず、未だに目当ての本は一冊も見つけられていないのだった。
「あれ?リオン、そこ東野藩の年代記のある書架じゃない?なんで、そんなトコ探してるの?」
「いえ、あまり資料の整理もされていないようですし、虱潰しに探してみようかと」
「いくらなんでも、その棚にはないんじゃないかなぁ……」
「いいんです。こうやって端から順に調べていけば、見落としも無くなりますから」
「そ、そういうモノ?」
「どうせ手がかりも無しに探してるんですから。『当たるも八卦当たらぬも八卦』ですよ」
「な、投げやりだなぁ……」
そうは言いつつも、北都とて他にいい方法が思いつく訳ではない。
結局、そのまま調査を進めるより他なかった。
そうして、約束した利用時間の刻限が迫った頃――。
「北都。ちょっと、これ見てくれませんか?」
リオンが、一冊の和綴じの書物を持って来た。
それは、先々代の藩主の日記だった。
本を端から調べていたリオンが、歴代藩主の手記が収められている書架から見つけ出してきたものだ。
「昔の藩主に、私たちと同じようなことを考えた人がいたみたいですね。知泉書院と穀物庫に生き物を入れて、どうなるか実験したみたいです」
「どれどれ?」
二人は額を突き合わせるようにして、小さい日記を読む。
そこには、次のようなことが書かれていた。
「知泉書院に生き物を入れたらどうなるか」と考えた先々代の藩主は、犬、猫、ネズミ、鉢植えの朝顔を二つずつ用意し、片方にはエサと水をちゃんとやり、一方は全く世話をしなかった。
すると、エサをやらなかった方の動物は全て数日で衰弱し始め、朝顔は枯れてしまった。
さらに数日様子を見たが、動物たちは全て餓死してしまった。
同様の実験を並行して穀物庫でも行ったが、結果は変わらなかった。
『結局、知泉書院も穀物庫も、生き物には有用な効果をもたらさなかった』
実験は、そう総括されていた。
「もしかしたら、この遺跡の力を応用して、滅びつつあるパラミタを支える力を維持したり出来るんじゃないかと思ったけど……」
「ちょっと、難しそうですね」
「そうみたいだね。残念だなぁ……」
日記を閉じて、書架に戻そうとする北都。
その時日記の中から、一枚の紙が抜け落ちた。
「ん、なんだろう……これ」
「何が書いてあるんですか?」
拾い上げ、中を見る二人。
どうやら、他の書簡の一部らしく、今まで読んでいた日記よりも遥かに古い紙が使わてれいる。
『――知泉書院で、四遺宝集成(しいほうしゅうせい)という書を見つけ、貪るように読む。この四州に、古王国時代の遺物がこれほど残されているとは――。所在については記述に推定やほのめかしが多く、極めて漠然としているが、確かめてみる価値はある。近習の者数名を選び出し、探索を命ずる――』
「北都!この書院以外にもまだ遺物があるって!」
「うん。でもこれだけじゃ……。とにかく、この四遺宝集成って本が何処にあるか、聞いてみよう」
二人は司書の所に行くと、四遺宝集成について訊ねた。
しかし、司書から返って来た返事は、芳しくないモノだった。
四遺宝集成は、多くの書物のその名が登場するものの、その所在がわからない、幻の書物なのだという。
百年ほど前までこの書院にあったのは間違いないのだが、いつの間にか行方がわからなくなってしまったのだ。
「どうする、北都?この本、探してみる?」
「うーん……」
そもそもまだここにあるかどうかもわからないのに、この果てのない書庫を調べるべきなのか。
それに、四遺宝集成に本当にそれほどの価値があるのか――。
途方に暮れて、立ち並ぶ書架を見つめる北都だった。
「樹さん。この度はご協力、誠に有難う御座います。私達は機晶石についての細かい知識が皆無ですので、皆様のお力があると大変心強いです」
「いや、私たちも決して専門という訳ではないが……。とにかく、出来る限りの事はさせてもらう」
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の言葉に、林田 樹(はやしだ・いつき)は生真面目な返答を返す。
「大丈夫ですよご主人様!この僕が来た以上、大船に乗ったつもりでいて下さい!バッチリ調べ上げますよ」
一行を先導していた忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が、「ドン!」と胸を叩く。
彼の《籠手型HC弐式》には、山頂までの登山ルートが記録されている。
「えぇ。ポチも頼りにしていますよ」
期待通りのフレンディスの言葉に、ポチは張り切って山道を駆け上がっていく。
この忠心逞しい獣人にとって、主人であるフレンディスの評価は何物にも代えがたいものなのだ。
フレンディスと樹率いる総勢8名のパーティーは、頂上目指して大直備山の険しい山道を登っていた。
8人の内、緒方 章(おがた・あきら)と新谷 衛(しんたに・まもる)は《小型飛空艇アルバトロス》で、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)は《空飛ぶ箒》で空を飛んでいるから、
厳密には登っているとは言いがたいのかもしれないが、ともかくも頂上を目指している。
頂上には、先日フレンディスたちが見つけた白女輝岩(はくじょきがん)がある。
樹が【根回し】で手に入れた書物をざっと調べた所によると、あの奇岩は、大直備山に坐(ましま)す山の神の力が宿る『磐座(いわくら)』なのだそうだ。
その磐座が、その大きさを物ともせず、元の場所から動かされていた事。
そして、その下に隠されていた細い穴の中から見つかった、割れた機晶石。
それらが何を意味するのか、樹たちの知見も交え、再調査するのためである。
「『神の力が宿る磐座』ねぇ……。その話が本当だとすると、『機晶石が破壊されたコトで神様の力が失われ、その結果として気候が変動。そして洪水が発生した』……っつー風にも考えられるが――考えすぎか?」
ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が仮説を披露する。
「さぁな。我にわかるのは、あの割れた機晶石を手にした瞬間『嫌な予感』を抱いた事と、長いこと持つのも嫌な感じであった事だけだ。それ以上は一切解らぬし、解りたくも無い。正直、あの石には関わりたくないのだ。全て、お主らに任せる」
レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)は、それだ言うと歩を早め、一行から離れた。
「れ、レティシアさん――」
「ほっとけよ、フレイ。レティシアのヤツ、今回も戦えないと知って拗ねてるだけなんだから――それより、フレイはどう思う?」
後を追おうとしたフレイを、止めるベルク。
彼女に惚れているベルクとしては、レティシアの意見より、彼女の意見が気になってしょうがない。
「そうですね……。確かにありそうな話ですけど……」
「だろ?」
「でも、『機晶石には悪魔とか邪悪な精霊とかが封印されていて、白女輝岩がその魔力を抑え込んでいた。洪水は、解放された何者かが引き起こした』……とかも考えられますよね?」
「あぁ……なるほど」
フレイの推論も、もっともだ。
「まぁ何にせよ、二人は『白女輝岩に起きた異変が洪水を引き起こした』と、そう考えているわけだね」
二人のやり取りを黙って聴いていた緒方 章(おがた・あきら)が、口を開いた。
「そういうお前はどうなんだ、章」
「色々考えなくはないけど、まずは科学的な調査をするのが先かな。――予断は、時として判断を誤らせるからね」
「もっともだ」
「お前がしたり顔で頷くな」
「イテェ!」
飛空艇の操縦席でウンウンと頷いている新谷 衛(しんたに・まもる)の後頭部に、章のツッコミが入る。
「みんな、もーすこしでてっぺんにつくれすよ!」
上空から周囲を俯瞰していたコタローが、声を張り上げる。
その声に、皆が山頂を振り仰ぐ。
そこには、横倒しになった白女輝岩が、陽の光を浴びて輝いていた。
「これが、白女輝岩か。ふーむ…………。岩そのものにも、岩があったと思われる場所にも破損は無いみたいだな。下からすごい力で持ち上げて、どかしただけとゆー感じだ」
樹は、岩を眺めたり触ったりしながら、わかったことを《銃型HC》に記録していく。
「オレ様とアッキーの二人がかりなら、元に戻せないこともないぜ」
【土木建築】の知識を元に、衛が言う。
「機晶石を戻さずに、岩だけ戻すことにどれだけの意味があるかが疑問だな」
ベルクが穴の中を覗き込みながら言う。
「ポチ。お前、中に入れないか?」
「お前は物のサイズも測れないのか?」
ポチはベルクを、蔑んだ目で見つめる。
「チッ。役に立たねぇ犬っコロだぜ」
「なんだと、この下等生物!」
「ダメですよ、二人共喧嘩しちゃ!」
「「はーい」」
フレンディスに止められ、借りてきた猫のように大人しくなる二人。
「お取り込み中失礼致します、樹様。調査結果の報告に参りました」
どこからともなく姿を現した《密偵》が、樹に耳打ちをする。
「いや、全く取り込んではいないが……。で、どうだった?」
「周囲を確認してまいりましたが、特に気になるようなものはございませんでした。伏せている敵もおりません」
樹の命を受け、周囲を捜索していた密偵が報告する。
「ご苦労だった。また頼む」
「御用の折には、何なりと」
密偵は頭を下げると、素早く姿を消す。
「何もなかったみたいだね、樹ちゃん」
「オレもここに来るまでの間、周囲の地形を気にして見ていたんだが、特に人の手が入ったような様子はなかったぜ」
衛が付け加える。
「そうか……。コタロー、ちょっと穴の中を調べてみてくれないか」
「わかったれしゅ!」
「あ、僕もやりますです!」
コタローに続いて、ポチも穴に駆け寄る。
二人は見た目によらず技術系で、《機晶技術》や《先端テクノロジー》に造詣が深い。
フレイとレティシアが【殺気看破】で周囲を警戒する中、二人は、樹の【根回し】や章の【至れり尽くせり】で用意された機材を用いて、あれこれと調査を進めていった。そして――。
「けっかがでたれしゅ!」
「この穴の下には、北斗山(ほくとさん)と同じ組成の地層があります」
北斗山と聞いて、樹たちの顔色が変わる。
「北斗山っていうのは?」
「このあいだ、コタたちがしらべた山でしゅ!」
「その山の地層を簡易測定器で測定した結果、『機晶石を産する可能性が高い』と出たんだ」
その時、検査を行ったのは章である。
「――そして北斗山もこの大直備山も、同じ嶺野山地(れいやさんち)に属しています」
「嶺野山地って?」
「北嶺藩と東野藩の国境になっている、山地の事です。北に向かうに従い標高を増していき、やがて北嶺山脈へとつながります」
【博識】なポチが説明する。
「ふーん、北嶺藩ねぇ……」
今一つ意味を掴みかねる、といった様子のベルク。
「それで、その機晶石を産する可能性の高い地層の中に、わざわざ穴を開けて機晶石を入れてあったとして、それに何の意味があるんだ?」
「さぁ、そこまでは……」
「……わからないれしゅ」
樹の質問に、コタローもポチも、そしてその場の一同も皆、首をかしげるばかりだ。
「なぁ樹。あの割れた機晶石だけど、まだ検査結果は出ないのか?」
「機晶石は、空京に送った。この四州には、精密な分析に必要な機材がないからな。結果が出るのは、当分先だろう」
ベルクの問に、頭(かぶり)を振る樹。
「……どうやら、これ以上ここで調査をしても、無駄みたいだね」
「じゃあどうするんだよ?」
章の言葉に、拗ねたような顔をするベルク。
「みんな、知泉書院って知ってるかい?」
「ちせんしょいん……そうでしゅ!」
「そうか!知泉書院か!どうして気づかなかったんだ!」
はっとして顔を上げるコタローとポチ。
「なんだよ、その知泉『書館』って」
「違う!書院だ、書院!古王国時代の遺跡を利用して作られ、そこにしまわれた書物は一切劣化することなく、いつまでも元の姿を保つ事が出来る魔法の書庫だ。過去何百年間とも何千年間とも言われる資料が、そこに眠っていると言われている」
聞いたこともないという顔をしている衛に、淡々と解説する章。
「しょこなら、このいわのおかれたころのしょもつが、あるかもしれないれしゅ!」
「どうだろう、みんな。ただ検査結果を待っているのも芸がない。ここは一つ、みんなでホコリにまみれてみるってのはどうかな?」
ニヤリと笑って、提案する章。
どんどん戦いから遠ざかっていく現状に、レティシアは顔をひきつらせていた。
「あ、あったあった。ここだよきっと!」
「うん、間違い無いよ!」
行く手に目的のモノを見つけ、駆け出す及川 翠(おいかわ・みどり)とミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)。
「川が三方に分かれた中洲の島の、大木の根元――確かに、大木があります」
「え?ドコドコ……あ、ホントですぅ〜!」
翠の指差す方向を見て、徳永 瑠璃(とくなが・るり)とスノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)も弾んだ声を上げる。
果たしてそれは、大木の根元に埋もれるようにしてあった。
「民間に伝わる古文書や口伝を調査し、失われた神や信仰を見つけ出したい」
そんな夢を持って東野に入った翆たちは、まず古文書の調査から始めることにした。
幸い東野藩では、藩主の代替わりがある度に、藩内の全ての神社や祠に幣物(へいもつ)が捧げられる風習があり、それに合わせて「神名帳」が作られることになっている。
《司書のケープ》を身にまとった翠とスノゥは、ここ何代かの藩主が作成した神名帳を調べる内、突如として記載の無くなった祠を発見することが出来た。
一行は、その祠があった水分村(みずわけむら)に飛ぶと、村の古老に聴き込みを開始した。
したのだが――。
「お婆さん。この辺りに、古い祠とかお社とかありませんか?」
「私たち、昔の祠を探しているんです」
「あ?お社……?村の鎮守様ならホレ、あそこの山の上にあるがね」
「違うんですぅ。今はもうお祀りされていない、昔の神様を探しているんですぅ〜」
「昔の神様……そんなもん探してどうするだね?」
「私たち、昔の神様に興味があるんです」
「は〜。外国の人たちはまた、変わったものに興味があるのぅ……。はて、昔の神様……?」
「どうした、トメさん?」
「あぁ、ちょうどいいトコに来たカメさん。この人たち、昔の神様を探してるんだってよ!」
「あ?神様?神様ならホレ、あそこの山の上に――」
「いえ、ですからそうではなくて――」
そんな感じのすったもんだが数時間も続き、いいかげん全員が不毛なやり取りに辟易してきた頃――。
「川が三方に分かれた中洲の島の、大木の根元で、半ば埋もれた祠のようなモノを見たことがある」
という情報を、釣り好きの老人から聞き出すことが出来たのだった。
「よいっ……しょ……。やったー!やっと取れたー!」
「やったー!ミリアお姉ちゃん、エラい!」
「そーっと、そっーと……あぁ!そんな風に乱暴に置いたらダメですぅ〜!」
「うわわ!だ、大丈夫ですか!?」
その埋もれた石祠と、格闘することさらに2時間。
日も西に傾きかけてきた頃、4人はようやく祠を掘り出すことが出来た。
「た、大変だったね……」
「発掘の用意まではしてなかったもんね〜」
「繊細なモノですから、ドラゴンにお願いする訳にもいきませんし……」
掘り出してみると、石祠は高さ1メートルにも満たない小さなモノだったが、埋もれていた割には状態もすこぶる良かった。
しかし石祠の扉は固く閉ざされ、中をうかがい知ることは出来ない。
「そんなコトより、早く開けてみましょうよ!」
「そうですぅ〜!早くするですぅよぉ〜!」
「わかったわかった。ちょっと待ってよ……うんしょ……か、固い……ちょっと翠、こっちお願いしてイイ?」
「うん、わかった!……く……この……」
観音開きの扉の右と左に分かれ、渾身の力を込めて引っ張るが、扉はビクともしない。
「ミリアお姉ちゃん、いちにのさんで行くよ!せーの、いち、にの……さんっ!」
「ガバッ!」
「「開いたぁ!!」」
勢い余って尻もちをつく翠とミリアを押しのけるようにして、祠の中を覗き込むスノゥと瑠璃。
そこには、すっかり古ぼけた紙の人形が2体入っていた。
両方共、色あせた赤い紙縒(こよ)りでグルグル巻きになっている。
「なんだろう、コレ……?」
2体の人形を、祠の中から取り出す瑠璃。
すると、数十年振りに外気に触れたショックのためか、人形に巻かれていた紙縒りが、突然二つに切れた。
「あぁ!」
「瑠璃ちゃんが壊したぁ〜!」
「エェ!私何もしてないですよぉ!」
必死に弁明しようとする瑠璃。
その時、紙縒りの外れた人形から、眩い光が溢れ出した。
「キャア!」
「ま、まぶしっ!」
「何、コレ!」
「今度は何ですぅ〜!!」
突然の光に顔を背ける4人。
光が収まったのを見て、恐る恐る目を空けると、そこには――。
「あなた方が、封印を解いて下ったのですね。有難うございます。わたくし、陽菜(ひな)と申します」
「よくも、この俺様を封印してくれたな!あの陰陽師め、見つけ次第とっちめてやる!……ところで、お前たちは誰だ?」
可愛らしい少女の姿の精霊と、生意気そうな子供の姿の地祇が、並んで立っていた。
「体ダルーい、足痛ーい、もうつーかーれーたー!」
「おお!ええ感じやなその疲れ方。まさに、全身でこの大自然を満喫してるカンジ?」
「満喫したくないわ、そんなん!」
瀬山 慧奈(せやま・けいな)は、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)の言葉を一蹴すると、不貞腐れてその場に座り込む。
「だいたい、なんでこんなトコ歩いてるわけ?バカみたい」
今彼等がいるのは、東野藩の北部に位置する、嶺野山地(れいやさんち)に属するとある山の中だ。
「生活に自然は密接に関わってくる。それらを調査することにより、此処の歴史や状態もわかるかもしれない」
「あんたみたいなバカ兄貴が、そんなモノ調べてどうすんのよ」
妹の慧奈はあくまで辛辣だ。
「だいたい、今いるのが何処の何という山なのかも知らないで、そんなコト調べて意味ないやんか」
「そう、意味ないもんに時間かけても意味あらへん。だから、下調べするような無駄なことはせん」
「ホント、アンタと一緒にいると時間の無駄やな――バカ兄貴に付いてきた、あたしがバカだったちゅーことや」
これ以上話していても埒があかないと思ったのか、慧奈は立ち上がると、かったるそうに歩き出す。
「早く気付けてよかったなぁ、慧奈。妹思いの兄に感謝しいや」
慧奈はチラリと裕輝の顔を一瞥すると、何も言わずに歩いて行く。
そもそも四州に連れてこられた事自体が不満な上に、無駄に疲れる山歩きをさせられた慧奈の機嫌はその後も全く直らず、裕輝が入り組んだ場所を探そうとしてもまるで手伝おうとしない。
しかも調べている裕輝が「深く探さず、浅く探らず」と主張してほどほどの調べ方しかしないものだから、これいといって目新しい物も見つからない。
結局二人は、丸一日謎の山ハイキングして、帰ってきたのだった。
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