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リアクション
第五章 旗本一千鬼1
【マホロバ暦1190年(西暦530年) 9月15日11:00】
葦原祈姫の陣――
葦原 祈姫(あしはらの・おりひめ)率いる葦原軍へ山頂にいた。
祈姫は刻一刻と戦況が過ぎる中、まだ迷っていた。
彼女の手には、東軍総大将鬼城 貞康(きじょう・さだやす)からの書状がある。
東軍へ味方してほしいという内容だ。
「祈姫さん、戦を終わらせに来たんでしょう? 僕も力を貸しますよ。ただ、最後は自分で決めてほしい。貴女が……望む未来を」
風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が傍らで声をかける。
彼女の横顔は少し大人びたようだった。
よく考えれば、最初にマホロバに祈姫が現れてから、こちらの時間で五年経っていることになる。
少しは男性恐怖症が治ったのだろうか。
祈姫は何かに懸命に耐えているようだった。
「私は、私と葦原の民の運命を変えたかった。でも、ここにきてどうしたらよいかわからなくなった。死ぬものは死ぬ。逃れられないのかもしれない」
「祈姫さんが何を心配してるのか、教えてくれませんか。力になれるかもしれませんよ」
しかし、彼女の唇は固く結ばれたままだ。
佐野 和輝(さの・かずき)が、ほとんど衝動的に祈姫の額に手を置いた。
「何というか……ほっとけないな。葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)の祖先ってだけじゃないよな。危なっかしいと思えるところは」
祈姫の顔がとっさに青くなる。
「顔色もよくないし、大丈夫か? よし、偉い偉い……」
和輝が子供を褒めるように彼女の頭を撫でた。
ますます顔色が悪くなり、その場に倒れ込んだ。
「あらあら、ごめんさないね。和輝がイケナイことでもしたのかしら」
松永 久秀(まつなが・ひさひで)がくすくすと笑いながら近づく。
隣では、アニス・パラス(あにす・ぱらす)が呆れたような表情をしていた。
「もう、和輝ったら!」
「お、俺は何もしてないぞ!」
「祈姫さんは、男の人が苦手なんですよ」
リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)が祈姫を抱き起していた。
「何でも生まれた時から葦原の巫女として育てられて、ご家族以外の男の人と接触する機会がなかったからだそうですけど」
リンゼイは小さくため息をついた。
「実の父親がもっと彼女に関心をもってあげれば……あれでは、頼る気もなくなりますよね。祈姫ひとりで何もかも抱えようとしてるようだわ」
「祈姫さん、貴女だけの問題じゃないはずだよ。葦原のことも未来のことも。マホロバが滅びるどころか葦原だって危ういじゃないか」
セルマ・アリス(せるま・ありす)が彼自身が決心したかのように、祈姫を促した。
「貴女の父、そして、鬼鎧の創作者である葦原 鉄生(あしはら・てっしょう)さんと話をしよう。『鬼鎧の力を鬼城に貸してほしい』と。『鬼鎧の力をうまく扱えるのは貴女の娘さんが連れてきますよ』と」
「え?」
祈姫は驚いたようにセルマを見た。
「でもお父さまは私のことなんか。知らない、わからないっておっしゃるわ。私のこと、ただの一度も見てくださったことなどないの。きっと、好きでないのよ」
辛い記憶を思い出したのか、祈姫は目を伏せて黙り込んでしまった。
セルマは励まし続ける。
「じゃあ、余計に話さなくちゃ。初めて話し合うんだろう。誰でも緊張するよ。いこう、僕も手伝うから」
「よし、俺も手伝おう。イコンブラックバードもある。これで山を下って戻ってくればいい」
和輝が颯爽と準備を始めた。
アニスと久秀もそれに続く。
「ふふ、斥候らしくなったわね。ついでに戦況も見せてもらいましょか」と、久秀。
「そうも言ってられません。鬼城との約束の時間もあります」
諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)が時間を気にしながら言った。
「どうことです?」と、祈姫。
「鬼城に密約を申し出ました。瑞穂の手前、葦原は動かない。いや、動けない。従って、どうしても助力が必要なときは、葦原の陣地に向けて包を撃てと。それを合図に駆け付けようと」
「なぜそのような」
祈姫の問いには、鬼城の 灯姫(きじょうの・あかりひめ)が答えた。
「私もそこにいる優斗に『幸せにする』と言われ騙されたようなもの」
しかし、灯姫は後悔はないのだといった。
「時には、人に背を押されて進まねばならぬこともある。騙されたと思って、受け止めてほしい」
「大丈夫ですよ。戦に参加するなら、俺も全力で行きますから。決して後悔はさせませんよ」
沖田 総司(おきた・そうじ)が刀に手をかける。
彼は武士の一人として戦に加われることを純粋に喜んだ。
「さあ、時間がありません。葦原鉄生と鬼鎧は、瑞穂の要請ですぐそこまで来てると思いますが、一時間で、戻ってこれますか」
孔明が念を押す。
もう賽は投げられたのだ。
祈姫はこれも運命なのかと思う。
「わかりました。私をお父さまのもとへ連れて行ってください」
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