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リアクション
第五章 旗本一千鬼3
【マホロバ暦1190年(西暦530年) 9月15日12:15】
東軍 鬼城貞康の陣――
南斗星君に搭乗した宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が誘導するのに続いて、鬼の一団があった。
鬼鎧となった朱天 童子(しゅてん・どうじ)。
そして、隊列を成す鬼鎧の先頭には、葦原 祈姫(あしはらの・おりひめ)の姿があった。
「すすめ! 東軍と合流せよ!!」
祥子が号令を下す。
鬼鎧は一斉に山を下り、目前の西軍に向かって突撃した。
ふいを附かれた西軍は、東軍の本体と挟み撃ちにあい、武将たちは次々と倒れた。
その様子を、葦原の戦神子は黒い目でただ見つめている。
「よう来てくれた! 祈(おり)殿!!」
ずっと本陣に控えていたはずの貞康が、前線にまで駆け付けていた。
祈姫の手を取り、握手する。
彼女はびっくりしたように手をひっこめようとしたが、貞康は強く握って離さなかった。
「わしは葦原 総勝(あしはら・そうかつ)殿との約束を果たす。必ずや泰平の世をつくり上げ、こなたら葦原の民が平和に暮らせるよう尽くそうぞ!」
「……そう、だといいのですが」
「堅苦しい挨拶をする間がない。後程じっくり話そう。おお、そちも来たか!」
大きな鬼鎧が一歩前にでる。
貞泰はその出で立ちに見覚えがあった。
「約束通り、ただ今を持ってこなたを旗本(はたもと)と任ずる。今日から侍(サムライ)を名乗るがよい」
かつて朱天童子の名で呼ばれた鬼鎧は、無言のまま、言葉を発することもなく恭しく片膝をついた。
すでに彼の身体は生身ではなくなっていたが、その眼の端には光るものがあった。
貞泰は、身も軽く朱天童子の肩にかけのぼると、腰の刀を抜いた。
「わしも行こう。貞康は一度も刀を抜かず弓もひかずに勝ったなどと後の書物に書かれてしまってはたまらぬからな。これは……『鬼の契』じゃ。受け取れ」
貞泰の刀に鈍い光が宿る。
気付けば、朱天の肩を貞康の血が濡らしている。
その貞康の頭には、鬼の証である角が二本あった。
「わしとこなたは、鬼契によって固い絆で結ばれた。もう切っても切れぬ縁。奈落の底に落ちようとも、わしはこれをマホロバの泰平に捧げる。ずっとこの先も、命が尽きようとも、わしに忠義を誓え。ともに世に尽くすため、戦おうぞ!」
貞康の掛け声とともに、あちこちから一斉に喊声が湧いた。
鬼城家の武将は貞康にならい、鬼鎧に乗り込む。
鬼鎧は阿修羅のごとく戦場を駆け、騎馬隊、旗持ち、足軽たちがそれに続く。
その勢いは凄まじく、混乱の中で東軍に寝返るも者たちも続出した。
牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)がはじめとするシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)やラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)が、嬉々としてそれを見守っていた。
もっとも彼女たちの目的は自分たちのイコンの性能を調べるためであるが。
「では、わたくしたちも参戦と参りましょうか。魔法耐性を見させて貰いますわ。未来の技術と過去の失われた力の会合……鬼鎧、汝や如何に!」と、ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)。
シーマとラズンはナコトを援護していた。
「葦原 鉄生(あしはら・てっしょう)が鬼の仮面にやられて、気を失っているのが残念だが、代わりにボクたちが調べておいてあげよう!」
「誉めてあげるよ。自ら進んでモノになっても誇りを失わないってことなら、ね!」
マホロバの鬼が『鬼神力』をもとに、鬼鎧の力を最大限に引き出す。
互いの強い絆と不屈の士道精神がもたらしたものだった。
それは、当時の最新武器であった鉄砲をはるかに凌駕していた。
力は熱気となり、うねりとなり、続々と味方が寝返り敵が増えていくという事態を、西軍の武将の目には狂気と恐怖に映ったのだろう。
誰かが、鬼一千機が押し寄せてくるといったのを、信じ込むまでになった。
「こんなはずでは……こんな!」
西軍の将日数谷 現示(ひかずや・げんじ)は、愕然とした。
「どうしても、勝たせてくれねえのか」
勝負はついた。
開戦前はほぼ同格、数では西軍有利とまで言われたが、わずか半日の出来事であった。
西軍は山に鶴翼の陣を率いて敵を呼び込み、一方の東軍は魚鱗の陣。
皮肉にも、貞康が昔、四方ヶ原(しほうがはら)で武菱軍に敗れたときと同じであった。
西軍は総崩れとなって、敗走を始めた。
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