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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

リアクション

 

ニルヴァーナの地

 
 
 絶え間なく変化はしつつも単調なヴィムクティ回廊を進んで行く。
 無限に続くかと思われた回廊にも、ついに終わりが見えてきた。
 突き当たりと思えるところに光が輝く。ゲートだ。
 ゴアドー島にあっと物と同じ大きさのリング状の巨大施設が、ゆっくりと回転しながら宙に浮かんでいた。
 どうやら、回廊内のゲートの施設は回転をしているらしい。まるで、宇宙空間に浮かぶ巨大なリング型宇宙ステーションを下すら見あげているような感じだ。
「ゲートに突入する。各自、通過に備えよ」
「これより、本艦はゲートを通過します。各自、衝撃などに備えてください」
 グレン・ドミトリーの言葉を、リカイン・フェルマータが艦内に告げた。
 ゆっくりと、フリングホルニがゲートに入っていく。一瞬の輝きは、まばたきする間もない。
 ブリッジの窓の外に、それまでとはうってかわった荒野の光景が広がっていた。
「シャンフロウ卿、ニルヴァーナです」
 デュランドール・ロンバスが、目を見張るエステル・シャンフロウに告げた。
 
    ★    ★    ★
 
「到着したか」
 空港の滑走路に停泊したフリングホルニを見て、レン・オズワルドが椅子から立ちあがった。
「すぐに、遺跡のことを相談しないとな」
 フリングホルニからシャトルが降りてくるのを確認しながら、レン・オズワルドはラウンジへと急いだ。
「僕たちも行くよ」
 トマス・ファーニナルが、パートナーたちをうながした。
「テノーリオ、ミカエラ、資料を忘れずに」
 魯粛子敬に言われて、テノーリオ・メイベアとミカエラ・ウォーレンシュタットが、ニルヴァーナの地図や緋桜ケイから送られてきたデータなどをかかえて後に続く。
 空港には、ゲートから出てきた艦船が、次々に降り立っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「船体のチェックを頼む。長旅の後だ、どこかにしわ寄せが来ていてもおかしくないからな」
 閃崎静麻が、乗組員たちにツインウイングのチェックを命じる。
「確認しすぎて悪いということはありえないですからね。いざというときのために、二重三重に、しっかりとチェックしてください。特に、艦首の装備を念入りに」
 レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が念を押す。
 小型飛空艇ヴォルケーノに乗ると、閃崎静麻とレイナ・ライトフィードはフリングホルニへとむかった。
 
    ★    ★    ★
 
「あったあった、そこの宅配屋さーん。受け取りにきたよー」
 すでになんだかよく分からない形になっているシュヴァルツガイストが降りてきた新風燕馬が、空港の資材置き場にある自分たち宛の荷物に駆け寄っていった。
 本来は、ニルヴァーナからツァンダまで運んでもらってから取りつける予定であったのだが、現状ではニルヴァーナへととりにきたような物だ。
「さて、それでは取りつけにかかりましょう」
「頼んだぞ。俺は、先にザーフィアに連れていってもらうから」
 さあこれから作業だというサツキ・シャルフリヒターに、新風燕馬が言った。
「で、どこへです?」
 サツキ・シャルフリヒターが肝心なことを聞き返す。
「聞いてくる!」
 新風燕馬は、あわててエステル・シャンフロウを捜しに走りだした。
「なんとか間にあったかな。さて、後は出撃を待つだけだ」
 フリングホルニ到着までにバロウズの改修を終えた夜刀神甚五郎が、パートナーたちと一緒にコックピットの中でじっと指示を待った。
 
    ★    ★    ★
 
 ラウンジは、ちょっとしたブリーフィングルームと化していた。
「以上が、エンライトメントからもたらされた情報の全容です」
 魯粛子敬が広げた地図で概要を説明した後、トマス・ファーニナルがいったん締めくくった。
「その遺跡って、なんなのでしょう?」
 話に出て来た遺跡について、ノア・サフィルスがエステル・シャンフロウに訊ねた。
「さあ。ニルヴァーナのことはよく分かりませんから」
 さすがに、エステル・シャンフロウも答えに困る。
「遺跡と言うからには、ギフトのような物でも眠っているのかしら」
 危なくないものならばいいのだけれど、山葉加夜が言った。
「つまり、現在ソルビトールは、ニルヴァーナのブラッディ・ディヴァインのアジトを襲った後に、その鏖殺寺院たちが調べていた遺跡へとむかったというわけだな。そこで何かをするか、何かを手に入れるために」
 デュランドール・ロンバスの言葉に、トマス・ファーニナルがうなずいた。
「いったい、敵の狙いはなんなのでしょうか」
 エステル・シャンフロウが考え込む。
「出来事だけを捉えれば、敵の背後に鏖殺寺院はいないということになりますが……」
「はてさて、また、陽動だとも限りませんが」
 デュランドール・ロンバスの言葉に、魯粛子敬が言った。
「敵の目的は、こうやって、俺たちが混乱することにあるのかもしれないな」
 レン・オズワルドが、渋い顔で言った。
「敵は、俺たちよりも先行している。ここは時間をおかずに、敵を追い詰めるべきだろう」
 レン・オズワルドが言った。
「その通りだな。ここではっきりさせておこう。現在の我々の目的のことだ。我々は、エリュシオン帝国の国家神でもなければ、代表でもない。それどころか、軍の司令官でもないのだ。それは、君たちも同じであると考える。そして、今追いかけているのは、一人の犯罪者だ。それ以上でもそれ以下でもない。我々が現在しようとしていることは、犯罪者の逮捕であって、国家を救うための戦争をしに来ているわけではないのだ。もちろん、先の戦いを見ても、結果が母国を、あるいは、パラミタを。それどころか、ここニルヴァーナを救うことになるかもしれない。だが、それは、あくまでも結果だ。目的ではない」
「ええっと、つまりなんだ、その……」
 よく分からなくなって、テノーリオ・メイベアがちょっと頭をかかえる。
「我々が、すべての世界を救う義務はないということだよ」
「でも、目の前の危機を見過ごすわけにはいかないわよ」
 ミカエラ・ウォーレンシュタットが言った。
「そう。それには対応すべきだろう。だが、目に見えない物まで掘り起こして対応することはないのだ。それは手にあまる。だいたい、パラミタにいる戦力は、我々だけなのか? エリュシオン帝国には竜騎士団がいるし、シャンバラには国軍がいる。彼らは、全軍をあげて今回のことにあたっているか? 否だ。彼らには彼らの戦うべき範囲がある。それがあるからこそ、その範囲から外れた敵を、我々が安心して追えるというわけだ。軍とはそういうものである。だからこそ、我々は軍を外れた集団形式をとっている。敵が何を仕掛けてこようと、それは無視すればいい。そこには、正規の部隊が目を光らせているのだからな。我々は、もっと目的を絞るべきだと思うが。いかがでしょうか、シャンフロウ卿」
 持論を展開した後、デュランドール・ロンバスがエステル・シャンフロウにおうかがいを立てた。
「敵の行動は、叔父のソルビトールを追うべき私たちに、他勢力に注目させようとしています。そして、他勢力を監視すべき他の騎士団に、叔父を注目させようとしているのです。本来の仕事でないことをすれば、それはうまくいかないでしょう。それこそが、敵の作戦です。これに乗るのは愚かなことでしょう。私たちは、本来の自分の使命をまっとうすべきです。それこそが、味方を助けることになるはずですから」
「では、決まりですな」
「私と共に行く者は、その遺跡にむかいます。そこで、ソルビトール・シャンフロウを捕らえ、今回の出来事を終わりとしましょう」
 エステル・シャンフロウの言葉に、その場の者がうなずいた。
「それで、パラミタとの通信網の状態はどうなっている?」
 閃崎静麻が、エステル・シャンフロウに訊ねた。
「これこれ、どうなっておりますかでしょうに」
 即座に、レイナ・ライトフィードが新風燕馬を突っついて、小声で注意する。
「ええと、通信網は、どうなっておりますでしょうか?」
 シャキンと背筋を伸ばして、閃崎静麻が聞き返した。
 ニルヴァーナとパラミタの通信手段は、二通りの方法がある。
 一つは、ここにあるゲートから、ヴィムクティ回廊内の超空間通信を使ってゴアドー島のゲートと連絡をとる方法だ。回廊内の通信は不安定であり、視認距離でないと通常の電波での通信はできない。そのため、必ずゲート同士の専用通信となる。情報は、音声、データ共に、いったんゲートの通信施設でパケット化されて相手のゲートに送られるのであった。
 同様に、ニルヴァーナ創世学園のゲートと月基地のゲートも、ゲート間通信で情報のやりとりができる。こちらも専用の通信設備を使い、受信後にネットワークに繋ぐという感じであった。ただし、月基地の場合、その場所自体がパラミタから遠く離れているので、正確にはニルヴァーナ・パラミタ間の通信であるとは言いがたい。
 月基地から、パラミタにあるアトラスの傷跡の宇宙港へと、衛星間通信を行わなくてはならない。ある意味、こちらの距離の方が始めの回廊やヴィムクティ回廊よりも距離があるので難しいとさえ言える。
 そのために、アトラスの傷跡の宇宙港には専用の宇宙アンテナが立っていたのであるが、間の悪いことに、先のスキッドブラッドによる攻撃の際にアンテナが破壊されてしまっている。
 現在、宇宙港では風森望や源鉄心やコア・ハーティオンたちがマスドライバーの修理を優先させているために、アンテナは手つかずの状態であった。
「それじゃあ、ここのゲートとゴアドー島のゲートの連絡を密にするのが重要だな」
 閃崎静麻が言った。
「ブルタ・バルチャがここの警備にあたっている。彼から、恐竜騎士団には定時連絡をしているので、それを基本にするといいでしょう」
 グレン・ドミトリーが、ブルタ・バルチャがここに残ってくれることにちょっと安心したように言った。フリングホルニのブリッジをうろうろされるのは困るが、それ以外であればありがたい。
「ニルヴァーナ側のネットワークリンクは、ブラックバードに任せてもらおう。俺は先行して、中継基地を利用して、ここと各地に散った他の艦との広域ネットワークで情報網を確立しておく」
 佐野和輝が、いつも通りの役目だと言いたげに閃崎静麻に答えた。
「では、そのネットワークに、目的地の情報を流してください。現在ゲートにいる各員には、艦艇とイコンに同様のデータを送信してください。一時間以内に、全艦発進します」
 グレン・ドミトリーが、指示を飛ばしてから、チラリとエステル・シャンフロウの方をうかがう。エステル・シャンフロウがうなずくのを確認して、グレン・ドミトリーも小さくうなずいた。
「各員、配置に!」