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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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東入り口

 
 
「こちらは、誰も中に入ったような形跡はないが……」
 東の入り口を調べた佐野和輝が、コーキング処理で封鎖されている入り口を調べて言った。
どの手でいきましょうかねえ。
 御凪真人が、パラスアテナ・セカンドのウイッチクラフトキャノンを入り口にむけながら言った。大火力が売りのパラスアテナ・セカンドでは、屋内になってはそれを生かせなくなるため、武器を使うのであれば今のうちということになる。
「へたに破壊していいものか……。ここは慎重にな」
 迂闊なことはするでないと、名も無き白き詩篇が御凪真人を押し止める。
「だったら、削りましょう」
 そう言うと、小鳥遊美羽が、グラディウスのダブルビームサーベルを発泡凝固剤で固められたゲートにジャンプしながら突き立てようとした。だが、少し傷をつけられただけで効果がない。
「これは、対イレイザー用の封印剤みたいだよね」
 マスティマのコックピットにナノマシン状態で満ちていた夜愚素十素が、封印を見て天貴彩羽に告げた。ポータラカ人である夜愚素十素には、記憶の隅に覚えがあったらしい。
「中に、イレイザーがいる可能性もあるということですか」
 御凪真人が気を引き締めた。
「この程度の壁に負けるわけにはいかないよね。ベアトリーチェ、あれを使うよ!」
「分かりました。リミッター解除します」
 ベアトリーチェ・アイブリンガーが、グラディウスのリミッターを解除する。小鳥遊美羽が、新式ダブルビームサーベルを抜き放った。
「こっちならどおだあ!」
 ジャンプ一番、封印剤に突き立てた新式ダブルビームサーベルをそのまま斬り下ろした。ビームの突き刺さった周囲が灼熱して溶解し、今度は切り口ができる。
 何度かそれを繰り返し、小鳥遊美羽はイコンの通れる入り口を作りだした。
「先行する。先頭部隊の情報処理はマスティマで纏め、そちらへ中継するよ」
「了解した。こちらは後方で支援する」
 天貴彩羽の言葉に、佐野和輝が答えた。
 天貴彩羽のマスティマを先頭にして、斎賀昌毅のフレスヴェルグ、小鳥遊美羽のグラディウス、高崎朋美のウィンダム、非不未予異無亡病近遠のE.L.A.E.N.A.I、御凪真人のパラスアテナ・セカンド、アキラ・セイルーンのジャイアント・ピヨ、佐野和輝のブラックバードと続く。
「中は、照明が生きているんだね」
 小鳥遊美羽が、明るい遺跡内を見て言った。入り口からは、長い通路が続いている。結構な傾斜の通路で、本来は斜めにあがってくるエレベータで移動する物らしい。さすがにその動かし方は分からないので、各イコンは浮遊しながら下へと進んで行った。
「侵入した敵が、すでに遺跡のシステムを復活させているのかもしれませんね」
 少し心配そうに、ベアトリーチェ・アイブリンガーが答えた。
「なあんだ、せっかく光の指輪とかランタンとか用意してきたのにぃ……」
 せっかくの装備が無駄になったので、ジャイアント・ピヨに乗ったアリス・ドロワーズがぷうっと頬をふくらませる。
 通路を進んで行くと、広い空間に出た。幅300メートル、奥行き500メートルほどであろうか。高さは100メートルほどある。
「マップとしては、単純な構造ですね」
 マッピングをしていたマイア・コロチナが言った。一本道が、入り口から奧の広間まで続いている。構造としては、限りなくシンプルだ。
「倉庫か何かなのでしょうか?」
「さあな。天井部分を調べてみるか」
 そうマイア・コロチナに言うと、斎賀昌毅がフレスヴェルグを飛翔させて、天井付近を調べた。
 天井近くには、複雑にパイプが組み合わされており、照明や移動式のクレーンなどが配置されていた。そのパイプを足のクローでがっしりと掴むと、斎賀昌毅は天井面を至近距離でチェックしていった。パイプの構造物の上は、分厚い装甲板だ。位置的に、この天井が地上部分なのだろう。実際には土が被っていて分からなかったが、本来は金属的な平地である可能性が高い。その天井は、いくつかの巨大なパネルを組み合わせて構成されているようだ。
「天井におかしな仕掛けはないようだが……」
「高エネルギー反応があります」
「天井にか?」
 おかしな構造だと、斎賀昌毅がマイア・コロチナに聞き返した。
「うん、こちらでもエネルギー反応確認。床の下にも、強い反応があるよー」
 アニス・パラスが、各イコンから送られてきたデータを纏めて報告した。
「確認した。天井裏と床下には、何か機械的な物が埋め込まれているようだ」
 佐野和輝が、各イコンに報告する。
「調べてきましょうか?」
 システムと一体化して眠ったようにパイロットシートに座っているアニス・パラスの膝の上で、スフィア・ホークが言った。
「いや、スフィアは、そのままアニスのサポートを続けろ。実務的な調査は、みんなに任せる」
「了解しました。送られてきたデータを、アニスと一緒に集計処理します」
 佐野和輝に言われて、スフィア・ホークはそう答えた。
「ようし、こういう所は、一番奥に何かがあると決まっている。走れ、ピヨ!
「ピヨ!!」
 アキラ・セイルーンに命令されて、ジャイアント・ピヨがどどどどっと、陸上用トラックよろしく広間を走り抜けていった。防御用のスルガアーマーを着込んでいるので、見た目はメカジャイアント・ピヨになっている。その背部に、アキラ・セイルーンたちの乗るコックピットみたいな物がついていた。
「うきゃあ、もっと静かに動かしてよ! もう、アキラの、ぶわかぁ!」
 つきあわされているアリス・ドロワーズが、コックピットの中でゆさぶられて悲鳴をあげる。
「壁しかない。これって、開かないのかなあ」
 そう言うと、アキラ・セイルーンはジャイアント・ピヨに嘴で壁を突つかせた。
「やめなさいってば!」
 ポカリと、アリス・ドロワーズがアキラ・セイルーンを叩いてやめさせる。
「てっきり、イレイザーが守る巨大戦艦があると思っていたんだが、外れだったようだな」
 少し拍子抜けしたように、御凪真人が言った。
「敵がいないに越したことはないじゃろう。西から入った部隊は、敵イコンと戦闘に入ったようじゃが……」
 名も無き白き詩篇が、御凪真人に言った。ブラックバートからリアルタイムで送られてくる他の部隊のデータに、西部隊の戦闘開始のコードが含まれている。
『――この大きさ、戦艦のドックということも考えられるわね。床の模様に見える所、開閉部じゃないのかしら。あそこにあるのはコンソールかなあ。ちょっと調べに行ってくるね』
 床を調べていた高崎朋美が、壁に操作盤のような物をセンサーで見つけて、イコンを降りて調べに行った。
『――気をつけろよ』
 イコンに残ったウルスラーディ・シマックが、周囲を警戒しつつ高崎朋美をカバーする位置にウィンダムを立たせて守った。
「ちょっと手伝ってくるわ。マスティマをお願いね」
「任せてでござる」
 スベシア・エリシクスにイコンを預けると、六熾翼を使って天貴彩羽が下に降り立った。いつの間にか、夜愚素十素も人の形に戻ってついてきている。
「分かりそう?」
「うーん、勝手にいじるのは危険すぎるし、ちょっと……」
 天貴彩羽に聞かれたが、初めて見る操作盤に、高崎朋美が難しい顔をした。
「そこは、こうだよ」
 そう言うと、後ろから手をのばした夜愚素十素がポチッとボタンを押した。
 とたんに、床が鳴動した。
 あわてて一同が身構える。
「床に変化があります!」
 E.L.A.E.N.A.Iのコックピットの中で、イグナ・スプリントが叫んだ。
「退避します」
 非不未予異無亡病近遠が、すぐにE.L.A.E.N.A.Iを壁際に退避させた。
 広いフロアの中央部分が、ゆっくりと左右に開いていく。
「下に何かございます」
 アルティア・シールアムが、床の下に隠された物を見つけて言った。
「これは、何かの機械でしょうか」
 中央がへこんだ二つの山型が一列にならんでいる。あるいは、一口大に切ったバームクーヘンを縦一列にならべたと言った方がいいだろうか。
「俺たちが探していたのは、こいつなのか?」
 床下にならぶ巨大な機械のような物を見て、ウルスラーディ・シマックが言った。
ロックオンしましたわ。撃っちゃっていいですか?」
ちょ、ちょっと、待ってください。早まらないで」
 E.L.A.E.N.A.Iのヴリトラ砲を、床から現れた建造物のような物へとむけるユーリカ・アスゲージを、非不未予異無亡病近遠があわててとめた。
「え〜……」
 ユーリカ・アスゲージが、不満そうな声をあげる。
「スベシア、あのイコンに変な真似はさせないようにしてね。下に降りて調べるわ。行くわよ」
 夜愚素十素に声をかけると、天貴彩羽が下に降りていった。
「どこかで見たような気もするのだけれど……」
 どこかに手がかりとか入り口とかないかと、天貴彩羽が足許の物体を調べて言った。
「これって、まさかね……」
 夜愚素十素が、ちょっと眉間に皺を寄せる。
 その様子を見守っていた斎賀昌毅のフレスヴェルグの足許が突然ゆれた。
「なんだ!?」
 あわててフレスヴェルグが天井から床へと下りる。
「天井が、開いていきます!」
 ベアトリーチェ・アイブリンガーが叫んだ。
 天井が、中央部分から観音開きに外へと開いていく。その巨大さからは、想像もつかない仕組みだ。外の明かりが、遺跡内へと差し込んできた。端の部分から、上に乗っていた土砂が、滝のように零れ落ちてくる。
「彩羽、逃げるんだもん!」
 夜愚素十素が、天貴彩羽の手を引っぱった。すぐに、天貴彩羽が夜愚素十素をかかえてマスティマの方へと逃げる。
「早く中へ入るでござる!」
 コックピットハッチを開けて、スベシア・エリシクスが叫んだ。
「いったん、外へ退避しろ!」
 佐野和輝が叫んだ。
 すべてのイコンが、明け開いた天井からいったん外へと避難する。
 それらを追うようにして、床下にあった物が浮上してきた。それぞれの正体は、一つ一つが大型飛空艇を遥かに凌ぐ大きさの何かのパーツブロックだ。
 そして、一同の見守る中、それが合体し始めた。