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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

リアクション

 

遺跡

 
 
「来たようだな」
「あれが、フリングホルニか」
 遺跡近くに身を潜めて観察を行っていた緋桜ケイと悠久ノカナタが、接近してくる艦隊を確認して識別信号を送った。
 到着と同時に、エリシア・ボックのオクスペタルム号とレイナ・ライトフィードの乗るツインウイング、カル・カルカーのハーポ・マルクスが、アルマ・ライラックのウィスタリアを中心として遺跡上空に移動して調査と警戒を始めた。
「なんだか殺風景で何もないね」
 地上を見下ろしながら、ちょっとつまらなそうにノーン・クリスタリアが言った。
「遺跡という物は、大帝地下に埋もれている物ですわ。それでこそ、掘り出す楽しみもあるというものですわ」
 ちょっとわくわくしながらエリシア・ボックが答えた。
「敵は見えないようですね」
 レイナ・ライトフィードが、遺跡上空を周回しながらフリングホルニに告げた。てっきり敵戦艦がいるものと思ったのだが、そのような艦艇の姿はない。本当に、ここに敵がいるのであろうか。
 やや離れて、夜刀神甚五郎のバロウズが艦隊の警護にあたる。
 他の艦艇からも、アニメイテッドイコンに似たイコンの残骸以外に敵の痕跡は発見できないという報告があがる。同時に、東西南北に、遺跡への入り口らしき物が発見された。東はイコンが入れるほど大きく、西はさらに大きな入り口となって地下へ下っていくスロープとなっていた。南北の物は、小さく、明らかに人間用の高さしかない。
 すぐにフリングホルニに情報が送られ、第二艦橋でブリーフィングが行われることとなった。
 それに前後して、ニルヴァーナ各地から遺跡にむかっていた者たちが、次々と艦隊に合流してきた。
 朝霧垂の黒麒麟、三船敬一の21式装甲兵員輸送車、DS級空飛ぶ円盤に乗ってきた国頭武尊らが合流してくる。
 その他の大型艦船であるHMS・テメレーア、土佐、伊勢、巡洋戦艦アルザス、アストロラーベ号は、ニルヴァーナでの発進の遅れから未だこちらへむかっている途上である。
「状況からして、敵はすでに遺跡内に突入している可能性が高い」
「かなりこちらは出遅れてしまいましたからね。だが、それにしては、事態が何も進展していないのが不気味です」
 一通りの緋桜ケイの説明を聞いてから、グレン・ドミトリーが所見を述べた。
 確かに、ソルビトール・シャンフロウたちはエステル・シャンフロウたちよりもかなり先行できている。それにもかかわらず、何も事件は起きてはいなかった。鏖殺寺院との戦闘で時間をとられたと考えても、すでに遺跡の深部に達していてもよさそうなものである。乗ってきたであろう艦船がいないのも気になる。だが、目的を達したのであれば、何か変化があるはずだ。
「もしかして、もの凄くちっちゃいお宝だったとか?」
 フルーネ・キャストが、首をかしげた。
「イコンの残骸とかあるから、簡単なお宝じゃないよね」
 小鳥遊美羽が、もうお宝がないなんて考えられないと言った。
 すでに目的を達して撤退しているのであれば、単純に身を潜めているだけなのであろうか。だとすれば、ニルヴァーナの各都市を捜索した方がいいかもしれない。
「この遺跡の大きさからすると、新しい戦艦か何かが眠っているんじゃないのか?」
 紫月唯斗が、遺跡の規模を鑑みて言った。実際、発見された各入り口は、それぞれキロ単位で離れている。もし、何かの乗り物か要塞であれば、それに乗り換えるという意味で、送り届けた艦船が引き上げた理由もこじつけられなくはない。あくまでこじつけであるので、正確な理由は分からないが。
 何かが異動した真新しい痕跡は見られないので、まず、まだ敵は目的の物を手に入れていないだろう。問題は、なぜそうなのかということではあるが。
「遺跡にある物が戦艦の可能性は高いですね。なにしろ、敵はすでに旗艦となる空母を失っていますから。おそらくはそれに匹敵する戦艦ではないかと。ただ、遺跡に変化がないということは、まだ動かせる状態にないのではないでしょうか」
 ぐずぐずしていては、それを起動させられる心配があると御凪真人が言った。
『――あの遺跡は危険だってば!!』
『――あー、分かってるから、少し静かにしていて』
 さっきからテレパシーで叫び続けているシルフィスティ・ロスヴァイセに、リカイン・フェルマータがこめかみを押さえながら言い返した。警報装置になるとは思っていたが、これでは精度が低すぎて逆効果だ。
「そうそう。あのイコンが問題だと思う。同じ物を鏖殺寺院が捜していた、あるいは、何があるか分からないけれども調査していたようだ。だとすると、イコンやその他の部隊を使っても、目的を達せられなかったと思える」
 鏖殺寺院のアジトを調査した緋桜ケイが言った。アジトの様子からは、何を捜しているのか、何が見つかったのかの資料は発見することができなかった。もちろん、ソルビトール・シャンフロウたちが証拠を隠滅したという可能性もあるが、それであればアジトこと焼却してしまえばいいはずである。護衛のイコンを倒すほどの戦力は持っていたのだから、不可能ではないだろう。
「まさか、中で全滅してしまったのでしょうか?」
 ユーノ・フェルクレーフが考え込む。だとすれば、遺跡の中はちょっと怖い。
「だとしても、確認しなければなりません。早急に、探索隊を組織してください。私も中に参ります」
「いや、それは……」
 エステル・シャンフロウの言葉に、グレン・ドミトリーがちょっとあわてた。
「私が行かなくてどうするのですか」
 エステル・シャンフロウが、一言でグレン・ドミトリーを退ける。
「だそうだ。ただちにシャンフロウ卿の御命令に従い、遺跡の探査を行う」
 デュランドール・ロンバスが、きっぱりと言った。
「ニルヴァーナが初めてのあんたらは知らないかもしれないが、ここにはインテグラルとか、イレイザー・スポーンとか、いろいろやっかいな奴らがいるんでなあ。特に、遺跡みたいな物は、奴らがいる可能性が高い。うちの奴が纏めた資料がここにある、目を通しておいてくれ」
 三船敬一が、レギーナ・エアハルトの纏めた資料をデュランドール・ロンバスに渡した。
「それは助かるな。必要な者は、目を通してくれ。同時に、四つの入り口に対して、それぞれ突入隊を編成する。イコンの残骸が見つかった西の入り口は、私のイコンを中心として探査、及び敵イコンの排除を目的とする。フレロビーは、俺と来い。戦闘が想定されるので、各自屋内戦闘用の装備を怠るな」
「はい♪」
 またデュランドール・ロンバスと一緒にヤクート・ヴァラヌス・ストライカー乗れると、フレロビー・マイトナーが喜ぶ。
「東は、別のイコン部隊によって探査を行う。こちらも、戦闘の可能性があるので装備を怠らぬようにな。南の大きな方の入り口には、シャンフロウ卿と共に調査隊の主力に入ってもらう。ソルビトールの発見確保が主目的ではあるが……まあ、言わずとも分かっているだろう。ニルス、シャンフロウ卿の警護は頼むぞ。北の入り口には別の部隊を派遣する。以上だ。各員の働きに期待する」
 
    ★    ★    ★
 
「デュランドール・ロンバス、ヤクート・ヴァラヌス・ストライカー、発進する」
 カタパルトにあがったデュランドール・ロンバスが、ウイングを広げて官制室に告げた。発進のシグナルが来る。
 遺跡の南東に位置したフリングホルニから、フィールドカタパルトを通って真紅のヤクート・ヴァラヌス・ストライカーが射出される。ウイングが全開となり、ヤクート・ヴァラヌス・ストライカーが上昇した。
 その後、順次、フリングホルニに搭載されていたイコンが発進していった。
 ウィスタリアからは、柊真司のゴスホークが発進した。
 同様に、ハーポ・マルクスからは、高崎朋美のウィンダムが発進する。
 それぞれのイコンは、西と東の入り口に分かれて遺跡へとむかった。
 最後にフリングホルニから発進した笠置生駒とシーニー・ポータートルのジェファルコン特務仕様が、艦隊警備のイコンに加わる。
『東部隊は、指揮通信に特化したブラックバードを中核として、フリングホルニの指示を仰ぎつつ探索を開始しろ。しかし、そこの黄色い謎生物。そんな生き物で大丈夫か!?』
 指示を出したデュランドール・ロンバスが、一匹だけ異様なアキラ・セイルーンのジャイアント・ピヨを見て心配そうに訊ねた。
『大丈夫だ、問題ない。一番いいイコン……じゃなかった、ピヨを連れてきている。なめんなぃ! ピヨはこれでもイレイザーとも戦ったことのある歴戦の猛者だぞ!』
 すかさず、アキラ・セイルーンが大見得を切った。
『そうか……。では、西へ行くイコンは私に続け!』
 自分のことは自分に任せると、デュランドール・ロンバスは西の入り口へとむかった。
 東西にむかう探索隊は、フリングホルニに搭載されているシャトルやそれぞれの車両で遺跡内へとむかっていった。