イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

リアクション公開中!

地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「よし、当面の敵は排除できたようだな。前進する。先頭部隊はいったん下がって態勢を整えなおせ。中央部隊は変わって前に出る。後方部隊は、そのまま周囲を警戒」
 デュランドール・ロンバスが指示を出した。
 ひとまず通路に救っていたイレイザー・スポーンに寄生されたタンガロアはすべて倒したらしく、さしたる抵抗もなく先へと進めた。
 途中、イレイザー・スポーンに寄生された数台の重機が襲いかかってきたぐらいだ。
「敵は、イレイザー・スポーンが寄生しているとは言え、ただのクレーン車とかブルドーザーだよ」
 ミネシア・スィンセラフィが、素早く分析してシフ・リンクスクロウに伝えた。
『位置データは、さっきミネシアに教えたよ』
「ええ。あそこ狙ってー
 四瑞霊亀に言われて、ミネシア・スィンセラフィが突入ポイントを指示した。
「突っ込んで、混乱させます!」
 重機の間を縫うようにして、シフ・リンクスクロウがアイオーンを突進させた。敵の行動を読み、衝突しないようにしながらビームサーベルですれ違い様に斬りつけていく。
 その攻撃に、敵がすり抜けていったアイオーンを追って反転した。
 そこを逃がさず、フェルクレールト・フリューゲルがイコンホースを起動してメイクリヒカイト‐Bstを急接近させる。
「今です」
「もらい!」
 背後についたメイクリヒカイト‐Bstが、ビームサーベルで敵に止めを刺した。
 混乱した敵が、アイオーンとメイクリヒカイト‐Bstのどちらに対応していいのか混乱する。
「どっちを見ている」
 その死角から、悠久ノカナタがエンライトメントの薙刀を突き入れて敵を破壊した。
「前進!」
 敵排除を確認して、デュランドール・ロンバスが指示した。
 
    ★    ★    ★
 
 やがて、ついに通路の終端に辿り着いた。
 そこは広大な空間であった。幅奥行き共に数キロに渡り、高さ200メートルほどもある。
 通路の終端はバルコニー状の巨大なリフトとなっていた。頭上の天井には、複雑に組み合わされたパイプやレールが走っており、いくつもの巨大クレーンなども見える。やはり、こちら側の通路は、物資の搬入路だったようである。
 だが、驚くのは、その空間にぎっしりと敷き詰められるようにしてならべられた物であった。
なんなの、あれ
 整然とならぶ、メタリックな外装を持つ艦船群を見て仁科姫月が叫んだ。その数は優に100を超える。大きさは、長方体に似た形状の小型の物でも100メートル級。平たい涙滴型の物はフリングホルニに匹敵する大きさであった。最大の物は、直径が80メートルほどの円盤型をしている物が二機ある。
 その表面は半透明でいて鏡面のように光を複雑に反射して銀色にも虹色にも輝いている。実に幾何学的な美しい大型飛空艇であったが、その船体の表面のあちこちには、巨大な水晶柱状の突起が無秩序に突き出していた。イレイザー・スポーンだ。これらの艦船は、すでにイレイザー・スポーンに寄生されていたのである。
「通路が大きすぎるので艦船用かとは思っていたが、これは予想を超えているな……」
 ローグ・キャストがちょっと絶句した。
 ここに存在しているのは、イレイザー・スポーンの悪意に取り込まれた一大艦隊である。これが大挙してパラミタの一都市に集中攻撃をかけてきたら、たとえ撃退できたとしてもその被害は計り知れない。それどころか、パラミタ全土に散らばっているであろう大型飛空艇やイコンを素早く集めて対応できなければ、一方的な都市の破壊を許すことになる。
 もしも、敵の狙いがこの艦隊をコントロールし、ヴィムクティ回廊を利用して一気にパラミタに侵攻するという物であれば、ゴアドー島と目と鼻の先の空京はただではすまないだろう。もしも空京が崩壊し、アイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)に危害が及んだとしたら、パラミタの崩壊は加速してしまい、回避不可能な物になってしまう。
「あの先のとんがっている艦、スキッドブラッドの中から出て来たのに似てない?」
 多少大きさの違いがある艦船を見下ろして、キャロライン・エルヴィラ・ハンターが言った。
「詮索は後だ。来るぞ!」
 デュランドール・ロンバスが注意をうながした。ヤクート・ヴァラヌス・ストライカーが翼を広げて宙に飛び立つ。大型飛空艇の格納されている空間は、低速での飛行が可能なほどの広さがある。
 どこから出てきたのか、異形の大型飛空艇の陰から無数のイレイザー・スポーンに寄生されたタンガロアが現れる。まるで、それまで閉ざされていた扉がスイッチで開いたかのようだ。
「ちょっと待て、鏖殺寺院の奴ら、いったいどれだけのイコンをここに投入してるのよ!?」
 仁科姫月が、その総数を思って絶句した。
「もしかすると、ここで作ってたりしてな」
「さすがにそれは……」
 鏖殺寺院の基地というわけではないのだから、それはないだろうと仁科姫月が成田樹彦に言った。
「どちらにしろ、イレイザー・スポーンに汚染されているイコンや艦なんて、使えたもんじゃないだろうが。すべて殲滅するぞ、セイファー」
「はい、マスター」
 元気なセイファー・コントラクトの声を聞くと、バルムンクを飛行形態にチェンジさせた猪川勇平が、上方からタンガロアをスフィーダレーザーで薙ぎ倒していった。流れ弾が艦にあたるのも構わない。むしろ、寄生しているイレイザー・スポーン部分を狙って猪川勇平は攻撃をしていった。
 
「効果位置選定。ユーハブ、データ」
「アイハブ、データ。斬り込みます!」
 リフト部分から飛び降りるようにして、アイオーンがタンガロアの中に突っ込んでいった。高機動ユニットで縦横無尽に姿勢を制御し、まるで踊るステップを踏むかのように、華麗に敵イコンの間をすり抜けながらビームサーベルで斬り抜けていく。
 同様に、エンライトメントが下へ飛び降りた。着地点にいたタンガロアを、薙刀を振り回して薙ぎ払う。
 だが、その背後から、別のタンガロアが迫る。そちらへ左手をむけると、エンライトメントの袖口からマジックカノンが発射されて敵を貫いた。
 敵が後退してよろめいたところを、続いてやってきた十七夜リオのメイクリヒカイト‐Bstが、ホークアイで正確に狙いを定めて、ビームサーベルの唐竹割りで真っ二つにする。
 
「さーて、敵さんも気合い入れてお出ましみたいだし?こっちもやろうか……朝霧!」
「ああ。行くぜ、紫月っ!」
「承知っ!!」
 朝霧垂と紫月唯斗が、呼吸を合わせた。
「あ〜、垂がまたよい感じで楽しんでる……んまぁ、切羽詰まった感じで戦うよりはよいんだろうけどね〜」
 そんなやりとりを、ライゼ・エンブがどこか他人事のように黒麒麟のコックピットの中で楽しんでいた。
「ふ、ついに試す時が来たか! 良い! 騎乗モード【騎神剣帝】システム起動!」
 待ち構えていたかのように、エクス・シュペルティアがコンソールのスイッチを入れた。
 通路の奧から黒麒麟が走ってくると、リフトの上から大きく空中にジャンプして飛び出した。その背中にある鞍を目指して、魂剛がリフトから飛び降りる。
「レーザーセンサー同調。ドッキングスタンバイ」
 エクス・シュペルティアが、二機のイコンの移動軸が重なったことを確認する。
「人を超え」
「獣を超え」
「神をも斬り伏せるこの力、その身に思い知れ!! 陰陽合身!」
 イコン用のマントをはためかせて、魂剛が黒麒麟の背に飛び乗った。炎の鬣がゆれ、魂剛が光の手綱を手に取った。
 ズンと、黒麒麟の四肢が、下にいたタンガロアを情け容赦なく踏みつぶす。二機のイコンが一つとなったその巨体に、タンガロアなど紙人形も同然だ。
 炎の鬣を振り乱し、黒麒麟が前足を高く持ちあげる。その背で、魂剛が絶妙のバランスをとった。振り下ろされる前足が、別のタンガロアをスクラップへと変えた。
「おっ、調子いいねえ」
 楽しそうに、ライゼ・エンブが言う。
「黒麒麟とのシステムリンク確認! 問題ない、行けるぞ唯斗!」
 エラー一つないコンソールを見て、エクス・シュペルティアが紫月唯斗に言った。
「騎神剣帝! 推して参る!」
 紫月唯斗が馬上でアンチビームソードと二式レプリカを持った手を左右に広げた。
 朝霧垂が、エナジーバーストで黒麒麟を加速する。
 強烈な体当たりを食らったタンガロアが、宙に吹き飛ばされた。それを、魂剛が十文字切りに四つに切り刻む。疾風のごとく駆け抜けた黒麒麟の後方で、微塵にされたタンガロアが爆発して吹き飛んだ。
 いったん止まった黒麒麟の前方に、左右の艦の間から出て来たタンガロアがならんだ。
「我らが道を阻めるとおもうでないぞ!」
 ノリノリで、エクス・シュペルティアが言う。
悪いが、通らせてもらう
一気にかたづけてやるぜ
 紫月唯斗と朝霧垂は魂剛と黒麒麟と一体となって、タンガロアの中へと斬り込んでいった。
 
敵機の位置を送る
 成田樹彦が、魂剛と黒麒麟の通りすぎた後の損傷したタンガロアの位置を仁科姫月に指し示す。
援護するわよ
 仁科姫月が、リフトの上からビームアサルトライフルで正確にそれらタンガロアを仕留めていった。
 
「それじゃ、任せたぞフルーネ」
 応龍弐式のコックピットで、ローグキャストがフルーネ・キャストに言った。
「うん、任されたんだもん」
 生体CPUユニットをつけたフルーネ・キャストがニコニコしながら言った。メンタルレベルは正常のようだ。
 このシステムは、疑似BMIとして、パイロットの思考をダイレクトにコントロールへと反応させる。そのため、ローグ・キャストとしては、へたなサポートをするとノイズになるため、あえて攻撃は任せている。
「敵を捕捉しましたです」
 タンガロアの一番密度の厚い部分を探しだしてユーノ・フェルクレーフが言った。
「味方は大丈夫か?」
 念のために、ローグ・キャストが安全を確認する。
「一番奥の方ですから、壁を突き破らない限り大丈夫です」
 ユーノ・フェルクレーフが保証した。
「じゃあ、撃っちゃえー!
 フルーネ・キャストが発射を意識する。その瞬間、リフト上に砲台のように存在していた応龍弐式【強攻型】の両肩にある二連磁軌砲が発射された。
 電磁加速された弾体が、密集するタンガロアの中央で爆発した。爆風で、横にあった小型艦が倒れて、そばにいたタンガロアを押し潰した。