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リアクション
【オケアノスの変事:2】
「……ッ、マジかよッ!?」
アキュートが、その光景に驚愕の声を上げた。
先程まで美しい景色を湛えていたオケアノス邸中庭に、唐突に岩の塊のような龍が現れ、こちらに向けて突進してきたのだから、当然だろう。本体であった遺跡龍に比べれば大したことの無い大きさでも、生身で向き合うには脅威だ。ありえない場所でのありえない邂逅に、一瞬、皆目を疑ったが、行動は速やかだった。
息ひとつの間で飛び出したアキュートは、アキラとアリスを抱えると地面を蹴り、そのままグラビティコントロールによって重力を無視した動きで柱を蹴って少しでも距離を取ろうと動き、白竜は羅儀がクローディスの腕を引いたのを見計らって黒檀のパイプから紫煙を吐き出すと、その場全員の姿をそこへ隠す。
そして、荒野の王は薄く笑うと、アキュート達とは逆に踏み出し、ぱちんと指を鳴らした、次の瞬間。ゴギャッ、と鈍い音がし、起動したブリアレオスと小型龍とが激突した。
「……っぶね」
飛び散った破片を、龍鱗化した腕ではたきながら、アキュートが眉を潜めた。一撃の重さはブリアレオスが上だったろう。だが、小型龍は真っ直ぐに突っ込んできたため、ブリアレオスの拳は心臓に届かず、半壊した小型龍は動きを止めず、ブリアレオスの腕に絡みついた。そのままミシミシと圧力をかけているが、動きが止まった時点で、勝敗は決まったようなものだ。もう片方の腕が、その心臓部を砕けば終わり……の、筈だった、が。何故か、ブリアレオスはぎぎ、と動作不良でも起こしたように動きを鈍らせたのだ。
「……っ、く、こんな時に」
小さく舌打ちした荒野の王の表情が、初めて苦いものになっている。その間も、破壊された部分が修復されて元の形を取り戻すと、その全身をブリアレオスに絡みつかせ、蛇が絞殺しようとしているかのようにぎしぎしと軋んだ音が上がる。その光景に、ドラゴンのサラダに乗って追いかけてきたイコナ達も目を疑った。
「何か……様子がおかしいのだよ」
ローグと共に警戒態勢に入ったコアトルが、フルーネやライナの前へと出ながら、低く零す。小型龍の力はブリアレオスの強度には敵わないようで、締め付けてはいるがブリアレオスの直立不動は変わり無い。だが、このまま放置するのも危険、と、ペガサスのレガートに跨ったティーが、手を出そうとした、その時だ。
「余計な真似はするなッ」
荒野の王が声を荒げ、小型龍が吼えるのにも構わずブリアレオスの足に触れると、何かを探るようにその手を自身の服の内に滑り込ませた、その時だ。動き出したのと同じだけ唐突に、小型龍は締め付けるのをやめると、ずるり、と力を失ってブリアレオスの腕から滑り落ちて沈黙した。封印が溶けてから、活動限界の30秒を超えたのだ。一瞬、苦い顔で眉を寄せた荒野の王は、鉄心たちを振り返って口の端を嫌な形に引き上げた。
「……これは、貴様等の方から襲ってきたように思えたが、どういうことか、説明してもらおうか?」
返答次第では、と含んだ目線が一人一人を見やるのに、踏み出しかけた鉄心を抑えて、ツライッツが「申し訳ありません」と頭を下げた。
「遺跡龍が破壊されたことで、他の小型龍は沈黙していましたので、安全だと思っていたのですが……」
どうやらまだ、最後の力が残っていたようです、と、管理不行き届きによる不慮の事故だと強調するツライッツに、荒野の王は目を細めた。
「余を狙ったのではないと?」
「異なことを申されますね」
その問いには、鉄心が、心外と言った様子で口を開いた。
「その龍は人の手に従うような存在ではありません。相対されたあなたが、良くご存知だと思いますが?」
じわり、と不穏な空気が滲みかけたが、先に肩を竦めたのは、意外にも荒野の王だった。
「まあ良い。よもやここで事を構えるほど、貴様等も無謀ではあるまいしな」
言外に、こちらも事を構えるつもりは無いと示しながら、それにしても、と今度はその視線を興味深そうにクローディスへと向けた。
「何故あれは、動くことが出来たのであろうな?」
問うというより、追求するような物言いに首を傾げているクローディスに、荒野の王は続ける。
「確か、例の秘宝は破壊されていなかった筈だったな。貴様はそれを調べるといっていたが、手元にあるのか?」
秘宝を使い、この事件を仕組んだのか、と言わんばかりだが、クローディスは「いいや」と首を振ると肩を竦めた。
「然る所に保管している。何しろ私は”一般人”だからな」
遺跡でのやり取りを皮肉るような言葉に、荒野の王は面白くなさそうにふん、と鼻を鳴らすと、それで興味を失ったかのように踵を返したのだった。
荒野の王が遠ざかった後、イコナやティーが、何処となく悲しげな様子で小型龍を何とか運ぼうと試みている中、クローディスは声を潜め「……どうやら、秘宝のことが引っかかっているらしいな」と白竜に声をかけた。
「もしかすると、警戒しているのかもしれません。秘宝を蘇らせ、セルウスの力を目覚めさせるのを」
言って、氏無へテレパシーで連絡を取っている羅儀を横目に、白竜は握っていた超獣の欠片を取り出して「それに」となんとも言えない顔で眉を寄せた。
「何に反応したのかがはっきりしませんが、この事態の裏で、真の王が何らかの関わりを持っている可能性があります」
クローディスがその顔色を変えたのに、白竜は頷いた。
「先程……ブリアレオスが小型龍と激突している最中に確かにこれが反応したのを見ました」
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