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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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「……さて、君も知ってるとは思うが、現状において拠点の電気設備は、君のパートナーが管理するウィスタリアで充電された蓄電池で稼働している。今はこれでも何とかなっているが、今後状況が変化するのはほぼ必然。俺としては拠点整備の次段階として、ウィスタリアに代わる出来れば自前の発電設備設置に着手したいと考えている」
「ああ、俺もあんたの意見に賛成だ。ウィスタリアのエネルギー頼りってのも不安だしな。
 けど、実際どうする? この世界は地球やパラミタと違ってる点が多い。まず、太陽がない」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)が、拠点の電気設備についての検討を行っていた。静麻は候補として太陽光発電、風力発電、人力発電(これはネタ)を挙げたが、桂輔の指摘の通り、太陽が天秤世界には存在していなかった。
「太陽光がないのに、雨や風は発生するのが不思議だな」
「そこんとこよく分かんねぇけど、なんか別のエネルギーが供給されてるんじゃないのか?」
 地球で雨や風が発生するのは、太陽から供給されるエネルギーがあってこそである。パラミタでも一応はそういう事になっているし、天秤世界でも雨や風の現象は確認出来る以上、何らかのエネルギーが供給されているはずである。しかしその『別のエネルギー』が何か分からず、利用する手立てが思いつかない以上はどうしようもない。
「風力のみでは流石に出力不足だ。……こうなったらネタ満載だった人力発電を本格的に検討するか?」
 検討が詰まってきた所で、そういえばイルミンスールの校長であるエリザベートが天秤世界に来る手筈だったのを思い出す。
「なんかその辺、融通出来ないか聞いてみるか?」
「そうだな。俺達だけで話し合っても埒があかないようだ」

「なるほどぉ、電気設備のための電気の工面ですかぁ」
 静麻と桂輔から話を聞いたエリザベートが、ふぅむと腕を組む。
「そういえば話は変わるが、イルミンスールじゃあ電気設備をどう動かしてるんだ? まったく電気設備がないわけじゃないよな」
「大ババ様が言うにはぁ、イルミンスールが生み出す魔力を電力に変換してるって話ですよぅ」
「なんか都合のいい話だなぁ。俺見たことあるぜ、魔力ってのはいい加減な力の総称だって」
「そ、そんな事言ってもそうとしか言いようがないんですよぅ!
 …………、まさかとは思いますけどぉ……ちょっと待っててくださいねぇ」
 何かを思い立ったエリザベートが、アーデルハイトに連絡を取る。
「イルミンスールで使ってる変換装置をいっぱい用意してほしいですぅ。……今すぐには無理? 40秒で用意するですぅ!」
『そんな短時間で用意できるか!』
 しばらくやり取りを交わした後通信を切って、二人に向き直る。
「私の予想では、変換装置があれば電気を使えるようになると思いますぅ」
「ほう、理由は分からんが、そう言うなら任せておくか。
 ……後もう一つ、防御面の強化について大バ……ゴホン、アーデルハイトに知恵を借りたいと思うのだが」
 静麻が提案として、まず強度を持たせた風車を建て、その間に壁を設置するという案を話す。風車のうち二つ程度を昇り降り出来る構造にし、外との行き来を可能にする(あるいはあえてそこを敵に狙わせる事で、守りやすくする)案も提示された。
「平時はこの程度でも守り切れるだろう。問題は龍族や鉄族が本格的に攻めて来た場合だ。上空から爆撃でもされようものなら俺達は簡単に消し飛ぶ。せめて一度でも防ぎ切れる出力を備えたバリアがあればいいが、動力の問題がな……」
「話は分かりましたぁ。その事も大ババ様に投げちゃうですぅ」
 電気設備の時点で電力不足を嘆いている所に、バリアという高出力装置は到底設置出来そうにない。というわけでアーデルハイトの知恵を借りたいという静麻の声に、エリザベートはとりあえず話をしてみましょう、と告げる――。

(電力問題に、防御面の強化……。
 電力の件は、エリザベートも感づいとるようじゃが、天秤世界が世界樹の魔力を以て維持されているというなら、ここと同じような原理が働くはず。問題は後者じゃな……)
 アーデルハイトが腕を組んで考え込む。なるべくなら電力以外でのエネルギーを利用した、主に上空からの奇襲に耐えうる設備という候補に、一つの案が思い付きはしたものの、果たして協力を申し入れていいものか考えてしまう。
(……いや、変に意地を張ったり、気にしたりするのは良くなかろうて。まずは話をしてみるべきじゃな)
 考えをまとめ、アーデルハイトは水晶に魔力を込め、相手の反応を待つ。
『……はい、ケイオースです。アーデルハイト様、どうなされました?』
「いやな、ちとおまえたちに頼み事があってな。まずは話を聞いてくれるか?」


●共存都市イナテミス

「……なるほど。君たちはその、『天秤世界』という場で起きている事件を解決しようとしているのだね?」
「ええ、そうです、カラム町長。……この街をしばらく離れる事になるのは、気がかりではありますが――」
 『共存都市イナテミス』町長、カラム・バークレーの元へ、ケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)セイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)、二人に同行している漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が訪れ、事の次第を説明する――。

 アーデルハイトの思いついた案とは、『ブライトコクーン』を完成させたケイオースとセイランの力を借り、契約者の拠点に同様の設備を設置することであった。
『魔力の供給や、必要な資材の手配については私が責任を持って当たる。二人は天秤世界へ行き、契約者と共に『ブライトコクーン』と同様の機能を備えた設備を設置してほしい。……危険な場所に向かわせる事になる故、無理強いはせぬ。熟慮の末判断を――」
「アーデルハイト様、今更何を仰られますの。もうわたくし達は協力し合う関係にあるではありませんか。
 きっとカヤノならこう言いますわ、「あたいの身くらい、あたいで守ってみせるわ」と」
「確かに危険ではある、だがそれは既に天秤世界で行動する者たちも同じ。彼らの安全を確保する手伝いが俺たちの力で出来るというなら、是非やらせてほしい」
 アーデルハイトの言葉を遮り、ケイオースとセイランが提案に賛成する旨を伝える。
「……そうか、私の考え過ぎであったな。ありがとう、協力に感謝する」

「自然災害の類であれば、私の目から見ても完成の域に達していると思う。それ以外の防衛は、二人が居ない状態でブライトコクーンがどれだけ使えるかによると思う」
 契約者の視点から、月夜がイナテミスの防衛計画の状態を判定する。迫る脅威に対し、外部から救援の手が差し伸べられるまで街を守り切れるだけの備えがあれば十分、とも付け加える。
「ブライトコクーンの起動については、予め簡単な操作で起動が出来るように調整しておきます。普段より協力してくれている者にも事情を伝え、起動のためのマニュアルを作成しておきますので。町長の手を煩わせる事はありません」
「ふむ。私はここで「……ブライトコクーン、起動!」などと言えばいいのかね?」
 カラムが、いわゆる基地の司令官や戦艦の船長がやるような仕草を見せ、ちょっとした笑いが生まれる。
「なに、この街も決して、守られるだけではない。住民一人一人が力を合わせ、街の為に出来る事をしてくれる。
 カヤノ君の言葉ではないが、「私たちの街は、私たちで守る」だよ。ケイオース君、セイラン君、くれぐれも気をつけてな。君たちの帰る場所は、私が責任を持って守ろう」
「はい……行ってきます、カラム町長」
「必ず、無事に皆さんを守り、そしてまたここに帰ってきますわ」
 カラムの見送りと決意の言葉に、ケイオースとセイランが感謝の心でもって応える。

「天秤世界の方で進められている防衛計画を入手しておくよ。ここに来る前は天秤世界の防衛計画をイナテミスにフィードバック出来たらって思ってたけど、向こうで作業することになってもどのみち、必要になると思うし」
「ああ、助かる。……月夜、君もやはり、天秤世界へ行くのか?」
 『イナテミス精魔塔』への途中、ケイオースが月夜に尋ねれば、真剣な面持ちで答える。
「刀真が無茶しようとしてるのが分かるから。……刀真が傷付く前に、私が刀真を傷付けようとするモノを絶つ」
 今は別行動を取るパートナーを思う言葉に、ケイオースとセイランは揃って『これならもう大丈夫だろう』という思いを抱く。
「では、こちらの作業を進めてしまいましょう」
 セイランの言葉に頷いて、一行は足を早める――。

「ええっと、発電用のモーターに蓄電池、風車建築用の資材……それとアーデルハイトから受け取った変換装置に、これも建築用の資材、と。
 なんとかイルミンスール近辺で揃えられるもので正直、安堵してるわ。ソーラーパネルなんて見つけられそうにないもの」
「ええ、本当に。ツァンダにしろ海京にしろ、往復に相当の時間がかかりますからね」
 レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)が、ツインウィングに積み込まれた物資の最終確認を終える。ルーレン・ザンスカール(るーれん・ざんすかーる)が二人に出した信任状と、アーデルハイトの「こんなこともあろうかと」により(実際は不眠不休の努力があった)、当面の活動に十分と思われる量が用意されていた。
「後は、間もなく到着されるケイオースさんとセイランさんを乗せて、向かうだけですね」
「行ってらっしゃい。分かってるとは思うけど、向こうの世界は戦争のまっただ中よ」
「ええ、分かっています。……では、行ってきます」
 リオの忠告にレイナが表情を引き締めて頷き、背を向け搭乗予定のケイオースとセイランを迎えに行く。
「……さて、一仕事終わったわけだけど。だからといって遊んではいられないわよね。うーん……新たな買い付け先の開拓でも、やってみようかしら」
 思案するリオ、その時何かが光を覆い隠したのに気付いて上を見上げれば、『ツインウィング』の数倍はあろう大きさの物体が、『深緑の回廊』へ進入しようとしていた。
「あんなものまで入っちゃうのね〜。……なんか、考えていた以上に大事になりそうな気がするわ」
 呟き、リオは長期戦に備えた諸々の手配を整えるべきと、行動を開始する。


「あぁ、ティティナ、ここに居たのか。よかった、見つけることが出来て」
「け、ケイオース様!? ……わたくしをお探しでしたの?
 イルミンスール大図書室にて、真言の力にと『天秤世界』のような伝承がないかを探していたティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)が、自分の姿に気付いて声をかけてきたケイオースに慌てた声を上げ、周りを見て顔を赤くして声の調子を落として尋ねる。
「実はだな……」
 ケイオースが、エリザベートとアーデルハイトの頼みでセイランと共に天秤世界へ行き、契約者の拠点に『ブライトコクーン』の仕組みを応用した防御施設を作る旨をティティナに伝える。
「そうですか、ケイオース様も行かれるのですね、天秤世界へ。
 お姉様にお会いしましたら、よろしくお伝えください」
 少し寂しそうな顔をしつつ、ティティナが微笑んでケイオースを見送る。
「……さぁ、一冊でも見つけられるよう、頑張りませんと」
 そう口にして、ティティナが手がかりを見つけようと、14年前頃の出来事が書かれた本をめくっていく……。