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【四州島記 完結編 一】戦乱の足音

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【四州島記 完結編 一】戦乱の足音

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第六章  奇襲

「ちょっとセレアナ!もっとちゃんとフォローしてよ!さっきから気がつくと敵が目の前にいるわよ!」
「そういうセレンがちゃんと敵を防いでくれないから、ゆっくり照準を付けてる暇がないのよ!」

 果たしてレンの心配した通り、セレンとセレアナは苦戦していた。
 本陣に突入した直後は、全て順調だった。

 セレアナの支援の元、《ゴッドスピード》で反応速度を極限まで高めたセレンが一気に本陣に切り込み、《メンタルアサルト》を使用。突然目の前に現れたビキニ姿の美女に困惑している敵兵を、【フリージングブルー】で冷気を纏わせた【希望の旋律】で、当たるを幸い片っ端から撫で斬りにした。
 セレアナは、《女王の加護》で自身とセレンの防御力を高めつ、【絶望の旋律】で敵を銃撃。彼女が死角から攻撃を受けないよう、支援を続けた。

 しかし、それも長続きはしなかった。
 レンや陽一と同じ様に、スキルを封じられたのである。
 それでも二人の場合、《行動予測》により敵のスキル封じを予想して、いち早く撤退を始めたため、周囲を囲まれるという事は無かったが、しつこく追いすがってくる敵兵に手を焼いているのだった。

「これで……終わりぃ!」

 最後まで斬り合いを続けていた兵士を、渾身の力を込めた希望の旋律で両断するセレン。
 だが、至福の笑みを浮かべながら絶命する兵士の向こうから、さらに新手がこちらに向かってくるのが見える。

「まだ来るのぉ!しつっこいわね〜!!」
「これ以上はごめんよ!追いつかれる前に逃げましょう!」
「ハイハイっと!」

 後ろを振り返りもせず、脱兎の如く逃げ出すセレンとセレアナ。
 その二人の後を真っ直ぐ追ってきた敵兵が、突然の爆発に吹き飛ばされる。
 セレンが予め、逃走経路に【機晶爆弾】を仕掛けていたのである。

「『備えあれば憂いなし』ってね♪」
「ナイス、セレン!」

 満面の笑みでハイタッチするセレンとセレアナ。
 ヌメッとした血が辺りに飛び散るが、お互いにそんな事はお構いなしだ。
 更なる追手が現れる前に、二人は早々にその場を後にした。 



「待て」

 敵本陣を目指して走っていた唯斗は、背後からの声に足を止めた。
 いや、背後からのただならぬ殺気に、足を止めざるを得なかったという方が、正しいかもしれない。

(コイツを無視したら、マズイ事になる)

 という《覚醒マスターニンジャ》の勘が、働いたのかもしれない。

 ゆっくりと振り返った唯斗の視線の先に、抜身の刀を構えた男が二人、立っていた。

 唯斗よりも反応が遅れ、彼を追い越してしまったリーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)の前にも一人、若い男が立っている。こちらはまだ、少年と言ってもいいかもしれない。

 唯斗とリーズは、三人の男たちに前後を塞がれた形になった。

金鷲党志士、武田 旭(たけだ・あきら)
「同じく、武田 孫四郎(たけだ・まごしろう)

 唯斗と対峙する二人が名乗る。

「同じく、小津 将介(おづ・しょうすけ)

 こちらは、リーズの前に立つ少年だ。

「わざわざの名乗り、痛み入る。俺は――」
「紫月唯斗だろう?――そっちの女は、リーズとか言ったか」

 唯斗が名乗るよりも早く、旭が言った。

「以外と有名なのね、私達」

 リーズが軽口を叩く。

「お前たち五十鈴宮 円華(いすずのみや・まどか)の取り巻きの事は、一通り調べがついている」
「特に紫 唯斗。我等金鷲党に属した者で、貴様の名を知らぬ者はいない」
「残念だったな、リーズ。どうやら、俺の方が有名みたいだ」
「なによぅ。そんなコト、自慢にならないわよ!」

 あからさまに不満そうな顔をするリーズ。

(いくら負けず嫌いだって、そんなコトまでムキになる事はないだろうに……)

 自然と、唯斗の顔に笑みが浮かぶ。

「余裕だな。だが、そうして笑っていられるのも、今のうちだ」
「イヤ、コレは誤解だ」
 
 ザリッ、と歩を進める旭に、飄々と答えを返す唯斗。
 だがその間も、目は油断なく相手の一挙手一投足を捕らえている。

「我等が望むのは真剣勝負。術封じなどは使わぬ。全力で、かかって来い」
「……あとで後悔しても知らないわよ」

 バカにされたと思ったのか、敵愾心を剥き出しにするリーズ。
 
「お前らがココにいるってコトは、由比 景継(ゆい・かげつぐ)もこの島に来てるんだな――何処にいる」
「知りたければ、我等に勝つ事だ」
「生け捕りにしないとダメなのか……手間だな」
「ダイジョブ。あの坊やは、絶対あたしが取り押さえるから」
「へらず口をっ!」

 将介が、一気にリーズとの間合いを詰める。
 それが、戦いの合図となった。 
 

 こちら目がけて突っ込んでくる将介に対し、リーズも《麒麟走りの術》で一気に間合いを詰める。

(ナニっ!)

 将介は、完全に不意を打たれた格好となった。
 その将介に、《魔障覆滅》で連続して切り込むリーズ。
 将介は、かろうじてその全てを受けきると、大きく飛び退って一旦間合いを取る。
 しかしリーズは、将介のその動きを完全に読んでいた。

「これでも、くらいなっ!」

 手にした【龍覇剣イラプション】を逆手に持ち帰ると、渾身の力を込めて大地に突き刺す。
 その途端、将介の足元の地面から、紅蓮の炎が吹き出した。

「ぐあっ!」

 将介の身体が、炎に包まれる。


「将介!」
「人の心配をしている余裕があるのか。大したモノだ」

 将介の名を叫ぶ旭をそう皮肉りながらも、唯斗は決して手を休めはしない。
 立て続けに繰り出される《正中一閃突き》を必死に受け流す旭。
 旭はかろうじて全てを受け流すことに成功したモノの、その体勢は大きく崩れていた。
 
 パートナーの窮地を救うべく、孫四郎が横合いから切りかかる。
 二度、三度と刀を振るうが、唯斗はその全てを巧みな体捌きで躱す。
 尚も追いすがる孫四郎。
 その孫四郎の身体が、くるりと宙を舞った。
 敵の攻撃を避けつつ攻撃を加える、唯斗の《投げの極意》だ。

「ぐはっ!」

 激しい痛みが孫四郎の背中を襲い、一瞬、呼吸が出来なくなる。

「孫四郎!」

 体勢を立て直し、、孫四郎と唯斗の間に割って入る旭。
 致命傷こそ負ってはいないものの、二人ともこれまでの唯斗との戦いで、全身に手傷を負っている。

(オイオイ……。わざわざ名乗りを上げてかかってくる位だからどれほどのモノかと思えば、これかよ……)

 思わず、戦意を失いかける唯斗。
 リーズの方も、既に立っているのがやっとという将介に、拍子抜けした顔をしている。

「悪いが、いつまでもお前ら遊んでるヒマはないんだ。先に行かせてもらうぜ」
「ま、待て……」

 くるりと背を向ける唯斗に、なおも斬りかかろうとする旭。
 だがその時、リーズの《殺気看破》が危険を察知した。

「唯斗、避けて!」
「なっ!」

 聞き慣れた飛翔音と共に、擲弾が唯斗たちに迫る。
 次々と着弾する擲弾が引き起こす激しい爆音と爆風が、辺りを満たす。

「唯斗!」
「俺は無事だ!一旦引くぞ」

 もうもうと吹き上げる土煙の中、唯斗はそれだけ言うと、《疾風迅雷》で一気にその場を離脱した。
 リーズも、《麒麟走りの術》ですぐ後を追う。
 ともかく、視界を奪われている状況はまずい。
 
「どうするの、唯斗?」

 高速で疾走しながら、唯斗に訊ねるリーズ。

「奇襲に失敗した以上、出直しだ」
「了解!」

 二人の姿は、あっという間に見えなくなった。


「これでわかったでしょう?彼等の力が」

 唯斗達に負わされた傷と、全身に浴びた土煙のせいで、ボロ雑巾のようになっている旭達三人の元に、一人の男が歩み寄る。

「け、傾月様――」

 旭たちは、その男――名を、松村 傾月(まつむら・けいげつ)という――に、深々と頭を下げた。
 傾月の背後には、【グレネードランチャー】を構えた複数の兵士が立っている。

「彼等一人一人の戦力は、最早我々の手に負えるモノではないのです。力を封じた上で、数で押し切るより他ない」 
「……わかりました。申し訳、ございませぬ」
「わかれば良い。さぁ、早く傷の手当を。貴方達のような貴重な戦力を、失う訳にはまいりません」
 
 それだけ言うと、傾月は三人を部下の兵士に任せ、足早に去っていった。


 この初日の攻防が、二岡関における最も激しい戦いとなった。
 損害の余りの多さに驚愕した西湘軍は力押しを諦め、他の戦法を模索し始めた。
 一方東野軍も、スキル封じによる万が一の事態を考慮して、敵陣への切り込みは封じ手とした。
 もとより時間稼ぎが戦略目標の東野軍である。
 こうして翌日は、互いに牽制程度の攻撃に終始するようになった。

 そして対陣三日目――。

 西湘軍が下した結論は、迂回だった。
 一旦街道を戻ってから道を外れ、田野を越えて広城を目指すルートを選んだのである。
 しかしこの決定により、西湘軍は大きな時間のロスを抱えることになった。
 そして、この時間のロスが、北方で戦う九能軍に、致命的な結果をもたらす事になったのである。