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【蒼空に架ける橋】第3話の裏 停滞からのリブート

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【蒼空に架ける橋】第3話の裏 停滞からのリブート

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第一章 行動開始

――監獄島、隔離区域。

 周囲を警戒しつつナオシがコントラクター達を先導し、廊下を歩いて行く。
「……こりゃひでぇ」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)が廊下に転がる死体を見て顔を顰めた。垂だけでない。コントラクター全員があちこちに散らばった死体に、思わず目を背けそうになっていた。
「生きている方は……居ないのでしょうか?」
 富永 佐那(とみなが・さな)が死体を見て呟く。
「居るなら助けてやりたいんだがな」
 垂がそう言うと、ナオシが「そういった考えは捨てろ」と振り返らずに言った。
「あのタタリとかいうふざけた野郎、恐らくオレ達以外ここにいる人間皆殺しにしてるだろうよ」
 ナオシが吐き捨てる様に言う。その言葉に、誰も何も言えなかった。
 皆言葉には出さないが、あのタタリを見てその様に感じたからだ――この隔離区域内で自分達以外、生きている人間は居ないと。
「まずは他人より自分が生きる事を考えるこった……よし、ここだ」
 ナオシが足を止める。そこには巨大な鉄の扉が、来る者を拒むかのように沈黙していた。
「ここが『無事に』脱出する為の唯一の手段――この隔離区域とあっちの方をつないでいるエレベーターだ。残念ながらこっちからじゃこれは操作できねぇ……今俺の身内がここを開ける為に動いている。それまでの間、俺達はあのミサキガラスやタタリとかいう野郎共と一緒だ。これがどういう状況か、言わなくてもわかるな?」
 ナオシの言葉に誰も何も言わないが、その表情が十分に理解している事を物語っていた。
「じっとしてたら俺達もすぐそこいらに転がってる死体の仲間入りになっちまう……だが流石にここにいる全員で逃げ回るには人数が多すぎる。襲われても危険になるだけだ。一度バラけるぞ」
 そう言うとナオシは辺りを見回し、近くの看守の死体を見つけると傍らに屈み、漁りだした。
「……この扉が開いたら俺に連絡が来るはずだ。来た場合お前らにはこれで伝える」
 そう言って見せたのは、看守が持っていた通信機である。
「お前らもそこいらの死体から漁っておけ。看守なら多分持ってるだろうからよ……気が進まねぇ、だとか文句は言うなよ? 今はそれどころじゃねぇからな」
 ナオシは立ち上がると、全員を見回す。
「ああ、一応言っておく。もう一つ『運が良ければ』脱出できる方法がある。ここいらの窓ぶっ壊して雲海に飛びこみゃいい。風の流れに乗る事が出来れば、偶々この監獄島が近くまでいれば、そんな要素が都合よく組み合わさってくれれば、生きてどっかの地に流れるだろうよ」
 そこまで言ってから「まぁ完全に自殺行為だがな」とナオシが付け足した。
「あくまでもあんな野郎共に殺されるくらいなら、っていう最終手段だ。選ぶかどうかはお前ら次第だ。ついでに教えておくと、あの野郎……タタリとかいったか。見つかってヤバくなったら光を当てろ。時間稼ぎくらいになるだろうよ。間違っても正面切って戦おうなんて思うなよ」
 それだけ言うと、ナオシは背を向けて歩き出した。
「じゃあな。運が良けりゃまた後で」とだけ言い残して。

     * * *

――監獄島、収容区域。
 船から側近を伴いオミ・ナプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)を纏った紫月 唯斗(しづき・ゆいと)マルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)フレイア・ヴァナディーズ(ふれいあ・ぶぁなでぃーず)柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は内部へ潜入していた。
「……酷い有様だねぇ」
 オミ・ナが周囲を見回して呟く。その言葉に同調するよう、一行は顔を顰めた。
 この区域には本来囚人が収容され、それを取り締まる看守が居る筈だが、今あるのは所々で転がる死体だ。
「こりゃ監獄じゃなくて地獄だな……」
 恭也が吐き捨てる様に呟く。
「どっちも碌なもんじゃないね。ここは御覧の有様さ、油断してたらあっという間にやられるよ」
 オミ・ナの言葉で全員が身構える。マルティナとフレイアはハンドガンを、恭也はマシンガンを、唯斗は剣を装備している。自身の武装が無い今、これらは全てオミ・ナから借りた物である。
「ここってデッキで見た様な奴もいるのよね……申し訳ないけど相手はマルティナちゃん達に任せるわ」
「ええ……どこまで通用するかはわかりませんが」
 フレイアの言葉にマルティナが頷く。本来、フレイアは【バイタルオーラ】を希望したのだが、残念ながら似た物も無くハンドガンに収まったのである。
「こっちもある程度装備は整えてるからな、相手はできるだろ」
 そう答えた恭也は顔にサングラスをかけている。デッキで見た影――ヤタガラスが光に弱いという事で、攻撃時に目をやられないようにと装備した物である。
 恭也はサブマシンガン以外にも、照明弾を撃つ信号拳銃、白燐手榴弾といった装備を備えていた。これらがヤタガラス対策だ。
「……マスターは剣なのですね」
 プラチナムが呟く。
「まあな、って言っても戦う為には使う気はないけど」
 唯斗はそう言って剣を見る。何処にでもある様な剣だ。対人戦では有用だろうが、ヤタガラスに通用するとは思えない。
「使っても施錠切る程度だろうな……それより今回はお前の方本気で頼りにするぞ。確か【バニッシュ】とか使えたよな?」
「ええ、その辺りはお任せください」
「本気で頼りにしてるからな……それと、オミ・ナ?」
 唯斗の言葉に「なんだい?」とオミ・ナが返す。
「なんかここの事詳しいみたいだけどよ、助けるための算段……あるんだよな?」
「ああ、その辺りは任せて頂戴な。プランBもちゃんと用意してあるから」
「……あるんだよな?」
 一気に不安に陥る答えだった。
「……ちょっと待って」
 フレイアの言葉に、皆が足を止める。
「今、看守みたいな人が居たけど……あ、ほら!」
 そう言って目を向けると、一人の看守が立っていた。
「……でも、様子がおかしいですよ?」
 マルティナの言う通り、看守は呆けたようこちらを向いて立っているだけで、明後日の方向を見ている眼は虚ろで何も感じていないようである。死体と言われても納得しそうである。
「……あいつ、本当に生きてるのか?」
 恭也がそう呟いた直後、看守はゆっくりと顔を一向に向ける。そして、
「あ、あ、ああ、あああああああああああああああああああああ!」
悲鳴のような叫び声をあげ、手に持った銃器を向ける。

     * * *

――監獄島の外から、デッキを照らすオミ・ナの船。
 そこの近くにモリ・ヤの漁船があった。
「奴はあっちの船だけを狙っているみたいだ」
 モリ・ヤの視線の先には、雲海を漂う一匹の蛇が居た。勿論ただの蛇ではない。翼を携え、オミ・ナの船を上回ろうかと言うくらいの巨体だ。
「まずは奴の狙いをこっちに引き寄せなくてはならん……その役割を頼みたい」
 モリ・ヤが顔を向けると、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が頷く。その手には借りた対物ライフルが握られていた。
「引き寄せるのはいいけど……仕留めるんじゃないのか?」
 桂輔の言葉にモリ・ヤが頷く。
「銃じゃ難しいだろうな。あくまでこっちに目を向けさせる。近寄ってきたらコイツをぶち込んでやる」
 モリ・ヤが視線を横に向ける。そこには漁船に備えられた砲台――といってもそこまで大きくはなく、先端から鏃のようなものが覗いている物があった。
「それで仕留めるのですか?」
 アルマの言葉に今度はモリ・ヤは首を横に振った。
「いや、これは錨みたいなもんだ。尤も固定されるのは奴だがな……コイツをぶち込んだ後はタイミングを見計らって我々が飛び掛かる。恐らく奴の弱点は頭だ。そっちの準備は出来ているか?」
 モリ・ヤが向けた視線の先では、ウヅ・キコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の両手をロープで縛っていた。
「よっ……と。これでいいですか?」
「上等上等、ハーティオンもこれでいいわよね?」
 ウヅ・キの言葉にラブ・リトル(らぶ・りとる)が頷く。
「うむ、これでよい!」
 コアが自分の手を見て満足げに頷いた。その両手はモリ・ヤから借りた彼の体格にも負けない程の銛が握られており、更にその拳はロープで固く縛られていた。これで簡単に手放す事は無いだろう。
「そいやオクトパスマン、アンタは縛らなくていいの?」
 ラブの問いに、忍者超人 オクトパスマン(にんじゃちょうじん・おくとぱすまん)が首を横に振る。
「俺様には必要ねぇよ。それより銛、集めたか?」
 オクトパスマンの言葉にラブは「一応ね」と足元を見ると、そこにいくつもの銛が置かれていた。
「これ全部持っていくっていうの? そりゃいくらなんでも無茶よ」
「ちげぇちげぇ、それは俺様が戻ってきた時によこせ」
「はぁ? 戻ってきた時?」
「まぁ見てろって」
 そう言ってオクトパスマンが置かれた銛を一つ、手に取る。
「そっちもいいみたいだな――行くぞ」
 モリ・ヤの言葉に、その場の全員が頷いた。