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図書館の自由を守れ

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図書館の自由を守れ

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6日目 金曜日




 図書館・立ち入り禁止区画。
 貴重書書庫のある立ち入り禁止区画に、数名の生徒の姿があった。

 クルード・フォルスマイヤー&ユニ・ウェスペルタティア
 比賀一
 ウェッジ・ラスター
 葉月ショウ
 御風黎次&ノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)
 影野陽太(かげの・ようた)
 レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)
 周藤鈴花(すどう・れいか)
 東條カガチ&柳尾なぎこ(やなお・なぎこ)
 風森巽&ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)
 十六夜泡
 水無月睡蓮&鉄九頭切丸

 彼らは対ゴーレムチーム。またの名を『ゴーレムスレイヤー』チームと言う。
 その名が示す通り、彼らの目的は貴重書書庫を守るガーディアンゴーレムの破壊である。図書館制圧チームの連絡を受け参上した彼ら。本日付けで仲間に加わった他校の生徒もおり、その士気は高い。
「……見えたぞ」
 前方にたたずむゴーレムを、クルード・フォルスマイヤーは発見した。
 と、その瞬間、宙を舞って一人の生徒が吹き飛ばされて来た。
「どわあああああ!」
 床に叩き付けられたこの生徒は、田桐顕(たぎり・けん)と言う。
「い、いてえ……」
「だ、大丈夫か……?」
 御風黎次は顔をしかめながら、顕に手を差し伸べた。
「こんな所で何してるんだ?」
「何って……、決まってんだろ。力試しだよ、力試し!」
 顕はゴーレムに挑戦するためここにいた。
 普段なら図書委員がいて入れないのだが、幸いにも今は制圧下。そのどさくさに忍び込んだのだ。
「その気持ち……、俺にもわかるぜ」
 賛同を示したのはレイディス・アルフェインだった。
 彼もまたゴーレムへの挑戦がこの作戦への参加理由である。
「……それで、お前らは?」
 不思議そうにこちらを見回す顕に、一行は事情を説明した。
「……と言うわけで、ゴーレムの破壊に来たんだ」
「ああ、それなら噂で聞いてたよ。ゴーレムをぶっ壊して、本を取り返そうとしてる連中がいるって」
 そう言うと、顕は『アインヴァルト』と名付けた身の丈程もある大剣を構えた。
「ま、これも何かの縁だ。手伝うぜ!」
「……そんな事言って。一人じゃ荷が重かったんだろ」
 そう言ってからかったのは、葉月ショウである。
「……わ、わかった?」


 一行が接近すると、ゴーレムは手に持った本を投げ捨てた。
 監視モードから、排除モードへの移行を告げるアクションである。
「なかなか強そうですね……」
 アサルトカービンを構えながら、陽太は緊張した面持ちで呟いた。
「だが……、相手は一体だ……。物量に任せた集中攻撃で……、倒せるはずだ……」
 クルードは相手を分析し、腰に携えた「月閃華」と名付けた刀を抜き払った。
「行くぞ……!」
 クルードは刃を返し、ゴーレムに斬り掛かった。
 その動きは素早く、ゴーレムの反応の先を行っていた。
 だが……、横から飛び込んだ人物がクルードに攻撃を仕掛け、その妨害をした。
「くっ……。どう言うつもりだ……!」
 そう言ったクルードの銀狼の仮面に亀裂が走った。
「そんな石像じゃなくさあ……、俺と踊ろうぜぇ」
 不気味な兎の仮面を脱ぎ捨て、東條カガチは楽しそうに言った。
「どう言うつもりだと聞いている……。裏切るつもりか……?」
「裏切るも、何も初めっからこういうつもりだけどなぁ。なあ、仮面ツァンダー!」
 一同のは背後にある書棚に向かって、カガチは声をかけた。
「蒼い空からやってきて、静かな図書館護る者! 仮面ツァンダーソークー1」
 拳を突き上げ、書棚の上で決めポーズを取るのはこの男。
 風森巽……、いや、仮面ツァンダーソークー1である。
 銀のヒーローマスクを輝かせ、たなびくのは赤いマフラー。その出で立ちはまさにヒーロー。
「断切るは迷い、貫くは想い、絆に誓い、我らが未来を切り拓く!」
 高らかに宣言すると、仮面ツァンダーは飛び上がり、一同の真上を取った。
「チェンジ、轟雷ハンド!」
「な、なんか……、まずくないか?」
「ああ。どう考えてもやばい」
 比賀一とウェッジ・ラスターは冷静に状況を分析。だが、分析してる場合ではないのだ。
 落下の勢いを味方に付け、仮面ツァンダーは床に素手による轟雷閃を放った。
「どわあああ!」
 轟雷閃の衝撃でガタンと床が陥没した。
 吹き飛ぶ床板が嵐のように飛ぶ中、カガチはクルードに向かって言った。
「悪いな……。俺たちもともとゴーレム破壊にゃ乗り気じゃなかったんだ」
「なんだと……」
「図書館の自由のため本を取り戻す……、言ってる事は悪かねぇんだけどよ。図書館を守るゴーレムを破壊してまで貫く事かねぇ。ゴーレムはただここを守ってるだけ。そいつに一方的に攻撃を加えて、自由だ正義だと語れるはずもねぇだろうさ」
「見解の相違だな……」
「そう言うこった。俺たちはこいつを守らせてもらうぜ!」


 仮面ツァンダーの奇襲を受け、ゴーレムスレイヤー達は散開した。
 ゴーレムの前に立ちはだかる、仮面ツァンダーは周囲を見回し高らかに叫んだ。
「貴公らに正義があるのなら、我に示してみよ!」
「……図書館の中だから、爆炎波を利用した縛炎ハンドは禁止だよ」
 彼に注意を促したのは、パートナーのティア・ユースティである。
「同じ理由で剣も使っちゃダメだよ。本や本棚、机を壊しちゃうから……」
「ヒーロー大原則その一、ヒーローは何かを犠牲にして正義を貫いてはならない……、だな」
「お、よくわかってるね、巽」
 この計画に当たり、彼に衣装と心得を伝授したのは、何を隠そう彼女である。
「違う。仮面ツァンダーソークー1だ」
「あはは。ごめん」
 ティアは笑った。
「でも、一番大事な心得は、最後まで諦めない事だからね」
「ああ。わかっている」
 そんな様子を遠目から見つめるのはこの二人だった。
「くそ……。風森の奴、驚かせやがって……!」
 書棚の影に身を潜めつつ、ウェッジは吐き捨てるように言った。
 彼は黒服面に軍服を着込んだ、テロリストスタイルで変装をしていた。
「さて、どうする、ウェッジ?」
 同じく書棚の影に隠れた一が尋ねた。 
 彼はひょっとこの面で顔を隠している。曰く、これしかなかったんだよ……、だそうだ。
「決まってんだろ、まずはゴーレムだ」
「……だな」
 用意した特殊弾をアサルトカービンに装填し、一はゴーレムを銃撃した。
 着弾と同時に相手を氷結させる特殊弾である。
 だが、彼の放った弾は防がれた。ゴーレムの背中から何本の伸びた腕が、鎧のようにゴーレムの身体を覆い、本体への着弾を防いだのであった。着弾部分の腕は凍り付いたが、ゴーレムは動かなくなった腕を引っ込めると、また新しい腕を出した。どうやら腕への攻撃は何のダメージもないようだ。
「噂には聞いていたが、あの手は厄介だな……」
「く、くそ……!」
 間接部を狙って銃撃を試みるウェッジだったが、やはり腕に防がれてしまった。
「まずはあの腕をなんとかしないと……」
「……って、やばいぞ。ゴーレムがこっちに気づいた!」
 ゴーレムの腕は伸縮自在である。射程はこの部屋の中全て。
 明らかな攻撃行為を行った二人を排除するべく、ゴーレムは腕を伸ばして来たのだった。
「ここまで伸びるのか……!」
「とか言ってないで伏せろ、一!」
 咄嗟にウェッジはそばにあった本を掴んだ。
 書庫を守るゴーレム……、である事を思い出したのだ。 
 掴んだ本をあさっての方向に放り投げた。
 すると、腕は二人を狙うのをやめ、投げられた本を空中で受け止めた。
「……やっぱりな。さすが書庫のゴーレムだ。本を守るのが最優先事項か」
 そう言うと、ウェッジは棚から大量の本を引き抜いた。
「何をする気だ、ウェッジ?」
「手伝ってくれ。こいつであの手の注意を引くぞ!」
 図書館の本を投げるのはいささか道理に外れた行為だが、この状況では最適な手段であった。
 ただこの場には、そんな狼藉を許さぬヒーローがいるのである。
「自分の好みではない本を盾にし、館内で銃を振るうその所業、本好きとして許さん!」
 仮面ツァンダーは書棚の上を陣取り、再び華麗に登場したのであった。
「……ま、また、来たぞ!」
「さっきはよくも驚かせてくれたな……!」
 一とウェッジはそう言うと、本を投げつけた。さすがに銃を使うのは問題があると思ったのだ。
 だが、仮面ツァンダーは飛び交う本を、流れるような身体さばきでかわした。
「これぞ、包みて護る梅花の形意」
「いい加減にしなよ、二人とも!」
 咎めるような目で、ティアは二人に言った。
「自分が読みたいからって力づくで何とかしようなんて、興味の無い本を盾にしたりなんて、そんなの、そんなのただのワガママだよ! 大体、そんなに好きなら、アルバイトでも何でもして、お金を貯めて、自分で買えばいいじゃない!」
 恐るべき正論だった。
 だが、この二人はもっと恐ろしかった。
「……って言われても、ウェッジ。あんた、女の子にモテたくてここにいるんだろ?」
「ああ。一はなんでこの作戦に参加したんだっけ?」
「……面白そうだったから」
「じゃあ、もっとだめじゃない!」
 ティアに説教され、二人はなんだかしゅんとなってしまった。


「破邪・烈風刃っ!」
 顕は棚を踏み台にして宙を舞うと、ゴーレム目がけ剣を振り下ろした。
 だが、ゴーレムは一瞬で何本もの腕で壁を作り、攻撃を弾く。
「だ、だめか……?」
 空中で身動きの取れない顕に、ゴーレムの腕が無数に伸びてきた。
「待ってろ、顕っ!」
 レイディスは分銅付きロープを振り回し、その腕目がけ放り投げた。
 ロープは無数の腕を同時に絡めとった。
「これでどう……、どあああああ!」
 絡めとる事には成功したものの、ゴーレムの腕は凄まじい力だった。
 レイディスはその腕に引っ張られ、腕を中心にアクロバティックな空中一回転を披露した。
 レイディスはロープを手放し、ゴーレムの背中に飛び乗った。
「灯台下暗し! ここなら攻撃できないだろ!」
 背中は腕の付け根部分、確かにゴーレムの腕は届かなかった。
「こいつでどうだ! 轟雷閃っ!」
 轟雷閃を叩き込んだ轟雷閃の衝撃で、ゴーレムの身体は激しく揺さぶられた。
 そんなレイディスを見つめながら、クルードはユニ・ウェスペルタティアに指示を出す。
「頼む……、ユニ」
「はい、クルードさん!」
 パワーブレスをかけようと、ユニは意識を集中させた。
 だが、小さな襲撃者の妨害を受け、集中させた力はどこか彼方へ霧散していった。
「きゃあ!」
「させないんだからっ!」
 襲撃者の正体は、カガチのパートナー、柳尾なぎこ。
 ジェットストリームなぎさんアタックなる、全力タックルをユニに仕掛けた。
 かわいい兎のお面を付けているわりに、行動はアグレッシブであった。
「あ、あの……。どうしましょう?」
 必死でユニの胸を押すなぎこ。ユニはなぎこを抱きかかえたまま困っていた。
 残念ながら、少女の全力タックルなのでこんなものである。
「ええいっ! 吹っ飛べー!」
「クルードさん。私はどうしたらいいですか……?」
「こっちはいい……。相手をしてやれ……」
「悪いねぇ、ユニちゃん。なぎさんは任せたよ」
 今や敵対関係のカガチであるが、ユニに向かって親指をおっ立ってた。
「じゃあ、こっちも続きといきますかねぇ」
「ああ……」
 カガチとクルードは対峙した、二人の間に走る緊張感。
 いや、二人の間には緊張感ではなく大量の本が飛び交っていた。
「ノエル! 次々と本を持って来てくれ!」
 黎次とパートナーのノエル・ミゼルドリットが本を放り投げ、ゴーレムの腕から身を守っていた。
「黎次さん。重いです……」
 まことに不幸な事に、この区画の本は百科事典のような分厚く重い本ばかりである。
「じゃあ、破ってでも!」
「だめですよ!」
「……だよなぁ」
 そのすぐ脇では、ショウが投げる本を物色していた。
「あ、この本知ってるぞ」
「どうした?」
 黎次が尋ねると、ショウは一冊の本を見せた。
「俺の嫌いな授業で使ってた本だよ。ええい、投げちまえ」
 そう言うと、大きく振りかぶって、その本を全力で放り投げた。
「くたばれ! 物理学ーっ!」
 なんだか清々しい気持ちに包まれたのを、ショウは感じた。
「なんつーか、緊張感に欠ける場所だよなぁ……」
「まったくだ……」
 顔を見合わせ、カガチとクルードは苦笑を浮かべた。

 


「さて……、どうしたものかしら?」
 周藤鈴花は書棚の上に立ち、状況を把握しようと務めた。
 狐の面をかぶった彼女は、実の所、カガチの意見に少しばかり賛同していた。彼女としても破壊は望むと事ではないのだ。出来る事なら、無傷で停止させる方法を見つけたい。
「どこかに停止装置があればいいんだけど……」
 彼女は行方不明となったリネン達の事を思った。
 彼女たちが帰還していれば、事態はもっとスムーズに運んだはずだ。
「鈴花さんは、停止装置を探しているんですか?」
 ゴーレムへの銃撃を止め、影野陽太は尋ねた。
「だってあれ学校の備品でしょ? 壊したら誰が弁償するの?」
「弁償……」
 陽太は身震いした。学長に請求書を突きつけられる人間にだけはなりたくない。
「……ゴーレムだったら、有名な弱点があったりしませんか?」
「EMETH……、ね」
 そばにいた、十六夜泡が呟いた。
「そうです。ゴーレムの有名な弱点と言えば、身体のどこかに刻まれていると言う『EMETH(真理)』の文字です。Eを削り取って、『METH(死)』にすると、ゴーレムは死ぬと言う話なんです」
「なかなか詳しいようね?」
「ええ、まあ。一応勉強してきましたから」
 泡に言われて、陽太は恥ずかしそうに俯いた。
「でも、どこにあるのかしら?」
 鈴花は戦闘中のゴーレムを見たが、どこにもそんな文字はなかった。
「あ、あの……」
 申し訳なさそうに、水無月睡蓮が口を開いた。
「もしかして、あれじゃないんですか……?」
 そう言って、最初にゴーレムが投げ捨てた本を指差した。
 本のタイトルはまごう事なき『EMETH』である。
「古今東西、ゴーレムの弱点はやっぱりあれよね」
 泡がそう言うと、陽太はアサルトカービンを構えた。
「俺がここから狙撃してみましょうか?」
「たぶん……、無理ね。さっきも銃撃は通用してなかったみたいだし」
 一とウェッジの件を見ていた鈴花は、冷静に結果を予測した。
「……私が行ってくるわ」
 泡が申し出た。パキポキと拳を鳴らし、気合い十分である。
「わかりました。俺が援護します」
 と、陽太。それに続いて睡蓮も協力を申し出た。
「わ、私も……、お、お手伝いさせてもらいます。め、迷惑でなければ……」
「何言ってんの。すっごい助かる!」
 そして、作戦は始まった。
 泡は書棚の間から飛び出し、ゴーレムに向かって全力疾走した。
 本の場所はゴーレムの真下。非常に辿り着くのが困難なポイントだ。近づくにはあの無数の腕を越えて行かなければならないのだ。現在、他の仲間たちがゴーレムと戦闘中のため、ゴーレムの注意は多方向に分散されているのだが、辿り着けるかどうかはイチかバチかである。
「泡さん! 右に三歩動いて!」
 陽太は叫び、引き金を引いた。
 発射された弾丸の軸線上にはゴーレム本体がある。腕は防御をするため、泡から注意を外した。
「次は……、わ、私が止めます!」
 泡の右から迫る腕に、睡蓮は魔力を全開にし氷術を放った。
 床から突き出るように氷の柱が昇り、腕を串刺しにしその動きを封じた。
「まずいわ……」
 そう言ったのは、作戦を見守っていた鈴花である。
 腕が伸びてくるのは、左右からだけではなかった。正面から無数の腕が待ち受ける。
「九頭切丸!」
 睡蓮の声を受け、鉄九頭切丸が飛び出した。
 泡の身代わりに大量の腕に掴まれたが、彼はその場に体重をかけ踏みとどまろうと頑張った。
「ありがとう! 九頭切丸!」
 泡の感謝の言葉に、九頭切丸は無言で頷いた。
 そして、泡は本の前に辿り着いた。
「よし! ここで決めなきゃ女がすたる!」
 泡はドラゴンアーツを使い全身に力をみなぎらせた。
 彼女の戦闘スタイルは魔法とドラゴンアーツを融合させた『魔闘拳術』である。
「せーのっ!」
 彼女の渾身の一撃は、見事のEの文字を削り取り、タイトルを『METH』に変えた。
 だが……。
「そんな! 削り取ったのに……!」
 真理に死を与えたにも関わらず、ゴーレムの行動は止まらなかった。


 ゴーレムを停止させる手段は、実の所合い言葉だけである。
 本に刻まれた『EMETH』の文字は、石像の外見が哲学者風である事に由来する。哲学者とは真理を探求する人間。そこからインスピレーションを得た作者が刻んだものだ。必要なのは合い言葉なのだ。
「熟読せよ!」
 そう。その言葉である。
 合い言葉を受けたゴーレムは、床に落ちた本を拾い上げた。
 傷の付いた本に憤った様子ではあったが、それでも大人しく本を読み始めた。
「……間に合ったみたいね」
 書棚の上で合い言葉を放った、この人物。
 彼女は数日前に消息を絶ったリネンであった。隣りにユーベルもいる。
「リネン! 無事だったのね!」
 鈴花は彼女に駆け寄った。
「一体、どこに行ってたのよ?」
「それがその……」
 リネンはなんだか難しい顔で言葉を濁した。
「柳川先生の所で雑用をさせられてて……」
「柳川先生?」
「感動の再会はあとにしなさいっ!」
 よく通る奇麗な声が、部屋の中に響き渡った。
 ヒールの音を冷たく鳴らしながら、その人物は部屋の中に入って来た。
「話はいくらでも私の部屋でしてかまいませんよ。言いたい事があるなら……、ですが」
 勿論、その人物は柳川先生であった。