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【慟哭】闇組織を討て

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【慟哭】闇組織を討て

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 寄せ集めの冒険者の集団で、一体何が出来るというのだろう。
 組織について調べていくうちに、百合園女学院、生徒会執行部の神楽崎優子(かぐらざき・ゆうこ)の不安が募る。
 集まった冒険者達の思惑に違いはあるが。
 その殆どが組織の行為を自分自身が許せないと感じたためであり。
 優子の指示なくとも、各々準備に勤しんでいた。

 自分達の動きを知られてはならない。
 敵の耳に入ってしまったのなら、全て水泡に帰する。
 既に作戦は始まっている――。

第1章 夜の荒野

 島には当日の夕方以降の便で向かった。
 飛空艇の中では、皆思い思い楽しげに過ごして観光旅行者を装った。
 現地に降り立った後は、事前に話し合ってあった班毎の行動に移行する。
 島の外れに位置する組織の拠点に、団体で向えば警戒される恐れが高まる。
 行商人や旅芸人、観光客を装い、島の中心部から外れへと時間をずらして向かっていった。

 正門の前には門衛が2人いる。
 敷地を取り囲む塀が僅かに見える位置で一行は合流をし、そこから少し離れた場所にある岩場の裏に救護用のシートを敷くことにした。また白百合団には特に適切と思える場所も思いつかず、意見もないため同場所に陣を取ることにする。
 早速、【参謀班】に立候補した、百合園女学院、白百合団の崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)、シャンバラ教導団ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)、イルミンスール魔法学校譲葉 大和(ゆずりは・やまと)により、作戦の提案がなされる。
 役割を細分化した班編成を打ち出した優子の案に沿い、彼等はこう立案する。

・【斥候班】による周辺調査。
・作戦前にブリーフィングを行い各班と情報を共有、作戦内容に齟齬が発生しないようにする
・【遠距離攻撃班】(遠距離班)【上空撹乱班】(上空班)による攻撃開始
・それに続いて【正門突破班】(正面班)の突入開始、先行2班は引き続き支援に当たる
・【救護班】は正門突破班の後方援護を担当
・正面戦場からの連絡を確認したら【裏門、裏口侵入班】(侵入班)の室内侵入を開始
・【人質救出班】(救出班)はこれに続き、人質の救出にあたる
・人質救出後は【正門突破班】【遠距離攻撃班】による残存兵力の殲滅、または捕獲
・【裏門、裏口侵入班】が確保した退路に従い【人質救出班】は撤退する
・【敵飛空艇破壊班】は【正門突破班】に引き続き、【斥候班】の入手した情報に従って敵飛空艇を捜索。
・【正門突破班】による館の制圧の完了、敵の逃亡開始を確認したら飛空艇を破壊、退路を限定する
・その後は引き続き残存兵力の掃討、捕獲(パートナー契約者を優先)
・館外へ逃亡した兵に関しては【追撃班】が担当する

「概ね問題ない……というか、私はあまり軍事的な作戦には詳しくないんでキミ達がいてくれて助かるよ」
 優子はそう言った後、目を細めて考え込む。
「ただ、ここはパラミタだからな。契約者以外の地球人はいない……つまり、現地人が多数を占めているはずだ。どういった種族が集まっているのかの調査を行なう時間があればな」
 優子は苦笑する。
 彼女は人数が集まり次第準備もせずに飛び出そうとしたところ、皆に諌められている。
 冷静になってみれば、作戦を成功させるために準備や調査は怠ってはならず。ただ、時間をかければ自分達の動きが知られてしまうという危険性もある為、皆の案により最低限の準備、最良と思われる時間に作戦は決行されることとなった。

 館に向かう道だけは整備されていたが、周辺は背の低い木と草が生い茂っており、大きな石も転がっている荒地だった。
 月の淡い光だけを頼りに、【斥候班】の蒼空学園の3人――島村 幸(しまむら・さち)レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)エドワード・ショウ(えどわーど・しょう)は、回り込んで館に近付いていく。
 塀はよじ登れる高さではなく、中の様子はまるで見えない。
「グランド・スール、しばしのお別れです。レイはまあがんばれ」
「ああ、島村も気をつけろよ」
 幸にレイディスはそう答え、エドワードは軽く頷く。
「では、30分後に」
 館近くの茂みの中で3人は別れ、別の方向から館を探っていく。

 幸は隠れ身のスキルを使い、携帯電話を手に飛空艇の数、保管場所を探るため、警備兵の死角になっている辺りの高所へと向かった。
 未明のこの時間、飛空艇の行き来はないが、調査中ただ一度だけ館1階の格納庫と思われる場所にバイクの出入りがあり、その場所に車両や飛空艇も格納されているように思えた。この時間、格納庫の前に警備員の姿はない。
 携帯のカメラで撮影をしておくことにする。
 距離もあり、未明であることから、それ以上の情報を掴むことは出来なかった。

 レイディスは光学迷彩を使い、館へと近付いてその周辺を歩き回り警備兵の数と警備状況について調べて回る。
 正門の前には相変わらず2名の警備兵が配備されている。裏門にも1名警備兵が警戒に当たっていた。
 細い木に上り、塀の中を覗き見れば、正門の前に警備兵が1人、裏門の前にも1人。正面玄関の前に1人。
 及び定期的に見回りをしている警備兵の姿も見えた。
 配備状況、敷地内の状況をレイディスは記憶していく。
 
 エドワードも隠れ身のスキルを使い、周辺を探っていた。
 このあたり一体は荒野になっており、舗装された道は館の正面のみに伸びている。
 裏門からはあまり出入りはないようだが、裏門から真直ぐ土肌の見える道が出来ている。
 調査中、馬車が一台入る様子が見られた。
 物資の運びいれはここからも行なわれているようだ。

 ――30分後。
「エド姉さま、ご無事でよかったです!」
 エドワードの姿に、幸はほっと胸を撫で下ろす。
「それじゃ、内部の調査といきましょうか」
「けど、内部の調査は難しそうだぞ」
 レイディスが簡単に警備状況について説明をする。
 合流した3人は互いの結果を軽く確認しあった後、つけられていないことを確認し一旦、陣に戻った。
 写真と外部からの偵察結果のメモを白百合団に提出し、小型飛空艇に乗り込み、出来る限りの敷地内の調査を始めることにする。
 ただ、未明のこの時間、飛空艇のエンジン音に気づかれる可能性があるため、館に接近することも、敷地内に降り立って調べることも不可能であった。
 最後に一度だけ、旅人を装って空から上空を横切り敷地を覗き込むに留める。

○    ○    ○


 斥候班が調査に出ている間、それぞれの班も準備や話し合いを進めていた。
 【遠距離攻撃班】は、班員で話し合い、地形を見て回る。
「一発撃ったら必ず移動でござる」
 教導団のうんちょう タン(うんちょう・たん)が、移動と遮蔽物の利用の重要性について班員に説いていく。
 パートナーの皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)は、会議に出席しており、伽羅からの電話で聞いた斥候班の外部調査を元に、正面側の高めな場所に布陣する。
「問題は、遮蔽物だな」
 薔薇の学舎の藍澤 黎(あいざわ・れい)は周囲を見回した後、ここからでははっきりとは見えない正門に目を向ける。
「こんなちっさい道具でどこまでできるやろか」
 百合園の伊達 黒実(だて・くろざね)は、シャベルで土を掘り返していく。
「仲間の剣や木の枝、石もごろごろ転がってるし、上手く利用すればなんとかなるだろ。出来る限り積み上げよう」
 蒼空学園の久多 隆光(くた・たかみつ)は土を積み上げていく。
 彼等は塹壕と土壁を築いていた。
 
 少し離れた岩陰、救護所兼本陣でも、迅速な措置と救護が出来るよう、準備が進められていた。
「これはここでよいでござるか?」
 蒼空学園の坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)は、小型飛空艇からペットボトルを下ろしていく。
「運んでくれてありがとー」
 礼を言い、百合園のファニー・アーベント(ふぁにー・あーべんと)が、1本ずつ受け取って、敷いたレジャーシートの四隅に置いていく。
「周辺には鳴子を設置しておくでござる。緊急時に連絡が出来るように」
 鹿次郎は持って来たものの中から、紐と鈴や木片を使い、鳴子を設置していくことにする。
「……お水で水分補給もできますし、甘い物も用意しましたし……絆創膏やガーゼもありますし……多分、治療や看護には困らないと思います」
 用意したものを確認しながら、百合園のフィール・ルーイガー(ふぃーる・るーいがー)が言った。
 絆創膏にマスク、ガーゼにチョコレートやキャラメルをファニーと共に用意してきた。
 軽い怪我ならば通常の手当てで済ませ、出来るだけSPは温存した方がいいだろうと考えた。
「美味しそうですわ。甘い美味しい甘い美……」
 蒼空学園の姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)は、お菓子につい手を伸ばしそうになる。
 ぶんぶん首を振って、自分が用意してきたチョコレートと蜂蜜も一緒に置いた。
「疲労したけが人達にも必要な筈ですわね」
 その他、消毒スプレー、懐炉をも仲間が持ち寄った救急道具と一緒に置いた。
 出来れば棒も購入してきたかったのだけれど、購入している時間がなかったため、付近に落ちている木の枝を集めておく。
「枝、少し借りるな」
「お使いくださいませ」
 蒼空学園の比賀 一(ひが・はじめ)は、雪から貰った枝と自分が集めた枝や棒などを組み立て、脚を作りその上にシートを被せて救護所をテントのように覆っていく。
「なんとか形にはなりそうだな」
 パートナーのハーヴェイン・アウグスト(はーべいん・あうぐすと)が、ペットボトルで端を固定しながら言った。

 夜明け前に斥候班は本陣に戻り、白百合団の神楽崎優子と、参謀班を中心とした会議が始まる。
 斥候班のメンバーは、私情を一切出さず、見てきたそのままの状況を参謀班へ報告した。
 想像よりも警戒は厳しいようだ。
「お茶をどうぞ」
 眉間に皺を寄せたながら考え込む者達に百合園女学院のマリアンマリー・パレット(まりあんまりー・ぱれっと)は、そっとお茶を出して回った。
「ありがとう」
 茶を受け取り礼を言う優子に軽く会釈をして、軽く息をつくメンバー達に、微笑みを見せながらマリアンマリーは参謀班達の安息所としての役割を果たしていく。
「白百合団のアレナ・ミセファヌスさんですが、遠距離攻撃班に加わって欲しいですぅ。攻撃の合図をお任せ出来ると思うんですぅ」
 準備を仲間に任せ、会議に加わっていた皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)はそう提案をした。
 参謀班、白百合団のメンバーに異論のある者はなく、弓の光条兵器を持つ剣の花嫁のアレナは遠距離攻撃班に加わることになった。