イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

【慟哭】闇組織を討て

リアクション公開中!

【慟哭】闇組織を討て

リアクション


第3章 侵入

 敵戦力は正面に集中し、裏門には門衛の姿もなくなっていた。
「そろそろ頃合のようですな」
 アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)は、パートナーのミヒャエルと携帯電話で連絡を取りながら、【裏門、裏口侵入班】に同行していた。
「敵は1階に集まっているようですが、裏側は手薄になっていると思われます」
「よし、行くでござる」
 蒼空学園の椿 薫(つばき・かおる)は隠れ身、女王の加護を発動する。
「人の気配は感じられないわねぇ」
 パラ実の巫丞 伊月(ふじょう・いつき)は、隠れ身を使い、薫と共に門に近付く。
「仕事ならもっと普通の仕事探してきやがれ、です」
 毒づきながらも、伊月のパートナーエレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)が2人の後に続く。
「さて、私らも行きましょか」
「そうどすなぁ」
 巫女装束姿の百合園の橘 柚子(たちばな・ゆず)と、パートナーの木花 開耶(このはな・さくや)も、周囲に警戒しつつ、裏門へと近付く。
 薫がピッキングで門を開錠する。
「開けるぞ」
「皆さん、気をつけて下さいねぇ」
 光学迷彩を使った、イルミンスールの日下部 社(くさかべ・やしろ)望月 寺美(もちづき・てらみ)が、門に近付いて小声で皆に注意を促す。
 激しい戦闘音が響いているが、開かれた門の向こうにも誰もいない。
 頷いて、伊月が足を踏み入れる。
(絶対にさらわれた人たちを無事に助けてみせる!)
 百合園の七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が、光学迷彩を発動し後に続き、前を見据える。
 斥候班、参謀班から聞いていた場所、裏門から入って数メートルの正面に搬入口。その傍にドアが存在している。
「女を連れて来い。それが奴等の目当てだ」
「はっ」
 屋敷脇から声が響いた途端、裏に向かい守護天使が飛んできた。
 門の外から、瞬時にシャープシューターを使い教導団のロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)が、守護天使を撃ち倒す。
 倒れた敵守護天使に、歩とロブのパートナーのヴァルキリーアリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)が近付き、搬入口の中に隠す。
 歩はハウスキーパーで付近から戦闘の色を消した。
 裏口は施錠されていなかった。
「急ぐぞ」
「はい」
 薫の合図を受け、ロブとアリシアが走りこむ。
「潰すだけじゃ、解決になんねぇよなぁ」
 最後にパラ実の国頭 武尊(くにがみ・たける)は鋭く目を煌かせ、口元に笑みを浮かべながら班員と共に屋敷内に駆け込んだ。

 裏門、裏口侵入班突入後、後方で待機していた【人質救出班】が裏門に集まり、塀の前で待機する。
 激しい戦闘音が響き、時折上空に有翼種の姿が見える。
 壁に張り付いて隠れる班員の中から、武来 弥(たけらい・わたる)が皆に目で合図をして、隠れ身を使い裏口へ素早く移動をする。
 侵入班の状況を確認後、手で合図を出す。
 純白の甲冑を纏った白百合団の神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)が、真剣な顔で頷いて、班員に目を向ける。全員、意思を込めた目で強く頷き合った後、裏口へと静かに走る。 
 弥は班員の動きを確認した後、侵入班の後を追う。
 本来ならもう少し後の突入が望ましいのだが、侵入班との連絡手段が無いため、弥が先行して侵入班の後を追い人質救出班を誘導することとなった。

○    ○    ○


 参謀班の譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は空飛ぶ箒で巡回し、銃型光条兵器の光度を変えて発射することで皆に信号を送る。
 信号を目にした御宮 万宗(おみや・ばんしゅう)は、裏口からの侵入が決行されたことを知る。
 投げ込んだ煙玉が爆発物ではないと既に知られてしまっている。
「お礼参り!」
 派手な音を立てて、窓ガラスが破壊される。
 守護天使のジェーン・アマランス(じぇーん・あまらんす)はホーリーメイスを窓ガラスに叩きつけて回っていた。
 花火を投げ入れていた彼女だが、炎系の攻撃で火災を起こしてしまったのなら、仲間や人質の命を奪ってしまう可能性もあるため、適当なところで、物理攻撃に切り替えた。
「青春の暴走であります!」
 次々に2階の窓ガラスを破壊する彼女に、3階から銃弾が浴びせられる。
 背に受けてよろめき、見上げた瞬間にパートナーの万宗の雷撃が射撃相手に命中する。
「処分される前に、なんとか……っ」
 倒れた狙撃手の元に下り、情報を得るため屋敷への侵入を目論んだ。が――足を踏み入れた途端、家具の裏に潜んでいた敵2人により、炎術と銃弾を同時に浴びせられる。
 深手を負い、万宗はバルコニーから飛び降りる。
 ジェーンが気づき、急ぎ彼の身体を抱き止め、ヒールを唱える。
「万宗!」
 声に、見上げれば敵ヴァルキリーが槍を手にこちらに向かってくる。
 飛翼種に注意を払っていた葉月 ショウ(はづき・しょう)が、逸早く気付き小型飛空艇を蹴って飛び降りる。
 ショウはカルスノウトと光条兵器を敵ヴァルキリーの背に突き刺す。
 ヴァルキリーの槍はジューンと万宗には届かず、敵ヴァルキリーは落下する。
「ぐっ」
「助かった……であります」
 ショウも落下して、地に身体を打ち付ける。すぐさま、ジェーンがショウにヒールをかける。
「無茶するんだからっ!」
 2人乗りしていた小型飛空艇を操り葉月 アクア(はづき・あくあ)がショウの元に駆けつける。
「しばらく俺らに任せて、2人は休んで来い」
 ショウは小型飛空艇に乗り込みながら言う。
「交代しましょう」
「任せて下さいませ」
 休息の為離脱していた綾瀬 悠里(あやせ・ゆうり)千歳 四季(ちとせ・しき)が空飛ぶ箒に乗って戻る。
「頼みます」
 万宗は自分の空飛ぶ箒を拾い、ジューンと共に治療と休憩に戻ることにする。
「撃て!!」
 響いた声に顔を上げる。
 2階の窓から銃を構えた男達が、一斉に一方に向かい射撃した。
 悠里は急ぎ接近し雷術を放ち、敵を1人打ち倒す。
「遠距離班狙いでしたか」
 案じはしても、目を向けている余裕はない。
「こちらですわ」
 四季が、ロケット花火を打ち込みながら、敵の前を飛行する。
 銃口が四季に向けられた途端、悠里は雷撃を放ち敵を倒す。

 集団射撃を受けた遠距離狙撃班は、それぞれが傷を負っていた。
 やはり、身を隠す場所が少ないことが大きく響いている。
「土壁がまた崩されたでござるな」
 うんちょう タン(うんちょう・たん)が、遮蔽下で屈み移動→最低限の顔出し→照準→射撃を、提案し、皆それを守ろうとするも、移動する場所が極めて少なく、現時点では敵にほぼ場所が知られてしまっている。
「……絶対に無理はするなとのことです」
 白百合団のアレナ・ミセファヌスが、うんちょうにヒールを使う。彼女はこういった作戦に慣れていないため、なるべく軍人のうんちょうタンの傍におり、優子と連絡を取りつつ、指示に従っていた。
「流石に指揮官は顔を出さないか……」
 久多 隆光(くた・たかみつ)は、狙いを定めるも、こちらとは違い敵は建物の中にいる。
 遠距離同士の撃ち合いではこちらの方が条件が悪い。
「たいした怪我やあらへん! しっかりせんか!! 粘り強く行こうな!」
 フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)が、まずは隆光にヒールをかけてついでに、肩をバンバン叩き癒しながら活を入れて行く。
「おう、サンキュ」
「そやかて、チャンスでもありますなぁ。タイミングさえ掴めれば」
 伊達 黒実(だて・くろざね)は、少し離れた位置からそう言い、土壁から顔を出し、3階に弾を撃ち込んだ。
 悠里を狙っていた敵に命中したようだ。
「よぉやった! さすがやねん!!」
 フィルラントが黒実の傍に駆け込みヒールをかける。フィルラントの軽快な言葉に、黒実――班員のプレッシャーが軽く解けていく。
「集中射撃が必要ですねぇ〜」
 皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)は、双眼鏡を覗き込むも、敵は屋敷に入り込んだまま姿を見せない。上空班が窓ガラスの破壊を行なっているが、彼等もそれ以上近付く事、単身で窓から部屋に入ることの危険性は、撃たれた仲間の件もあり心得ているようだ。
 伽羅は身を引いてガードラインで味方の護りに努める。
 藍澤 黎(あいざわ・れい)は、双眼鏡で巡回する参謀班の大和の位置を確かめる。
 こちらに顔を向けた大和に手で合図を送った後、低く静かに班員に言う。
「冷静にそして細心に、心を尖らせて、敵の様子を肌全体で感じ、目の情報だけに頼るな、皮膚感で感じて、迎え撃て」
 答える代わりに、皆神経を研ぎ澄ます。
 空を飛ぶ大和が光条兵器の弾を空へと撃ち出し、直後に身を隠す。
 途端、隆光、黒実、うんちょうタンが遮蔽から顔を出し、狙いを定める。その間に信号を確認した上空班は正面から退避する。
 敵指揮官の号令と共に、幾つかの部屋から銃身や腕を覗かせる。狙いはこちらではない。
 3人は一斉にスプレーショットを使う。
 敵の射撃の方が一瞬早くも、こちらの攻撃を回避できず敵狙撃手の多くが倒れる――!