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バイオレンスなピクニック


「こんにちは〜」
「こんちはー」
 どこにでもある挨拶。
 それが望月 あかり(もちづき・あかり)とコタの出会いだった。
 乗り物の跡が道となっているような、見渡す限り剥き出しの大地と岩とわずかな植物しかないような場所だった。
 シャンバラ大荒野の植物や野鳥の観察がてらピクニックに来た、と言うあかりの話に適当な相槌を打ちながら歩くコタ。決して邪険にしているわけではないが、まともに相手をしていないのは子供でもわかるほどだった。
「ごめんなさい、態度悪くて……」
「気にすんなよ。こっちが勝手にくっついて行ってるだけさ」
 眉を八の字にして謝るクラリッサに、あかりのパートナーの忌部 綿姫(いんべ・わたひめ)が明るく笑いながら返した。
 屈託のないその態度にクラリッサは安心したように微笑む。
 ふと、コタから離れたあかりが突き出た岩の根元にしゃがみこみ何かに見入っている姿が目に入った。何を見ているのかは日傘が遮っていてわからない。そのあかりが綿姫を呼んだ。
「忌部、これは何ていう草なのかなぁ」
「ああ、これな。これはピヨピヨ草っていうんだよ。ほら、この黄色い花の部分がヒヨコの嘴みたいだろ? 実際、こいつが種を飛ばす時にはピヨピヨと音が鳴るんだ」
「へぇ、そうなんだ」
 綿姫のいい加減な説明を疑いもせず頷いたあかりの感心したような返事と、コタのむせる声が同時に上がる。
 着ぐるみだから表情はわからないが、呆れた雰囲気は充分に伝わってくる。
 あかりが自由帳にメモしているのをいいことに、綿姫はニカッと笑った。
 パタン、と自由帳を閉じて立ち上がったあかりがよく晴れた空を見上げて言った。
「そろそろお昼だねぇ。サンドイッチ、食べる?」
 警戒するのがバカバカしくなるほどのんびりとした空気の彼女に、コタもとうとう諦めた。
「あっちの岩陰で休むッスよ」
 と、コタが大岩を指差した時、そのずっと向こうにうっすらと土煙が上がっているのが見えた。

 馬だったりバイクだったりしながら現れたのは、どう見てもまっとうではない人達だった。つまり、ごろつきだ。
「さーて、そこのカッパ。お宝の鍵とやらを渡してもらおうか。素直に寄越してくれたら何もせず見逃してやるぜ」
 先頭にいた、いかにも悪ですといった顔の男がお決まりのセリフを吐く。
 その後ろでは十数人の仲間がニヤニヤといやらしい笑みを見せていた。
 こちらがゆる族と女ばかりだと、完全になめていた。
 だから、周りへの注意が散漫になっていた。
「こんな天気の良い日に……腐った奴らだな」
 後方からかかった声に、ごろつき達は大げさなくらいに驚いていた。
 険しい表情でランスを構え、ごろつき達を睨むのはウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)
 ウェイルはランスで牽制しながらコタ達に言った。
「加勢するぜ」
「助かるっス」
 示し合わせたように同時に放たれた、ウェイルのランスの一閃とコタのスプレーショットが戦闘開始の合図となった。
 リーチのある分、ほとんどが剣やナイフのごろつき達には有利に立ち回ることができた。
 前から剣で斬りかかられれば、懐に入られる前にランスの刃で剣先を跳ね上げてかわし、後ろから斬りつけられれば柄で相手の鳩尾を突いた。
 綿姫の火術による遠距離からの攻撃も、ウェイルの助けになっていた。
 さらに、いつの間にか味方が増えていた。
 ウェイルの隣にも艶やかな金髪をなびかせてランスを振るうイルミンスールの制服を着た者がいる。
 混戦状態の中、いつしか二人は背中合わせに戦っていた。
「コタとクラリッサは……」
「おまえみたいな助っ人が付いてくれてるみたいだ。こっちも早いとこ片付けて加勢に行こう」
「了解」
 アルステーデ・バイルシュミット(あるすてーで・ばいるしゅみっと)は、問いかけに返って来たウェイルの言葉に頷き、雄叫びを上げながらナックルを握った拳を振り上げて突進してきた男を、ランスの柄で突き返した。

 コタ達の方で、先頭に立って戦っていたのはクラリッサとリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)の二人だった。クラリッサはランスを、リーズはカルスノウトでごろつき達を叩きのめしていく。
 俊敏なリーズはかたまりになっているごろつきの一団に単身突っ込み、統制を取らせないよう撹乱に力を注いだ。
 そうして乱れたところをパートナーの七枷 陣(ななかせ・じん)の火術が襲う。
 息の合った連携攻撃は、みるみるごろつき達の戦意を喪失させていった。
 ついに、勝ち目はないと判断したごろつきの頭は、仲間達に撤退を言い渡した。
「覚えてろよチクショウ!」
「俺の髪の仇は必ず討つからな!」
 お決まりの捨て台詞と、火術で髪をチリチリにされた男からは敵討ちの言葉を残され、一団はほうほうの態で逃げ帰っていった。
 アルステーデは、完全にその姿が見えなくなるまで気を抜かなかった。
 あかりのヒールが包み込む中、服の乱れを正したり埃を払ったりしながら、まだお互い名前も知らない者達が自然と集まった。
 彼らの視線はコタとクラリッサに向けられている。
 コタは気さくに手をあげて礼を言った。
「いや〜、ホント助かったっスよ。今回はちょっと人数が多かったっスから」
「じゃあさ、ボク達がこれから一緒に行くよ。ねっ、陣くん!」
「嫌だって言っても無理矢理ついて行くんだろ?」
「そんなこと言って、陣くんも気になって仕方ないくせに」
 リーズの指摘通りだったのか、陣は照れ隠しのようにそっぽを向いてしまった。
 しかし、それはコタに断られた。
 こんな危ないことにいつまでも付き合せられない、と。
 かと言って今さら引き下がるわけにもいかず。
「このままサヨナラして何かあったら寝覚めが悪いだろ」
「彼の言う通り。これからもああいった輩は二人を狙ってくるんだろう? ……私は宝には興味はない。ただ、二人のことを聞いて、護りたいと思っただけなんだ」
 陣に続いてアルステーデも同行を願い出る。嘘のない真摯な目で。
「みんな思うことは一緒か」
 ふと、笑みをこぼすウェイン。
「ま、いきなり信用してくれと言っても無理だろうけど、俺達は勝手についてくから」
 決意の変わらなさそうな彼の様子に、コタは軽くため息をつくと「どうなっても知らないっスよ」と、仕方なさそうに同行を許したのだった。
 そのタイミングを待っていたかのように、あかりがみんなに声をかけた。
「疲れたからお昼にしない?」
 見れば、すでにレジャーシートが敷かれ、サンドイッチの詰まったバスケットや水筒が「さあ食べてくれ」と待っていたのだった。