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第4章 ザンスカールのサンタクロース


 ザンスカールのサンタクロースは個性豊かだった。

 小さなサンタクロースの走瀬と翼は、物陰に隠れて笑いをこらえていた。
「あれぇ? さっきまでこんなのなかったのに! お母さーん、サンタさんきたーっ!!」
 2人の思惑通り、子供はプレゼントを見つけてびっくりしている。
「見た? あの男の子、すっごくおどろいてたよ。サンタクロースって楽しいね」
 走瀬がこらえきれずにくすくすと笑いだす。
「うん、びっくりさせるとことか、イタズラに似てて楽しいよね」
 つられて翼も笑い出してしまった。
 イタズラ双子は笑いあいながら手をつなぎ、小さな声で男の子の背中に「メリークリスマス」と囁くと、次の家へ向かった。

 乗り物のない紗月と凪沙は、徒歩で地道に、でも着実に配っていた。
「さすがに歩いて回るのは無理があったかな?」
 紗月が隣のパートナーを気遣う。サンタクロースが助けを求めるだけあって、プレゼントは結構な量だ。
「そんなことないよ。この方が確実に配っていけるじゃない。ほら、急ご!」
 凪沙が笑って紗月の背を押す。ザンスカールの子供達がサンタクロースを待っている。

 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、聖ニコラウス風のサンタ服で、パートナーのクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)はロングスカートのサンタ服で、共に空飛ぶ箒に乗りザンスカールの子供達の元へプレゼントを届けていた。
 クレアがプレゼントを子供部屋へ置きに行く間、荷物持ちの涼介は聖句を唱え、その家の幸せを祈っている。
「あ、サンタさんだーっ!」
 子供の声に驚いた涼介が顔を上げると、クレアがにこやかに子供にプレゼントを渡していた。
「メリークリスマス! 来年もいい子にしててね」
「うん。ありがとー!」
 のんきに子供に手を振るクレアを、涼介は慌てて家の影に引っ張って行った。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないだろ、子供や親に見つからないようにって言われてただろうが」
「このくらい、だいじょうぶだもん! ほら、」
 クレアが指さす方向を見てみると、

 満面の笑みを浮かべて煙突から這い出す坊主。
 赤い服を見て集まってきた子供達に、本物のサンタだと力説する青年。
 その青年に裏拳でツッコみを入れる友人。
 子供達にまとわりつかれているゆる族。
 子供たちとゆる族を取り合う少女。

 全員が、サンタ服を着たイルミンスールの生徒達だった。その中でひときわ目立つ、黒いサンタ服のニコラと終夏。

「はっはっは! よいか、悪い子の前では、こわ〜いサンタに変身する、このブラックサンタを忘れるでないぞ! 来年もまた良い子のまま会おう。さらばだ! はーっはっは!!」

「ブラックサンタのお姉ちゃん、お供のおじちゃーん、ばいばーい! また来てねーっ!!」
「ちがーう、ブラックサンタはこの私だーっ!!」
「メリークリスマス、来年も良い子でね!」
 無邪気に間違える子供のところへ戻ろうとするニコラの腕を引っ張り、終夏は次の家へ向かった。

 そんな光景を見て愕然としている涼介に、
「ね、このくらい大丈夫だもん♪」
 クレアがにっこりと笑った。

 その頃、イルミンスール魔法学校では、
「ふんふふ〜ん♪」
 と鼻歌を歌いながら、校長室へ通じる廊下に水をまいた玲奈が、氷術を発動させて水を凍らせていた。
「よし、出来た!」
 一応、まだ子供のエリザベート校長に、イルミンスールの生徒のうち誰か一人くらいはプレゼントを配りに来るはず。そこを狙ってプレゼントをいただいちゃおう☆という完璧な罠だった。
 玲奈はサンタクロースが氷に足をとられて滑って転ぶであろう場所に網を仕掛け、物陰に隠れてサンタを待つ。
「うふふ、早くプレゼント来ないかな♪」