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episode7:お正月を遊ぼう


「あけましておめでとう、コハク。元気か?」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、パートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)と共に、幼なじみのソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)、ソアのパートナーの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)を伴って、コハクを訪ねた。
「あけましておめでとう。ケイさんも元気ですか?」
「もっちろん、俺は元気だぜ!」
「新年おめでとう、コハク。おぬしにこれをしんぜよう」
 カナタはそう言って、小さな袋をコハクに渡す。
「これはお年玉といって、新年に大人が子供に施すもの。
 これから蒼空学園の生徒として暮らすのであれば、これを使う機会もやってこよう。
 受け取るがよい」
 きょとん、として、コハクはカナタとポチ袋を交互に見る。
 あのな、とケイが囁いた。
「こいつ見かけはこうだけど実はスゲーばばあだから」
 ”大人が子供に”というカナタのセリフが、自分がそれを貰ったことに理解できないのだろうと察した。
 カナタは、見かけは11歳程度の少女だからだ。
 だから素直に受けとっとけよ、と言ったケイの後頭部を激痛が襲い、ケイは蹲って悶える。
「あ、ありがとう」
 コハクは顔を引きつらせながら礼を言って、袋を開けてみる。
 中に入っていたのは、プリペイドカードが1枚。
「安!!」
 思わず、雪国ベアが突っ込みを入れた。
 見上げるコハクに、復活したケイが
「あとな、今日はあんたに客を連れて来た。
 俺の幼馴染と、そのオマケなんだけど」
と言って、ソアとベアを紹介する。
 オマケとは何だオマケとは。ブチブチとベアが文句を言った。ソアはにこっとコハクに笑いかける。
「あけましておめでとうございます、コハクさん。
 今日はお礼を言いに来たんです」
「お礼?」
「セレスタインで、ハルカさんを助けてくれたでしょう?」
 あの時は、殆ど話もできずに別れることになったが、一度改めてお礼を言いたいと思い、ケイに計らって貰ったのだ。
 コハクも、その時のことを思い出したようだった。
 少し困ったように笑って、ソアに答える。
「あの子を助けたのは、僕じゃない」
 1人で、出来たことではなかった。
「それでも」
 コハクならそういう風に言うのではないかとも、ソアは思っていた。
 コハクは優しい少年だ。それでも。
「皆の思いをひとつにまとめて、奇跡の力に変えてくれたのは、コハクさんだと思います。
 だから、本当にありがとうございましたっ!」
 ぺこり、と頭を下げたソアに、コハクは
「そんなこと」
と言いかけるが、ベアとカナタに
「素直なお礼なんだから素直に受けとっとけ!」
と言われて、少し困ったように笑いつつも、
「……ありがとう」
と、答えた。
「……何つーか、コハク、あんた変わったな」
 しみじみとケイが言った。
「え?」
「何つーか……逞しくなったっつーか、成長したっつーか」
 空京で初めて会った頃は、本当に弱々しく、痛々しかった。
 今はもっとずっと、生き生きして、しっかりもしてきたと思う。
 パートナーも得、自分達と同じ契約者になったのだと思うと、何だか不思議な気分がした。
「それにしても、『美しい羽』って名前の美羽と契約するなんて、中々運命的だよな!
 本当にお似合いだと思うぜ!」
 にやりと笑ってケイが言うと、途端にコハクはうろたえる。
 こういうところは変わっていないな、と思った。
「何だ何だ、コハクはあの美羽って子のどこに惚れたんだ?」
 更に雪国ベアが追い討ちをかけて、もうコハクは今にも逃げ出しそうである。
「いや、その……そういうのじゃ、なくて……」
 説得力のまるでない、しどろもどろな様子だったが、ベアはコハクの話を全く聞かずに、
「そうか、やはりあのミニスカがいいのか……」
と、しみじみと結論づけている。
「そ、そんなんじゃ!」
 スカートの中まで目撃してしまったこともあることを思い出して、コハクは更に真っ赤になり、そんな様子を見て、ソアは微笑ましくくすくす笑っていたが、
「ちなみにうちのご主人は、去年の体育祭で会って以来、美羽のファンらしいぜ!」
と暴露され、
「ベ、ベアっ!」
とこちらも真っ赤になった。

◇ ◇ ◇


「あけおめ〜! ことにょろ〜!」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、お手製のお節持参で、コハクのところへ新年の挨拶に訪れた。
「すごいね……これ、ミルディアが作ったの?」
 寮で何日もかけて作ったお節を見て、コハクが驚いたように言う。
 5段重ねの重箱を広げ、種類も豊富で色も鮮やかなそれらに、コハクはすっかり目を奪われててる。
「へへっ、そうだよ!
 冬休み入ってからずっとこれ作るのに追われてたんだから」
 ミルディアは少し照れたように、笑った。
「自慢の一品はね、この黒豆だよ。
 5日間かけて似込んだ自信作なんだ。ちょっと食べてみて」
 ちょい、と摘んで、はい、とコハクの手の平に載せてあげると、コハクはぱく、とそれを食べてみて、見た目から連想していたような味ではなかったのか、
「美味しい!」
と驚いて声を漏らす。
 ミルディアは、えへへ、と照れながら笑った。
「皆遠慮しないででじゃんじゃん食べてねっ!」

 ミルディアのお節に、佐々木弥十郎から届けられた、パラミタみかんで作られた甘露煮も加え、それらのラインナップを見て、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、
「じゃあ俺は、お汁粉か雑煮でも作るか」
と呟いた。
「手伝います」
 クレア・シュルツ(くれあ・しゅるつ)が申し出てきたので、
「じゃあ、両方作ろう。
 シュルツっていうのか? 雑煮の具材にこだわりはあるか?」
「日本人ではないので。作れますがこだわりは無いですよ」
「じゃあ、俺の家の味付けで作らせてもらうな」
 頷いて、呼雪はメモに材料を書き出して行く。
「足りない物もあるな。一緒に買い出しに行ってくるか」
「はい」
 頷くクレアの横から、にゅっとドラゴンニュートの子供が顔を出した。
「コユキ。ボク達も何か手伝う?」
 パートナーのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が、ちょこんと横で呼雪の手元を覗き込む。
 コハクも一緒だ。
「お前達は、腹を空かせておけ」
 遊んで来い、という意味だ。
「わかった! コハク行こう! あのねっユノちゃん今日すっごく可愛いんだよ!」
 ファルに手を引かれて行きながら、躊躇うようにコハクが振り向いたので、
「腕によりをかけますから。楽しみにしてくださいね」
とクレアも笑って送り出した。

「ようコハク! あけましておめでとう!」
 着物に黒い袴をはいたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)の装いは、迫力があるというか、威圧感があるというか、コハクは圧倒されて、それから慌てて頭を下げる。
「おめでとうございます」
 げらげら笑って、ラルクはコハクの頭をぼんぼんと叩いた。
「よっしゃ! おっさんと遊ぼうぜ!」
「コハクはボク達と遊ぶんだよ!」
 ファルがコハクの背後から隠していた顔を出して抗議するが、
「何だよ、皆一緒でいいじゃねーか」
とラルクが言い、
「一緒に遊ぼう」
とコハクも振り返ったので、
「そっか。一緒にだね!」
と頷いた。

「おっ、凧上げしてる奴がいやがるな」
 外に出ると、空に凧が上がっているのが小さく見える。
 先に外に出ていたユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が待っていた。
 薔薇の学舎に所属する呼雪のパートナーである関係で、普段は男装しているユニコルノは、今日は正月らしく、青地の袖や裾に花や手毬、鼓などが鮮やかに描かれた振袖を着ていた。
 長い髪も結っている。
「わあ、綺麗だね」
 艶やかな装いに、コハクが感嘆の声を上げると、
「……呼雪様が、着ろと……調達してくださいましたので」
と、無表情ながらも僅かに恥ずかしそうに、視線を落とす。
「あとこれ、羽子板! 羽根つきしよう、コハク。
 この板でね、この羽根を、2人で交互に打ち合うんだよ。羽根を落としたら負け」
 ファルは羽子板をコハクに渡しながら、ルールの説明をする。
「ちなみに落としたら、これで顔に落書きだからな?」
 にやりと笑って、ラルクが墨壷と筆を取り出してコハクに見せた。
 もうひとつの羽子板は、ユニコルノが持っている。
「勝負です。コハク殿」
 勝負を挑まれ、行け行けとラルクに背中を押されて、コハクは羽子板を手にする。
 あのね、とファルが囁いた。
「コユキが言ってたけど、羽根つきは女の子の成長を祈るものなんだって。
 だから男はさりげなく手加減してあげるんだよ」
 わかった、とコハクは頷く。
 しかし、ファルのそんな気遣いは無用だった。
 動きづらい振袖のハンデがあっても、コハクは本気で、ユニコルノに全くかなわなかったのだ。
 ぽとり、と落ちた羽根を見て、
「はい、コハクの負け〜」
とファルが言い、ラルクがにやにや笑って、ユニコルノに筆を渡す。
「強いね」
 コハクは観念して、大人しくユニコルノに顔を向けた。
「……呼雪様が言っていましたが」
 言いながら、ユニコルノはコハクの右目を囲んで、丸を描いた。
「この墨には元々、魔除けや病除けの縁起を担ぐ意味があったそうです。
 この一年、コハク様が健やかで幸せに過ごせますように」
 そう言ったユニコルノの表情が、微かに和らぐ。
「ありがとう」
 コハクも笑った。

「よっしゃあ! 次は俺とだ、コハク! 男同士だ。言っとくが手加減しねえぜ!?」
 満を持して、ラルクがユニコルノから羽子板を受け取ると、肩慣らしでぶんぶんと振り回す。
「ムリムリ。無理に決まってるよ、おっちゃん!」
 ぷるぷるとファルがコハクを庇って首を横に振るが、
「縁起物なんだろーが。つべこべ言わずにかかって来い!
 おまえでもいいぜ、ファル。ガキでも男だろうが」
「コハク頑張れ!」
 変わり身の早さで、コハクの背中を押した。
 そうして、こてんぱんにやられてしまったコハクの顔は、期待を裏切らずに真っ黒にされたのだった。

◇ ◇ ◇


 空高く、凧が上がっている。
 上げているのは、ゲー・オルコット(げー・おるこっと)だ。
 初詣に行く気分ではなくて、空京には行けなかった。
 そもそもあんな人が大勢いるところになど行ったら、手が勝手に財布をスッてしまう。
「ハルカと初詣行きたかったのにい!」
と、パートナーの藤波 竜乃(ふじなみ・たつの)はぶいぶい文句を言ったが、ゲーが1人でいたかった理由は財布をスリたくなるからばかりではないと気づいていたので、結局付き合って、ゲーが凧を上げるのを、時々思い出したようにぶーぶー文句を言いながらも、ぼんやり眺めている。
「……まーしょうがないっか」
 竜乃は、ふう、と溜め息をひとつついた。
 自分勝手でひねくれ者だが、目の前で人が死んで、平気でいられるような人間でもないのだ。
「そのうちね……」
 そのうち、自分の心と折り合いをつけて、戻って来るだろう。
 やれやれと肩を落として、竜乃はシャンバラの広い空に舞う凧を見上げた。
 セレスタインまで行き、”核”を奪うという目標も達成し、ハルカも無事で、世界も救われた。
 何も言うことはないはずなのに、ゲーの中には、もやもやとしたものが残っている。
 結局最後まで、自分はジェイダイトに追いつくことはできなかったのだと。
 そう感じて、そんなやり切れない気持ちを飛ばしてしまおうと、凧を上げる糸を更に延ばした。


 顔を真っ黒にして外から戻ってきたコハクに、
「今度は、家の中でやる遊びをしようよ!」
と、紺野 涼香(こんの・りょうか)が誘った。
 じゃーん、と効果音の声と共に取り出したのは、福笑いのおもちゃである。
「ふくわらい?」
「こののっぺらぼうの輪郭にね、目隠しして顔のパーツを置いて行くの。
 うまく人の顔を作ってねっ」
 コハクに目隠しをして、
「はい、これ目」
と、パーツを手渡して行く。
 この辺、この辺、と置いて行き、最後に目隠しを外したコハクは苦笑した。
「普通の顔にならないね」
「あはは、目が口の下になっちゃってるよ」
 横で見ていたラルクやファルも「変な顔!」と笑っている。
「ボクもやる!」
 とファルが挑戦して笑いを取り、
「見てらんねえな! 貸してみろ!」
 と言ったラルクは、器用に逆さまの顔を作ってやはり笑いを取った。
 そして、涼香さんもやってみて、と言われて、涼香も挑戦した。
「……人のことを笑えないですね?」
 目隠しを取って、結果を見た涼香に、くすくす笑いながら、頭上で、ちょうどやって来たクレア・シュルツが言った。コハクも笑っている。
「うう〜。もうちょっとまともになると思ったのにっ」
 慎重に置いたのにっ、と、結果に満足できない涼香は悔しげだ。
「そろそろ皆でお節とお雑煮食べませんか?」
 それを呼びに来たクレアに、涼香はびっ、と目隠しを渡す。
「行く前に! キミも1回やってく!」
「じゃあ、1回だけ」
 クレアは紙の前に座って涼花に目隠しをされ、コハクから
「はい、目」
とパーツを渡されて行く。
結果はというと。
「……パーツが1個も顔の中に入ってないんだけど」
 豪快、と、涼香がけらけら笑った。
 クレアはしみじみと自分が作った顔を見る。
「……私、整理整頓苦手なんですよね」
「関係ないって!」
 笑って、
「はー、楽しかった! じゃ、お雑煮食べに行こっか!」
とコハクを誘う。
 うん、とコハクもそれに続いた。
「コハクさん、明日は空京に行くと言っていましたっけ? 今日は沢山食べておいてくださいね」
 クレアの言葉に、コハクは頷く。
「皆で初詣に行く約束をしてるんだ」
「きっと楽しいですよ」
 晴れるといいですね、とクレアは言った。