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冬休みの過ごし方

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冬休みの過ごし方

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 セレスタインでの一件が終わった後で、”核”について更に詳しいことを聞いた葉月 ショウ(はづき・しょう)は、アトラス火山を訪れた。
 ”核”とは、およそ500年に一度、このアトラス火山で作ることができるのだという。
 険しい岩山を登り、山頂付近まで来ることができたが、その場所がどこなのかは解らなかった。
 ハルカの最後の場所は、どこか洞窟を入り、内部から火口へ至っていたようだったが。
「……まあ、この付近だったらいいか」
 用意していた花束と、天使のリュートを置く。
「アナテース」
 ハルカと共に最後を遂げた、パートナーの名を呼びかけた。
 その魂は、ハルカを護る為に”核”となって側にいたのだから、ここで呼びかけることに意味はなさそうだったが、それでも、彼女という存在の最後の場所は、ここだから。
 楽器を奏でたという話はハルカから聞かなかったが、天国から、ハルカの為に鳴らしてくれたらいいなと思う。
「あなたの願い通り、ハルカは今も無事で、生きてる。
 これからも、見守ってやってくれ」
 ふわりと優しい風が、吹きぬけた気がした。

◇ ◇ ◇


 黒崎 天音(くろさき・あまね)とパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、飛空艇で壊滅した自宅の片付けも2年越しな、ラウル・オリヴィエ博士の家に年始の挨拶に訪れた。
「あけましておめでとう、博士。今年もよろしくね。
 片付けはまだ終わらないようで」
 いらっしゃいませなのです、と出迎えたハルカに、ブルーズが、持っていた小さな紙袋を手渡す。
「ハルカにです?」
「うん、お年玉」
 そう言ったのは天音だ。紙袋の中身は小さなポチ袋と、餅。
 ポチ袋の中にはお金ではなく、サーモンピンクのリボンが2本、入っていた。
「わあ、ありがとなのです!」
 早速つけてみたハルカは、鏡のある場所に走って行く。
「まあ、とりあえずどうぞ。今お茶を……」
「それは我が淹れよう。まだ助手は戻らぬのだろう?」
 2人を招き入れながらそう言いかけたオリヴィエ博士に、すかさずブルーズがそう口を挟んだ。

 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)もまた、オリヴィエ博士の元を訪れていた。
 飛空艇を転移させ、博士の家を潰してしまったことに責任を感じ、片付けの手伝いに来たのだ。
「気にすることはないよ。家はまたそのうち建てればいいんだし」
と博士は呑気なものだったが、家もそうだが、家の中にあった物が色々、飛空艇や住居(だったもの)の下敷きになって、取り出せないでいるのを放置してあるのを、何とかしなくてはという思いもあった。


 一方、とりあえず、そんなハルカをイルミンスールに入学させるには、パートナーを見付けて契約させるのが第一歩だと影野 陽太(かげの・ようた)は考え、斡旋所のようなところでパートナーを探してみたらどうかとハルカに提案した。
 ネットなどで、実際会ったことがない状態でパートナー契約をする例もある。
 契約した後も一度も会ったことなく、正体を偽られて契約をする例すらあるのだ。
 ずらりと並ぶ、パートナー募集リストを眺めて、ハルカは困ったように首を傾げた。
「どう? とにかく契約してしまえば、後は色々何とかなると思うのですが」
 陽太に言われても、ハルカはピンとこない顔をする。
「でも……アナさんの時みたいな、びびっと感じるものがないのです」
 きゅう、と、アナテースぬいぐるみを両手で持つハルカにとって、契約とはやっつけでやってしまうものではないらしい。
「そうですか……」
 残念だが、ハルカがそう言うのなら仕方がない。
「いつか、運命の相手と出会えるといいですね」
 アナテースのような。
「ごめんなさいなのです」
 申し訳なさそうに謝るハルカに、いいんですよ、と陽太は笑った。

 そんなやりとりを眺めて、オリヴィエ博士が肩を竦める。
「うちの助手も、契約者に憧れて、休暇を取って相手を探しに行ってるけど。
 見つかったらすぐに帰ってくるって、1ヶ月の予定でそろそろなんだけど、どうやら今回も手ぶらで帰ってくる気がするね」
「そういえば、以前来た時、そんなのが居たよね」
 確か博士の他にもう1人いたのだ。頼りなさげな青年だったが。
「……そんなに手放しに良いものでもないと思うがな」
 ぽつりと呟いて、ブルーズはちらりと自分のパートナーを見る。
 視線に気づいた天音は、ふっと面白げに微笑った。
「だよねえ。
 そんな簡単に契約相手の人生やら運命やらを背負う覚悟なんて、私にはとても持てないよ」
 君達はすごいよねえ、と、しみじみと言ったオリヴィエ博士は、そういえば、と深い溜め息を吐いた。
「……ヨシュア君が帰る前に、バイト君に帰ってきて欲しいものだけど」
 また面倒なことになりそうな気がする、と呟く博士に、
「バイト君?」
とカレンが訊き返す。天音が怪訝そうに訊ねた。
「今度は何をやったんだい?」
「いや……ほら、以前、機晶石より高度な貴重石という物を探しにバイト君を雇ったら、助手のヨシュア君にすごく怒られたことがあってね」
 今回、助手が休暇を取った隙を狙い、博士は再びバイトを雇ったのだ。
「ヒラニプラに有名な遺跡があるでしょ。
 そこにならあるに違いないと思って、バイト君に調査を依頼したんだけど。
 いや、今度は貴重石なんかじゃないよ。
 名付けて、稀少石…………」
「それ言い方を変えただけで、何も状況は変わってないってことだよね」
 呆れた口調で、天音の鋭過ぎる突っ込みが入る。
 つまり今回も、根拠の何もない博士の妄想なのだ。
 博士は軽く目を逸らした。

「みっちゃんが二次被害に遭ってるかもなのです」
 そこに、戻ってきたハルカが心配そうに言った。
「みっちゃん?」
 実は数日前、光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)
「片付けのボランティアに来たぜッ」
と言って訪ねて来て、雑談の中で同じ話が出たのだ。
 翔一朗は、バイト君を探しがてら
「待っとれ! ついでに正月の準備もしちゃるけえの!」
と言って出て行き、そのまま年が明けても未だ戻らないのである。
「……遺跡に門松を探しに行ったと?」
 ブルーズがこめかみを押さえながら言った。
「似たような物を見付けて来る、と言っていたね」
「それ、探しに行った方がいいのではないか?」
 何かトラブルに巻き込まれているのやも、と、ジュレールが言う。
 それにしても、2週間も放って置かれるとは大概だと、博士の気の長さに呆れた。
 その時、

「今帰ったぜ!」

 バタンとドアを開ける音と共に、叫び声が轟いた。
「待たせたな、ハルカ! 門松持ってきたけえ!」
「みっちゃんの声なのです!」
 ハルカが飛空艇入り口へ走って行く。
 肩によれよれの若者を引っ掛け、もう片方の手に謎の物体を抱えて、自身も半ばよれよれな格好で、翔一朗が帰って来た。
 が、彼が抱えているその物体を目にして、天音を始めとする一同は、うーんと唸った。
「……中々前衛的なオブジェだね」
「これが”門松”かい?」
 面白いね、と言う博士の言葉に
「いや……」
と、日本人をパートナーに持ってそれなりに日本の文化も勉強してあるブルーズが言葉を濁す。
 連絡も入れずに今迄、一心不乱で”門松”に似た物を作るための材料を物色していた翔一朗の渾身の作品は、ハルカだけを大喜びさせた。
 ちなみにその過程で偶然、探すと言ったくせに全く頭に無かった、行き倒れのバイト君も発見し、結果オーライで助けられた彼は、今は別室で休んでいる。
「て言うか……。
 素直に竹林で竹を切り出して作れば良かったんじゃないかな」
 肩を竦めて、天音が言った。
 最もな突っ込みに翔一朗は固まり、それでも、エセ門松は、飛空艇入り口に飾られることとなったのである。


 遊びに来たのかという感じだが、カレン達はちゃんと片付けも手伝った。
「ハルカ、君は遊びに行っていいよ。ボク達その為に来たんだから」
と、ハルカを迎えに来た人を見て、送り出す。
 家を潰した責任を感じること半分、何か珍しいものを見付けることができないかな、という好奇心が半分だ。
 大半は本と、博士の手による研究書と思しきものだが、ガラクタのようなものも大量にあった。
「博士〜、これ何? 綺麗」
 中世アンティークのような細工の凝った、手の平の上に乗る大きさの箱のようなものを見付けて、カレンがそれを取り上げた。
 博士はそれを見ると、怪訝そうな顔をして受け取り、何かを思い出した顔をしてふたを空け、まずい、という表情に変わると、無言でそれを埋め戻そうとする。
「ちょっとちょっと博士! 何何何なのっ!?」
 慌ててカレンとジュレールはそれを留めた。
「い、いや別に?
 師匠の形見の品をすっかり忘れてたなんてことはこれっぽっちも無いよ?
 うん、壊れてるなんてことは全然」
「師匠の形見の品なのか」
「師匠がいたんだ……」
 すっかり暴露しているオリヴィエ博士に、2人は納得する。
「いやえーと……そんなことよりそろそろ休憩しないかい? 寒いし」
 そそくさと飛空艇の中に戻ろうとするオリヴィエ博士に、
「そんな有様だから片付けが終わらぬのだ」
とジュレールは溜め息を吐いた。