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【サルヴィン川花火大会】花火師募集!?

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【サルヴィン川花火大会】花火師募集!?

リアクション

 霞 晶(かすみ・あきら)は、工房を訪れるなり、パートナーの姿がないのを確認してホッとした。
 彼女に内緒で訪れたのに、もしこの場で鉢合うことがあれば、笑ってやり過ごすしかない。
 目的の花火を作るべく、花火師から手順の説明を受けると、早速作り始めた。
 花火玉に込めるのは、パートナーに向けた短いメッセージだ。
「エメネアはどんな花火を作るんですか?」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はエメネアの傍に腰を下ろしながら、声を掛けた。
「秘密なのです、当日のお楽しみですよーー」
 立てた人差し指を口元に近づけながら、エメネアは答える。
「そうですか。それは当日ご一緒して、教えてもらいませんと」
 唯斗はそう言いながら、早速自分の花火玉の作成に取り掛かる。
「わらわは『姫』と描くぞ」
 唯斗に「もっと構え」と身を寄せながら、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)がそう告げた。
「『姫』ですかーー。何か理由があるのですかーー??」
「理由? いや、ただ、なんとなくだが」
 訊ねるエメネアに、答えるエクスは笑う。作るからには全力で、と彼女は手元に集中し始めた。
「んー、悩んじゃいます」
 皆がどのような花火を上げるのか気になって、デザイン画などを見て回った紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は、どのような模様にするか悩んだ果てに、1つの模様に辿り着いた。
 良いことを思いついたというように、楽しそうに作っていく。
 その模様は……彼女もまた、当日のお楽しみだと告げた。
「エメネアちゃん、お手伝いするよ」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、少し大きめの花火玉を作っているエメネアへと声を掛けた。
「わわ、ありがとうございますー!! でも、騎沙良さんは花火玉作らなくてよろしいのですか?」
 反射的に感謝の言葉を口にするも来たばかりで、作成し終えた様子のない彼女を見て、不思議とそう訊ねる。
「詩穂は、皆さんのお手伝いをしつつ、『歌人』を目指して、花火など夏の風物詩を元に俳句を詠めれば良いんだもん。だから、大丈夫!」
「そうなのですか。それでしたら、お手伝い、お願いしますー!!」
 詩穂の答えを聞くなり、エメネアは作りかけの花火玉の説明を彼女へとする。
 打ち上げたいのは、皆に伝えたいほんの一言のメッセージ。けれど、短いメッセージだからこそ、1文字1文字を1つずつの花火玉にしたいと小さめの花火玉をいくつも作っているのだ。
 そのうちのいくつかを手伝って欲しいと願う。
「雨降らぬ ことを祈りし 晴れ舞台……意外と難しいですね」
 作業しながら、詩穂は1句詠んでみた。その難しさに、ううむ……と唸る。
「この場に居る皆さんの願い、祈りですよね」
「うん、打ち上がったのが綺麗に見えるといいね」
 その1句を聞いたエメネアが周りの皆を見回して告げると、詩穂は頷く。
 窓の外を見れば、快晴が空の果てまで続いている。
 当日も今日のように晴れ渡ることを祈るばかりだ。
「明日香さんはどんな花火を作っているのですかーー??」
 不意に、エメネアが神代 明日香(かみしろ・あすか)へと声を掛けた。
 傍で作成しているのだが、内容にはまだ触れていなかった、と思い出したらしい。
「秘密ですぅ。エメネアちゃんが教えてくれたら、教えてあげてもいいですよぅ?」
 口元に立てた人差し指を当てながらも明日香はそう切り返す。
 エメネアもメッセージの内容は、皆に――手伝いをしている詩穂には教えないと作れないため、伝えているようだが――内緒にしている様子のため、明日香もそう言ってみたのだ。
「うぅ……それは、秘密なのです。明日香さんの花火は、当日の楽しみなのですねーーー」
 事前にメッセージの中身を教えたくないエメネアは、教えてもらえないことに肩を落とした。だが、すぐに顔を上げて、にっと笑う。
「そうですぅ、互いに楽しみにしましょぉ」
 エメネアの様子を見て、くすと笑いつつ、明日香は告げた。
「ご一緒して下さいませんか?」
 小林 恵那(こばやし・えな)がエメネアへと声を掛ける。
 1人で工房へと訪れたのだが、皆の様子に誰かと共に作った方が楽しいと思ったからだ。
「もちろん、構いませんよー。どんな花火を作るんですかーーー???」
 笑顔で応えるエメネアに、恵那は「ありがとうございます」と微笑んで、傍へと腰を下ろした。
「形はアイスクリームです! だってアイスが好きなんです」
 アイスクリームを描いた紙を見せながら、恵那は答える。
 早速、花火師の手ほどきの元、彼女は半球の花火玉に、火薬玉を並べ始めた。
「ご迷惑でなければご一緒に作りませんか?」
 笹野 朔夜(ささの・さくや)もエメネアへと声を掛ける。
「僕は打ち上げ式の朝顔の形になる花火を作ってみようと思います」
 半球に並べる火薬玉の複雑さに、エメネアが覗き込んでみると、朔夜はそう答えた。
「朝顔の花言葉、ご存知ですか? 『はかない恋、愛情のきずな』だそうです。綺麗に見えると良いですね」
「はかない……だなんて、何だか花火に似合った花言葉なんですね。淋しい感じもしますけれど……本当に、朔夜さんのも、他の皆さんのも綺麗に打ちあがると良いですね」
 花言葉を聞き、一瞬はしんみりとしてしまったエメネアだが、直ぐに、そう告げて、笑顔になる。
「エメネアさんはどのような花火をお作りになるのですか?」
「私のは秘密ですー。花火大会に一緒に行って花火を見ましょう? これです、って教えますからーー」
 訊ねる朔夜に、エメネアはそう告げた。
「はい、是非」
 花火大会でも誰かと一緒に回ることが出来れば、と考えていた朔夜は、笑顔で頷く。
「俺もご一緒してもよろしいかい?」
 そう声を掛けてきたのは、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)だ。エメネアは喜んで、と首を縦に振る。
 花火玉となる半球を2つ渡されたものの、勝手が分からず、皆の様子を見て、どんなものを作るのかと質問して回った。
 結果、クドが作る花火の模様はというと……。
「俺はまあ、『安眠』なんて文字が空に浮かび上がれば今日はいつもよりぐっすり眠れるかなと思ってね、そんな感じの作ってみることにした」
 苦笑交じりに答え、難しさに四苦八苦しながらもクドは火薬玉を詰めていく。
「打ち上げ花火ではないのですが……一緒に作ってもいいですか?」
 入学仕立てで知り合いも少なく、パートナーを誘ってみても「ダルい」とのことで結局1人で来ることになってしまった白銀 司(しろがね・つかさ)は、エメネアへと声を掛けた。
「構いませんよ。一緒に作りましょうーーー」
 頷くエメネアに「ありがとうございます」と返して、司は早速、手持ち花火を作り始める。
 それは、火を付けるとポンと勢い良く弾けるものだ。弾けたときの火花が、羽の形になるように、火薬を調節していく。
(派手じゃないけど心を和ませるような物になると良いな)
 そう思いながら、司は1つ1つ丁寧に作っていった。
 皆と楽しそうに話しているエメネアの姿を遠巻きに眺めながら花火玉を作っているのは、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。
 日ごろから失敗を繰り返しながらも皆のために頑張るエメネアの姿を微笑ましく見守っている彼女は、此度、エメネアに内緒で1つの花火玉を作っている。
(これでエメネアをびっくりさせて、喜んでもらえたら……いいな)
 エメネアの顔と作りかけの花火玉を交互に見つめて、美羽はそう思った。