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百合園女学院からの使者

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百合園女学院からの使者

リアクション




 はじめに…… 

 シナリオの特性上、本リアクションには男女の恋愛描写および、女性同士の恋愛描写が含まれます。
 明確な描写はフレンチキスまでに留めておりますが、第五章には特にあからさまな描写がございますので、苦手な方はお気を付け下さい。
 (それ以外は、「大事な人」「恋人」「私の○○ちゃん」程度の、関係を表す単語や会話があるのみです。)

第一章

 その日、シャンバラ教導団の学食は異様な雰囲気に包まれていた。
 昼食を済ませた学生達は既に立ち去っており、午後の授業は始まっているはずだ。にも関わらず、何とも言えない緊張感、戸惑い、期待……浮き足だった気配が、まるで上の空で昼食を済ませた生徒達の残留思念のように、食堂中を包み込んでいる。
 そこへ、厳かにドアを開けてやってきたのは教官である李梅琳(り・めいりん)だ。
 後にずらりと、教導団の軍服や作業服とは違う、華やかな制服を身に纏った淑女達を連れて。
 淑女達はざっと三十人程度だろうか。年頃の女子の割には静かに、行儀良く列を成して食堂へ入ってくる。
「本日はご足労ありがとうございます。ご挨拶が遅れましたが、本日このイベントの担当を任されております、李梅琳大尉です。宜しくお願いします」
 ずらり、と食堂の机と椅子との間に並んだ百合園女学院の生徒達――「愛の使者」一行に、梅琳が一礼する。それに百合園の生徒達は涼やかな声でよろしくおねがいいたします、と唱和して答えた。
「何か困ったことがあれば何なりと言ってください。厨房と食堂はご自由にお使い頂けるようになっていますが、先ほど通ってきた廊下とトイレ以外への立ち入りはご遠慮下さい」
 それから梅琳はいくつかの注意事項を述べると、横に控えていた数人の男子生徒を示した。
「彼等は会場管理の手伝いを志願した本校の学生です。困ったことがあれば彼等に申しつけてください。」
 梅琳に紹介された生徒達はピッと一糸乱れぬ動作で一歩前に出ると、ぐっと胸を張って敬礼をもって挨拶し、また一歩戻る。それからそのうちの一人である、叶 白竜(よう・ぱいろん)だけがきびきびと前に出、
「それでは厨房へご案内致します! 先頭の方から、こちらへどうぞ」
と告げると厨房の入り口の扉へと向かって歩き出す。その後に、パートナーの世 羅儀(せい・らぎ)も続き、二人で厨房の扉を開け、閉じてしまわないように押さえつける。
 さらにその後に続く女子生徒達はおしとやかに、しかし年頃の女の子らしくひそひそと小さな声で楽しげな会話を交わしながら、一人二人と厨房へ入っていく。先に入った生徒のきゃぁ広ぉいというはしゃいだ声に、後から続く生徒もソワソワしているようだ。
 そんな女生徒達を、白竜と羅儀は真面目な顔をして敬礼で迎える。が、じっと見詰めてくる羅儀の視線に、中には頬を染めてみせる女生徒も居る。
 そんな羅儀の姿を見咎め、白竜はむっと恐い顔をしてみせた。それに気付いた羅儀は、ちぇ、と唇を尖らせる。
 少しくらいいいじゃん、と羅儀の唇が動いたが、白竜はつんと視線を逸らした。
 その間も、二人の間を百合園の生徒達はするすると通り抜けていく。
「おおっ、広いねぇ〜!」
 そんな百合園生の一人、秋月 葵(あきづき・あおい)が厨房に入るなり歓声を上げる。
 先に入っている百合園の生徒や、手伝いの教導団の生徒によって基本的な調理用具や材料は調理台の上に乗っている。百合園の生徒たちは、思い思いの場所でそれぞれの作業に取りかかって居た。葵もまた、チョコレートと共に小麦粉や卵を台の上から失敬すると、手早く生地作りに取りかかった。
 その横で、同じようにやってきたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)もチョコレートを刻み始める。
「あ、ねえねえ、あたしのも一緒にお願い!」
 すると、まだ卵を泡立てていた葵が自分の分にと取っていたチョコレートをミルディアへと差し出す。ミルディアの目の前には型が置いてある。型抜きチョコレートを作るようだ。
「オッケー!テンパリングしちゃうけど良い?」
「うーん……生地に混ぜちゃうんだけど、まあ大丈夫だよね!」
 葵から製菓用チョコレートを受け取ったミルディアは、自分の分と一緒に包丁で手際よく刻んでいく。細かくなったチョコレートを湯煎用のボウルへ放り込む横で、葵は泡立てた卵に小麦粉をふるい入れる。
 ほどよく溶けたチョコレートを、ミルディアが葵の手の中のボウルへと流し込むと、チョコレート生地の完成だ。葵はそれをハート型の小さな型へと流し込んでいく。
 ミルディアもまた、温度調節を済ませたチョコレートを、持参した割り型へと流すと、二つに割れた型をぴったりと合わせた。固まったら型を外せば、立体的なハート型が現れる予定だ。
 上手くできるかな、と二人は顔を見合わせて笑うと、準備の出来たそれぞれのお菓子を、オーブンと冷蔵庫へと投入した。

「ひななちゃーん!」
 厨房の一角で黄色い声が上がる。教導団生ルカルカ・ルー(るかるか・るー)のものだ。その声に応えるように、白百合生の如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)が他の生徒達を掻き分けてルカルカの元へやってきた。
「ルカちゃ〜ん」
「ようこそ教導団へ!」
 日奈々はルカルカと手を握り合い、出会いを喜ぶようにその場でぴょんぴょこ飛び跳ねる。
「さてさて、作ろう作ろう!」
 日奈々のパートナーである冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)が二人を促す。ルカルカのパートナー、夏侯 淵(かこう・えん)が材料を調達してきて、四人でのチョコレート作りが始まった。
「ひななちゃんはどんなのを作るの?」
「えぇっとぉ〜、千百合ちゃんとルカちゃにあげるチョコケーキとぉ、配る用の、普通のチョコをつくりますぅ〜。ルカちゃは?」
「料理はあんまり得意じゃないからさ、簡単なのをと思って……」
 えへ、とルカルカは栞の挟まったレシピブックを取りだす。そこには、ナッツ入りチョコバーの作り方が書いてあった。
「レシピは用意してあるから、教えてくれる?」
「もちろんですぅ〜」
 日奈々とルカルカがえへへー、と平和に笑っている横で、千百合と淵も各々の分の制作に取りかかっている。
「淵……えっと……ちゃん?」
 は、何を作ってるの、と聞こうとした千百合を、淵が無言でものすごく睨む。
「……くん、は、何を作ってるの?」
「……うむ。まあ……なんだ、折角ならば梅琳教官にでも渡そうかとな」
 そう言いながら淵はルカルカの手元を覗きながら同じように作業を進める。
「しかし、そうしていると、ルカも如月殿達のように女の子に見えるな」
 ちらりとルカルカの方を見遣った淵がからかい半分に言うと、ルカルカはなによぅ、と頬を膨らませる。が、可愛らしいその仕草に反して、彼女の手の中で何かが砕ける音がした。
「……クルミ粉砕しとるぞ」
「あっ……」
 淵の呆れ気味の声にルカルカは頬を赤くして、砕け散ったクルミをチョコレートの中へ落とした。

 他の作業台では諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)が難しい顔でチョコレートを溶かしたボウルと睨めっこしている。
 敬愛する横山ミツエ(よこやま・みつえ)に贈るため、ショコラティエであるパートナー、ショコラ・ヘクセンハウス(しょこら・へくせんはうす)の指示の元、それは立派なチョコレートケーキ、になる予定のものを制作中なのだった。
「涼さん、温めるときは32度を超えないようにしてくださいね。超えてしまったらやり直しになりますわ」
「あ、ああ……32度だな」
 涼は指示に従い、慣れないながらも必死に温度計をじっと見詰める。じわりじわりと上がっていく水銀の赤が32の数字を指した所でサッとボウルを湯から上げる。その姿を認めて、ショコラは反対隣に立つルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)の作業へも目を遣る。
「ルーシェリアさん、チョコレートを刻んだら生クリームと一緒に湯煎してくださいまし」
「は、はいぃ〜!」
 ショコラの指示を受け、ルーシェリアは刻んだチョコレートをボウルへ移す。
「こんな感じですかぁ?」
「そうですわ、そのまま滑らかになるまでゴムべらで混ぜてくださいな」
「はぁ〜い」
「ねえ君、これ味見してくれませんか?」
 ルーシェリアの作業を見守りながらよしよし、と頷いていたショコラの背中を、つんつん、と突いたのは後ろで作業していた藤井 つばめ(ふじい・つばめ)だ。
「なんですの?見たことのないお菓子ですわね」
「ぼくのオリジナルなんです。味が心配なので……」
「そういうことなら、喜んで頂きますわ」
 ショコラは細い指でそっとつばめが差し出したチョコレートをつまみ、口元へ運んだ。
「……どうですか?」
「そうね……悪くはないのだけれど、そうね、さくらんぼのリキュールを足したら合うのではないかしら」
「ああ、それは思いつきませんでした。ありがとう」
 ショコラの提案に、つばめは切りそろえられた金髪を揺らしてぺこりと頭を下げた。ショコラもいいえ、とにっこりと笑う。
「あのぉ、これが溶けたらどうしたら……」
 その後ろから、作業が一段落したらしいルーシェリアが声を掛ける。ショコラが振り向こうとしたその時。
「へへっ、いっただきー!」
 元気の良い声が響き、ルーシェリアの手にしていたボウルにサッと一本、指が伸びた。ミルト・グリューブルム(みると・ぐりゅーぶるむ)だ。天御柱学院の生徒であるはずが、今はだいぶダブダブな百合園の制服を身につけている。
「ああ〜っ!」
「んー、まずまずだねー。頑張ってね、おねーちゃん」
「そこ! ルーシェリア殿に何をしているかッ!」
 背伸びしてルーシェリアの頭をナデナデするミルトの姿を見咎め、ルーシェリアのパートナーであるアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)が金髪を振り乱してどこからとも無く飛んできた。
「えっ、えっ、ボク何もしてないよ!」
「ルーシェリア殿に触れるな! ええい、離れろ離れろ!」
 言いながら、アルトリアはぶんかぶんか戦闘用のビーチパラソルを振り回す。
 厨房の片隅はにわかに混乱の様相を呈し、周囲の生徒達は大事な手作りチョコに何かあっては大変、と慌てて自分たちのチョコレートを死守して待避する。
「ふおわぉっ!!」
 と、待避する生徒達にぶつかられ、百合園生のフリをして作業中だったミルトのパートナーペルラ・クローネ(ぺるら・くろーね)は作業台へモロに突っ伏した。
 その胸の下には、今し方冷蔵庫から取りだしてきた、固まりたての生チョコレート。
「あっ……ま……まずいですわね……」
 恐る恐る上体を起こすと、借り物の制服はココアまみれ。
 そして、美しくココアがまぶされていた生チョコには――
「……ミルト、食べてくださるかしら……」
 見事な魚拓ならぬおっぱい拓の取れたチョコレートを呆然と眺めながら、ペルラは遠い目で呟いた。