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白昼の幽霊!? 封印再試行!!

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白昼の幽霊!? 封印再試行!!

リアクション

「そういうことなのです」
 説明を終えた咲耶は自分が情けなくなったのか、それとも幽霊に取りつかれたハデスから受けた屈辱を思い出したのかまた目じりに涙を浮かべていた。それを聞いていた縁は苦笑交じりにセフィーに話しかける。
「確か、さっき見た山賊の幽霊たちも衣服を略奪していたみたいだし、山賊たちは変態なのかしらね?」
「そうらしいね」
 セフィーも笑うしかなかった。百はぽかんとしたまま二人の様子を見守っている。
「待って縁ちゃん。山賊の幽霊はその……二つの集団に分かれているということ」
 百の疑問に縁は彼女の頭に手を当てて笑う。縁の回答を読み取った百は怖い相手が二つもあることに、うなるしかなかった。
「まぁ山賊もいい加減なのでしょ?従いたい奴らに従っているのじゃないかな?山賊らしいじゃない?」
 そのどちらの集団も衣服の略奪という目的を一致させていることに縁は笑うしかなかった。
「でも待ってください?これって利用できませんか?」
 エリザベータがぴんと指を立てる。皆が見守る中、エリザベータは得意げに作戦を話し始めために円を作る。





 エリザベータとセフィーはオルフィナ率いる山賊の集団を見つけることに成功した。
「まぁあれだけ馬鹿笑いしていたら誰だって見つけられるさ」
 ケラケラと笑うセフィーをよそに、エリザベータは颯爽とオルフィナの前に立ちはだかる。
「そこまでです!! オルフィナの悪事をこれ以上見ているわけには行きません。今すぐ投降してあげたら手荒なことはしません。それとも抵抗しますか?」
 彼女は毅然とした姿勢のまま、まっすぐと武器を構える。オルフィナたち山賊はその武器の切っ先をきょとんと見ていたが、すぐにせきを切ったように笑い出した。
「なんだって?それ冗談で言っているのかい?見れば以前俺たちの前から逃げ出した負け犬じゃないか。どうした俺たちの傘下にでも加わりに来たのか?」
「その減らず口をたたききってもよろしいですか?」
 眉間に青筋を浮かべながら武器をプルプルと震えさせるエリザベータの隣で、セフィーはやれやれと言った様子だった。
「なぁ?オルフィナ。あたしたちと勝負しないか?」
「勝負だと」
 オルフィナが乗り気になっているのを読み取ると、セフィーはぐっと背筋を伸ばした。自然と彼女の胸が強調される。山賊たちからは長い溜息をいただいた。
「あたしに勝ったら抱いてあげる。どうだい?悪い提案ではないだろう?」
「そう来たか?なら容赦はいらねえ。行くぞ!! 野郎ども」
 オルフィナは右手を振り上げる。その動作に鼓舞されるように幽霊たちは雄たけびを上げると、エリザベータとオルフィナたちに襲い掛かった。
 まずは予定通りだ。二人は顔を見合わせるとくるりと踵を返してオルフィナたちから距離を取る。
「逃げるのか!!」
「捕まえてごらん!!」
 追ってくることを確かめるとあらかじめ打ち合わせていた場所へ二人は走った。今はいない協力者たちがうまくやってくれていることを信じて。





 エリザベータの作戦を説明すると、こういうことになる。数で勝る山賊相手に一番ネックとなっている人材不足を補うために、ハデス率いる山賊たちとオルフィナ率いる山賊たちをぶつけ合わせてみるということだ。
 その集団同士が相対したら、どうなるのかは大体予想できる。自分の利益しか目にない山賊どものことだ。相手が持っているものを奪おうと争いだすのが目に見えていた。
「そしてお互いに疲弊したところを、捉えるということですね」
 咲耶がそう尋ねると、縁は軽くうなずいた。
「名付けて漁夫の利作戦〜」
 指先をくるくるとまわしながら、口笛でも吹いてしまいそうなノリでいる後ろで百が縁を見上げている。
「百ちゃんはきちんと私が守ってあげるから安心しなさい。その可愛い肌を人前にさらけ出すなんてこと私が許さないからね」
 その言葉に反応する咲耶とアルテミスはハデスたちの集団を見つけた。百のスキルと、彼らのやかましい叫び声が天井越しからも聞こえてくるおかげで探すことに手間取ることはなかった。しかし問題はここからである。
「兄さん!! ヘスティアちゃん!! 見つけましたよ」
「おや? 誰かと思ったらまた捕まりに来たのか? これまたはぎとりやすそうな服を着ているではないか?ふっははははー!!」
 今彼女とアルテミスが来ているのは、エリザベータからいただいた簡素な服だけである。それを失ったらまた全裸に逆戻りだった。げひた嬌声が響く中、咲耶は下唇をかみしめて屈辱に耐えていた。その背後ではアルテミスがそそくさを隠れ、そして縁はその集団を確認して、眉をひそめる。
 いくらか誤算があった。それを認めざるを得ない。だが支障をきたすほどの障害ではない。
 けれども縁はその集団の中に見知った顔がいるのに気づいていたのだった。
「かがっちゃん?どうしてそっち側に回っているのかな?」
「カガチくん?どうしているの?」
 山賊たちの中に、やや風変わりないでたちのその青年の姿に、縁は呆れ、百はおびえた目線をさらに強くしていた。二人の視線を浴びて、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は不敵な笑みを作ると、両手の指を小刻みに動かしている。
 彼が何を考えてるのかさっと理解すると縁はそういうことねと小さくつぶやいた。
「悪いですけれど、佐々良さんだとはいえ容赦はしません。大人しくこの山賊団オリュンポスの餌食になってもらいます」
「かがっちゃん本当に取りつかれているわけ?」
「取り付かれていますねぇ。ものいっそい取りつかれています」
 不敵に笑い続ける傍らでハデスが先頭に立つ。先ほどと変わらない高笑いのまま、ビッという効果音を自分の口で鳴らしながらヘスティアの背中を叩いた。
「さぁ!! 他の者どもよ。一番豪勢な服をよこすのだ!! フハハハハ!!」
「はいハデス博士……じゃなかったハデス兄貴」
 ニコリとほほ笑みながらヘスティアはためらいなく襲い掛かる。縁と咲耶は身構えると数分前のことを思い出す。このまま一旦距離を取りながらこの集団を誘導しよう。作戦が成功するかどうかはこれにかかっていた。
 咲耶は自分たちが逃げるとハデスたちが追いかけてくるのかだけが不安だった。もしかしたら自分たちに恐れをなしたとみなし追いかけてこないかもしれない。それではいけないのだ。かといって他に案があるわけでもない。
 考えても今は何も解決しない。なら試してみるしかないだろう。しかし状況は咲耶たちの予想外だった第三者の介入があったのだった。
「なんだとー!!」
 驚きに口をあんぐりと開くハデス。彼の前には自分たちが略奪していた衣服を詰めている風呂敷が何の支えもないのに浮かんでいたのだった。
 そしてそれは咲耶と縁たちの頭上をすいぃっと移動する。移動していた途中で、その風呂敷から咲耶とアルテミスの服が零れ落ち、二人はそれを掴んだ。
 そして風呂敷は縁たちの背後で立っていたその人物の手元に落ちる。
「葵さん……ってその格好どうしたの?」
 縁の嬉々とした声に東條 葵(とうじょう・あおい)はそれを否定するように立てた人差し指を横に降った。
「違うのよぉ。確かに今ここにいるのは葵だけれどあたしはマリー・ロビン・アナスタシア(まりーろびん・あなすたしあ)お見知りおきあそばせ」
「アナさまだったのですか。だからそんな恰好をしているのね」
 縁がじくじくとした目線を飛ばすが、それに気にせずマリーは自分が来ている制服のスカートの裾をつまんだ。ポーズをとるようにくるくると回って見せる。
「どう?似合ってない?」
「とても似合っています」
 縁は適当に話を合わせることにした。マリーのことに言及している暇はない。
「アナさんそれ返してもらえませんかね?大切なものなのですよ?」
 カガチがすぅっと滑るように前に出た。その目つきと小さくのぞかせる舌の先は爬虫類のそれを思い浮かべる。そんなカガチの目つきをマリーは鼻で笑った。
「欲しいのなら力づくで取り返せばいいのじゃない?全く、ミイラ取りがミイラになっちゃって嫌になっちゃうわぁ」
 マリーは風呂敷を掲げながらスキップをするような足取りでそそくさと離れた。無論ハデスやカガチたちが何も反応しなかったわけではない。
「捕まえるんだ!! 山賊団オリュンポスの名に懸けて取り戻せ!!」
 縁たちもマリーの後を追う。彼女たちにすれば願ったもない展開だ。
「アナさま。とりあえず私たちが指示する方向へ進んで!!」
「なんだか知らないけれど了解したわ。あんな山賊たちナラカに来られたら治安悪くなってやな感じ」
「どうにかなりそうですね。アルテミスちゃん」
 戻ってきた服に袖を通しながら希望を見出した咲耶の顔に、アルテミスも同じように答えた。