校長室
白昼の幽霊!? 封印再試行!!
リアクション公開中!
第四章 とある教室では蚕 サナギ(かいこ・さなぎ)が幽霊相手に歌を歌い、踊っていた。お世辞にも彼の歌は素晴らしいというものではなく、ただ幽霊を呆然とさせているばかりだった。当然踊りもそれに見合ったものである。 「いやいやヨーロ霊ヒ〜や」 歌っている本人は真面目に幽霊の相手をしているつもりのようだが、どこか彼らとの感性の違いを際立たせるだけだった。 「あなたは何をしているのですか?」 彼の歌声が耳に入ってきたみもりは、幽霊相手に奇怪な行動をしているサナギに戸惑うしかできなかった。この人は今までずっとここでたくさんの幽霊を相手にしていたのだろうか? 「おぅキミも楽しみに来たんかい?これはわしの友達たちや。苦労したんやで探すの。でもうちの忠犬セブンが頑張ってくれたんや」 サナギが話している忠犬は部屋の隅で眠りについているあの任兼のことだろう。みもりが来たことにも気づかずにどこからか調達したパンを口に含んでいる。 みれば老若男女の幽霊がこの教室に集まっている。その密度はすさまじく濃い霧の中にいるような感覚に陥る。 「昇天いうたらやっぱ大喜利やな。わしの自慢のマンボを披露すれば昇天というわけや。見てよこの腰使い」 そういいながら自分が考えた振付けとリズムで踊るサナギは今日一番のマイペースな人間なのだろう。みもりは行動はどうで 自分にもできることを考えることにした。 だがそれを考えようとした矢先だった。また教室が暗闇にのまれる。みもりはその感覚を知っていた。 「なんや?停電かい?」 「ふふふ……」 人魂のように浮かび上がるその双眸をみもりは見覚えがあった。それは双眸だけではなく、顔そして全身を闇の中から姿を見せる。 「こんなに僕のお友達がたくさんいたんだね?」 ニコは教室を見渡して妖しく笑った。傍らではナインと、彼らが連れている幽霊が見えている。 「あなたたち」 「どうだい?ここにいるみんな?そんなつまらない男よりも僕と一緒に遊ぼうじゃないか?」 ニコはサナギが相手をしていた幽霊たちにそう微笑みかける。蠱惑的な意味合いを込めたその笑い方は、異常だと分かっているからこそ目から離せなかった。 幽霊を成仏するのがみもりの目的である。だがニコ 理解を越えた雰囲気にのまれつつあるのを自分は理解していた。 その中、サナギは鈍感なほどにマイペースなまま手を叩いていた。 「わしは別にかまわないで。キミについていきたいゆーれいたちがいるなら止めはせえへん」 サナギはそう言い切った。みもりの意外そうな顔とニコは片目だけ開いてサナギを見ていた。教卓の上にわざわざサナギは立ち上がると強い意志を込めた瞳でニコを見つめていた。 「でも約束や。必ず成仏させてやってくれな」 みもりははっとサナギの横顔を見つめていた。この人はマイペースではあるが幽霊のことをずっと考えていたのだろう?たとえ空回りな行動でもサナギのまっすぐな気持ちだけは正しいことだった。 ニコはしばし沈黙を続ける。幽霊たちの視線を一身に集める中サナギとみもりを見据えた。ランタンのような瞳にはそれが語られていて、みもりもサナギもそれを見つめていた。 「ふん。言われなくてもわかっている。だって幽霊は僕の友達なんだからね」 幽霊を引き連れながらニコとナインは消えていく。中にはそれに続いていく幽霊もいた。サナギとみもりはじっと彼らの姿が消えてなくなるまで見つめていたのだった。 そして姿が完全になくなると、あたりを覆っていた暗闇も嘘だったみたいに消えてなくなる。そこにはみもりとサナギだけの教室があるだけだと思われていた。 しかし何人かの幽霊が残っていた。サナギと成仏するまで傍にいたいということなのだろう。サナギの本心が伝わっていたのはみもりと、ニコだけではなかったみたいだ。 「あの黒い影があるからあの人たちは幽霊を保護していたのですかね?」 「それじゃあワシの話と踊りをもっと聞いていくか?どんどんがんばるで!!」 みもりの問いかけを半ば無視するように、元のペースに戻るサナギの姿につまずきそうになりつつも、みもりはじっと眺めていることにした。 ■ 幽霊の気配はほとんど消えてなくなったが、後にはあの黒い影をどうにかしなければいけない。それが最後にして最大の障害だった。 「封印するしかないと思う」 雅羅と共にしている他数名は、それしかないだろうと考えきっていた。しかしいざ行動に移そうと思っても具体的な考えが何も思い浮かばなかったのだった。 その中一人だけ手を上げるものがいた。想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)だった。 「オレが何とかするよ」 「え?どうやって……」 雅羅が訪ねる。幽霊の気配がいくらか遠のいているとはいえ、まだ青い顔をしていた。それを慰めるように胸にドシンと手を当てる。 「オレが黒い影を誘導する!!」 勇敢に叫んだものの、雅羅は不安げに夢悠を見つめている。頼りなさを感じているのではなく、危険だからであるだろう。 「危険でもなんでも誰かがやらなきゃ。大丈夫だって。お守りだってあるし、足の速さには自信があるんだ」 「だけど……」 「オレがやるんだ!!」 握り締めたこぶしを胸の前に充てて夢悠は訴える。軽い気持ちで役目を買って出たわけではない。岩のような決意がその体から大きく感じられた。 反対する者は誰もいなかった。 ■ 雨はまだ降り続いている。その音が夢悠の胸の中にたまり、彼は不安を忘れることができた。握りしめていたお守りをポケットの中に入れる。使い魔として使役しているネコの足取りを追っていた。 「オツキミ?見つけたか?」 オツキミと呼ばれたその猫は尻尾を振りながら廊下を歩く。夢悠はオツキミの影を追っていた。その先にあの黒い影が待っているのかもしれない。徐々に高鳴る鼓動を必死で抑えて携帯電話を握りしめる。 そしていくらか歩いただろう?オツキミは突然毛を逆立てて激しく唸る。待っていたその時が来たらしい。夢悠はオツキミに向けていた視線をそっと上昇させる。 いた。 目の前にあの黒い影が立っていたのである。それはゆらゆらと左右に揺れ、影というよりは黒い炎というような印象を夢悠は受けた。しかし言われていたことは確かだった。 肌寒い感覚と、そしてその影が有無を言わさずにこちらに向かってくること。 「こっちこっち!! 捕まえてみろー!!」 夢悠はくるりと振り返ると、服を翻しながら走り出した。携帯電話を耳に当て、電話の向こうから雅羅の声が聞こえてくる。 「お姉ちゃん!! うん。大丈夫!!」 廊下を矢のようにかけていく夢悠は階段を下りる。彼がたどる軌跡を飲みつくすように、黒い影が後を追った。 夢悠は走り続ける。息苦しさで胸がつまり、体は鉛のように重たい。四肢が自分のものではないかのように感じていても、夢悠は走り続けていた。すべては雅羅のために頑張るという多いだけが彼を支えていた。 「ほら!! しっかりして」 視界の先にはルカルカとルカが立っていた。 「ルカアコ。お願い」 ルカルカの言葉を合図にルカが魔法で援護をする。ルカの援護を受け取ったルカは【封印の魔石】を取り出す。そして黒い影に向かって、【封印呪縛】を試みた。時間が停止したかのように黒い影の動きが止まる。 「しばらくは持つと思うわ。その間に態勢を整えて」 「ありがとう!! お姉ちゃんたち!!」 夢悠は走り出す。すぐにガラスが割れるような音が廊下を走り、そしてまたあの気配が夢悠の背中を襲ってきた。 しかし夢悠は目の前に立つ雅羅をみつけていた。ルカルカたちの援護がなければ、それをみつける前に黒い影に飲まれていたのかもしれない。 周りには何人もの人が、激を飛ばしながら夢悠を待っている。 「お姉ちゃん連れてきたよ!!」 「受け取ってください!!」 雅羅は持っていた電子ジャーを投げる。放物線を描いて飛ぶそれをつかんだ夢悠は黒い影に向かって蓋を開いた。 その瞬間、まるで黒い影の空気が凍ったかのようにそれは動かなくなる。夢悠の眼前に迫るそれはやがて叫び声ともうめき声とも判別つかない音を全身から響かせた。 まるで壊れた楽器をかき鳴らしているような不協和音と共に、黒い影は膨らんだり縮んだりしながら、やがて電子ジャーのなかに吸い込まれていく。 竜巻の中心にいるかのごとく周囲の空気を巻き込みながら、その抵抗もむなしくすべてが吸い込まれていった。ぱたんとあっけない音を立てて、電子ジャーの蓋が閉じる。 全てが終わったのを疑ってしまいそうなくらいに、辺りは静かだった。誰もが息をするのを忘れてそれを見つめている。夢悠がぺたりと座り込むと、その固い空気が解けていくようになくなった。 「終わったのかな?」 「すげえや。本当に古文書のとおりだったじゃん」 「本当だよね。驚いちゃった!!」 「これは、開けてはならない封印の箱、パンドラの炊飯器となったのね!!」 はしゃぎだすランディと理沙、ルカルカたち。呼吸を整える夢悠の前に一つの手が差し出された。 「終わりましたね」 夢悠の手を取り立ち上がらせる雅羅の瞳を夢悠はまじまじとながめて、さっと頬を赤らめた。 いつの間にか雨がやんでいた。雲の切れ目から降り注ぐ夕日の輝きにみんなが見とれる中、誰もがいつも通りの学園が戻ってきたことを実感していた。
▼担当マスター
歩樹 杙
▼マスターコメント
はじめまして。歩樹 杙と申します。 今回のシナリオを経て、マスターとしてところどころ足りない部分をちらほらと自覚し、まだまだ未熟であることを実感しました。 しかしこうして形にすることができたのは皆さんの面白い、そして個性的なアクションがあったからだと認識しています。 皆さんが少しでも楽しんでくれるようこちらも真剣に挑みました。それではまたお会いできる時を楽しみにしております。