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追章2 Zanskar Water Park
 
 
 今日は先手を取らせない!

 いつもトオルに無理やりハグられているヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)は、待ち合わせ場所でトオルを見た瞬間に、
「うりゃー!」
とタックルをかました。
「ぐはっ」
 よろめきながらもトオルはがしっとヘルの肩に腕を回す。
「何すんだこの!」
と笑いつつ、どちらにしろスキンシップ好きのトオルを喜ばせるだけだ。
「わーいトオルさーん」
 ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)も飛びついて行って、
「よー、久しぶりだな!」
とハグを交わす。
 何をやってるんだか、と呆れた後で、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、磯城(シキ)が抱えている子供を見た。
「この子が、言っていた子か?」
 ああ、とシキが頷く。
「初めまして、ぱらみい」
「初めまして、お兄さん」
 にこ、とぱらみいも笑う。
「へー、パラミタの地祇かぁ……可愛いなあ、よろしくね」
 ヘルもいつの間にか横に立って笑いかける。
 ……男の子ならもっと良かったのに
「ヘル」
「え? 思っただけだよ? 言ってないよ?」
 ジト目の呼雪に、ヘルはふるふると首を振る。
「初めまして、よろしくね!」
 見上げて言ったファルに、ぱらみいは、シキの腕から下りた。
「よろしくね」

「それにしても、相変わらずすごい荷物なんだけど。
 全部弁当? ファルがいるにしても多くね?」
 トオルは、主にヘルが抱えている荷物を見て唖然とした。
「手伝おう」
 シキが半分受け取る。
「後からクリストファー達も来るというから。
 余ることは絶対に無いから、多めに作って来た。
 今日は暑いから、飲み物も多めに持って来たし」
「相変わらずお母さんなのな」
「僕も手伝ったんだよ」
 ヘルがアピールする。
「ぱらみいちゃんはプール初めて? ボクは去年も来たから案内するよ。
 一緒にウォータースライダー滑ろうよ! 子供用のスライダーもあるんだよ!」
 子供サイズ二人が手を繋いで、きゃいきゃいとプールに駆け出して行く。
「子供だけで行くなよー」
 という口実で、場所取りよろしくーとトオルも続いて走って行き、残った荷物持ち達は、慌てず騒がず、荷物を置く場所を探した。



「真理子、その水着似合ってるな」
 蘇我 玉緒(そが・たまお)は、パートナーの我孫子 真理子(あびこ・まりこ)に笑いかけた。
「あの、近いんだけど……」
「ああ。
 君に触れたい……いいか?」
「ちょ、何処触ってんだよ、こんな場所でっ」
 玉緒のセクハラに、真理子は必死に抵抗する。
 ザンスカール・ウォーターパークに真理子を誘って遊びに来て、その公衆の面前で、玉緒は真理子に迫っているのだった。
 玉緒のセクハラは日常茶飯事で、こうなることは予想できたはずなのに、と、真理子は誘いに乗ってしまったことを後悔する。
 警戒する真理子に、玉緒は笑った。
「まあ、とりあえず遊ぼうか。流れるプールとかどうだ?」
「……水の中で変なところ触らないでよね?」
 それは約束できないな、とは言わずに、玉緒は曖昧に返事する。
 勿論、真理子はまた安易に誘いに乗ってしまったことを後悔することになるのだった。


「……ま、色んな奴がいるよな、夏だし……」
 あれもリア充というのかどうか、と、目に入ったイチャイチャな光景から視線を逸らしながら、匿名 某(とくな・なにがし)は、ぱらみいがプールに遊びに来ると聞いて颯爽とやって来た、気合充分のパートナー、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)を見て、これはこれで暑苦しい、と思った。
 ぱらみいはすぐに見つかって、声をかけると、ぱらみいも再会を喜ぶ。
「確かに、寝るのは老若男女平等に大切なことだ。
 だけど逆に、楽しいことも寝てる間に過ぎちまう。そいつは勿体無いぜ!」
 そこで! と康之はぱらみいに言う。
「今日はとにかく楽しもう! ぱらみいはプール初めてなんだろ?」
 うん、とぱらみいは頷いた。
「わかった。今日は寝ない」
「ちなみに俺は、歌は苦手だから期待するな!」
 よしっ行くぜ! とプールに突撃して行く康之達を、某は見送る。
 特に遊ぶつもりは無く、今日は皆が遊んでいるのを眺めているつもりだった。
「ああ、よかったら荷物番してるぜ?」
 どうやら全て弁当らしい、随分大きな荷物を持って来ている呼雪にそう言うと、呼雪ではなくヘルが表情を輝かす。
「そう? ありがとー。
 呼雪、折角来たんだから今日はめいっぱい遊ぼうよー一緒に!」
 仕方ないな、と誘いに乗って、じゃあ頼む、と某に言い残して出て行く。
「……それにしても」
と、某は上空を見上げた。
 日本でも見たことのあるようなプール施設なのだが、あのスライダーは何なのだろう、スタート地点がプール敷地から出て行って尚見えない上、高さがちょっとおかしいのだが。
「まあいいか」
 某は考えるのをやめた。



「やあ。元気?」
 お昼少し前に、ぱらみいが地上に降りて来たと聞いて会いに来た、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)と合流した。
 『空の遺跡』で歌ったドージェの武勲(いさおし)、その続きを歌って聞かせたいと思ったのだ。
 呼雪持参のお弁当を皆で食べて、食休み。
 さて、と喉を鳴らすクリスティーを見て、呼雪もリュートを取り出した。
「まずはよく知られた物語」

 地球とパラミタが繋がり、パラ実崩壊を経てドージェ信仰が始まり、“成都の英雄”がドージェに勝利するまでを。
 そしてそれから、パラミタにおいてのドージェの数々の物語、それを取り巻く人達の思いを。

 康之やファルは、歌声を子守唄にやがて眠ってしまったが、ぱらみいは最後まで聴いていた。
「さて。
 それじゃ、歌の御代を貰わないとね」
 冗談めいた口調で、クリストファーが笑う。
「おだい?」
 ぱらみいはシキを見上げた。シキがトオルを見るので、ぱらみいもトオルを見る。
 トオルがクリストファーを見た。
「ツケで」
 くすくすとクリストファーは笑った。
「ぱらみいが知ってるアトラスのことを教えて欲しいな。
 そうしたら俺達がそれを歌にして、皆がアトラスのことに思いを馳せられる様に、その一助になればと思うんだけど、どうかな?」
「うん」
 ぱらみいは頷いた。
「アトラスちゃんはね、皆にもやしっ子って言われてたよ」
「もやしっ子?」
 へえ、と面白そうにクリストファーは笑う。
「でも優しかったし、歌がきれいだったよ」

 すっかりお昼寝モードとなってしまったファルに、ヘルがタオルケットをかけて団扇で仰いでいる。
「俺も、知っている歌を幾つか教えるよ」
 呼雪がリュートの弦を弾いた。
「それから……ウラノスドラゴンや世界樹のこと、色々教えて欲しいな」
「マナっていうの」
 とても愛おしそうに、ぱらみいは、今はいない世界樹の名を呼んだ。