リアクション
◇ ◇ ◇ 布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)が、浮上した『門の遺跡』の舞台の上で歌ってみたい、と言って、パートナーのエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)は 「どうして?」 と訊ねた。 「秘宝の歌には、まだものすごい力が隠されていると思うよ。 もしかしたら、舞台の上で歌ったら、遺跡が元に戻る力を秘めているかもしれないって」 「……それはどうかしら……。 ドワーフ達も、一朝一夕では直らない、って言ってたじゃない」 「でも、遺跡も舞台も、想定された力を発揮して今ある状態になっているんだとしたら、元に戻す方法もあるかもしれないよね」 無理ではないかとエレノアは思ったが、 「……まあ、ひょっとしたら、ということもあるしね」 と付き合うことにした。 浮上した舞台は、大きな生簀のようなもので一箇所に集められて、バラバラに流れて行かないようになっていた。 数人のドワーフの有志と、叶 白竜(よう・ぱいろん)、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、その一つの上で何やら相談している。 まだ本格的な修復作業には入っていないらしく、世間話、といった様子だ。 佳奈子は空を見上げた。 抜けるような青空である。 あの何処かに、『空の遺跡』があるんだわ、と思った。 佳奈子とエレノアの秘宝の歌が朗々と流れる。 この舞台の上にいると、此処でのリューリクとの戦いが思い出されて、世 羅儀(せい・らぎ)は 「どうか安らかに成仏してください……」 と両手を合わせた。 「で? あの歌で遺跡は元に戻るの?」 「戻らんじゃろうな」 アキラの問いに、あっさりドワーフが答えて、そっかあ、と溜息を吐いた。 「歌は、遺跡の魔法を発動させる鍵じゃがの。それ自体が物凄い力を持っとるわけじゃないからのう」 「何で先に教えてやんないの」 「勿体無いじゃろうが」 「ドワ得かよ!」 楽しげに歌を聴いているドワーフ達に、アキラは突っ込む。 「うちの庭からでも『空の遺跡』に行けるような、ゲートを作って貰えないカシラ? 『門の遺跡』でもいいヨ」 「それは高度な魔法じゃの。わしらには無理じゃよ」 アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の頼みに、ドワーフ達は苦笑した。 「それに、この位置に『門の遺跡』があるのはの、この真上が『空の遺跡』だからじゃよ」 ドワーフの言葉に、アリス達は上を見上げる。 「……何も見えないネ」 「うむ。あれは馬鹿には見えな」 「嘘付け。何か仕掛けがあるんだろ」 ドワーフの言葉を遮ってアキラが言うと、ドワーフは笑って、それ以上教えません、という仕草をした。 「まあ、元の形に戻すことは、時間は掛かるがそう難しいことじゃあないが……。 遺跡の魔法が壊れていないといいんじゃがのう。その時は選帝神を頼ってみるかの」 興味深く巨人族の遺跡の調査に携わった白竜は、都築の許可を得て、再びこの場所に来ていた。 許可とは言っても、 「好意を迷惑がるような連中じゃないだろう」 という、要は好きにしろ、という返答だったのだが。 ドワーフらの仕事にも興味があるし、もう一度『空の遺跡』に行けるのであれば行ってみたいと思った。 「何か、我々にも手伝えることはありますか」 白竜の申し出に、 「ありがたいがの。まだ計画段階じゃよ」 ドワーフ達は、急ぐ必要性を感じていないようで、「早く〜早く〜」とアキラが耳元で念仏のように唱えているのも、向こうで歌っている佳奈子の歌声より聞こえていない。 「まずは舞台を沈めて、天井を塞がにゃなるまいな」 「柱は全て折れてしまったんじゃろ。代用を作らねばのう」 別のドワーフが言う。 海の底にあった『門の遺跡』は、水圧で潰れないようにその柱で支えられていた。 元々遺跡の柱はくり抜きで作られたもので、天井から地面まで繋がっていたが、それに代わる柱をまずは地上で作ってから、舞台と共に沈めなくてはならない。 「瓦礫の撤去作業も面倒そうじゃな。 水没とは言っても、天井はそれなりの厚さはあった筈じゃから、実際は土砂で埋まっているはずじゃ」 「カンテミールに戻って、機龍を数機拝借して来ようかの?」 「あれは契約者用じゃろ」 「戦闘するわけじゃないんじゃし、性能が落ちても問題ないじゃろ。 ほんのちょこっとカスタマイズすれば」 「こちらでイコンを出しましょうか?」 あれやこれやとドワーフ達が言うのに、白竜が申し出た。 「ふむ? お主のイコンは手先が器用かの?」 「ちょうちょ結びが出来れば合格じゃ!」 「……それどこの機動警察ネタだよ」 ドワーフ達の返答に、羅儀は呆れる。 「まあ、イコンじゃなくても、必要な装備を揃えるし、力仕事なら手伝えるぜ」 「ふむ。それは頼りになるのう」 「ええい、埒があかん! 俺は直接様子を見に行く! 遺跡が今どんな状態なのか調べてくるし海水浴も出来るしもう一回『空の遺跡』に行けたらラッキー!」 業を煮やして、アキラがすっくと立ち上がった。 ポータラカマスク装備で水の中でも安心、移動は空飛ぶ箒エンテによる。 アリスもジャストサイズのウェットスーツを実装済だ。 此処に来る前にHCを防水にしてあるので、記録媒体も完璧である。 「おお! その意気やよし!」 ドワーフ達は拍手を送る。 どぼんと飛び込んで行ったアキラ達を見送って、 「で?」 と羅儀が訊ねた。 「行けそうなのか?」 「無理じゃろうのう」 ドワーフ達は朗らかにそう答え、やっぱり……と羅儀は溜息を吐いた。 |
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