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暴虐の強奪者!

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――第二章 早く薬を……――


 時間は数分遡る。各々が敵と交戦している中、一つの民家の窓ガラスが粉々に砕けた。
「キャーっ!!」
「な、何だ!?」
 その部屋には村人がいた。若干十数名が縄で縛られ、ろくな食事も与えられずに衰弱しているようだった。
 見張りをしていた傭兵五人が、驚いた様子で窓の方向を見る、そこには一人の女性、リネン・エルフト(りねん・えるふと)がもうすでに室内に立っている状態でそこにいた。
「なんだお前! ここは昨日から俺たちの縄張りだぞ! 女が窓から入ること何ざ許した覚えはねぇぞコラァ!」
「あら、私たちのシマで暴れているのはどっちかしら?」
 続けてヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)の三人も入ってくる。その様子に唖然としつつ、とりあえずと武器を取る。
「人のシマに殴りこんできた以上…覚悟、できてるわね?」
「覚悟だぁ? 何の話だ、するのはお前らだろぉ! これほどの上玉がそっちからのこのこやってきやがって……ちゃーんと覚悟はしてきたんだろなぁ!?」
「はぁ、下品と言うか、低俗と言うか……」
「リネン、彼らはアホなんだよ。状況がまるで見えていない」
「アホ!? ば、馬鹿にしやがって! 状況がわかって……」
「お、おい待て、よく見ろ! 顔でも服装でもいい、どこかしらに見覚えが無いか?」
「あぁ!? ねぇよんなもん……? ちょっと待て? お前ら、ひょっとして……」
「そう、ひょっとするの」
「【『シャーウッドの森』空賊団】、って言えばわかるのか?」
「う、うわあああああああ!! 本物だあああああ!!」
 その言葉を聞いて、一瞬で怯み、逃げ出そうとする男たちを見つつ、ヘリワードはリネンとフェイミィに目で合図を送る。二人の迅速な行動により、彼らは即座に気絶させられ、瞬く間に縛りあげられた。
 唖然とした顔で見守る村人たちの前に、ユーベルがしゃがみ込む。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……し、しかしお嬢さん達……なぜ窓から?」
 村人のおじいさんが聞く。その質問に、全員の縄を静かに解きながら、ユーベルは答えた。
「戸には鍵がかかっていたので、正面は警戒されているだろうと考えたんですの。あえて意表を突く形で、窓から侵入させていただきましたわ」
「な、なるほど……はっ! そうじゃ、ムゥに薬を! もうあと数時間で死んでしまう!」
「!!」
 縄を解いていくと、一人の少女が汗まみれで寝ているのがわかった。その少女がおそらくムゥなのだろう。彼女は苦しそうに眠っている。いや、眠ろうとしているのか、意識があるのか無いのかすら、はっきりとしない状態だった。
 ただ一つわかるのは、呼吸も浅く顔色も悪い。今にも死んでしまいそうだということだけだった。
「棚に予備の薬の小瓶があったはず! お願いじゃ! 飲ませてやってくれ!」
「わかりましたわ!」
 ユーベルは大急ぎで隣の棚を探す。薬棚なのだろう、安い作りで引き出しも二か所しかなく、おかげでものの数秒で、小瓶らしきものは見つからなかったという結論が出てしまった。
「あり……ませんわ、小瓶!」
「なに! ああ……かわいそうなムゥ、あのダグザとかいう男に全て薬をアジトへ持っていかれてしまったんじゃな……じきに死んでしまうんじゃ……助けてやれなくてすまなんだ……ムゥ……」

「諦めるにはまだ早いんじゃない?」
 入口の扉が開き、そこから九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)が入ってくる。ユーベルが内側から扉の鍵を外したのだ。それと入れ違う様にフェイミィが外に出て、ユーベルの従者と合流して家の警備にあたった。
「あなたたちがここまでやってくれてるなら、私も変装なんてしなくてよかったかな?」
 といい、敵から掻っ攫った黒いマントを脱ぎ棄てる。一瞬恐怖に引きつった顔をした村人たちも、その様子を見て安心した。
 九条は静かにムゥの近くに行き、病状に合った抗生剤を飲ませる。
「そ、その薬は……?」
「免疫力を高めるものだよ。彼女が生きたいと願うなら、その場しのぎにはなるでしょう。もちろん、ちゃんとした薬が手に入ったらそちらを飲ませてあげなきゃいけないけど」
「ああ……なんとありがたい……」
 ムゥの表情が少しだけ色を取り戻す。効き目は薄いが、どうやら延命にはなりそうだった。

「あと誰か、他の治癒出来る人も連れてきて。何か役立つスキルを持っている人がいるかも……」
「あたしも治療してみますわ、九条さん」
「ありがとう、ユーベル。あとそうだ、薬が無いことをアジトに向かった人たちにも知らせないと……」
「じゃああたしがやっておくわ。九条は治療をお願い」
 そう言い残して、ヘリワードは部屋から出て行った。

 外では喧噪も消え、戦闘は収束したようだった。ムゥは延命が出来ていると言っても、明日にもなれば死んでしまうだろう。村に残った一同は村の警備を固めて報復戦に備えつつ、アジトへ向かった人たちに願いを託すしかなかった。